魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
アーシュラの走りは様々な者たちを混乱に陥れていた。その中でも一番の混乱を覚えていたのは、同じ『一高』の選手であった。
「2位通過までを通していくのか……結構な混戦になるんだろうなぁ」
第一予選段階こそ四人だが、準決勝は六人レース2試合から振り落とされて、最後に決勝において再びの四人になる。
まだ発表段階だから、明日になれば準決を三人レース4試合の1位抜けに変更になるかもしれないが―――それにしても混戦だ。
光井ほのかの思考としては、もう少しセーブしても勝てただろうに、何で混乱を招くワンサイドゲームを展開するのだと恨めしい気持ちを抱き―――それこそが、九校戦の会議時に話に出てきたアーシュラに対する下劣な嫌疑を向けてきた連中と同じ思考だと感じて、それを振り払う。
そうしていた時に……。
「おお―――っ!! さっすがはアーシュラだな! あれだけの走り、エリち出来るか?」
「さぁてどうだろうね。魔力量においてはややあちらに分があるから―――まぁとくと御覧じろってところかな?」
「だいじょうぶ。エリセならば、アーシュラにもかてるよ」
六高の一年集団。色々と波乱を起こしている連中が近くにいることに気付く。シューティングの会場だが、他競技場の試合内容や結果は大型のビューイングで見える。
笑顔で観客席に手を振るアーシュラの姿は、深雪と同じぐらいに映える美少女だ。
だが、ほのかは―――深雪に見惚れることはあっても、アーシュラにはない。
何というかあまり楚々とした様子が無いというか―――。
(アルトリア先生は、普段からキリッとした美人なんだけど……)
その反面。士郎先生にだだ甘な場面も見ているので、そういうバランスなのだろうと思えていた。
だがアーシュラは、そういう所が殆ど見えない―――。いや、あるにはあった……。
ブランシュ事件の際にバイアスロン部がテロリスト達に襲われていた際に、身の丈以上の大鎌を無言で振るって化生体を次から次へと切り裂いていった時のアーシュラの姿は―――歴戦の戦士を思わせた。
そして弓道部にて見事な射をする様子からの一連の動き……要は、切り替えが出来る女の子なのだろう。
だが、その中でほのかが見たことがない姿がある―――それは……。
「ほのかさん。雫さんと立華さんの試合が始まりますよ」
「同校対決だから、応援とかは出来ないけど、まぁ勉強させてもらいましょ」
友人たちの言葉で、射台に出てきた同級生2人の姿を確認する。
此処に来るまで、達也の考案した魔法で勝ってきた雫と、オーソドックスな魔法―――もしくは『魔術』で上がってきた立華。
飄々とした勝ち上がり方―――と、ほのかは見ている立華だが、雫相手にも同じく来るのだろうか?
手に持つは二丁の銃。CADの類ではなく、魔術師が言うところのコードキャストないしロジックカンサーという奴だろう。
(声をあげて応援は出来ないけど、雫―――あなたの勝利を願っているわ)
だが、ここに来るまで藤丸立華は平々凡々な術だけで勝ち上がってきている。
その姿に惑わされるほど雫はバカではない。
そして―――。
勝負は始まろうとしていた。
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(そもそも、魔術を見世物にするなんて私は好きじゃないんですよね。そりゃ秘術を晒しての魔術戦をやることもありますけど)
ムニエル3世との『聖杯戦線』など、数多くのシミュレーターバトルをやっては来たが、それでもこんな戦いはしたくなかった。
しかし、疎遠というか、あまり家に寄りつきたくないので会わない父母が態々、祖母と連名で出してきた書状には逆らえない。
生活資金もいただいている身としては、こういうときに世知辛さを覚える。
だが――――。
(アーシュラがあんな戦いをした以上、マスターとして少しは奮起しますか)
サーヴァントの意気に応えるのも、マスターの務め。どうせ周囲からアレコレ言われて『むすっ』としているに違いない。
(ならば、私も悪い子になってあげましょう。それならば、問題ないでしょう)
『額』に魔力を集中させる。魔術回路の出力をあげる。
肌に露出する魔術回路は、まるで『星座』のラインと天体運動の全てを表すかのようだ。
そう言ったのは祖母だったか、それとも両親だったかは分からない。だが一つ言えることは―――。
―――負けることだけは無いということだ。
そんな立華の様子に、隣ではあるが離れた所でCADを持っていた北山雫は気付く。
そもそもここに来るまで、照準補正のCADも用いず裸眼で狙いを着けて戦ってきた藤丸立華は、魔法師からすれば異常なものだ。
しかし、だからといって負けるわけにはいかない―――。
シグナルランプが赤から徐々に青色になっていき、そしてクレーが有効エリアに飛んでいった時に激発する。
「スターズ、コスモス、ゴッズ」
何かを唱える『音』『声』が、バイザーのイヤーカバー越しにも聞こえてくる。クレーを砕いた音と観客の声援を遮断している中で、あり得ない事象だが、それでも雫は構わず自分の作業を続ける。
有効射程エリアに来た自分の赤クレーを砕く。
当然、その間にも立華も己の白クレーを砕いている。流石は学年次席―――単純な『破壊』を白クレーに当てている精度と規模だけでも、雫を上回っている。
「アニムス、ホロウ、ヴォイド」
詠唱の効果なのか、雫の設定したフィールドが『圧迫』されているような気分だ。CADを持つ手が重く感じる。
干渉力の差は嫌というほど実技授業で体験してきたので、本気で『押し潰し』に来れば、雫では対処しきれない。
(けれど、スピード・シューティングは、有効範囲が決まっている競技)
有効範囲内にクレーがある内でなければ、砕くことは許されない。だからこその戦いだ。
「アニマ・アニムスフィア―――セイファート!!!」
だから―――現代魔法では認識できない『理外の理』。
―――星の理。宙の理が顕現した時に勝負は着いたのだ。
雫が設定した発破範囲の中心点に『黒点』が生まれる。
見間違えかと思ったその時に、その黒点に輝きが走る。そして全ての領域に光が走る。
光が満たされた時に――――。
それでも雫が構わず魔法を解き放とうとしたその時、その発破を許さないように、赤クレーの全てが、魔法による『効果』を、『現象』を許さなかった。
(魔法の不発動!?)
座標設定によるエラーではない。領域に仕掛けた発破が効果を発揮していないのだ。正確に言えば、雫の魔法は破壊の波を流しているのだが……。
その波が『違う場所』に流れているような気がするのだ。
理屈は分からない。しかし、まるで目に見えているはずの赤クレーがまるで……『彼方』にまで遠ざけられたかのように、『遠い』のだ。
汗が滲む。バイザーの中にこもる熱気が不快指数を上げる。呼吸が荒くなる。
「永遠のアラフィフ直伝! 散弾分散式ニードルレーザー!!!」
瞬間、こちらの動揺につけこむ形で立華の秘奥が動く。
機能性など皆無な豪奢な装飾を施された方の銃から、矢のような一条の光線が光速で放たれて、その途上で放射状に分かたれて、更にそれが針のように標的を細く穿つものに変化するのを見届けた。
領域に入った瞬間、全ての白クレーが砕ける―――精度が甘いのか、雫が穿つべき赤クレーまで砕いているのは……どういうことなのか。
それでもポイント上は立華がリードをしている。
「むぅ精度が悪い。しかしアラフィフ紳士は語った! 『
言いながらも拳銃タイプの礼装から放たれるレーザービームは、領域内にある白クレーを砕いていく。雫も、そのレーザービームの放出で崩れた領域から発破を仕掛ける―――。
既に勝負は決まったポイント数だが、それでもあきらめないガッツに感服する。
その一方で、アーシュラと同じく『悪い子』になるために『空想銀河術』を使ったことは、少々申し訳ない気分にもなる。
だが、それでも勝負は、試合は決まる―――。
新人戦スピード・シューティングにおける結末は決まったのだった―――。
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午前のプログラムが終わって各校は小休止の状況。ようはランチタイムというわけである。
そんな中、一高以外の学校は色々な気分である。その内の一つ、尚武を旨とする三高では、雑談混じりの会議が繰り広げられていた。
「しかし、衛宮に藤丸―――この2人は驚異的だな……」
「藤丸さんは、シューティングだけの出場だから、この後には出ないけど、あれだけやれるならばピラーズにも出ていたでしょうに……」
一条 将輝のちょっとした呟きに、多めのリツイートをする十七夜 栞の姿に苦笑をする。
結局、北山雫の時にやったような妨害術を使わず、散弾レーザーという恐ろしく先んじたものだけのガチンコの殴り合いでやられたのだから。
準優勝をしたとしても、手心を加えられたというか、底を見せずにやられたという念はあるのだろう。
「―――――――」
「―――――――」
そんな中、昼食のサンドイッチとおにぎりを手に取りながらも、ガッツリと動画再生されているモニターを見ているのは、栞の友人である一年、一色愛梨と四十九院沓子である。
再生されている映像は、ボードにおける衛宮アーシュラの走りだ。その軽快かつ高速の機動をする実力は――――明日のクラウド及び明後日のボードにおける難敵となりえる。
だが……見た所で明確な対策は取れそうにない。
「とりあえず今日の予選突破を念頭に入れなければならんが、やはりこの女をどうにかすることが鍵―――そして此奴、『混ざりもの』じゃな」
「……『魔』との混血?」
「ううむ。そこまで邪なものは感じないのだが―――何とも言い切れないのが残念じゃ」
混血―――その言葉で、北陸地方の出身者が多い三高の魔法師達はちょっとだけ呻く。
現代に生き残りし『幻想種』。人の身でありながら人としての
「まさか
気安く言う将輝だが、時折『訓練』を着けてもらっている身としては、あのレベルが参加するのはちょっとチートではないかと思う。
半眼でうめきながらも、握りこぶしを作ってから、相手のことを考えすぎてもどうしようもないとして切り替えようと、同級・先輩関わらず言う。
「今の所、衛宮の実力は『自己身体能力』関連のブーストアップだけだ。それだけでも驚異的で、一色と四十九院にとっては世知辛い話かもしれないが―――――」
一拍置いてから口を開く。
「見方を変えれば、ヤツは放出系・現象改変系統の魔法が苦手なのかもしれない。おまけに初期の発動速度も遅いとなれば、九島老師の言うピラーズのボーナスステージで逆転も不可能ではないかもしれない―――『男女』問わずならば、俺も衛宮に挑めるからな」
快活に笑みを浮かべて、誰もを安堵させる将輝の言に熱狂が走る。
「い、一条くん! 頼もしすぎる!!!」
「流石は我らのプリンス! そこにシビれる!あこがれるゥ!!」
「薔薇の
親衛隊の黄色い声援で疑問は流されたが、そんな風に甘い推測を立てられるほど楽観視していない一色愛梨は、ペンドラゴンという姓から―――。
(アーサー・ペンドラゴン……英国の伝説の王と同じですのね)
しかし、ペンドラゴンとは姓ではなく『称号』であるというのが通説だ。アーサーの父親、ウーサー王が名乗ったこの言葉の意味は―――。
―――竜を統べるもの―――。
その意であり、竜は古来より火を吐くものと決まっている。
そして、その火は不死を体現した神々の肉体すらも焼き尽くすものだと称されているのだから……。
ドーバー海峡を挟んだ母の母国と因縁深い国の伝説の王を、今更ながら思い出すのだった―――。