魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

50 / 160
第49話『DISILLUSION』

夜風に当たりながら、星空を見上げる。それを見ていると言いたいこと、口ずさみたい曲がある。

 

よってアーシュラは歌い出すことにしたのだった。アーチャー・トリスタンも気を利かせて、曲を演奏してくれるのだから。

 

「あれがデネブアルタイルベガ〜♪ キミは指差す夏の大三角〜♪」

 

「―――お前は何時代の人間だ?」

 

不朽の名曲にケチを着けるんじゃないと思いつつも、90秒バージョンを歌い終わるまで待ってくれていた司波達也に感謝しながら、要件は何なのかと聞く。

 

「お前の言うテクノロジー魔法の平易化のためのものだよ。お前達、衛宮家というのは『そういうこと』を考えるのか?」

 

「何かを終端にまで至らせようとすれば、自ずと物事は終極へと伸びるもの。

剣とは何かを斬るもの。ならば、必然として世界を滅ぼす剣こそが究極の魔剣となる―――しかも、それは誰でも、魔術師、魔法師ならずとも……只者でも使うことができる剣。高度な呪文・良質の魔力・世界に対する詠唱(うったえ)など必要とせず、ただひと振りするだけで世界が滅ぶというものを目指すべきよね――――」

 

その言葉にさしもの達也とて、背筋が粟立つ。確かに達也は世界を滅ぼせる力があると、口さがない親族から言われているが……衛宮家の考えを聞くとなんだか鏡合わせだ。

 

四葉の執念が、達也という人間終末兵器を作り出したというのに。

 

衛宮の目標は、そんな悪魔超人でなくとも、誰でも終末をもたらせる道具を作ろうというのだから……。

 

そして、そんな四葉にある達也が技術者としての階梯を昇っている。

だが、その技術者としてのスタンスは、これまた衛宮家とは真逆だ。

 

だからこそのあの言葉だったのだろう……。

 

「まぁ我が家の目標とかはどうでもいいのよ。それで、アナタの考えって?」

 

「ああ―――、お前に着けて欲しいCADがあるんだ。とりあえず、これはサンプルだが―――起動してみてくれ」

 

「―――テオス・クリロノミア……言っちゃなんだけど、よく鍛えられたわね」

 

「士郎先生に腰を入れて小槌を叩けと言われたよ。原始的な鍛造なのに、いやはや―――とにかく頼む」

 

渡された艶めいて輝く薄い板。

『銀色のカード』を現代魔法の応用でアーシュラは起動させる。

 

起動させて―――起動させて……。

 

何も入っていない(・・・・・・・・)んだけど?」

 

「ああ、それでいいんだ―――けれど何かが溜まる感覚はあるだろ?」

 

「―――あるね。適当に使ってみるよ。普通のアシスタンツとは要領は違うけど―――」

 

言いながらアーシュラが放ったのは空気弾系統の術式だ。無論、現代魔法のコードとは違うものの、それでも『カード』を介して放たれた結果―――カードは、それを記録したのだ。

 

「にゃるほどねぇ〜。そう来たかー」

 

理解したアーシュラは、その事に最大級ににやつく。魔術的な本道からは、ずれているが―――それでも理解できた。

 

同時に父が、この男にクリロノミアを渡して鍛造させた理由を察した。

 

 

「分かったわよ。レオン君や美月ちゃん、壬生先輩の為にもやってやるわ。というか、やろうと思えば出来るんじゃん♪」

 

「俺では無理だ。士郎先生が、この金属をくれたから出来たことであって―――」

 

「それでも、『これ』から吸い出したワタシのスキルは、魔法師に求める『絶対的な資質』を無くしてくれるはずよ。ある種、『神霊基盤設置』と同じだけど、いいわ。心置きなくワタシを生贄にしなさい。それで『未来』が変えられるならば、何も躊躇うものはないわ」

 

アーシュラと言いながら、達也としては色々と思うところはある。

確かに、これは『正道』だ。技術の進歩が昔を駆逐したという例の一つである。

 

かつて風紀委員会本部に行った際の言葉を思い出して、そして―――何でそれをやろうとしなかったかを少しだけ苦い思いでぶり返す。

 

「……お前はそれでいいのか?」

 

「何も拘るところはないよ。『ワタシのお兄ちゃん』みたいに、皆の地力を上げられる『授業』でも主催出来るならばともかく―――ワタシにはこれぐらいしか出来ない。けれど、それは良いことのはずだから」

 

アーシュラに『兄貴』がいたなど初耳―――というか、聞いた限りでは一人娘だったはずなのに……少しだけ達也は混乱するも―――。

 

彼女は、自分一人だけが強まることを望んではいないのだと気付く。

 

違いがあるのは理解している。

 

けれど、自分と同じものを見なければなにもないのだと―――。

 

1科2科の根底にあるもの。

 

それは、『同じ』ではないからと、それを当然のように受け入れるのではなく、それをどうにかする術を模索するべきなのだと……ハイテクノロジー(高度技術)とは、そのためにあるのだと……。

 

古式という括りにすら無い、エンシェントマジックの申し子は、そう達也を詰ってきて―――。

 

だから―――。

 

「まぁそれはサンプルだ。お前の場合、どんな状況でもハンズフリー型のCAD(道具)の方がいいだろ?」

 

「まぁレオン君の音声起動とか結構いいよね。銃声・砲声がドカドカ響く戦場では、つっかえないことこの上ないけど」

 

アーシュラの今まで生きてきた環境がちょっとだけ気になる発言と、先ほどからレオの名前ばかりが出てきて(2回)ちょっとだけイラつく達也だが、取り出した小箱、その中身を見せる。

 

「……指輪ね。ロード・オブ・ザ・リングのごとく呪われているのかしら?」

 

「サウロンが求めるような力はないけどな―――」

 

銀色の飾りっ気がないようでいて、よく見ると龍鱗を模したような鍛造跡が見えるそれを受け取ろうとしたアーシュラの『左手』が、達也に取られた。

 

 

「―――司波くん?」

 

「……お前の手って―――」

 

「ああ、全然『女の子の手』じゃないでしょ? 剣タコはあちこちに、出来た血マメが潰れて次の血マメが出来て、本当……だからいつまでも触るな」

 

コンプレックスという程ではないが、少しだけ『いびつに変形した手』は、アーシュラの勲章でありながらも、人に誇れるものではないのだから。

 

だが、その手を離そうとはしない司波達也を改めて見ると、少しだけ労るような顔をしていた。

 

「俺は、お前のことを知らない」

 

「そうだね」

 

「けれど、お前の生きていた環境に―――少しだけ……共感と憐れみを覚える―――それだけは許してくれるか?」

 

懺悔を聞くシスターの気持ちで、達也の言葉を聞いていたアーシュラは―――。

 

「キミの好きにすればいいよ」

 

そんな言葉を笑顔で言って――――――。

 

アーシュラの『左手の薬指』に、その指輪は達也の手で嵌め込まれるのだった……。

 

自動的にフィッティングされるとはいえ、殆ど誤差が無く嵌るとなると、父に計測されていたのではないかと思うのだった。

 

事実、アーシュラの身体は、達也の精霊の眼であっても『何も見えない高度情報体』(NO DATA HIGH ERROR)なのだったので、そうせざるを得なかったのだ。

 

(しかし、左手の薬指に『ナチュラル』に嵌めてきたわね。この鉄面皮)

 

別に『そういう意図』は無くても、『そういう世事』も知らないのだろうかと、内心でのみ微妙な気持ちになりながら、ここで大騒ぎをするとなると、変に意識している風に見えるだろうから―――。

 

(何も言わんとこ。普段は風王結界(インビジブル・エア)で隠しておけば、データ収集にも問題はないでしょう)

 

そう理由づけして、男から指輪を貰った事実を義務的に処理にするのだった――――。

 

 

「その指輪型記録CADだが……名前―――銘はお前が付けてくれ」

 

「ふぅむ―――」

 

言われて少しだけ考えて―――星空を見上げる。妖精郷で見上げた夜空とは違うが、それでもそこに夜空なんてのはあっただろうかと考え直す。

 

にゃーにゃー騒がしいネコ精霊どものところならばあったような―――

 

そんなことを思い出してから……。

 

「―――Réalta Nua―――」

 

その一語が口を衝いていたのだった。

 

「………レアルタヌア……何語かすら見当がつかないが、どういう意味だ?」

 

どこで区切るかも不明瞭なアーシュラの言葉に達也は問い返し、それに笑みを浮かべてアーシュラは応える。

 

 

「古い言葉で『新しい星』―――そういう意味……」

 

まるで何かの予言かのように、滔々と語る姫騎士の言葉に達也は聞き入り―――。

 

 

「ありがとうね司波くん。キミの望んだ通りの結果はきっと出るよ―――ワタシが出してみせよう!」

 

魅惑的な笑顔―――華が綻ぶような顔で言の葉を紡がれて、達也の耳朶を震わせるも……。

 

(司波くん、か……名前の方では呼んでくれないんだな)

 

レオに比べて他人行儀な呼び方に喜色を出せても、何とも言えぬ嫉妬が渦巻くのであった……。

 

 

 

「ゆあらっしゃ――――!!!!」

 

どんな掛け声だと言わんばかりのそれでラケットを振るうアーシュラ。

 

しかし、それでも結果は確実に出る。第五高校の日高に対して2セット先取で試合をとったアーシュラは、順調に駆け上がっていく。

 

「とりあえず準決勝までは同校対決は無さそうだね。スバルと菜々美も―――」

 

「どうやら次で春日さんは、優勝候補の一色さんとやり合うようね」

 

「―――――――――」

 

アーシュラの試合結果を受けて張り出されたマッチングによれば、そうなるようだ。

 

エリカの言葉を受けて一瞬呆然としたが、それでも今日の2人は、いつもより違う。何せ達也さんのCADの調整を受けているんだから……。

 

そう光井ほのかは考えるも―――少々、現実は無情であった……。

 

 

―――終わってみれば『惨敗』という言葉が似合う春日菜々美の様子。

 

そして、改めて見た一色愛梨の速度を前に―――準決勝で当たる里美スバルは、もはや恥も外聞もない体で、ベンチにて『はちみつレモン』をもぐもぐ食べるアーシュラに聞くのだった。

 

「衛宮さん―――頼む。三高の一色に勝つ方法を教えてくれ!!! 頼む!!」

 

「無理。なるたけ打ち合うことで勉強してきて」

 

無情にして非情な一言が吐かれるのであった。

ようするに『負けてこい』と言っているのであった。

 

更に言えば、道具じゃどうにもならない地力の差はあるということも理解した。

 

それでもまだ言いたいことがあるスバルは縋るのだ。

 

「そ、そこをなんとか、せめて僕が不利な原因だけでも教えてくれ!!」

 

「……」

 

その言葉でアーシュラが見るのは、里美のCADのチェックをしていた司波達也である。

昨日の夜の文言から察するに、彼とて理解出来ていただろうに――――――。

 

「俺は昨日、作戦会議で里美と春日が一色と当たれば、どうしようもないということを上役から聞いていた。俺に出来るのはお前風に言えば、『超一級』の『魔剣』を鍛え上げるだけ―――教えてやれよ」

 

椅子を回してこちらに向き直りながら言う司波達也に嘆息しつつ、里美に理由を言う。

 

「簡単に言えば、あの子の疾さは身体的な加速だけじゃない。里美さんの『気配遮断』にも似た闇討ちか、隠し球タッチアウトじゃ勝てない」

 

「や、闇討ち、隠し球……」

 

往年の元木や佐伯のトリックプレーと同列に扱われた里美が少しだけ慄くも、アーシュラの話は続く。

 

「クラウド・ボールは一見すればテニスにも似ているけど、結局打球を転がせる範囲が決まっている。ポイントを取るためには相手のコートに打球を転がすしか無い―――同時に、テニスほど広いコートフィールドがあるわけじゃない―――」

 

「……つまり―――」

 

「アナタの必殺の認識阻害とやらも、所詮は『限定されたコート』内では『無意味』ということ。アナタの姿が見えていようがいまいが、来た球をぶっ叩けばいいんだもの」

 

とんでもない結論だった。だがよくよく考えれば、クラウド・ボールは、テニスとは似て非なるスポーツだ。あえて言えば室内型のスカッシュにも似ているだろうか。

 

透明な箱に入っての打ち合いとは、テニスとは似ても似つかない競技だ。

 

「そしてそれだけの事が彼女ならば出来るでしょ。結局、アナタ以上のスイングスピードでラケットを振り切ってしまえば、必然的にアナタでは追随出来なくなる―――」

 

「な、なんでもっと早くに言ってくれなかったんだ!? 僕の技にそんな欠点があるんだとすれば、何か言ってくれても―――」

 

「アナタの想定が『浅かった』んだもの。そもそも、ワタシと練習している時も、ワタシの『四割』のスピードアンドパワーのスイングボレーを受けても、『こんな速度と戦うことは無いだろう』なんて言っていたんだもの。『想定』を高く見積もれない相手に何が言えるのよ?」

 

「うぐっ……」

 

アーシュラの言葉足らずというよりも、里美がシュミレーター以上の速度で動くアーシュラを仮想敵として設定せずにいたことが原因だ。

 

そして何より、アーシュラと『とりあえず』同じぐらいの速度で動ける相手が他校にいたことが、不幸の始まりというところか……。

 

(そして、里美をクラウドに推薦した連中の判断にもケチが着くから、『余計なことは言わない』でおいたというところか……)

 

そう横から聞いていて結論づけた達也だが、どうしたものかと思う。

このままでは、ほのかの時の二の舞を演じることになってしまう。地力の部分の大幅な差をCADの調整一つで全て補うことは達也には不可能だ。

 

結局、最終的なところは本人の力次第なのだから―――……。

 

「次の試合開始まで残り10分弱か―――、アーシュラ。お前の気持ちは分かるよ。

結局、新人戦の一年たちの、何事にも必死になれない『結果』が、こうして出ている。

正しいことを言った者の言葉に耳を傾けず、己の過ちを思い知ったものを『正当』だと庇わなければならない―――」

 

一拍置いてから達也は続ける。

 

「つまらねぇ魔法試合(ゲーム)をやってるよな一高は……!!」

 

「お、お兄様……!?」

 

動揺した深雪に限らず、テントにいる殆ど全員が達也の『変容』に驚いた。

 

達也は怒りを持っているのだ。勝てるはずの試合で、己のチンケなプライドで頼るべきものを頼れずに、活かすべきものを活かせずに負けて果てる。

 

その結果が―――こう出ているのだ。

 

だが、それでも達也は―――いまは頭を下げてでも願うしかないのだ。

 

「けれど、そんな連中でも……同じ一高の一員なんだ。お前が2科の連中をぞんざいに扱う1科の連中への『意趣返し』として、いまそうなんだ(冷酷な王様)としても―――頼む……お前の『調律』で、せめて里美に一矢を報いさせてくれ」

 

「―――お兄様……アー『アッド!』」

 

兄が頭を下げたことに追随して深雪もアーシュラに頭を下げる前に、アーシュラは自立型魔術礼装に呼びかけて、変形したバイオリンを手に持つ。

 

「立華」

 

「一応の遮音はするわ。けれどアッドの音色は、『響く』わよ?」

 

「構わない。アナタの手際を信頼するわ」

 

そして弓を持つアーシュラは、真剣な表情をして基本的な保持を完了させてから、音を奏でる。それは―――戦に臨むものたちを高揚させる律動。

 

魔力を伴った調べが里美スバルを改変していくのだった―――。

 

 

 

……結果として、その後に行われた試合。

一矢報いる形で、一色愛梨に1セットを取ったスバルだが、その1セットをもぎ取るために力尽きたことで、勝敗は決まったのだった。

 

(1セットだけですが、随分と強かった……予選だけで相手の力量を判断は出来ませんね)

 

流れ出る汗をタオルで拭きながら、そんな感想を漏らす愛梨だが、眼はがっつりと動画で見える準決勝第二試合を見ていた。

 

恐ろしいほどの速度とパワー。四角い箱の中を盛大に揺らすそれは、凄まじい炎を身に持ち口から吐き出せる『竜』を連想させる。

 

「さて、私に竜殺し(ドラグスレイブ)が出来ますかね……」

 

 

そんな独り言をぐちてから、戦いに向けて集中をするのだった―――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。