魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第48話『運命線』

一高テントに戻ってきた際の光井ほのかの様子は正直、見ていられないものだった。

 

(エレメンツは確かに他者への依存が『遺伝子的』に強く、それは時に強烈なチカラへと変換されるが―――)

 

その相手の期待を裏切った瞬間、途端に弱体化を果たす。依存―――信仰心を砕かれるのだ。

 

脆いものだ。とはいえ、生来の能力値のお陰か。光井ほのかは2位通過の形で、予選は突破できた。

だが、その予選とてあまりいいものではなかった。いや、エリセが一枚も二枚も上手だったということなのだが。

 

「達也さん……ごめんなさい―――私が、上手く出来なかったから……あんな結果になってしまって」

 

「ほのかは悪くないよ。俺の作戦があまりにも『浅かった』だけだ。どうやら……六高の宇津見選手は、俺が採った作戦を読んでいたようだからな」

 

「そ、そんな! 達也さんの手法は、バトル・ボードが競技として採用されてから、一度も使われなかった手法だって―――それなのに………私は、あなたの期待を裏切った―――」

 

「………」

 

乾いた顔で何を言えばいいのか分からない顔をする達也。椅子に座りながら手で顔を覆い俯くほのか。

 

妙な愁嘆場を見ている気分になりながらも、ここに立華とアーシュラが呼び出された原因など思いつく。

 

レース内容としては、結局のところエリセの放つ『水面』に対する『邪霊』に対して、かなりのチカラを込めなければ進むことも出来なかったことが原因だ。

 

ある意味では、流出した油や、スクリューに絡まる投網で進路を妨害されている船舶のように、思ったとおりに走れなかったのだ。

 

それが原因―――数百メートルずつに分けて、邪霊による『バナナの皮』や『ボム兵』よろしくな水面を前に、現代魔法師は疲れ果てていく。

 

そういう構図の先ほどの滑走の様子の動画だ……。

 

光井ほのかを慰めたり励ましたりしているメンツ

……そんな連中から外れて、立華は先ほどから視線をよこしていた克人の元に寄ったが、予想通り話はあったようだ。

 

「―――宇津見くんの邪霊を操る能力は高まっているのか?」

 

「でしょうね。あの頃の彼女は、身に発生する『霊』を単純で原始的な武器に形成したり、魔弾として投げつけたりするのが関の山でしたが、明らかに強まっている。おまけに邪霊そのものを『御している』……」

 

「三高の四十九院が水精を操り、進路妨害をしてきた以上、これもアリではあるが……いきなりだったからな……」

 

その口ごもるような言葉に、何を言いたいのかを悟る。

 

「要するに、執行部員の皆さんは、私かアーシュラが、エリセにこちらの作戦をバラしたんじゃないかと疑っているんですね?」

 

「いや、そこまでは言わんが……」

 

そもそも、司波達也の作戦というのは、作戦参謀の市原からも『大絶賛』をされるぐらいに、実に盲点だ、とかされているものだった―――そうだが、あの時点では知っている人物は限られていた。

 

 

道理だけを見れば、それはあり得ない話だが、光井ほのかの相手の一人に自校の生徒が親しくしていたことで、下の人々、主に2年生たちは、そういった『下衆の勘繰り』をしていると―――。

 

そんな所だろう。突き上げというほどではないが、その『あり得ない話』を聞かされたのが克人なだけに、そういう風な聞き方になったのだろう。

 

 

ならば、説明するしかあるまい。エリセが何故あそこまで出鼻を挫くことが出来たのか……を。

 

 

「そうですね。推測はありますが、まずひとつに、エリセの方が干渉力では上です。ある種、彼女はアーシュラと『同じ』ようなものですから」

 

その言葉にざわつきが生まれる。邪霊の水場に囚われて良く見ていなかったが、宇津見エリセの走行は、アーシュラと遜色ない速度で水面を滑走していた。

 

これこそが盲点と言えるかもしれない。

 

「第二に、彼女の属性というのが、とことん光井さんにとっては退気となっていたというのもありましょう」

 

「属性……退気。つまり『相性』が悪かったということか?」

 

「木火土金水、地水火風空だの―――詳しいところは語りませんが、おおまかにいってそんなところです。エリセは見りゃ分かる通り『闇』とか『冥』とか―――どちらかといえば陰性の魔術の使い手であり、更に言えば『水』の属性もありますから、水面に光なんて放てば、彼女に取り憑く邪霊どもは、たちまち遮光をするでしょうね」

 

「言われてみれば、あれは常駐型のBS魔法が自動迎撃したような感じだったな……それじゃ、光井が目眩ましをしなければ、何も無かったのか?」

 

こちらの話にはまってきた渡辺摩利だが、立華としてはそれは無いと思えた。首を横に振って否定する。

 

「本人はどう考えていたかは分かりませんが、恐らく第六レースの出走者ぐらいは『調べていた』と思います。その中で分かりやすすぎたのが、まぁ光井さんだったということでしょうね」

 

「名は体を表す……光井がエレメンツであることを『分かってしまった』わけか」

 

ただ、エリセも『本気』で光井が目眩ましをしてくるとは、思っていなかったのではないかと思う。

 

彼女が本当に警戒していたのは、光波エンジンというか、光を受けて動く推進装置を模した魔法を使われることだっただろうから。

 

「―――光井の敗因はそんな所か?」

 

「まぁそんな所でしょう……」

 

これ以上は言わなくてもいいだろう。結局の所、光井ほのかにとって、司波達也を盲信したことで『他』に目を向けなかったことが、一番競技選手としてダメだった―――。

 

敵を知り己を知れば百戦殆うからず―――ではなかったなどと言った所で……。

 

(死体蹴りをしなくてもいいでしょう。どうせ彼女の中で一番なのが、あの鉄面皮であるならば、どうしようもない話なのだから)

 

ただそれ故に、危ない面もある……。

 

(恐らく彼に掛けられた『ある種の抑制装置』は、アーシュラと近いことでディスペルされている。だからといってそれが―――アーシュラに対する『恋』とか『愛』になっていて……)

 

それが明確になった時に――――。

 

(―――どうでもいいことね)

 

友人の恋模様(?)など冷やかしのネタには出来ても、正直それだけだと自分がみじめになるものだ。

 

もっとも、司波達也のような自己顕示欲の塊で、幼稚な倫理観しか持てない相手をアーシュラが好きになるわけがない―――。

 

(けれど……)

 

そこから自分を『転換』することが出来れば、己のチカラを多くの他者にむけて、見返りをもとめずに動けるニンゲンになれば……。

 

アーシュラは見直すのだろう……。

 

(まぁそうなれば、色々と面倒ですけどね)

 

色々と……四葉のニンゲンは衛宮家のニンゲンに対して恩義を感じている。特に『現在の当主』は、『自分の息子』とアーシュラをくっつけたがっているフシはあった。

 

だが、アーシュラは、そこから身を引いた。男を真の意味で『慕う人間』がいたからだ。

 

本気で好きなわけではないが、それでも伴侶を作らねばならないとなれば―――その男の想いに応えていたのだが……それは彼を本気で好きになっている人間がいない場合なのだから……。

 

そこに『入り込みかねない』男の1人に、司波達也が入るとなると―――泥沼の親族間抗争にもなりかねない。

 

(ったく、アーシュラが『めちゃモテ委員長』なのが最大の理由よね……)

 

そんな結論でお茶を濁しておきながら、立華はお茶を飲むのだった。

 

その味は実に口の中で苦かった―――。

 

 

 

一高一年女子会。

 

ホテルの一室で行われている中で、今日の結果に何とか気を持ち直した光井ほのかは、溢れ出るスイーツに涙を流していた。

 

 

しかし、その面子に今日の一位通過と優勝者は出席しておらず、何とも盛り上がりがないものだった。

 

 

「一応、誘ってみたんだけど、今日のことで、えっみーもりっちゃんも『不機嫌』になってるみたいでね……」

 

B組のクラスメイトであるエイミィが、苦笑いをして言う。

2人を誘ったのだが、『行かない』という合唱。それどころか夕食も外で摂ってくるという徹底ぶりに、何とも『失敗』をした感を誰もが思うのだった。

 

特に先輩方は、対応を間違えた結果として、いい成績なのに何とも沈痛ムードなのだ。

 

「ある意味、すごく気侭な風に見えるのが原因。それに―――私が負けた原因も分からないから……」

 

「十文字会頭も、それを許しちゃったもんね……北海道から来たっていう既知の女の子と食べるってのは教えてくれだけど」

 

雫とほのかが口を酸っぱくして言う様子。協調性が無いわけではないのだが、どうにも―――自ら『はぐれている様子』の2人に対する印象は様々だ。

 

「それは仕方ないかもね。えっみーのは見たこと無いけど、りっちゃんの『魔術刻印』と『魔術回路』は、高性能CAD以上の能力を体現しちゃってるもの。何ていうか、他の人間と感動や感想を共有出来ないんだろうね」

 

「―――エイミィは、2人の魔術師としての腕前を知っているの?」

 

そんな中で毛色の違う意見を出してきた明智英美に、深雪は前のめりに食いつく。

 

「そこまで詳しくはないけど、私の半分の血の関係上、ロンドン時計塔のことにも関わりを持っちゃうんだな。いまじゃ魔術師を廃業して魔法師に転向しちゃったけど」

 

だからあまり詳しいことは知らないとするも、雫がやられたことは何となく理解できているという。

 

「多分だけど、あの時クレーの範囲はちょっとした小宇宙になっていたんだと思う。なんて言ったらいいのかな……世界を『すり替えた』とでも言えるかもしれない」

 

「確かに、お兄様もそんな風に言っていたわ……藤丸さんが、術を解き放ったあとのクレーフィールドは、『宇宙空間』も同然だったって……」

 

そんなことが出来るのが魔術であることに、全員が少しだけ驚嘆する。確かに一部の現代魔法の破壊規模は、魔術では及ばないものがあったりもする。

 

その領域にいるものは大概、『魔法使い』と呼ばれるものだ。

しかし魔術の『振り幅』とはそこ(破壊力)にはなく、目で見えたものですら『真実』とは限らないのだ。

 

 

「何はともあれ、気持ちは明日に切り替えようじゃないか。3人のアイスピラーズだけでなく、僕のクラウドで一高に華麗な勝利を約束するよ」

 

部屋に集まった1人である里美スバルがそんな言葉で場を和まそうとする(?)が、その言動、一色愛梨にも勝つと言ってのける姿に―――誰もが少し唸る。

 

「ど、どうしたんだい? 確かにちょっと変な言動だったかもしれないけど、僕の魔法の関係上、僕なりに――――――」

 

「ん」

 

「?」

 

動揺したスバルに無言で雫から差し出されるは、ちょっと前―――まだ先輩方の本戦時点で起きていた一つの激突を記録した端末。

 

女騎士2人の超絶な戦いを記録した動画。

 

―――俯瞰のアングルとは言え、金色の髪をした2人の動きに、クラウド新人戦出場の里美スバルと春日菜々美は顔を青くする。

 

「た、確かに練習時点でも衛宮さんは早かったけど―――」

 

「それよりも疾い……私達との練習は、ギアもアクセルもトップじゃなかったのか!?」

 

だが、これとてアーシュラのトップスピードであるとは限らない。彼女の最上限を出せるのは―――境界記録帯……ゴーストライナーと呼べるものだけなのだから……。

 

「せめて、せめて……司波くんが担当してくれたならばなぁ」

 

「うん……そりゃフェンシングとボール競技とで違うとはいえ―――」

 

流石にこの速度に当たると分かってしまえば、助け舟が欲しくなってしまうのが、人の気持ちというものだ。

 

アーシュラがある意味、先乗りする形で知られてしまったエクレール・アイリの疾さ。そして今まで六分のチカラで戦っていた衛宮アーシュラに戦々恐々としてしまう。

 

そんな2人に対して―――。

 

 

「私から頼んでみましょうか?」

 

思わぬ言葉を掛けるは、司波深雪であった―――。

 

 

 

 

「現役JSのパワーは恐るべしね……とはいえ、すっかり遅くなってしまったわ」

 

特に門限など設けられているわけではないが、あまりに遅い帰りに誰かしらはカンカンだろう。

 

ジャージ姿で出歩いていたアーシュラは、宿泊先ホテルに帰る前に『夜食』を買っておいた。

 

自動調理のハンバーガーチェーンのバーガー10個と、ポテト20袋を手にしての帰還に―――。

 

 

「北海道からお越しの妹分たちは歓待してきたのか?」

 

「まっねー。ご飯を食べたあとにはゲームセンター行ったり、服飾店に行ったり―――やれやれ。娯楽に飢えていたのかしら……」

 

フレンチフライポテトを口にしながら、話しかけてきた司波達也こそ何をしていたのかを聞く。

 

「作戦会議だ。残酷な話かもしれないが、里美と春日ではお前に勝てないから、せめて上位入賞出来るようになれないか、とな」

 

「それよりも男子のピラーズを何とかしなさいよ。あいつら、あのままだと全滅のビリッケツよ。この期に及んで面子に拘って、論功行賞の首検分で、主君の前に一つの首も挙げられないなんてなっさけない結果になるわ」

 

「そちらに俺が言ったところでな……」

 

古めかしい例えではあるが、意味は分かってしまう……とてつもなく『ド』辛辣に言うアーシュラに苦笑しながら達也は考える。

 

新人戦は女子の多大なる成果に比べて、男子はピリッとしないものに現在の一高は陥っている。

 

当然、男子選手のリーダーたる森崎もアレコレと奮起させんとしているのだが、その森崎とて、シューティングであまり吉祥寺に追い縋れない上での準優勝なのだから―――何とも言い切れぬものがある。

 

殆ど『地力』だけで結果を残す衛宮、藤丸。

 

アシスタンツの高性能と新術式で結果を残す明智、北山。

 

どっちにおいても男子を少々焦らせるものとなり、かつ『一番のウェポンマイスター』を一科としての面子から頼れないでいる

 

よって力は空回り―――。

 

「道具にこだわらないヤツは2流だが、道具に当たるヤツは3流っていう格言もあるほど。いやはや、どうしようもないね」

 

「お前も道具に拘りはあるのか?」

 

「ワタシを満足させるほどの『剣』は無いからね。今の所はアッドとその辺の木枝でいいのさ」

 

『このアッド様をなんだと思ってるんだ!』

 

木枝と同列に扱われたことでぴょーんとアーシュラのポッケから出てきた小野D(正解)は、口を開いて抗議する。そのアッドを手に持ち、シェイカーボトルでも振るようにしたアーシュラによって、アッドは黙る。

 

「……いいのか?」

 

「いいのよ。まぁ木枝以上には頼りにしているわよ」

 

そう言って再びポッケに収めるアーシュラ。ホテルに入ったことで、切り出すタイミングだと思う。達也はアーシュラとは逆に、自分のポケットにあるものを確認して、いいだろうと思っておく。

 

「アーシュラ、ちょっと……付き合ってもらえるか?」

 

「風呂なら絶対にお断りよ♪」

 

「二度もあんなことするかっ」

 

あの夜のことを思い出して『何故か』動悸がする達也は、それでも―――作ったものを渡さないわけにもいかないということで―――『何故か』ホテルの屋上に行こうと誘い出すのだった。

 

別に廊下で渡すことも出来たはず……。こんな前時代的な『修学旅行』や『全国大会遠征』での男女の密会のごとくしなくても―――。

 

それでも、何となくそうしたかったのは……。

 

 

(まぁ俺もカッコつけたがりの若造だったってことかな……?)

 

妙な結論を出しながら達也は―――姫騎士を伴い星空が近い屋上へと向かうのだった……。

 

 

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