魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

39 / 160
第38話『忘却の旋律』

―――キミのお母さんは夢を見ていたんだ―――

 

 

―――そう。長い永い夢をね……。―――

 

 

―――キミのお父さんは、その夢を覚ますために、白竜の骸に入り込んだ―――

 

 

―――ロマンある行いだよ。とはいえ、流石にお父さんではある程度の深度が限度だったので、私の方で手助けさせてもらった……。―――

 

 

―――そこから先は目まぐるしい日々の連続さ―――

 

―――キミが生まれた時に、妖精郷の住人たちは祝福をした! 祝いの宴は何夜も続き、そしてキミはその音にむずがることもなく、父母の中で眠っていたんだ―――

 

 

―――アーシュラ、人の世界を見てきなさい―――

 

 

―――そこにはきっとキミが求めるものがある―――

 

―――いつか気がつく―――

 

 

―――キミの持つ小箱(せかい)には、色んなものがつめこめるのだと―――

 

 

―――数多の桃色の花が咲き誇る庭園での言葉。

 

花の魔術師の語りに従い、アーシュラは星の内側から『外側』に出たのだった。

 

 

その際のことを考えて、アーシュラのエルフィンダンスは続く。霊峰富士より湧き出る(ガイア)の魔力は、アーシュラにいつにない活力を与えてくれる。

 

夏に茂る草花より多くの妖精の魂(フェアリーソウル)が、光の玉となりて夜空へと溶け込んでいく。

舞い上がる光を見送りながら、星の息吹と己を合一させていくのだった……。

 

「―――よしっ、万全! 万全!!!」

 

『イッヒヒヒ! 俺様もいい魔力をため込めて気分がいいぜアーシュラ。キュウコウセンとやらで俺を使うかい?』

 

「最初はボードでアッドを盾にしようかと思ったんだけどね―――」

 

『雪山を滑る自信はあるが、水面を行く自信はねーな。第一、規定のボードだろ? 昔のブリテンでも騎士剣試合には、多くの騎士たちがドワーフやエルフ―――はたまたピクト共が鍛えた魔力武具(マナウェポン)を装備していたが、アレコレとチェックが入っていたんだぜ』

 

そんな風な言葉で古いブリテンの様子を語る『叔父上』に苦笑する。

 

「ちなみに『叔父さん』はどれぐらいの腕前だったの?」

 

『ノーコメントだ。ただ一つ言えることは、俺は実直な拵えの土精(ドワーフ)が作ってくれた武具が好みだったな』

 

エルフや『精霊』が作った武器は『おっかない』と語る匣に苦笑していると―――『よろしくない魔力』が漂う。

どう考えても瘴気の類であり、この近辺に死徒崩れがいたことを思い出す。急いで向かうとなると―――。

 

「アッド、スターブルーム!」

『了解だぜ!』

 

魔力放出のちょっぱやで行くのもいいが、今は……。

 

(魔女の宅急便のように夜を駆けたい気分―――)

 

『フォーウ♪♪』

 

人語を解するも口頭発音が出来ないネコの使い魔をお供に、アーシュラは夜を駆けるのだった。

夜空に舞い上がる箒に跨った金色の魔女の姿は誰にも見咎められなかった……。それを見送るは精霊・妖精の類ばかりなのであった。

 

―――運命の申し子は世界に己を示すのだった。

 

 

 

さんざっぱら同級生から喝破されても、幹比古の中にはくさくさしたものが渦巻く。

 

「……達也に言っても分からないよ。言っても、どうにもならないことなんだ。士郎先生の授業を受けても―――この問題は解決しきれないものだったんだから」

 

特に今夜は『いつも以上』に調子が良かった。何せ、精霊の調子がいつも以上に『活性化』されており、『声』まで聞こえていたというのに、『喜色の声』が聞こえていても、自分には―――。

 

「幹比古!!」

 

喝破してきた同級生―――司波達也からの警告と同時に、『溜めていた』木精をエネルギー弾として起き上がった不審者に叩き込む。

物理的な破壊力としては大したものだが、起き上がった不審者たちの様子は違いすぎていた。

 

「――――」

 

一切の感情を見せない面貌。目出し帽で見えなかった先ほどとは違い、明らかに変容した様子に最大級に警戒が跳ね上がる。

 

「―――食人鬼、いや屍食鬼(グール)か!?」

「グール……?」

 

幹比古の驚愕した様子とは反対に、達也は聞き慣れない単語に聞き返す様子。しかし、三鬼は完全に食欲を満たそうと動き出していた。

 

「―――なんだこいつら―――既に死んでいる?」

「グールだ。シト(・・)―――俗に吸血鬼と呼ばれる連中が血吸いをした後に、死体から起き上がる低級の不死者だよ……!」

 

達也とは違い、その親玉にまで知識が及んでいる幹比古は―――近くに本命の『死徒』がいるのではないかと気配を探っていたのだが―――。

 

それを許すほど不死者たちは甘くはなかった。

動き出したグールが幹比古に掴みかかろうとした瞬間、流石に成り行き任せは無理として、軍の制服姿の中年が飛び出そうとした時に―――。

 

 

『風王鉄槌!!!!』

 

 

系統魔法である『空気弾』(エアブリット)など『そよ風』とせんとする勢いの風の塊、気圧の束、なんとでもいえる圧が、グール三鬼を直撃。

 

「なっ!?―――は!?」

「………!」

 

おどろ木ももの木さんしょの木、な今宵の中でも最大級に驚愕すべきことが、顔面変化しっぱなしの幹比古と、鉄面皮にしか見えないが驚いている達也の前に現れた。

攻撃が発射された方向を向くとそこには―――。

 

どう見ても『箒』にしか見えないものに、『キキ』(高山みなみ)『ジジ』(黒猫)よろしく跨るアーシュラとフォウが、月夜に浮かんでいたのだ。

 

「こんな真夜中に同級生の男子2人が『逢引』している場面だなんて、ワタシは見なかったことにすべきかどうか迷ってしまう!!!」

 

『イーヒッヒッヒ!! どっちが『ネコ』なんだろうなー!? 衆道はあんまりブリテンじゃ流行らなかったんだぜ!!』

 

『フォウ!』

 

きゃー、などとわざとらしく眼を覆いながら言うアーシュラとアッド?だろう言葉の後に―――フォウが、妖猫の使い魔が『ズビシッ!』とでも言うべき勢いで達也を指差すのだった。

 

(この攻めの権化とも言うべき俺が『ネコ』だと、おのれフォウ。その考えを改めさせ―――)

 

(ピーピーやかましいバカや小利口に理屈ばかり捏ねるやつは、大抵『受け』なんだよ)

 

 

「!?」

 

内心での激高に対して、驚愕すべき言葉がテレパシーとして達也の頭に届いた……。まさか今のは!?

 

と、達也が驚愕している間に魔女宅は終わり、箒だったアッドが『大鎌』に変形する。

 

大地に降り立ったアーシュラは、重量としては相当なもののはずの大鎌を、片手で軽々と肩がけしながらグールを値踏みする。

数秒の視線の交錯。グール側も動くに動けないほどの強さを感じている―――わけではないようで、戦いが始まる。

 

正面・左右に分かれてアーシュラに襲いかかるグール。その攻撃がいかなるものかは分からない。だが見ているだけなど出来ない達也が動こうとした時には―――。

 

大鎌(サイス)の間合いは―――」

 

かなりの速度で駆けてくる、リズムをあわせた不死者の動きを崩す超速で前に出る。

 

「剣や素手より―――」

 

丁度三者を攻撃範囲に入れた上で三日月状に振るわれた鎌が、不死者の腕を全て半ばから失わせた上で、アーシュラは高々と跳躍。宙返りの要領で天地を逆さにしたまま鎌が、不死者の首を刈り飛ばした。

 

「長くて広いっ!!」

 

止まることも出来ずに前進してきた不死者の勢いも借りた斬撃が決まると同時に『灰は灰に、塵は塵に』ということなのか、身体全てを失って残るは血と粉塵に塗れた衣服だけとなった。

輝く大鎌を手にして、月夜に現れる死神がいるとは、こういうのではないかと思わせるアーシュラだが――――。

 

 

(死神がジャージ姿というのは締まらない限りだな……)

 

 

だが、そんな姿でも『映える』と思えるのは、なぜなのか……。

 

「で、なんでキミたち2人して逢引していたのさ?」

 

「「だから逢引じゃねーーー!!!」」

 

いつになく崩れた言動で達也も幹比古も返しつつ、咳払いをしてから事情を話す……。

 

「実は、かくかくしかじか……」

 

「まるまるうまうま、とナルホドねー。秘密の特訓をしていたらば、説教くさい司波くんが説教よろしく『悪罵』を加えてきたと」

 

大まかにはそれでいいのだが、笑顔でうんうんと頷くアーシュラの言葉に、何ともやるせない気持ちを抱く達也に構わず話は続く。

 

「僕は古式の名家だという自負心を以て、一高に入学した。現代魔法にも負けないという気概と現代魔法に勝るために―――結果として二科に入れられたわけだけど……」

「おや? ワタシのお父さんの授業は不評かしら?」

 

不満げな幹比古の言葉の調子に耳聡く咎めるアーシュラ。失言だとも邪推だとも取れるのだが、あからさまに動揺した幹比古はアーシュラに釈明をする。

 

「も、もちろん士郎先生の授業はとても有意義だよ。とても充実しているし、有用だ……けれど何ていうか、『渇き』にも似たものがあるんだ。

前の自分ならば、もっと高い位置で士郎先生の授業をモノにしてみせるのに、っていうものが……ね」

 

その言葉に『ふむふむ』と、達也からすればアーシュラは分かっているのだろうか?という反応に対して、既にアーシュラは『答え』を見出していた。

 

「吉田君の悩み―――士郎先生、アルトリア先生に言った?」

 

「うん。士郎先生が『アーシュラ向きの案件だな』って―――」

 

「でしょうね。言ってくれればどうとでもしてあげたのに。大方、一高で『箔をつける』ために無茶なものを降ろそうとして、制御に失敗したってところか……」

 

「―――そんなことまで分かるのかい?」

 

「分かる」

 

端的だが力強い言葉に『見透かされた』幹比古が圧倒されているのが理解できる。達也の所見は単純に言えば速度域が『ズレている』だけ―――追い越し車線の速度で登坂車線を登っているだけだと想っていた。『道具』の改良で何とか出来ると思えたのだが……。

 

「まぁ司波君の説破の『由来』でも『どうにかなりそう』だから、ワタシのは余計なお世話になるかもしれない。どうする?」

 

「……つまり達也は、『道具』や『触媒』の『変更』で僕を『直して』―――衛宮さんは、『僕自身』の『治療』をするってことかな? 適切な表現かどうかは、ちょっと自信がないけど―――」

 

「大まかに言えば、そういうこと」

 

頭の回転が速い。そうアーシュラは思いながら、アッドをヴァイオリンに変えておく。

 

その言葉で幹比古は選択を迫られる。

 

古式魔法の歴史ある家として、吉田家も『衛宮』の名はそれなりに存じていた。魔術師側で言うところの封印指定である『衛宮矩賢(のりかた)』は、古式ないし『退魔』や『混血』の間でもそれなりに知られたものだった。

 

その『時間操作』の衛宮とは違うだろうが、衛宮士郎という男性に、父も兄も興味をいだいていたのだから―――何かはあると想っていたが、まさかこうなるとは……。

 

(これからの時代、確かに呪具というかCADの性能向上は明らかだ。道具の良し悪しが、これからの魔法社会を決定していくのだろうが)

 

それでも『地力』そのものが伴っていなければ、それは『道具』に『使われている』だけにすぎない。

 

何より―――。

 

(処置を受けるならば、色んな女の子と関わりを持つモテ男(鉄面皮)よりも、特定の相手がいないカワイイ女の子だよな)

 

吉田幹比古 15歳―――まだまだ青い年頃であった。

そんな幹比古の内心が通じたのか―――。

 

 

「んじゃ吉田くん、脱いで―――」

 

「――――えっ!?」

 

「おいアーシュラ。おまえ何を言っているんだ?」

 

美少女のぞんざいながらも大胆な言葉に、青い年頃が顔を赤くして恥じらいを覚えた瞬間、同時に食って掛かる達也にアーシュラは不機嫌を隠そうとしない。

 

「何か勘違いしているようだけど、違うし―――とりあえず吉田、脱げ!」

 

「わ、分かった。達也もそんなケンカ腰にならないでくれよ。アーシュラさんにとって必要なことなんだろ?」

 

「当然、ああ上半身だけでいいから、下半身を脱ごうとしたら『もぐ』―――」

 

「何を『もぐ』つもりだ……」

 

「セクハラすんじゃないわよノーエモメン(無表情男)。ここぞとばかりに絡んできて、キモいわー」

 

「おう。ケンカ売っているな。このアマ(平淡口調)」

 

 

焦ってシャツを脱ぐ幹比古を後目に、ケンカするような調子のアーシュラと達也。その様子に―――『幹比古』は妹愛ばかりが見受けられる達也の『奥底』を見たような気がしたが―――。

 

「んじゃ背中向けて―――こことここか―――ついでに言えばここね。随分と強烈なものを降ろしたわね―――竜種か」

「う、うん……」

 

素肌―――背中とは言え、女子の柔らかいが少しゴツゴツしているエリカ系統の手が当てられて、ドギマギする幹比古。

 

聴診器を当てるような所作の後には、アーシュラはその手に持ったヴァイオリンを肩に乗せて弦を弓で弾いていく。

 

その際の細められた眼を見た達也は、思わず動悸をあげてしまう。

そして眼を閉じながら奏でられる音律(リズム)は、魔力を伴いながら全身を賦活・活性させられるようだ。

 

何よりその音がどうしても、見事なのだ。

集中しながら弦から奏でられる音を傍で聞いている達也ですらそうなのだから、処置の主である幹比古は―――。

 

「これ、は―――!!」

 

驚愕する幹比古。目に見えた変化は明らかだ。

全身に走る紋様が幹比古の魔法力の『総て』に繋がれていく。それは、達也がやろうとしていたことよりも『高度』なものだ。

 

すなわち―――各々が持つ魔法演算領域とでもいうべき場所を二重・三重にする作業だ。CPUの底上げとでも言うべきか。

端的に言えば幹比古が術を行使する際に、それをバックアップする要員が自動的に発生するようなものだ。

 

現代魔法ではあまり馴染みがないが、多人数重複術式が自動的に構築される―――そういうことである。

 

「アナタの中にいた『龍』は、アナタが持つ『眠れる力』と混線状態になっていただけ。正しい道筋を着けることで、力は『正常』に働く―――鳴り響け『私の選定の剣(カリバーン)』!!」

 

演奏は最終楽章に入っていたのか、激しくかき鳴らされるヴァイオリンに従い、幹比古の処置は最終局面になり―――それを『精霊の眼』で見届けた達也は―――いま、吉田幹比古は―――。

 

 

(一科生でも上級に入る能力値になったんじゃないか?)

 

終演(フィナーレ)の弾き終わりと同時に、幹比古の様子は―――段違いであった。術者として数段……十数段上に昇ったように見える。

 

「アーシュラさん。ありがとう―――本当にありがとう!!」

 

「礼には及ばないよ。さっさと上に昇ってお父さん(士郎先生)の苦労を減らしてあげて」

 

「ああ、本当にありがとう―――!!!」

 

事後処理とかその他諸々とかを完全に忘却したのか、ホテルの住み込みアルバイト部屋に勢いよく向かっていく幹比古(手をいつまでも振っている)を見送る。

期せずして2人になった達也とアーシュラ。夏場とは言え吹きすさぶ夜風が身体に毒に思えたのか、アーシュラは汗を拭く。風に靡く金色の髪が美しい少女は―――。

 

 

「お前の『メロス』が鳴り響いた結果か?」

「吉田君に聞かせたのは、別に『忘却の旋律』じゃなかったんだけどね」

 

 

作品的には全然意味が違うのだが―――そんな感じである。平淡な会話をしながらとりあえず『待つ』。

アーシュラとしては、覗き見している相手が『司波』の関係者だと分かっていたので、とっととホテルに戻ろうと踵を返したのだが―――。

 

「待って待って! アーシュラちゃん!! お姉さんとこちらのオジサンと、少しだけお話してほしいのよ!!!」

 

出てきたのは軍服―――白色に染め上げられた制服に身を包んだ男女であった。

制服が軍のものとはいえ、不倫関係にある上官と部下と言われても、納得してしまいそうな2人の登場。

 

特に女性の方―――達也『は』知っている人、藤林響子が顔見知りのように、アーシュラに声をかけたのだが……。

 

 

「―――(フーアーユー)?」

 

 

響子の勘違い・記憶違いでなければ、アーシュラにも『忘却の旋律』は奏でられている結果だった……。そして響子は、『あんなに一緒だったのに』などと泣きながら悲しんでいる様子である。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。