魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
流石は優勝候補の一高というべきか、手堅く勝っていく中、少しの変化が起こっていた。
本戦バトル・ボードの予選。その中の1人である渡辺摩利の走りが注目されていた。
「雫……渡辺先輩の走り―――」
「うん。去年より『荒っぽい』……」
この中では九校戦フリークと言ってもいい北山雫の『肥えた眼力』が、優勝候補の走りを見てそんな感想を出させていた。
「調子悪くしたのかしら、あの女?」
「ううん。寧ろ荒いけど『速い』。そうとしか言えない。去年までは3種類か4種類の魔法を併用していたのに……」
エリカの言葉に眼を細くしながら、その渡辺摩利の走りの豪快さに感心しているらしき雫の言葉―――いつもならば、ここで解説役である達也がアレコレと言っているはずなのだが……。
「………」
「―――」
その達也は苦笑するように、ジュースを飲むアーシュラを見ながら『何も言えない』でいた。
「アーシュラ、解説しなくていいのか?」
「その役目はキミじゃん」
「いや、渡辺先輩がああいう走りをしたのはお前が原因なんだし、教えてあげればいいのにと思って」
「別にワタシが原因ってわけでもないでしょ。ただ単にそういう走り方もありますよーって言っただけだもの」
「まぁそういう感じだったな……」
「いやいや、あんたら2人だけで納得しあってそれを教えないとか、ケンカップルと熟年夫婦の中間を思わせる『分かりあった』空気を出すな!! 真夏に凍えるような空気を感じている私達の痛みを考えなさい!!」
エリカのその言葉で、深雪が雪女よろしく醸している空気を認識してアーシュラも嘆息気味に口を開く。
ホワンホワンホワンペンドラゴン〜〜〜
妙な擬音が流れたことで、回想シーンという形で説明が成されるのだった。
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「―――ということで、お前が出場するバトルボードの細かなルールは分かったな?」
「跳ぶことは許されても(3秒程度)飛ぶことは許されない。直接的な干渉妨害は駄目だが、水面を介した妨害は例外的に許可―――規模によりけりであるが、そういう進路妨害はオッケー……『バナナの皮』を進路上に置くことは許されても、『亀の甲羅』を投げつけることは許されない。『奈須きのこ』を使っての増速は許されても『星空めてお』を使っての増速と無敵化による接触妨害は許されない―――OK、OK……要はチェッカーフラッグが振られるまで走り抜ければいいんですね?」
「うむ。途中、妙な単語や作家名が入ったが、概ねそんな理解で構わない。その上で選ぶボードの形状は決まっている―――ただし変更できる点はある」
水を弾くウェットスーツに身を包んだ風紀委員長の言葉と先導に従い、案内された所にあったのはビート版ではなく、サーフボードに似たものであった。
人ひとりが乗るのに最適な重量と水面に浮力を持たせられる板を見て―――。
「重さが違うんですね」
「見れば分かるか。そういうことだ。干渉力の良し悪しは当然のごとく、何より重ければ当然ながら出足は鈍る……ちなみに私はこの中量級のものを愛用している。不正を防ぐためにも当日は、大会側が用意したボードを利用するが、ここにあるのが当日あるものと同一だ―――さて衛宮はどれにする?」
説明しながら真ん中ぐらいに並べられているものを手に取る渡辺摩利を見てから、アーシュラは迷うこと無く、一番右端にある最重量級のヘビーなものを手に取るのだった。
「ふむ。まぁお前の干渉力は莫大だからな。そのぐらい硬くて重い方がいいか」
風紀委員長も納得のチョイスだったらしい。手の甲でコンコンと板を叩くアーシュラ。ボードを手に持ち、訓練場に赴く。
「本番のコースはこれよりも複雑だが、面倒だから習うより慣れろだ。私と競争してもらうぞ衛宮」
「いいですけど、何かやっちゃいけないことがあれば言ってくださいよ」
「大丈夫だ。問題なくジャッジを降してやるぞ」
「左様ですか」
水の上にボードを浮かせてから、それをビート板代わりにスタート位置まで移動させて、ボードに乗り込む。
(流石に運動神経がいいな。サーフボードと違うとは言えスタンディングをすぐに出来るなんて)
寄せては返す波が立つ海の上ではないが、決して安定的とはいえない水の上のボードという大地に立つ衛宮を見て摩利は素直に感心する。
運動神経のかたまりという存在に、ちょっとばかり羨ましくなる。
「準備はよろしいですか?」
プールサイドから声を掛けてきたのは作戦参謀である市原鈴音である。シグナルランプの操作を担当する彼女が聞いてきたのでお互いに親指を立てた手を掲げる。
(サマになりますね―――そんな様子が千代田さんにとっては癇に障るものなのでしょうが)
こちらからはハッキリと見えぬ所で摩利とアーシュラを見る2年の千代田花音を鈴音は認識しながらもシグナルランプの操作は淀みなく行われ―――摩利とアーシュラの『波乗りの練習』は始まるのだった。
〜〜〜1時間後〜〜〜
「もう一本!!! もう一本勝負だ!! エミヤ―――!!! 後生だから泣きの一本を!!」
「その泣きの一本が何度続けばいいんですか…」
ボードの上に座って足だけを水面に浸しながら、人魚を思わせる様子の呆れ顔のアーシュラに対して本当に涙を滲ませながら人差し指を何回も立ててくる摩利に制止が入る。
「摩利さん。コレ以上はアナタの体調とか他の人間の練習にも差し支えます。この後のミラージはどうするんですか?」
「うっ……」
鈴音に言われて呻く摩利だが、この競技に一年の頃から出ていた摩利としては、色々と納得出来ないものがあるのだ。
自信を持っていたというのに色々と―――覆されてしまったのだ。
エリカ以来の久しくなかった年下から突きつけられる敗北の感覚に恋人の腕の中が恋しくなりながらも、今は教えを請うしか無い。
「委員長の魔法を見ていたんですが、5つだか4つもの魔法を同時に掛け続けても疲れないのは見事ですよ」
「ありがとう」
「けれど、その神経質なまでの魔法の併用がある種、逆に速度を殺しています」
「むっ―――」
「どういうことよ衛宮さん!! 摩利さんは、見事に水面を滑走しているじゃない!! それが速度を殺しているって!!! ナマイキいってるんじゃあいたたた!!!」
闖入者である千代田花音がジャージ姿でプールサイドに現れたことで女子3人が瞠目する。
が即座に排除行動に移るは風紀委員長である。
「お前はどこから現れたんだ! 全くもって―――説明を続けてくれ衛宮。市原、そこのバカを追い出せ」
「ま、摩利さ―――ん!!!」
サイオン操作での水鉄砲を何度か顔に当てられた千代田花音が去ったあとに、アーシュラは説明をする。
「本番のコースがどんなものかは分かりませんが、直線走破では『波』を打ち消してまで走らなくてもいいと想います」
「むっ、そういうものか?」
「駆け抜ければ風圧を感じるのは当然ですけど、造波運動をかき消すことで、水に乗る感覚まで消しています」
「ふむ」
「水というのは絶えず変化を果たしています。こういう風にあるだけでも蒸発して水素と酸素に分解されていく―――つまり渡辺先輩がやるべきなのは……」
アーシュラの説明。懇々とした説明を聞く度に―――口をあんぐり開けて眼を輝かせていく結果になる―――。
その疾さの秘密とは―――。
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「「「「水の中にある『酸素運動』を利用しての加速!!!!????」」」」
「み、みんな。声が大きいよ!! ほら他校の人たちもビックリしているから!!」
美月が嗜めるも、聞かされた方としては驚きばかりだ。だからこその声の大きさだ。
「―――衛宮さん。聞かせていいの?」
同じ競技に参加する光井ほのかとしては、気が気でない。競いあう関係であるはずなのに、こんな風にネタバレさせてしまうことの罪悪感が出てしまうのだが……。
「解説を欲しがったのはあなた達じゃない。……だから司波君が説明すりゃ良かったのよ。ワタシの言葉じゃこんな風に素っ頓狂な言葉を出されるんだから」
「いや、俺だって完全に理解出来ているわけじゃないんだから、アーシュラに説明を願いたかったんだよ」
「光井さんが睨んでくるし、イヤな気分だわ」
言葉を重ねていくと、完全に不機嫌アーシュラになったことで自分の失策を悟ったほのかは、慌てて弁解するのだ。
「に、睨んでいないよ!! そんな秘術を晒させたことに申し訳無さを覚えたんだよ!!」
(だとしても司波達也の口から出ていれば何も無かったでしょうに……)
藤丸立華としては、アーシュラこそが、一番『ソーサラスアデプト』としては『真っ当』で『正当』で『王道』だというのに、まるで
「立華。すまない……」
「悪いと思ってるだけマシね」
こちらの気持ちを察した司波達也が謝ってきたが、ともあれ、アーシュラは険相のままに語る―――。その心情を慮りながらも、言葉を続けさせるのだった……。
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「つまり水が動くプロセスを利用しているのか……」
「水を切って進む以上、どうやっても己の力で波濤が生まれるのは仕方ない。けれど、その波濤を抵抗力として考えてまでってのはやりすぎです」
「むぅ」
そこまでいくと各国で流行っているモーターボードの次世代『ホバーボード』も同然になる。
ソラを、リクを駆けるものならば、摩利のやりようは正しい。ただ、そこまでいくならば、単純に板を宙に浮かせたほうが効率がいい。
だが―――水の上を走るとはそういうことではないのだ。
「水は水素と酸素の結合体。波の発生は風を受けて水の中にある酸素原子が動いた結果として水素も同時に動かされているわけですから―――」
「あ」
「あなた達、現代魔法師には馴染みのある理屈だから分かるはずですよ。だからそういうことです」
「思い出してみれば、お前はOGの風祭の起こした風を逆に利用して加速していたもんな……」
入学当時のことを思い出して腕組みして唸る摩利としては、やられた思いだ。
「確かに進行方向に対して逆位相の波を発生させて『静かな航路』を作ることは、別に『正しくない』わけじゃない。けれど、その考え自体がワタシからすれば的外れなんです」
「衛宮は―――風に乗って『走っている』のか?」
「大雑把に言えばそういうことです。
「―――――舐めるなよ。一年女子!! お前の『風龍走法』など、簡単に真似てみせる!!」
二度も年下に魔法絡みで敗北を被るなど、色々と耐えられない。それゆえの気合いを入れた言葉だが、アーシュラはその理由を知らない。
「どうぞご自由に。ちなみに言えばワタシの『母』と『姉』は『聖盾』を利用して大波作れる手合いなもので、ワタシのは手妻なんですけどね」
「良くは分からんが、アルトリア先生も規格外だと分かった!!」
「んじゃ泣きの一本ですよ―――なんか完全に立場が逆になってしまったんですが……」
達者に出来る方が教える側になることがいいわけではない。こういう場では先輩を立てることも知っているアーシュラとしては、複雑な胸中だ。
「十文字はお前と藤丸を全ての競技のトレーニングパートナーにして教導してもらおうという考えだぞ―――せめて私だけは、お前の先輩という立場、教え役を堅守したかったんだがな……」
嘆くように言う摩利もアーシュラと同じだったらしく、内心でのみ『ご愁傷様です』と言いながらボードの上に立ち上がるアーシュラ。
ファイナルラップが刻まれて、その際のタイムは去年より――――。
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―――ゴール地点で振られるチェッカーフラッグ。
白黒の市松模様の旗が振られた時に見えたファイナルラップタイムは、去年よりも5分以上も縮めていたのだった。
進行を停止させても発生する慣性力が打ち消されるまで走りぬけて、ボードを反転させて観客席の方に手をふる摩利の姿に、大音声の黄色い歓声が響く。
「まだゴールをしていない選手もいるのに、アレはいいのかしら?」
「何でエリカは、そういう風に他人のアヤを何が何でも見つけてやろうとするのかな?」
「べ、別にそんな意地腐れな考えじゃないわよ!!」
「そう。ならいいけど」
一応は、先輩後輩の関係ゆえか、摩利を貶めようとするエリカを嗜めるアーシュラに少しだけ意外な思いを抱きつつも、摩利は予選通過を果たすのだった。
説明を全て聞かされた人間の中で一番複雑なのは、ほのかだろう。まさかそんな術を使っていたとは―――。そして、それに対する対策は―――無いのかもしれないという恐怖だ。
それを察した達也は思案する。
(予選の組み合わせの関係上、どこかで同校対決は入る。決勝までいけば、それは『なくなる』のだが……)
仮に戦うことを両者が望む場合もあるだろう。
が―――その場合、恐らくアーシュラは『ほのか』との戦いを避ける。というか辞退する。
メンドクサがるからだ。そういった『歯牙にもかけない』という態度を取るから、ほのかや雫は敵意というかある種の反意を示すのだ。
まぁ達也としては、身に覚えがあることなので、正直言えば分からなくもない。だから嗜めることも出来ない。
だがアーシュラとしては、そこではないのだ。要は、自分に追随したければ―――『己を燃やして』でも挑もうとする姿勢が無ければそうなのだ。つまりは『ワタシに勝ちたければ全てを擲ってでも挑みかかれ』―――とんだ世紀末覇王である。
(まぁ終始、そんな
そんな風に達也が結論を出しながらその日の午前のプログラムは終わりを迎えるのだった……。
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「昨日、司波くん。軍人さん達に絡まれていたわよ。『京都』の事件の時のキョーコさんも出ていたことだし」
「死徒絡みの案件ですからね。下手に関わって手下にされても困るんでしょう―――まぁ聖堂教会のお手並み拝見ですね」
適当なオープンカフェで食事を2人で取りながら、現在の状況に対して言い合う。
「午後はどうしようか?」
「ふむ。死徒の塒でも探ってみますか?」
その言葉を受けた後に立華に口を閉じるよう指示。明確な『敵意』を持って近づく一団を認識。
敵意と評したが、そこまで強烈なものではない。
「―――」
「―――」
無言で昼食を取る一高一年2人に近づくは―――三高女子3人。
背丈とか髪の色とか―――全然似ていないのだが……何となくA組の優等生トリオに似ている連中だ。
自分たちに用事があるのか、それともなのか気づかないフリをしておく。
ただ周囲の人間がざわついた時にはそちらに眼を向けて平凡を装う。完璧な擬態をしつつ、食事を取っていたのだが―――。
「衛宮アーシュラ、いえアーシュラ・エミヤ・ペンドラゴン―――私と決闘なさい!」
「今のワタシは食事中だ。邪魔するんじゃないわよ!!」
「しょ、食事のあとでいいですからっ!!」
懇親会でのアーシュラの『出されたものを黙って食え』『食ベものを粗末にするな』という言動を覚えていたのか、焦った顔で否定する金髪の―――育ちの良さそうな女子だが、そこに立華は言葉を重ねる。
「そもそも、アナタ三高生じゃないですか。この決戦前のデリケートな時期に手の内を明かしていいんですか?」
その言葉に詰まる三高生。名前は知らないが、まぁ有力な魔法師なのだろう。だからこそ、そういった言葉でも出せば簡単に退けられる―――。
そういう立華の言葉は否定された。
「構いません! たとえ私の秘術を見抜かれたとしても剣で戦いたかった!! アーシュラさん!! アナタに北米以来のリベンジを果たしたいんですよ!!」
「出来るかどうかは別じゃがな♪」
意外や意外なことに骨の『ぶっとい』ところを見せつけられて、立華もアーシュラも感心をする。
魔法師は俗世の価値観に染まりすぎて、人理の
ハッキリ言ってしまえば、己のルーツ……何者であるかという『立脚点』が総じて『力』にしかない。積み重ねてきた『歴史』『文化』というものを持っていない上に、自分の力に対して誇りを持たない無頼漢ばかりだと想っていたのだ。
だがコイツは違う―――そう感じた。
「ワタシはアナタのことをカケラも思い出せないわ」
「でしょうね。アナタがあの北米大会で使用した魔法は純然たる身体強化のみ。あとは細剣一振りと―――
((どちらかと言えばブリテンの騎士なんですけどね))
目の前の三高生にはフランス圏の血が混じっているのだと察して、『何名』かを思い出しておきながら―――。
「一色 愛梨―――会いたかったですわアーシュラ・エミヤ・ペンドラゴン……」
誇りを以て答える金色の獅子―――確か、懇親会で司波深雪を嘲った相手だ。
まぁ見ただけで力なんて分かりゃしないんだから仕方ないが―――アレは騎士の礼儀ではないなと思いつつ。
……そんな会話を以て