魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
午後には特に競技が入っているわけではないが、それでも時間が来ればお腹は減るもので、適当な定食チェーン『味のえみ屋』という父がプロデュースしたところでお弁当を六人前注文して、どこで食べたものかと思案する。
人目が無ければ、『風』を利用して空中ランチも乙なものなのだが……。
メンドクサイからフリースペースを発見して、そこでお弁当を食べることにする。
人避けの結界を張りつつ、孤独のグルメを堪能する。
―――誰にも邪魔されず、気を使わずものを食べるという孤高の行為。
この行為こそが現代人に平等に与えられた、最高の『癒やし』といえるのである。by井之頭五郎
そんな気分で昼食を摂ろうとしたのだが……。
「人避けだか遮音だか―――まぁ俺では分からない『結界』を張って孤食なんて、寂しいと思わないか?」
「モノを食べるときはね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」
「俺はアームロックを掛けられるのか……」
「掛けられたいの? やめときなよ。君の腕はこの大会、その後も必要になるミリオンダラーものなんだから、不調になるのはマズイでしょ」
私には必要ないものだけど、という言葉を付け加えてから食事を始める。
結界が完全構築される前に入り込んできた闖入者『司波達也』に言いながら、何用かと問う。
「予選通過お目出度うと言いたかったんだがな」
「ありがとう。君も新魔法を開発、北山さんに使用させて、とある魔術の
「新魔法を開発しても、立華相手には勝てなかったがな……。それと『とある魔術』はいらん。ただのインデックスだ」
「インデックスと打っただけで、サジェストに禁書目録が出る時代なのよ」
中華あんかけのご飯を食べながら―――本題に入れと促す。
ジェスチャーで分かったらしき達也は苦笑しながら話す。
「午後には、ほのかのボード予選がある」
「そうだったわね」
「……明確で詳細な事は言わなくていい。ほのかは、宇津見エリセに勝てるか?」
「無理ね。2位通過になるように努力したほうがいいよ」
そこまで言われるとは思っていなかったのか、眉間のシワが倍近く寄るのを見た。
それは、司波達也が考えたという作戦が通用しないという事に対する不快感か。それとも、光井ほのかへの思いやりなのかは分からない。
「お前は、俺がほのかに授けた作戦を知らないよな?」
「まぁね。けれど、キミと違って私は一科で、光井さんとも実習をやることもあるから、何となく程度に手段とかは絞り込める。
そこに、キミの悪辣かつ闇金・街金のグレーゾーン金利のごとき小狡い手が組み合わされば―――ずばり言えば、『コレ』でしょ?」
アーシュラの『コレ』という言葉の前に、眉間を最大級にぴくぴくさせていた達也の前に出したものは――――。
「……
「流石にキミだってDBぐらいは、それとなく見たり読んだりしたことあるでしょ? 多分だけど、水面に対して『新鶴仙流』の技を打ち込むんじゃないかな?」
そこまで読み切られていることに、達也はかなり驚愕する。そしてそれ以上に―――考えてみれば、そこまで達也のことを『理解』して言われたことに、冷静になると少しだけ変な気持ちになる。
悪罵でしかない言葉、悪意的な見方のはずなのに……『嬉しさ』も覚えるのが変だ。
「―――ほのかを勝たせることは出来ないのか?」
「地力で数段どころか数十段上にいる相手に届かせるならば、それはキミが考えなければならないことだ。何故ならば、『そのため』の魔工技師なんでしょ? 違うのか司波達也?」
「ぐうの音も出ない―――」
だが地力が伴わない相手に対して、道具一つでそこまでの『能力値』の上昇……それを『出来ない』と認めてしまえば、達也は自分のことすら虚ろになってしまう。
「アーシュラ。お前は、魔法師の道具が『魔術師の口頭詠唱』よりも速度と簡便性で優れているのに、何故、魔法師全てがほぼ同一の領域にいないかを疑問に思っていたな?」
「そうだね。最大級の『天然地力』たる魔力容量―――キャパシティの多少が取り沙汰されないならば、キーを3つほど打鍵しただけで『現象改変』が実現出来るならば、あとは個々人で足りないものを機械で補えばいいのに、わざわざ『遠回り』している風にしか思えない」
「……ああ、だから俺なりに
その言葉にアーシュラは疑問を覚えながらも、意味が分からないとばかりに、今度はアーシュラが眉間にシワを寄せる。
「まぁ……それは今夜にでも最終調整をしてからだが―――」
「が?」
「俺も腹が減ったんだが……」
「結界出て何か買ってくれば。ついでに言えば800m先ぐらいで、光井さんと深雪ちゃんがお昼らしきものを手にキミの位置を探っているようだね」
ナンパ男に声を掛けられる前に保護してこい、と言ったが……。
何かこちらを見て訴える様子にアーシュラは、げんなりとしたものを感じる。
言わんとすることは分かるが……。
(何か距離が近くない?)
入学時点までの印象とは違う司波達也への距離を取っていたというのに、詰め寄ってくるやり方に戸惑う。
だが、ここでまごついていると、あの2人がやって来て、このあたりで達也を探す。そうなれば見つかった時に―――。
『2人っきりでなにをやっていたんだ?』という意味不明の嫉妬が飛んでくるのだ。
よって―――。
「ほら司波君―――口開けて」
「お、おう……――――――」
小腹を満たせばあとは光井と深雪が、この男の腹を完全に満たしてくれるはず。
雛鳥に餌を与える親鳥の気分で。
カヴァス3世に、『アーシュラ、ごはんごはん♪♪』とねだられた時の気分で。
同年代の男に「はい。あ~んして♪」をやるのだった。例えその時に使ったものが、アーシュラの使用済みのスプーンだとしても、お互いにあまり気にしないことにするのだった―――。
例えお互いの顔を間近に見たとしても、それで妙な気分も加味されたとしても―――気にしないことにするのだった……。
「お兄様、何か食べられました?」
「少し腹に入れた程度だがな。気にしなくていいよ」
「……そうですか」
そう言って、フリースペースにて、ほのかと深雪の持ってきた昼食を食べる達也に対して深雪は疑念を持つ。達也から匂う『八角の香り』。
人によっては好き嫌いが分かれるこの香辛料は、味のえみ屋では欠かせないものだ。そして、えみ屋といえば『衛宮』。アーシュラ。
衛宮アーシュラは、外の弁当屋で買ってくると言っていた。そして深雪には『チカラ』の波長で、ほのかにはサイオンとは違う『チカラ』のまばゆき輝きで……。
金、緑、青……変化するそれを見てしまうのだった―――。
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バトル・ボードの午後の部。通算で第五レース目にて、随分と魔法師にしてはレアな術を使う女の子を見た。元は退魔系列だったかもしれないが。
ともあれ名前の『けったいさ』同様に卦体な術であったが―――。
青い長髪に赤のウェットスーツが映える―――ちびっ子。三高の子が一位通過するのだった。
「なんかどっかで見たような気がするわ」
「一色愛梨とやらの取り巻きの1人で着いてきていたじゃない」
「いたっけ?」
必要以上に何故か、こちらに視線を向けているように見える
次の瞬間には、一位でゴールインしていた余韻なのか余興なのか、観客席に対して波しぶきを上げた。
……四十九院沓子なりのアーシュラへの意趣返しだったが、勢いと高さはあんまり足りていなくて―――観客席の上に『虹』を作ることは出来なかった。
失敗したと思ったのか、何度か打ち上げようとして、結局係員たちからの制止を受けてそれを止める沓子は『とほほ』という顔をしていた。
それでもこちらに―――きっ、と顔を向けて指を向けてきた四十九院―――。
「準決勝か、決勝で戦おうぞ! 衛宮―――!!」
などと大声で言ってきやがるのだった。
係員に怒られて、脱兎のごとく駆け出す四十九院に対して『やれやれ』と思っておく。
「ライバル視されちゃいましたね」
「そこはご自由にとしか言えませんね。控室でもチリチリ頭の七高生に因縁を着けられましたし」
苦笑しながら話しかけてきたあーちゃん先輩に返しながら、次のレースこそが肝要なのだと思う。
まだ時間こそあるし、それこそ何かをやる時間はあるのだが……。
「あーちゃん先輩、ここにいていいんですか? 確か光井さんのエンジニア担当だったはずですよね?」
「私の仕事は終わりましたし、それに最終的なものは、光井さんが好んでいる『男子』にやってもらった方がいいでしょう」
選手のテンションもあがりますし、と告げる先輩に成程と思う。『ちっさい』割には色々と見えている人だと思う。
「なんか―――失礼なことを考えていません?」
「いいえ、色々と見えている人だなと思いまして」
「むぅ……」
はぐらかされたと思ったあずさのふくれっ面に苦笑する。そうしていると、時間が経つにつれて人も多くなっていく。
どうやら第六レースを見たくなった連中が多いようだ。
「司波くんの『変態技術』の一端を見たい連中が多いようね」
「ふーん。けれど、光井さんの担当だってのは分からなくない?」
「まぁそうなんだけど―――」
変態技術という言葉で、どこからか戻ってきた司波深雪と北山雫が不満げな顔をする。
とりあえず口を噤みつつも、アーシュラも立華も第六レースの出走であるエリセに注目する。
最初にやってきたエリセは、腕の礼装をチェックしながら何ともない様子だ。
「―――――――」
「マズイわね……」
「ええ、エリセが水辺に『先んじて』立つってことは、それだけで、ね」
その言葉は思念だけでやり取りしたものであり、深雪と雫には聞こえないものであった。
しかし、何かを感じるものはあったのだろう二人の視線がこちらに届く。だが、その前に戻ってきた司波達也への応対が先になる。
「―――よう」
「どうも。察するに私の諫言は、意味を為さなかったようね?」
気楽に挨拶してきた達也、女性陣に挟まれる位置に座ってきたのに、返しながら踏み込む。
「まぁな……。とはいえ、俺は宇津見エリセの実力を知らないんだ。どんな対策が取れるってんだ?」
「そこまでは言えない。フェアじゃないから。ただ、アナタの手段程度、出場選手の名前から、あの『死神』が気付いていないわけがない」
「―――――俺の作戦をお前が読んでいたように、宇津見も分かっているのか?」
「そうだね。けどもう賽は投げられた。
「……改めて聞くが、お前は俺の考えた作戦を何だと思っている?」
「水面に向けて、『コレ』でしょ?」
「アーシュラ、それだと『なぎこさん』になっちゃっている。キラキラのアーチャーよ」
「立華の言葉の意味は分からないが、変化させてもそれは
二人からツッコまれて、口を尖らせるアーシュラは遂に
「そ、そのためのサングラスですか?」
「100倍ではありませんが、流石に光量が強すぎますから―――というか中条先輩も『DB』知っているんですね……」
「さすがに世界的に有名なマンガですから、それぐらいは分かりますよ」
達也としてはちょっと残念だが、アーシュラに答えを出せと言ったのは自分なわけで、こうしてネタバレしてしまったのは仕方ない話だ。
そして何より……。
(((このちびっ子パイセンも『かめ○め波』を出そうと練習していたのかもしれない……!)))
(なんかまた妙なことを考えていますね。この後輩たち……)
呆れながらも、そういうことならば―――ということで、あずさはサングラスを掛けるも、アーシュラの予想通りならば、『ほのか』の作戦は無為に帰す。
作戦参謀である市原も認めた(だろう)ものを覆すものが、六高の宇津見にはあるという……。
果たしてそれは―――。
「ほのか、がんばって」
隣にいる北山雫(サングラスon)が呟く。
すでに第六レースの走者たちは、出走準備を果たして水面に浮かぶ板に乗っていた。
まもなく時間は迫る―――係員のアナウンスが鳴らされる。
セットの前にすでに何かしらの魔法は打ち込まれている。あとはそれを展開するだけ―――誰もがそうしている中―――宇津見エリセだけは身体を慣らして準備運動だけを終えていた。
そして―――予選第六レースのスタートが切られた。
その直後―――水面がまばゆく発光して、選手だけでなく、全員の目を眩ませる―――のだが、その光はあっという間にかき消える。
まるで水面の変化を詳細に見れたものはいない。だが、次の瞬間には光の代わりに―――――。
『闇』が、『混沌』が満ちた―――。
「悪いわね―――」
漆黒に染まったスタート地点付近から、最初に飛び出したのは六高 宇津見エリセ。
達也の立てた作戦は完全に逆撃を食らった上で、ほのかに茫然自失させることとなったのだ―――。