魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
「姫―――!! 私の技! ランスロットゾーンを使ってくれるとは、アロハ三騎士の一騎、このランスロット、恐悦至極の極み!!」
「別に姫はアンタの技を真似たわけじゃないと思うけどな」
「ギャラハッド……そういうときは、素直に父親を讃えて―――、ま、待ってくれマイサン!!!」
アロハシャツを着た父子。夏場という意味では、確かに合致しているが、この軍の演習場という枠内では中々にアナーキーな格好。
彼らは『一仕事』を終えて、かき氷を食いながらキンキンに冷えた頭で、巨大画面に映る主君の娘にして、自分たちのマスターである相手の活躍を見届けた。
「――――――呑気なものだ。とか思わないのか?」
「思うわけがない。人々にこんな異常異端が知れ渡り恐怖を覚えさせることの方が、騎士としてはずべきことだ」
「然り。だが、それでもお前はまだまだ少年だ。いや、少年のまま英霊に上げられたからな―――思うところを吐き出した方がいいこともあるさ」
「ならば、この組み合わせだけはイヤだな」
「ギャ、ギャラハッド―――!! お父さんは悲しいぞ―――!!!」
思春期真っ只中の少年騎士は、スタコラサッサと去っていくのだった。
そのふざけた親子のふれあいをしている2騎士が、路地裏に屯するグールたちを速やかに殺したことなど―――何一つ痕跡を残さないそれを見届けたものはいない。
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「なにはともあれ、春日さん、里美さん。お疲れさまでした。2人が上位入賞をしてくれたおかげで、我が一高のポイントもかなりのものになっています。里美さんは、明日のミラージもありますから、次に向けて気持ちを切り替えて、春日さんは今回の結果を踏まえて、今後の自分の糧を模索してください」
「は、はい。ありがとうございます。七草会長……」
生徒会長から言われて、畏まる春日菜々美だが、それとは別に四位入賞(三位決定戦欠場)をした里美スバルは、疑問を口にした。
「――――――衛宮さんは? どちらに?」
「……授賞式に出たあとには、こちらで成績を入力してから諸用をこなしに出ていきました。次のアイスピラーズに向けてやることがあるんでしょうね」
「―――そうですか……」
その言葉にスバルは顔を少しだけ暗くする。お礼を言うことすら出来ない。更に言えば自分の浅慮を突きつけられて、それに対する対策すら出来ない。
(野良猫のように、
これで気侭なだけのワガママ放題であれば、総スカンだろうが―――。
言っていることは、この上なく『正しい』のだ。
抱く力はこれ以上無く最上級の天禀。
だからこそ……それを前にした時、どうなるのか―――。
(あのデスマーチのような練習の日々の中、それを糧に出来なかった僕が愚かだったってことなんだろうな)
そういう結論だった。それを思い出して―――嫌々でも出場を決断してハード過ぎる練習に付き合ってくれた日々を思い出して、ポタポタと涙が零れ落ちる。
メガネでも受け止めきれなかったものが、一高のテント、天幕の地面に落ちてしまう。
「ス、スバル!?」
「里美さん………」
「す、すみません。ちょっと悔し涙です………」
驚いた声を上げた光井ほのかと労るような七草会長に言いながらも、どうしても涙は止まりそうにない。
色々な感情を齎すアーシュラの存在。スバルに対して声を掛けるべき存在は、テントの中にはいない。
それが出来るアーシュラは―――――。
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「肉も野菜もそろっている。モリモリ、バリバリ食うぞー♪♪♪」
家では絶対に堪能できない、不摂生極まるランチメニューを爆食するのであった。
アーシュラのアイスピラーズエキシビションマッチに関しては、本日の正規プログラムが終わってからの話であり、そのプログラムで『敗北』した人間たちの中から挑戦者を募る形式だ。
午前のプログラムで負けた人間は、既にアーシュラに挑戦する旨を表明している。
「男女どちらでもオッケーだからか、既に22人が来ているわけか。随分となめられたもんだなー」
別にいいけど。
そしてその22名。午前の部11試合行った中での敗者でもあるのだ。
「22試合もやらされるのは非常にメンドウだなー。それならば―――」
天啓を得た―――とでも言うべき表情をしたアーシュラは、『内側』にいる蛇龍に話しかける。
(というわけで、ご助力よろ♪)
(その恐怖に打ち勝ってでも、『わえ』とぬしの前に立つものもあらわれるやもしれぬがな。ふふっ。そういうものこそがぬしの求めるものじゃな『アーシュラ』?)
(そんなもんでしょ。魔道を行くって尋常の道じゃないんだし)
そんなことも分かっていない人間ばかりなのだから―――そんなことを想いながらも、牛飲馬食の勢いで、多くの食い物を嚥下していく姿。
大食らいというレベルではない美少女の姿は、千年の恋すら一気に冷める姿であろう。
別にアーシュラにとってはどうでもいいことなのだが―――。
「―――何でお前は井之頭五郎なことしかしないんだよ?」
「モノを食べるときはね。『それはもういい』―――あっそ、で、何の用?」
話の腰を砕かれた気分でいながらも、ランチを食べる速度は変わらない。司波達也が、アーシュラがいたフリースペースにやってきて、山のようなランチメニューで顔が見れないのは不都合と思ったのか、対面ではなく隣に座られた。
今の時間帯ならば、実妹のことで『ごちゃごちゃ』やっていてもよろしかろうに……。
「エキシビションで、お前がどうやって戦うのかとか、優勝に対して祝福をしたかったとか―――つまり、だ……お前、もう少し一高の集団内にいてほしいんだが……」
「断固辞退する。ワタシは第一高校執行部より、独自行動の権限が与えられている。
つまりは、ワンマンアーミー。たった一人の軍隊なのだよ」
「………」
言われた達也は、何も言えない。ここまでのことを言われて、ここまでの『名言』を吐かれて何を返せるというのか―――。
確かに、九校戦前の出場条件にそういうのを付けておいたが、ここまで一人で気侭に動くとは思えなかったのだ。
だが『結果』だけは出している。結果さえ出せば、あとは私の好きにさせろというやり方が、一部に反感を覚えさせて、それでも……気付くものは気付いていた。
これこそが、2科が1科に対して抱いてきた感情なのだと……どれだけ言葉で高潔であれなどと言ったところで、醸成された優越意識こそが、ヒトの行動を決定づける。
実際、何かの行動実験では、集団の中で優越的な権利をもった人間とは、集団の中で下にいる人間に対して高圧的かつ暴力的な行為に及ぶことが在る。
確かそれは、戦地における軍が、軍規でどれだけ兵隊を縛り付けても、なぜ現地民に対して婦女暴行や略奪行為に及ぶかというのを確かめるものだったはず―――。
「――――――」
「――――――」
思い出して、その為に1科に対する『反旗』を翻すなど……。1科全てにとって恐怖の存在になろうなど……。
「……これだけは教えて欲しい。お前はどうやってアイスピラーズブレイクで戦うんだ?」
「一生懸命、戦うだけ。けれど現時点で申し込まれている22試合もやってられない――――――」
―――だから、
その言葉と同時に勢いよくフライドチキンから身を齧り取るアーシュラの姿に……。
人喰いの邪竜、魔竜を連想した達也。そして、それは現実のものとなるのだった……。
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新人戦の脇で行われることとなったエキシビションマッチ。
九島閣下から提案された、一高の衛宮とかいう女子生徒を倒せば300点のボーナスポイントゲームということに誰もが飛びつく。
(三高の十七夜にはやられたけど、衛宮には勝つ。確かに凄いけど、身体拡大系統の魔法ばかりが得意ならば、私にもやれないわけがない)
メイン会場では、同じく一高の司波深雪がとんでもない戦いで勝ちを決めたようだが、今はどうでもいい。
四高一年 佐埜は一回戦負けであった自分の惨めさを振り切るように、そう気合いを入れていた。
「がんばってね!」
「応援しているよ!!」
負けてしまった自分に対して多くの応援が掛かる。この声援に応える。
チャイナメイド服と言えるものを着込んだ佐埜は、戦いのフィールドに赴く。
射台に上るための昇降機が、動き出してウィィィンという機械音で昇っていった先。
一回戦と同じく12本の氷柱―――巨大なものが、フィールドに設置されていた。
気合が入る。そして反対側の射台にいる相手を見る。相手は―――――――。
「………」
「ふぁあああ〜〜〜」
盛大な欠伸をしていた。そしてそれだけならば、何とも思わなかったが(若干、ムカつくが)―――。
ソレ以上にアレなのは―――。
「なんでジャージなのよ……」
別に衣装が変わったからと、何か能力値的なものに変化が出るわけではないが、何というかあまりにもフザケた態度だ。
『大会アナウンスです。エキシビションマッチの選手―――、一高『衛宮選手』の服装は、競技の関係上、委員会側の判断で『不適切』だと考えます。よって10分の猶予を与えるので、その間に適切な服装に着替えるように』
アイスピラーズ・ブレイクは、確かに一部ではコスプレ競技などとも言われているものだが、別に服装自体に何か特別な規約があるわけではないのだが……。
公序良俗に反しなければいいだけなのだが。
などという佐埜の内心での言葉とは裏腹に……。
「ワンミニッツどころか―――――ツーセカンズで充分だわ―――」
そんな言葉で出た変化は一目瞭然であった。
どっかの銀髪超絶エロ✕✕✕主人公―――『超魔法使い』の如くジャージの上を引っ掴み脱ぎ去ると、同時に全身の格好が変わった。
下に着込んでいたにしては髪型も一瞬で変わっており、いろんな意味で混乱を来す。
暗色系の上下のドレスは占い師を想起させる。装飾はそこそこだが、中々に凝った模様が施されていた。
多くの人間たちは、その姿にエキゾチックセクシーとでも言うべき色香を感じる
夏場にも関わらず肌を見せない長袖、長裾―――アラブ文化圏の乾いた風を感じる。
牙か角を思わせるフェイスベールが着けられたフード―――フェイスベールを外すと、波打つような金色の髪が大河のようにフードの後ろから溢れた。
どういうトリックなのかは分からないが、それでもその力の高まりようは佐埜の目にも見える。
『で、では衣装変更も確認出来ましたので、試合はランプ点灯のあとに開始となります』
アナウンスの係員の動揺した声は当然だが、ただでさえ試合希望を願う連中が多いのだ。
速やかな試合の進行が求められる―――。
しかし、その懸念は全て崩れる。
何故ならば、この後の試合は全て『チャレンジキャンセル』となるのだから……。
佐埜は、十七夜の時のような失態を演じまいと、速攻戦術に転じる。
午前の試合のように特化型CADではなく、汎用型の利点を重要視した彼女の術がアーシュラの氷柱に炸裂せんとした時に―――。
「―――
手腕を向けた上での厳然たる命令。声と同時に、その腕には黒色の炎が燃え盛っていた。
すると―――アーシュラ陣側が全て蒼黒の透明な立方体ですっぽりと覆われた。
キューブと呼ぶべきもので『絶対防御』を果たしたそれは、佐埜の攻撃術を全て通さない。あまりにも硬すぎる。その防御にCADの不調すら疑いだした。
だが、切り替えた上でこちらも防御を掛けた自陣氷柱はきっちり決まった。情報強化された全ての氷柱に満足した佐埜 恵だったが、その間にもアーシュラは『咆哮』を上げる準備が整っていた。
「いっくぞ―――!! がお――!!! 」
快活な少女としての声を合図に、その身から上がる黒炎がいっそう燃え盛る。
そして、その炎と同時に佐埜 恵は見た。金色の眼に蒼黒の鱗を持った―――竜の姿を―――。
それは幻か、単なる恵のイマジネーションでしかなかったのかは分からない。
だが、次の瞬間にそれは判明する。
「天地万象! 変幻の鱗もちし大いなる魔蛇、その軍勢・分体を世界に解き放て――――――。
アーシュラの厳然たる言葉で発生する事象・現象、『黒炎の大津波』が佐埜の陣に襲いかかる。
盛大なまでの恐るべき波濤が恐怖を催し、そして波頭の全てが何か『恐ろしいもの』に見える。
金色の眼をした怪物を先頭に―――俗に言えば『竜』というものを思わせる数多の『影』が、次から次へと佐埜の氷柱を『食い』尽くしていく。
津波という大災害を前にして、人間などちっぽけなものなように、魔法師とて、このような津波の前では無力なのだ……。
『GYAAAAAAAAA!!!!!!』
最後に残ったのは一際大きな竜。とぐろを巻く大蛇が陣に残り、天空へと遠吠えを上げたあとには―――そんなものは無かったかのように氷柱が消え失せた『無』の陣が見えるだけ。
悪い夢でも見たのではないかと思った佐埜だが、全身から吹き出たありったけの汗という形で、びしょ濡れになってしまった衣服。下着すら肌に張り付く感触がこの上なく不快な気分を催す。
圧倒的な恐怖を感じた佐埜は膝から崩れ落ちて、そして、その佐埜の後に続くべき今日のアーシュラへのエキシビション挑戦は、オールキャンセルされる。
ただ一匹の悪竜の姿だけを、残して……この日のプログラムは終了と成った。