魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
無淵楽しみー(爆)
「―――素は星の落涙なり―――スターズ、コスモス、ゴッズ――――」
魔術師の工房づくりは、どこでもやっていることだ。特に遠出して自分の拠点から離れた場合、自分にとって住心地のいい空間を作るのは『当然』のことだ。
ルームサービスの類を全て断った上で、自分の部屋を整地した藤丸立華を見ながら、衛宮アーシュラも呼気を吐いて、己にとっていい空間を作った。
いわば『巣作りドラゴン』である。全ての作業を終えて一息つきながらお茶を飲んで、この後のことを考える。
「懇親会は出なくてもいいのですが、美味しい料理も出ますからアーシュラは行きたいですよね?」
「そこまで食いしん坊じゃない。リッカが行きたくないならば、いかないけど?」
「行きましょう。私としてはあの事故車両の件が引っ掛かっています。別に『魔法師』絡みのテロ行為ならば、私達が関わる道理はありませんが―――」
ことは色々と、根深いものがあるのだ。もっとも、今回、一番まずいのは……。
「死徒の案件と教会連中がこの近辺で動き出している、か―――目的があって捕まえた巨大ワニと巨大アナコンダとが逃げ出して、近くの湖で泳ぐパリピ(死語)たちどもを食い荒らすパニックムービーみたいよね」
「ぶっちゃけそういう表現は正しいでしょうね。そしていざとなれば、そうなるはずです」
「軍事基地なんて襲ったらば、アイツラも総出で『同業者』たちにやられると思うけど―――そうはなんないわよね」
『聖堂教会』が、どういう人間を派遣してくるかである。騎士団がやってきても面倒だが、代行者であってもアウトである。
ましてや、『埋葬機関』の連中なんて……。
「まぁ『お坊さん』たちに期待しましょう。私達にことが及ぶ前に終わってしまえばいいんですから」
「――――――そうは考えていないでしょ?」
「トーゼンです」
半眼で立華を見ながら問い詰めると、あっさりと白状されたことでアーシュラは溜息を突いて、幼馴染の考えに追随しておくのだった。
「まぁ少しは前向きに考えておきましょう。結果的には菩提法事をすっぽかしたのならば、私達は『祭り』を行うことで、彼らの霊を少しでも良いものとするべきなのですから」
「七夕は既に終わっちゃったけれどもね―――分かったわよ。けれど、ううう〜〜〜」
「言いたいことは分かるわ。結局、私が『薦めたばかり』にああなってしまったものね。ごめんなさいマイサーヴァント―――!!」
「もういいわよ。今回はリッカも一緒だから奇異と好奇の目は半減だろうし……」
「アンジェリーナとコウマもいれば慰めてくれたんだけどね。―――と、そう言えば九校戦には、『ダークジェネラル』レツ・クドウが、毎年観戦に来ているそうよ」
その言葉にアーシュラは、最大級に不満げな顔をする。
「―――処す?」
「やめなさい。いや、気持ちは分かります。むしろ同意したいぐらいです。ですが、既にマイスターケンの日本への帰還のプロセスは始まっています。ここでそれはマズイでしょう?」
その言葉にアーシュラは、最大級に複雑な顔をする。
「まぁナニカ言われたならば応じましょう。それだけです。―――が、あのお方の『悪ふざけ』に付き合う道理はないわけですから―――」
そんなサーヴァントの感情を理解して『悪企み』をする立華の顔にアーシュラは、同じような顔をする。
「カルデアの『流儀』でやって構わないわけね?」
「当然です。聖杯でうどんを作ったムサシちゃんだって、反省させられたんですから」
「それは至極当然だと思うわ」
「ハイソウデスネ」
流石に英国の騎士、聖杯に関しては一家言あるようだ。円卓の騎士にとって、聖遺物『聖杯』はどこまでも探求していたものなのだから。
その類縁たるアーシュラがそういう感情なのも当然であった。
ナニはともあれ―――2人が懇親会という名前の立食パーティーに参加するのは決定となるのだった。
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借り物のブレザーに袖を通しながら、何気なく周りを見渡すと、アーシュラと立華がいることを確認する達也。
確認したあとには近くに居た七草会長が少しだけ愚痴る。
「本当は出たくないのよね、これ……」
「会長だけはそういうこと言ってはダメだと想います。あの2人だって、一応は出ているんですから」
「達也くんがツライ……」
不満げな顔をする会長を見てから少しだけ思案にふける。
学校の威信をかけた戦い―――というのが、名目上の九校戦のお題目ではあるが……。
(正直言えば、私立のスポーツ特待のように越境入学も可能な中、そういったことは意味があるのだろうか?)
当然、魔法科高校とてどこもかしこも一律一様な制度とカリキュラムを実施しているわけではない。
2科制度を採用している学校とて9つのうち3つだけなのだ。
校風もそれぞれでバラバラ―――だが……。
(優秀な魔法師の子女子息というのは概ね、己の『支配地域』から離れることを好まれない。それ故に、ハイティーンの年代がいる家は、有事に備えて地元校に進ませるのが普通だ)
それゆえの『一条』と『一色』という北陸支配の魔法家を有する三高が、新人戦の脅威と呼ばれている所以である。
(もしくは、俺や深雪のように『隠れている』か、だな)
そんな情報は、当然自分たちに来ていない以上、大丈夫だろうが……。
「達也君、ちょっといいか?」
「何でしょうか?」
思案思索を断ち切る形で達也に話しかけてきたのは、渡辺摩利であった。
「あの2人、特にアーシュラから眼を離さないでいてくれると助かる。寧ろ傍にいてほしいんだが……」
その言葉を受けて、傍にいる深雪がとことん不機嫌になる。摩利もその反応は予測済みだったらしく―――。
「出来ればでいいんだ。まぁ『何事』もなければ、それでいいんだがな」
「―――分かりました。それとなく注意は、はらっておきます」
「すまない。頼んだ」
懇親会で何が起こるかは分からない。何も起こらない方がいいに決まっている。
だが、何かは起こると確信していた達也は、その中心にアーシュラと立華がいることを半ば確信していた。
そして扉を開け放ち、懇親会会場に足を踏み入れる。
そこにいた九校戦の参加者に達也が眼を奪われたのとは別に、アーシュラは『父』には及ばないものの、美味しそうな料理の数々に眼を奪われたのだった。
―――結果としてではあるが、アーシュラは別の意味で注目されるのだった。
誰もが、飲み物だけで済ませて軽食程度で腹を膨らませようとしている中、1人―――バイキング形式のその食事を満喫しているのだった。
和洋中構わずに次から次へと『牛飲馬食』の勢いでかっ食らう一高生というのは、違った意味で注目されているのだった。
何だかアーシュラだけ世界観が違いすぎるような気がする。グルメ界でも存在しているセカイが相応な感じである。
ちなみに言えば立華は、傍に控えて給仕か執事のように甲斐甲斐しく色々な料理を持ってくる様子である。
「―――エリカ、食料庫の貯蔵は十分なのか?」
今日一日でこのホテルの食料が食い尽くされるのではないかという、『喰いしん坊!』のフードファイター(死語)のような様を見て、汗を流しながら何気なく聞いておく。
「アルバイトの身としては、はっきりとしたことは言えないけど――――ゴメン! レオと美月からヘルプが入った!! 厨房に戻る! いくよミキ!!」
「僕の名前は―――とか言っている場合じゃない!! 達也、またあとで―――!!!」
耳元のインカムに入った通信で小走りに会場から出ていく2人の男女を見送ってから、2人に近づく。
「何を言えばいいのか分からないが、そんなに食って大丈夫なのか?」
ローストビーフを挟んだサンドウィッチを食べるアーシュラに問いかけるも、本人はリスのように頬っぺたを膨らませながら話す。
「問題ないよ。そもそも、こういう場で食事に手を着けないでいるってのは、作ってくれた人への無礼だよ」
「そりゃ分かるんだが………」
食事時のマナーの話を出されて達也としても少々苦しい。この懇親会について、ある種の探り合いの場程度の認識でしかなかった。だからそういうことを言われると、『人疑い』の悪人とか言われている気分なのだ。
とはいえ、アーシュラが大食らいな女の子なのは一高では周知の事実であったが、周りの魔法科高校生たちは呆然としているというか唖然としている風なのだが……。
そのことに対してはどうでもいいのかと聞くと―――。
「如何に世界的寒冷化を乗り越えたとはいえ、未だに三食を満足に食える国や地域に住んでいるヒトばかりじゃない。ならば、ワタシたちに出来ることは、せめてこの場で腹を満たして、その味を思い出せるようにしておくこと―――その味を再現することも時には必要」
その鋭い矢のような一言に、周囲は息を呑んだ。
『世の中には満足に食べられない人間もいるんだ』という親からの小言。お残しは許さない的な発言に、ちょっとだけ呻くものもあったのだ。
ここでは飲むだけで、後で食べるために『包んでもらう』ことも出来るはずだが、料理には美味しさの『持続時間』がある。
魔法の現象改変と同じく、士郎からそういった授業を受けていただけに、その言葉に少しだけ感じ入るものは達也にもある。
「人間ってのは、同じ歌を聴いて泣き、同じ料理を食べて、はじめて同胞の意味を確認できるのよ。
魔法師と価値観を共有できるのは魔法師だけならば、そりゃ紛うことなき『ピクト人』どもが出来上がるだけだよ。ワタシはそうしたくないからこそ、出された料理はちゃんと食べようとは思う。全部が全部、自動調理されたものじゃないならば、作ってくれた人の想いや苦労は踏み躙れない」
そんな風に大きなことを言われてしまった達也は、その言葉の真意を察しきれない。いつでも
大体は、後悔や反省を伴った何ともいえぬクサクサした想いと同時に思い出すのだが……。
「―――本当のところは?」
「本当のことだよ。何でキミにウソをつく必要があるのさ?」
どうしても疑念を捨てきれない達也の質問に対して、無情なレスが返ってきたが……。
その片方で、空気振動を利用した『秘匿のメッセージ』を達也にだけ寄越すアーシュラであった。
―――声を掛けられるのも煩わしいから、食事を思いっきり愉しむことで、『海賊王』になってんのよ―――。
表向きの言葉もウソではないが、そういうこともあるようだった。
そんな風に牛飲馬食で周りを寄せ付けていなかったアーシュラに、果敢に近寄る女子を達也は認識した。
それは金髪のアーシュラと同じく金髪―――恐らくハーフであろうと、というかハーフであると知っている有名な女子だった。ポニーテールにしているアーシュラとは違い、ツインテール系統の髪型をした女子は、カツカツとブーツを鳴らしながらやってきた。
その様子に気付いたのか、そちらを向いたアーシュラと立華。―――2人が驚いた様子になるのを見てから、そこまで『一色愛梨』が珍しいのかな?
と、想っていたのも束の間。
同級生を連れてやってきた、どこか挑戦的な笑みを浮かべる一色が口を開く前に―――
アーシュラと立華はお互いに、色々と確認しあって―――そちらを見ると同時に……。
「「エリセ―――!!! カリーン!!!!」」
「―――アーシュラ!?」「立華まで!?」
頭の上で手を振って、『誰か』を呼びかけつつ一色の後ろに小走りで去っていく姿を眼で追ってしまう。
エリセ、カリン―――エリカたちと歓談した際にホテルに入ってきた六高の生徒2人と『きゃっきゃ』するのだった。
サラッと無視された一色愛梨に声を掛けるべきかどうか、達也は少しだけ逡巡してから―――。
何となくいまは声を掛けないほうがいいだろうと思えた。
深雪からの嫉妬と一色のプライドを尊重したがゆえである。(言い訳)
やはり懇親会は何かが起きた。だが、本番はまだであり、こんなのはしょせん、前座でしかないのだと気付かされるのは―――やはり事が起きてからなのだった。