魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
映像から妄想は膨らませられる。けれど、これはもう――――。
感無量すぎる!!
茶請けにカレーパン。ブレないシエル先輩ですよ!!
磨伸先生!! このシエル先輩はパスタなんて食べませんぜ!!
もうこの感動を言葉で表すなんて陳腐すぎる。
ただ一言あるのならば―――ありがとうTYPE-MOON! ありがとうTYPE-MOON!! それだけだ。
素晴らしい世界を提供してくれる奈須きのこ氏と武内崇社長にありがとうだ。
「摩利さん! スッゴイカッコよかったですよ!! 最高な滑りです!!」
「ああ、ありがとう」
千代田花音から称賛の言葉を放たれて、摩利としてはありがたい半分、この走りは後輩からの伝授であることを伝えれば、喜色満面の笑顔は無くなるという事実だけだ。
そんなわけで、現状報告を市原鈴音から受ける。
「―――今の所は特に問題もありませんね。ただ少し、服部君などのところでエンジニアがまごついているところはあるようですね」
「ふむ。調子を悪くしたか?」
「後で人員を調整しておきましょう。それぐらいかしらリンちゃん?」
「そうですね。ただ耳に入れておいてほしいことが……」
用意されていた昼食のサンドイッチを頬張りながら言われたことに、摩利の耳が立つ。
「ほほぅ。随分と好戦的だな―――とはいえ相手選手を怪我させたりすれば、事だからな。ちょっと見学しに行くか」
「まぁ止めはしませんが……場所は選手に開放されている体技場です」
一高の一年女子エース(本人は認めない)と三高の一年女子エース(自他共に認める)が戦う―――。
そんなビッグイベントが起こっているなど見逃せないのだ。
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「古式魔法師伝統派と第九研究所との戦いですか。ほんの5年前に、そんなことが起きていたんですか……?」
「ある種、記録・歴史から抹消されたものだからよ。
あまりにも凄惨極まる戦いだったからね。彼らはサーヴァントの他に『大敵』たる『鬼種の混血』も投入して、京都・奈良を地獄界に変えていき―――まっ、そういうことよ」
「その戦場に、衛宮家及び藤丸家も出てきたと?」
顔を真っ青にする響子。言葉を気楽に打ち切った理由もよく分かるというものだ。
だが達也の疑問は続く……。
「そして、私の従弟の九島光宣くんとも知り合いになったわけよ―――吉田君に対して行った『調律作業』で、体の不調を取り除いてね―――まぁ定期的なものは私の母の琴で大丈夫なんだけど、本人はアーシュラちゃんの調律を欲しがっているのよ……」
その言葉で九島光宣という少年に『マセガキ』という感想を出すも、そもそもひとつ下なのだと言うことを思い出すのだった。
だが、それでも中坊の分際でという想いは達也の中に渦巻くのだった。
そしてソレ以上に、アーシュラの男に対する無防備さが、苛立ちを増やすのだ。
本人は、誰かと恋仲になろうという気もないくせに、男子に対して近すぎるのだから、そういう風に勘違いする人間が増えるということを学習するべきである。
「それで死徒という吸血鬼に―――」
関して聞こうとしたときに、思いがけぬ情報が飛び込んでくるのだった。
それを聞いた時に達也は、独立魔装の会談部屋から出て噂の現場に直行するのだった。
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「胸に薔薇一輪を差したわね? それじゃ、正式なルールではないけれど、お互いに誇りをかけて、尋常に立ち会うように」
騎士2人が、お互いに戦いやすい服装に着替えて競技用サーベルを持った姿。
正式なフェンシングスーツ。面を着けていないが、それを着込む一色愛梨は映える騎士ではある。
そして片やアーシュラの姿は、一高指定のジャージの上下であった。
だが、それで『チカラ』を見誤るほど愛梨もバカではない。
(あの時よりも強くなっている。北米で見た時には完全に感じ取れなかったオーラが、私を突き刺してくる)
最終確認。胸ポケットから花弁を出す薔薇は造花。
しかし、その強度は最硬度のものであり、それをサーベルで散らすことが、今回のルールである。
そんな愛梨の考えなど知らぬが、ジャッジを引き受けた藤丸立華はアーシュラが負けることなど考えていない。だが、ブリテンの騎士、妖精郷の姫騎士として譲れぬものはあるだろうから……特に無かった。
両者の距離は、いつぞやの副会長と司波達也の立ち会いよりも離れている。
剣術競技としてはあり得ぬ距離からの礼とブザー音で戦いは始まる。頑丈な床材は、アーシュラの速度を受け止めきれるか―――――分からないが―――お互いが同時に動き出した。
剣を前に出しての突っ掛かり、愛梨が放つ
当然、それを見落とすことはないアーシュラ。魔力放出で一色愛梨を刃圏に収めるべく歩みを止めない。
狙われたことを悟った愛梨はすぐさま待ち構える。
刃圏に入った瞬間、アーシュラのサーベルは剣光の網目を編んで奔る。
待ち構えていた愛梨もそれを受け流す。あまりにも早すぎる連撃だが、アノ時と違うのは自分もそうだ。
サーベルがしなりを持って打擲するように打つたびに、愛梨もその軌道を封じて剣戟を防いでいく。
サーベルが動く度に虚空に水しぶきのような剣閃が刻まれて、それが幾重にも重なった時に刃の檻が完成する。
攻め手である一色愛梨に対して、受けてであるアーシュラもサーベルを以て刃の檻を砕いていく。
「―――ッ!!!」
「―――」
アーシュラの攻撃は一見すれば消極的なものだが、それでも受けの間にも見出した間隙を見逃さず、左胸にある薔薇を撃ち落とそうとする。
はっ、とするような、背筋が凍るカウンターを放っているのはアーシュラの方であり、それを理解してか愛梨の方は、いい気持ちで攻めていると逆撃を食らうと判断。
(体が伸び切ったところに肉薄されての突きを入れられたらおしまい。勝機を見出すには我慢比べが必要!!)
だからと攻めを消極的にすれば、一気にその剣の嵐に巻き込まれる。
(場をフルに使う!! 正面だけではなく側面を!!)
足捌きを変えて愛梨は側面からの攻撃を狙う。
当然アーシュラも、それは理解していた。サイドから放たれる突き。さながら『ライトニングピアス』も同然のそれが位置と角度を変えて、8連刻まれる。
しかし、それをサーベルの護拳……ナックルガードを盾も同然にして防ぎ切る。
愛梨に対して正面を向かないでという恐ろしい離れ業を前にして、ならば利き手とは別方向に移動しようとした愛梨を遮るように、正面に見据えられる。
(汗一つかかないで、こちらを見てきますわね)
回転するようにして態勢をチェンジしてきたアーシュラ。その体の転換を愛梨は見きれなかった。
そしてアーシュラの剣戟が刻まれる。突きが主体のサーベルとはいえ、戻りの隙すら見えない連射は、さながらガトリングガンのように回転数を落とさない。
残像を刻むようにアーシュラの姿がいくつも見える。
その意味を―――周囲にいる人間たちは十二分に理解していた。
(音速の動き……人間の動体視力では捉えきれぬ速度だからこその現象だな)
加速魔法を用いて『自分を高速』の領域に乗せられる魔法師は、それに準じて動体視力も常人よりは鍛えられている。
もっとも加速魔法に慣れているからといって『音の壁』を突き破った機動などをすれば、容易く人体はミートソースになる。
仮に硬化ないし強化魔法をしたところで、そんな機動をすれば服は音速の抵抗を受けて微塵になる。
つまりは―――『割り』に合わないということである
仮にそうせざるを得ない状況に陥れば、魔法師=ストリッパー、ヌーディスト、超者ライデ○ーン(変身解除)ということになりかねない。
そんなわけであり、その速度領域で戦えるアーシュラは魔法師の規格にない存在であり、よって―――。
上から逆袈裟の要領で跳ね上げられた一色のサーベル。驚愕する間もなく返す振り下ろしの一撃で薔薇は砕け散った。
よって―――。ブザー音が鳴り響き、勝者と敗者が刻まれた。
「―――また負けましたか……」
闘技場の床に座り込みながら呟く一色愛梨に対して、アーシュラは反応せずに踵を返す。
「―――衛宮さん。『また』手加減しましたよね?」
「アナタの出る競技―――クラウドとミラージで『腕』を使わないってんならば、『受け太刀』させていたけど違うでしょ? そういうことよ」
まさか。先程は見えていなかったが、高精度カメラが捉えたアーシュラの剣と一色愛梨の剣とは……。
(一色の剣をアーシュラは受け太刀しているが、アーシュラの剣を一色愛梨に『受けさせていない』……)
剣戟の隙間を縫って一色に剣を放っていたアーシュラの離れ業を、現代の映像機器は確実に捉えていた。
(一高での立ち回りを考えるに、一色が一撃でもアーシュラの剣を受け止めていれば、腕は数日痺れていただろうな)
当然、アーシュラとて『手心』を加えてはいた。しかし、『力持ち』すぎて、剣を持った瞬間に覚醒する『黄金の剣姫』の力では、どんな事故が起こるかわからない。
そういうことなのだろう……。
「アナタもクラウドに出るのですよね?」
「その予定だけど」
「クラウドボールは使う器具次第ですが、アナタのことです。ラケットタイプを使うのでしょう……今度も手加減すれば、今度こそ恨みますよ」
「安心しなさい。公の場であれば堂々と叩き潰してあげるわ。それこそ―――羽虫みたいに指先で……」
「その言葉……大言壮語ではないことを理解しています!! その上で私は勝ってみせます!!」
クラウドの前にアーシュラにはバトル・ボードがあるのだが、ともあれ前哨戦と言えるものは幕を下ろした。
いつの間にかギャラリーが大勢いることなどあんまり関心は無いだろうが……それにしても―――。
(大方の攻撃が
拍手喝采の中でも、本当のアーシュラの力を知るものたちは、少しだけクラウドでの一色愛梨の身を案じるのだった。
初日の九校戦はこうして幕を閉じたのだが―――波瀾は2日目から始まろうとしていた―――。
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「むぅ不味いな……」
「マズイですね。ボイジャーがただの1年生ということを考慮してのトーナメント表なんでしょうが……」
そう。目に見える『事実』だけを測れば、六高の宇津見ボイジャーは魔法科高校の1年生でしかない。
だからこその組み合わせなのだろうが、これが非常にマズかった。
確かに『本戦出場の1年生』というのは過去・現在でもいないわけではない。昨日の昼間にアーシュラと戦った一色愛梨も、本戦ミラージに登録されている人間だ。
そして『本戦アイスピラーズ』に今回、男子で登録された異色の人間……まぁ厳密に言えば『人間』ではないかもしれないが。
ともあれ、『人としての知性』を持ち、『コミュニケーション』が取れる存在というのは概ね、人間と呼んでいいだろう。
人間論に至りそうな立華の結論とは別に、危機感を共有できない面子。
「順調に行けば……俺は準々決勝でボイジャーと当たりかねない―――」
「どうします? ある種のドーピングも可能ですが」
「いや、いい。例えボイジャーがスーパーボイジャーとなったとしても……今の自分の力で『サーヴァント』にどこまで追い縋れるかを知りたい」
「――――分かりました。ご武運を」
そんな言葉で激励するしか無い。確かにボイジャーの神秘強度は、伝承防御級に比べれば心もとないが、それでも並の魔術師が害することが出来るステータスではない。
ましてや魔法師相手では、その性質上『自分たちより上位』の存在ということで優位を取れないのだ。
そんなことは克人は分かっていた。分かっていたからこそ―――地力で戦うことを逃げないでいた。
一高の優勝を狙うというのならば、あの手この手でボイジャーとの戦いを先延ばしするべきだが―――そう決めたというのならば、立華が言うことはなくなった。
そして2日目において、予想外は『当然の如く』起きた―――。
一高 十文字克人ベスト8にて散る……。
一高 七草真由美ベスト4―――のち三位決定戦を取る……。
予想外の波乱が一高を覆いつつあった……。