魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
宿泊施設に着いたのは、結局30分のロスがあったわけだが、他校との積み込みのバッティングになることもなくそれぞれで荷降ろしの作業になる。
CADなど道具類の管理はしっかりしておく。他人が持って動かしたりするだけで扱いにアレコレと言われる可能性を考慮して、自発的に皆がそれぞれで荷物を降ろしていくのだった。
かなり昔の長距離バスの車体下部の『トランクルーム』のように、乱雑なものではないが……ともあれ、準備は必要なのだ。
「アーシュラ、部屋に着いたらば『準備』を手伝ってくれる?」
「分かった。とはいえ、ワタシとリッカ、相部屋じゃん♪」
『フォーウ』
ケージに大人しく入れられていたネコが、早く出せーと言わんばかりに荒ぶっている。そもそも、こんなケージ無いも同然のくせに、弁えたネコである。そう思って台車に乗せると同時に解き放ってあげると、すぐさまアーシュラの首に移動して大人しくしていたので首筋を撫でてあげる
そんな2人を見つめていた男は溜息を突く。別に、恋煩いとかそういうことではない。ある種の諦観の溜息であった。
その後に浮かべる沈んだ面持ちは知り合いの関心を呼んだ。
「どうした? 随分と辛気臭い顔しているぞ」
やってきた知り合いは、いつも通りな様子で人に話しかけるのだった。
「ああ、悪い。少しばかり考え事を―――」
「勝負事の前にその顔はやめとけよ。運が逃げるぜ服部」
「悩みがあるならば聞くが?」
「悩みってほどじゃないが……いや、悩みだな。先ほどの事故だよ。俺は一高の副会長だってのに何も出来なかった。それ以前の四月のブランシュ事変でも何も出来なかった」
「自主退学した司主将の如意棒でぶっ叩かれていたんだっけか? それを言うならば、俺も会長さんも風紀委員長も似たようなものだろ」
自嘲気味の桐原の言葉に想いは同じだったようだ。
今回の九校戦メンバーで、色んな想いを衛宮アーシュラと藤丸立華に抱かない人間はいない。
特に服部はその想いが複雑な人間の1人だ。かつてまだ一年生の頃、十師族なにするものぞという想いで、上の学年であった十文字、七草という存在にも噛み付く―――ある意味、ケンカ犬な面もあったのである。若気の至りというやつだ。
そんな自分が実力主義という校是に則りやられたことで、その態度は改まったが……。
「―――あの2人は、会長も会頭も簡単に越えた力を持っている。魔術師である、ないとかは関係ないとしても……」
あの2人は、そういう軛にはいないことが、色々と複雑なのだ。
「羨ましいのか?」
「―――、血筋や遺伝子操作の強弱で力が決まっている業界なんだ。俺もそういう生まれた時点での『差』を覆したかった」
結論としては、2人が羨ましい。そういうことだった。ある意味では成りたかった自分の理想形があったのだから。
現在の師族制度や、数字持ちの家による権力の『世襲』を覆せる変革者になりたかったのだ。
もっとも、そういう出る杭は打たれる的に、数字持ちの家による『取り込み』というものはあるのだが。
そんな汚い力の奪取を知らない2人だが、桐原は少しばかり異論はあるようだ。
「遺伝子操作はどうだか分からないが、血筋って意味では衛宮はかなり古い家だぜ。そういう意味では、少し毛並みは違うかもな」
「そう、なのか? いや、けれど魔術家なんだろ衛宮家は? なんでお前知っているんだ?」
「不可解なのは分かるが、俺のオヤジが海軍勤務でな。一時は戦史研究所勤めの時に『エミヤ』の名前を知ったらしいな―――その足跡はざっと、100年以上前に遡る」
職務におけるコンプライアンス違反ではないだろうかと思うも、ある種の情報の持ち出しなのだが……まぁ人の口に戸は立てられぬ。
ある程度の守秘義務契約は結べても完全には無理なのだ。
「―――――――」
その言葉を疑うわけではないが、それでも何故魔術師の名前が『軍事』の世界に出てくるのか。
服部からすれば様々な疑問はあったが、ともあれ桐原の話すところ衛宮家の何代目かは分からないが、軍事史に出てきた人物の名前は、『衛宮切嗣』という。
桐原の説明を受けて衛宮切嗣という人間を端的に述べれば、『殺し屋』『暗殺者』―――あえて言えば魔術師のゴルゴ13とでも言うべき人物だった。
まだ第一次冷戦構造が存在していた頃から、多くの紛争地帯で要人暗殺や、ゲリラの『戦力』である
「その関係で、災害救助、現地復興という名目で『現地派遣』された日本の―――当時は『自衛隊』という国防軍とも敵対したなんて話も残っている」
「そんなことが………!!」
「かつて無差別テロ事件として世間に報道された大惨事が、じつはただ一人の魔術師を標的とした衛宮切嗣による犯行ではないかという推測まであったほどだ。まぁ確証は無いんだけどな」
聞けば聞くほどに悪人という表現と、ゴルゴ13と同じく
「そんな衛宮切嗣も、ある時期から、その手の汚れ仕事から足を洗ったのか沙汰止みになったそうだ。理由は分かんないが、まぁその後―――衛宮の名前は
「が―――?」
「能力開発魔法師の誕生と前後する時代に、再びエミヤの名前が戦場に響いたそうだ。まぁそれは置いておくとしても、今代のエミヤ―――士郎先生、アルトリア先生とアーシュラ後輩も、恐らく現実の戦場にいたんだろうな」
「――――――」
硝煙棚引く戦火の戦場に、あの色々と話題を振りまく人々がいたなど……ちょっと想像が出来ないのだ。
「何をやっていたかは分かんねぇ。ただ時々、剣術部及び剣道部に手伝いにきたアーシュラ後輩が、相津の治療をやる際に言っていたんだ。
『怪我をした包帯が清潔でないと破傷風になる可能性もある。場合によっては、蛆が湧くことも』って。みんなは大袈裟なって笑いながら顔を赤くする相津とかを見ていたんだけどよ―――何となくあの人達が居た戦場での『環境』が分かっちまったんだよ」
「………」
実際、壬生紗耶香の保健室に行く前に、アーシュラは怪我人の治療に奔走していたほどだ。
藤丸立華もまた同じく……その御蔭で後遺症もなく生活を送れているのだから。
「―――まぁあんまり気にしないほうがいいと思うけどな。人それぞれだろ。上を見ているだけじゃ果てがない。けれど、追いつきたいならば見ているだけじゃなくて教えを請わなきゃな。
壬生がアルトリア先生に教えを受けて伸びている様子は―――正直、羨ましいね」
その言葉でシメということだったのだろう。服部もあの『冥獄のデスマーチ』(指揮者 衛宮アーシュラ 伴奏者 藤丸立華)を乗り越えてきたのだ。
手応えは感じている。一年前の九校戦よりも俺は強くなっている。
「―――やってやるさ」
崩れ果てた大講堂を軽快に飛び回り、戦場のバランスブレイカーとなった衛宮アーシュラほどでなくても、やれるだけはやってやろうと思うのだった。
† † † †
「それじゃ、あの事故車両は『魔法』による作用でああなったんですか?」
「ああ。詳しいことは分からないが、最悪の場合、幽霊車としてハイウェイでのカーチェイスが行われていたかもな」
「それは―――?」
「あの時点で仏さんの残念を怨念として定着させようとしていたみたいだ。オカルトすぎるが、公道を走るゴーストカーの誕生だな。本家で時々読んでいた『極楽大作戦』のオープンカーみたいにな」
「何とも……」
「もっとも、その前にアーシュラと立華が『あっちに帰ったほうがいいです』とか説得していたからな」
幽霊の成仏に説得とは、なんて正攻法と深雪は思っていたが―――達也は、その片方でアーシュラがアッドを懐から出して、『ウマそうだぜ!!!』などと言わせていたのを見ていたので、まぁ余計なことは言わんでおこうと思った。
「何にせよ、何者かが一高ないし一高にいる誰かを狙っているようだな」
この程度の『イタズラ』ならば、まだ何とでもなる。
だがコレ以上のこと……サーヴァントないしそれに準ずる存在が自分と深雪に害するというのならば―――。
「……―――」
「お兄様?」
「いや、何でもない。まぁあんまり気を揉まないでいいよ」
「―――はい」
そうして妹を安堵させながらも達也の脳裏に過ぎったのは、アーシュラをふたたび修羅の戦場に送らざるを得ない嫌悪感だった。
彼女に剣を執らせてしまうその惰弱に、何より―――彼女が血塗れになることに対して、すごくイヤな気持ちになったのだ。
そんな中、ホテルを歩いていると、ロビーのソファーに座っていたエリカに声を掛けられる。彼女は選手でもエンジニアでもないので、何でここにいるかを誰何するも、まぁ―――何というか総評すれば応援団ということだった。
とはいえ、それにしても早いお着きなわけで、会長と同じくらい媚態を強調した美月と大荷物を運んできたレオと幹比古がやってきて、『いつものメンバー』の大半が揃ったのだった。
なんやかんやと嬉しい限りに頬を緩ませていた時に―――。
「 やぁぁぁっと着いたぜ―――!!! 富士山!! 出雲からの道のりは長すぎる!!!」
「それでも七高や九高よりは速く着いたほうでしょ?」
「それで納得できるお前は我慢強すぎるぜ、エリち〜。他がどうとかよりも気分の問題だ。第一、アイツらいざとなれば飛行機使えるじゃないか」
「そういうもんかしらね。とにかくあんまり騒がないでよカリン。アンタのせいで無用な注目を集めているんだから」
一高と入れ替わりでやってきた、島根県出雲市にある六高の制服を着た2人の女子生徒―――一方は腕を上に伸ばしながら快活に言う。
どちらも人目を惹く美少女だ。何より―――その制服をかなり『改造』した姿にぎょっとしたのもある。
先ずはスカート丈がかなり短い。都心の高校でも確かにちょくちょく見かけるが、それにしたって魔法科高校の『流行り』ではない。
インナーガウンは通常通りだが、ともあれ―――かなりアレな格好の女子2人の姿に―――。
「ほら『ボイジャー』行くよ」
「―――うん、エリセ。いま行くよ」
金髪の―――魔法科高校の制服を着た少年。背丈は恐らく中条あずさよりもやや高い。だが当然、先導する2人の女子よりも低い。
ギリで中学一年ぐらいだろう少年は、とっとこ歩きながら2人の女子に追いつく。
その『ボイジャー』なる少年に、達也は『じっ』と見られていた。敵意でもなし、好意でもなし―――何とも言えぬ『純粋な視線』に、世事の垢をこの歳で舐めているとも言える達也は、少々いたたまれないのであった。
子供が苦手な達也にとって―――ボイジャーという少年は、年齢通りだとしても少し避けたいと思えるのだった。
そして―――懇親会が始まれば―――ナニカが起こると達也は確信していた……。