魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
入れ替わり立ち替わり壇上に現れる魔法界の名士の顔を見て暇つぶしをしつつ、アーシュラたちの様子を見ると、完全に話なんざ聞かずにフルーツサンドを食っているのだった。
ちなみに言えば、宇津見エリセという少女が『真っ赤』な四川風麻婆豆腐に花椒を山盛りぶっかけて、平然とした顔で食っていた様子(笑顔)には、流石の達也も苦い顔をしてしまう……。
その片方で―――。
「うわったたたた!!! お客様、お飲み物如何ですかー?」
「おいおい姉貴、大丈夫かよ。フランみたいなドジをされてもオレはフォローしないぜ?」
「いや、そこはお姉ちゃんを助けなさいよ! ああ、けれど妹に助けられる姉ってどうなのか―――悩んでしまう!」
先程まで会場にいたエリカのような衣装をした、子犬を思わせる外国の少女がおっかなびっくり給仕をしつつ、かなり決まった姿―――ホテルのボーイの格好の少女―――自分の外国人の面貌に対する認識が間違っていなければアルトリア先生やアーシュラに似た人が、やはりホテルのボーイをしていた。
その姿は―――先程ちょろっと見えた幹比古よりも、決まった男装の麗人である。
そんな2人が―――。
「姫―♪ マスターたちも、どうぞ! ミックスジュースですよ―――♪」
「おう! アーシュラ!それにリッカにカリンにエリセ―――ボイジャーもいるか! 全員で食え!! 特製ミートパイだぜ!!」
異端の人間たちに『親しげ』にホテルマンたちが近づいていった時点で、達也は『何か』を察していた。
(……衛宮家は魔術師としては異端の家系だ。剣
達也が四葉―――叔母の私的な情報以外で軍などを使って調べた限りでは、そんな風な『情報』しか得られなかった。
当たり前といえば当たり前だ。なんせ魔法師の情報網なんてのは、21世紀になってからようやく『蓄積』しはじめた『新しいもの』でしかない。
勿論、古い時代の情報というのは、それ以前の情報機関のものを参照するしかない。
だが……第三次世界大戦とでもいうべき群発戦争の勃発と小氷期の到来によって、公的機関の中には、それらを破棄したところもあるのだ。
(どの道、魔術師側の詳細な情報を魔法師が手に入れられるわけがないんだがな)
同国に住んでいても魔術協会と魔法協会は没交渉状態だ。ある種の物好き程度ならばいるのだが……。
「―――続きまして、かつて世界最強と目され、第一線を退かれたあとも今大会をご支援くださっております、九島烈閣下よりお言葉を頂戴します」
などと達也が無駄ごとを考えている間に、お目当ての人物が登壇をするようだ。場内アナウンスに応じて、壇上に上がったのはドレッシーな装いの女性だ。
―――と見えて、その実―――後ろに齢90を迎えつつある御老体が達也の眼には見えている。
広範囲に蟠る精神干渉魔法。ある種、
老人の『他愛ない』イタズラなのだが―――。
――――――うざっ―――――。
粗野すぎて端的すぎる言葉の後には煙を吹き散らすように、バースデーケーキの蝋燭を消すように、『息吹』一つで老人の空間全てに投射した魔法式を砕くのだった。
その事で『手品』は簡単にネタが割れてしまい、全員の眼に老い先短い老人の姿が見えるのだった。
(俺が大量のサイオンを消費して消去の術を撃つというのに、アーシュラは力の質と回転率がいいようだ)
『見えた理屈』としては、その辺りだけだが、何というか色々と敬老精神とか無いのかと思う……。
その後に始まった九島老師の談話、魔法なんて手段なのだというありがたいお話の最中も、食事を喰らい飲み物を食べている連中なのだ。
はっきり言おう。失礼すぎやしないかと思う。
確かにお偉いさんの話なんて、説法としては
誰でもいいから注意しろよと思うも、魔法科高校の親分(他称)で、誰もが知っている十文字家の嫡男ですら、近くで何も言っていないのだ。
((((なにもいえねぇ……))))
『―――この九校戦は、春夏の甲子園大会、夏のインターハイ、冬の国立選手権大会に比べれば、歴史が浅い―――当然、キミたちはそれなりの意地と誇りを以て戦いに臨んでいるだろうが、世間一般の認識は、『毒電波を受け取ってる高校生たちの毒電波放出大会』。そういう風に受け止められているのが現状だ』
「「「「…………」」」」
冷たい一言だ。その言葉に、非魔法師に対して憤り、悲しみと哀しみ、冷笑、呆れ―――様々な感情が渦巻く―――が―――。
『だがそれも真理の一つだな。先程、私の手品を大半の人間が分からなかったように、多くの人には魔法師が放つ魔法が『分からない』・『見えない』。
インフェルノやムスペルスヘイムなどのような、あからさまに物質世界に影響を及ぼすものならば、ともかく―――魔法は、多くの人には見えないものだ。
キミたちの大半は先程まで、世間全ての人間たちと同じくなっていたのだよ―――』
その言葉に、憤り、冷笑、呆れの感情を持っていた人間たちは、心臓を掴まれた気分になる。
『人とは違うからといって、それを当たり前だと感じてはならないな。他者への理解や他者の目を意識せず、己だけが『高まる』『富める』『強まる』ことを考えた時に―――『獣の夢』は覚めるのだからな……』
その言葉は、道徳的な訓告に聞こえたが、最後の言葉に関してはいまいち分からなかった。
だがともあれ、老師は明日の戦いを期待しているようだ。
ようなのだが――――。
『さて最後になるが、この大会にどうやら『期するべき』ところもなく、『目標と』することもなく、『出たくはないが無理やり引っ張られた』という人間がいるらしい。まぁ人それぞれ事情はあるのだろうが、……支援している身、金主の1人としては、少々腹立たしいものがあるな……』
ふてぇ野郎だ。なんて奴だ。許せんな。
様々な悪罵がざわつきと同時に達也の耳に届くも、まったく意に介さないアーシュラと立華の様子に、どうしたものかと思う。
まぁまだ名指しされていないので当然なのだが―――。
『第一高校所属 衛宮アーシュラ、藤丸立華……キミ達に『追随』する人間がいないのは理解できるがね。もう少しやる気を出してもいいのではないかね?』
と思っていたらば、呆気なく老師は名指しをしてくるのだった。あまりにも公衆の面前での叱責だが、立華は淡々と口を開く。
『―――別に競技種目を達者にこなせるからといって、その競技種目を好きになれる人間ばかりじゃないでしょう。
先程、闇将軍閣下が仰った野球やサッカーなどの得意選手とて、ただ単に進学や就職に有利になるからという理由だけで、その競技に打ち込んでいるだけかもしれない。
身に着けた技能の『好き嫌い』と『上手い下手』は違うんですよ』
『それもまた真理の一つか……』
『金主がどうとか仰っていましたが、ここにいる出場生徒全員は、アナタが呼び寄せた座敷芸者の類だと言うのならば、その認識こそ烏滸がましい』
静まり返る会場内。立華の声を拡大しているのはどうやらアーシュラのようで、何かしらの『風の通り道』を使って声を届けている様子だ。
『中々に痛烈な文句だ。だが、それでもこの大会の関係者の1人として、お前たちには『ペナルティ』を与えたい』
九島烈のその言葉の意図は、すなわち手枷足枷をつけてやろうということだ。
ざわつく会場内。まさかこんな展開になるとは思っていなかったらしく、一高の上役などは、流石に腰を上げる。
『待ってください九島閣下! いくら何でもそれは横紙破りが過ぎます!! 何より形はどうあれ参加選手として登録されているならば、競技種目での違反からのペナルティならばともかく! 選手の参加態度だけでそのようなものを与えるのは、卑劣にすぎましょう!!!』
『自分もそう思います。確かに我が校の衛宮と藤丸は、当初は参加メンバーから辞退を表明していました。しかし、それは2人なりに考えた末のこと。何より家の菩提行事に参加することを辞退してまで、2人はやってきてくれたのです―――何卒ご再考を』
一高の上役にして十師族の子供たちが、アーシュラの『風』を利用して九島烈にまで声を届ける。
すかさずの反論の言葉だというのに達者に術を使用するものだ。
本人の性格や力量はどちらかと言えば、力任せな印象があるのだが、必要とあらばこういう精密作業も出来るようだ。
そんな達也の感心とは裏腹に九島烈の言葉は、それを許さなかった。
『確かに魔術も魔法も所詮は手段だ。しかし、それを使うものには、ある種の気合い・やる気は欲しいものだ―――藤丸君の言う通り単に『生活設計』『将来設計』に役立ちそうだからという理由で魔法を学んでいるものもいよう……だが、力あるものの怠惰を許すほど私も人間が腐っていないのでな。
―――アーシュラ・ペンドラゴン、君には現在登録されている競技に+2することで参加してもらおう』
少しばかり脅すような老師の言葉に、ざわつきが最大限に増える。その理由は色々だ。
あるものは、一人の選手にそこまでの多大な負荷を与えるということに対するもの―――。
またあるものは、トーナメントやリーグ表の進行はどうなるんだよということ―――。
そして一高陣営にとって一番多かった意見は―――。
それぐらいの『スタミナ』はあれども、ポイント配分とか、アーシュラの両親からの叱責など……。
色々と考えて、考えて―――『拒否』をしようとした際に―――。
『―――『私』が、それを行った場合の相手方の
雰囲気を異にしたアーシュラの言葉が老師を一瞬だけたじろがせたが、それでも言葉が紡がれる。
『……キミに出てもらうのは、新人戦アイスピラーズブレイクと同じくモノリスの変則競技、新人戦『プリンセス・ガード』。後者は通常通りだとしても、前者は―――『男女全ての参加選手』と戦ってもらう―――当然、ペンドラゴンに挑みたいもの、戦うことを希望するものが現れれば、だがね―――そして見事ペンドラゴンに勝つことが出来れば、300ポイントのボーナスゲームだ』
さらにざわつきが増える。300ポイントのボーナスゲームなど、完全に『ちゃぶ台返し』の馬鹿げたものだ。テレビのクイズバラエティにおける『演出』も同然。
今まで取ってきた得点がバカらしくなる―――まぁそういう『演出』であると出演者が最初からわかっていれば、そういう芸だが、競技大会でそれはないだろう。
当然、ルール上同校対決などはあり得ないとしても、他校の目の色が変わる。その瞬間からアーシュラは、九校戦の
だが一高勢はよく分かっている。よほどの何かが無い限り―――アーシュラが負けることは無いのだと……。
『そしてキミが求めるものは―――この場で言い給え―――私のチカラの及ぶものであれば、尽力しよう』
その言葉に眼を一瞬閉じて、黙考した上で口を開く。それはまるで竜の
『ならば、『私』が全てのピクトとサクソンのような挑戦者を全て退けたならば、あなたには―――九校戦公式の『九校戦音頭』を作って1人で披露してもらう!!』
『ついでに『ダークジェネラル レツ・クドウ 設定年齢19歳!! 蟹座のB型ッ!!』も付けてやってもらいましょう』
『よ、よ、よかろう……』
アーシュラと立華の怒涛の口上に、明らかに動揺した老師に誰もが疑問を抱く。そして最後の要求が明かされる。
『最後の要求は―――早急なまでの『九島健』の日本への帰国に尽力してもらう―――』
『………それが、キミ達の望みか?』
少しだけ神妙な顔になって問いかける九島老師だが―――それに対していつになく真剣な眼で見返す2人に対して、観念した想いで言葉が紡がれる。
『分かった。……私とてこの歳になれば、分かれざるを得なかった実弟との再会ぐらいは望んでいる。百山君はいい顔をせんだろうがね……』
苦笑交じりの言葉をする老人に対して―――。
『『まぁそこは『施しの英雄』と『授かりの英雄』のように、たまには一致団結してください』』
2人は、そんな言葉で慰め(?)とするのだった。
『うむ。中々にデンジャラスな異父兄弟と同じくあつかわれてしまった……』
訳知り、物知りでしか分からない会話。ともあれ、とんでもない提案がなされて了承してしまった。
一高としては、『万が一』にでも『どこか』の『選手』にアーシュラが負ければ、今までの得点勘定が吹っ飛ぶ恐るべきギャンブルだ。
戦々恐々するのが普通だが……。
((((勝負の下駄は、アーシュラに預けられてしまった……!!!))))
そんな風に思うのだった。
『最後にもう一つ―――いいかな?』
老師が『相○』の『ウキョウさん』に思える言動に、2人はどうぞ、とだけ言う。
『キミ達が私というテロリストを無力化するのであれば―――どうする?』
それは最初のイタズラに対する意趣返しだったのだが……。
『すぐ横にいる『聖杯の騎士』を用いて取り押さえます』
その言葉に九島老師は、 横にいた『美女』を見て―――。
その姿が『灰銀の髪』を持つ隻眼の少年―――四月の騒動の際の『ギャラハッド』に変わっていく。
水の煌めきのような魔力の輝きが解けると、そこにはホテルのボーイの姿をした少年騎士がいた。
『ギャラハッド卿……!? これは一本取られましたな……』
『申し訳ありませんロード・クドウ、タカコ殿の姿をお借りしました。まぁ別に危害は加えて―――いえ、『我が
礼節を以て答える少年騎士の言動に、最後まで、カルデアの魔術師にやられっぱなしだった九島烈老師は――――――。
「諸君!!
そんな言葉で脱兎のごとく壇上から去っていくのだった。何というか拍手を起こす前に去っていった御老体が、ちょっぴり可哀想に思えたのだった。
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「成程、千葉達がここのバイトに合格するように捩じ込んできたのは知っているが……まさか『ラウンドナイツ』の大半を、『事前』に九校戦の関係各所に配置していたとは……」
「ワタシが『円卓』の力を溜め込んでいる状態じゃ、どう考えてもパワーが勝ちすぎますからね」
「……つまり、お前は魔力のリソースを『騎士たち』の維持に回していながら、俺達の練習相手も務めていたのか……」
「まぁ全員が出てくれたわけじゃないですしね。アグラヴェインなんかは『申し訳ありませんが辞退させていただきます』とか言ってきたし」
全てのネタバラシを食らって克人としては、天を仰ぎたい気分であった。そんな風にサーヴァントを運用できるなど、正直言えば予想外すぎる。
「それで―――これが聞きたかったことなんですか?」
「いや、それ以外もあった……お前が万が一にでも負けることあれば、色々と予定が狂うからな」
その言葉にアーシュラとしては嘆息してしまう。
聞く所によると、エリセも新人戦の『つらら』に出るようだ。そうなる、一番『手強い敵』はエリセだけだろう。
その上で―――。
「克人さんだって『つらら』で負けるかもしれないんですよ。ボイジャーは、本戦の方に登録しているんですから」
「むぅ……それを言われると中々に辛いな……」
人差し指を突きつけながら言うと、若干勝利が苦しいと思っているのか呻くような克人の姿であった。
「まぁお互いに勝ちを拾えるようにするしかないな」
「ポイントゲットという意味で、ワタシが頑張るのはクラウドとボードだけなんですけどね」
「……『プリンセス・ガード』はどうするんだ?」
「森末君がワタシをどう扱うかですから、ぶっちゃけワタシはアレコレと言う立場にありませんし」
手をひらひらと振って、興味のない話だとするアーシュラに克人は戒めるように言う。
「今回、新人戦で急遽採用された『プリンセス・ガード』は、お前を
「でしょうね」
「―――本戦モノリスもそちらに変更されていれば―――と悔しい思いをしたのが風紀委員長である渡辺だ。一応は、お前の直接の上役なんだ……。その悔しさのためにも、少しは奮起してくれ」
その言葉に、今度はアーシュラが嘆息する番であった。
それを最後に会話は終わりを迎え、一高ジャージのままにアーシュラは外の散策に向かうのだった……。