魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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本来のプロットでは、もっとイヤな事をアーシュラは言っていたのだが。

ボツにしました。


第53話『すれちがう思惑』

 

九校戦6日目。新人戦に換算すれば三日目。

 

いよいよ戦いも大詰めを迎えつつある中、選手控室や天幕では様々な空気を張り詰めさせていく。

 

そんな空気の中、豪胆にも『居眠り』をこくものが一人。

 

今日の競技に出場する選手でありながら、ここまで大胆に眠るとは肝が太く、そして大物なのだろう。

 

あるいは、そういうのを感じない馬鹿なのか。どちらとも言える。

 

だが、変わらない事実がある。

 

それは―――居眠りをこく女が一高において最強の存在であることだ。

 

 

「ZZZZZ〜〜〜〜」

 

『フォズフォズフォズ〜〜〜』

 

『イヌヌワン〜〜〜』

 

『アルトリア〜カヴァスの餌はお前に任せるけど、ソレ以外は俺がやっておくからお前は寝ていろ〜〜。ローマ皇帝ルーシャスは難敵だぞ〜』

 

そしてその女は色々と規格外であった。

 

頭に猫を乗せ、ネコの背中にはしゃべる匣が乗っており、そしてハワイから駆けつけた(!?)衛宮家の飼い犬―――名前はシロだろうかというイヌを抱きながら、寝ていたのだ。

 

(((な、なんも言えねぇ……!)))

 

色々と聞きたいことはあった。あれこれとあったのだが、それを聞き出そうとするタイミングを図っている内に、衛宮アーシュラは完全にスリーピングビューティーになってしまったのだ。

 

「摩利……どうしたらいいのかしら?」

 

「寝るな―――とは言えんところがアレだな。昨日、ピラーズ前に寝不足気味の明智をカプセルに入れた以上―――何も言えん」

 

寝るなら他所でと言えば、素直に出ていく。結果として話す機会を逸する。

 

無理やり起こせば、どっかに消えている。

 

どうすりゃいいんだと、誰もが思う。

 

聞きたいことや知りたいことを思うのだが―――。

 

「―――」

 

不意に起き上がる―――というよりも机に突っ伏していた顔を上げるアーシュラの姿。

 

開かれた眼を正面に向けて、何を言うかと想っていたらば―――。

 

「―――ハラが―――へった―――」

 

ポン ポン ポーン。そういう軽快なSEが聞こえそうなアーシュラの言葉の後に、おもむろに立ち上がり―――。

 

「よし、店を探そう」

 

言葉通りに井之頭五郎をさせまいと、すかさず真由美は、素早く踵を返そうとするアーシュラに言葉を掛ける。

 

ろくな呪文も要らずに術を行使する、現代魔法師たちの非常に過剰な努力が展開される。

 

「待て待て待って!! アーシュラさん!! ご飯ならば此処にあるから!! ここで食べていって!! ついでに言えば、色々とお話を聞かせて―――!!」

 

「……何に関して聞きたいんですか?」

 

「昨日のエキシビションでの術とか、五十里くんがドッキドキの変身シーンの原理とか!!」

 

「そうだ。いくら何でもあの蔵王炎殺黒龍波(間違い)に関しては、私も教えてほしいぞ」

 

言うと、やはり『嫌そうな顔』をするアーシュラ。だが、これだけは真由美も摩利も譲れない。

 

あの後、各校からは様々な追求があったのだ。

 

確かに、アイスピラーズ・ブレイクに魔法の殺傷性のランク制限は無い。

 

だが、あんな規格外の術に関しては流石にルール違反ではないか? という言外の意見もあったのだ。

化生体による突撃とも何とも言い切れない。現代魔法的な価値観だけでは計り知れないアーシュラの術は、様々な懸念を寄せさせていたのだから。

 

「そこを何とかするのが、アナタの役目だったのでは? 七草会長」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

てりやきバーガーを口にしてから言うアーシュラに、真由美も強くは出れない。

 

結局の所、真由美ですら衛宮アーシュラの実力を低く見積もっていたのだ。

 

こんな戦術範囲級の術を持っているなど、想定外。もしも、それ以上の術があるならば―――。

 

「あなた方のウィズダムで理解できる話とも思えませんけどね」

 

「それでも、このまま何も知らないままなのはスッキリしないのよ……」

 

「それでいいんですよ。『魔術』としては、未開、未知であることが力の源泉ですので」

 

「―――教えてくれないの?」

 

「あなた方のルールでも、そういうのは違反だったのでは?」

 

確かに魔法師にも、他人の魔法を探らないという不文律が存在する。もちろん、己の中で推理してみるぐらいは、別に何とも思われない。

 

当然、正答かどうかは不明なのだが……。

 

「チョー強力な化成体の一斉突撃とでも説明しておいてください。それで十分でしょ」

 

「それで納得してくれるかしら?」

 

そんなアタマの悪い答えを他校に伝えるなど、真由美としては少し承服できない。

 

「納得できなきゃ、先ほどの不文律でゴリ押ししてください」

 

それはつまり『なんにもわからない』ということを押し付けることだ。

 

魔法師や魔術師などの尋常ではない人間たちの道理としては、確かに納得できるが。

それでも心は未熟な高校生なのだ。あんな危険な術を披露されて、何も思わないわけがない。

 

まぁ深雪のインフェルノとも違った意味で怖かっただけなのだが。

 

「どうやら全員がおっかない想いをしてくれたようで、ワタシとしては万々歳ですよ。如何に魔法師とて、アナコンダの頭を砕けるからといって、正面から襲いかかるアナコンダやアリゲーターを『怖がらない』わけが無いということが理解できてね」

 

「別に練習の通りでも良かったじゃないか……」

 

同じ剣士として、少しだけ一家言ある摩利が言うも、アーシュラは変わらない。

 

「それだとナメた連中が、ボードとクラウドでワタシの上限を勝手に見積もって、勝てると思い上がって挑んでくるんですよ。実に浅慮の限り」

 

「―――………」

 

もはやアーシュラには何を言っても無駄だと気付く。そして、このような態度でも―――出してくる結果は最上級。

 

―――結果は出しているんだから文句があるのか?―――

 

それは2科生が1科生から言われている、態度に出されているものなのだと気付く。

 

己にされてようやく気付く。これが―――実力主義というものの極まったトコロ。

優れたものならばソイツに従うのが道理とだけ教え込む非人間性の極み。

 

優れたものならば人格が下劣であっても従えという話。優れているならば、どんな悪徳であろうとやってもいいとする道理。

 

それはいずれやってくる。きっと来る。必ず来る。

 

―――《獣》の再来を告げるものが―――

 

―――霊長の悪性の極みとして魔法師は選ばれるはずだから―――

 

 

などというアーシュラの心なぞ分かるまい。同時に、アーシュラのご飯をくすねる形のフォウ君は、こいつら駆逐するために『同僚』が出るかもよ、と思うのだった。

 

 

「それに、多分ですけど他校の連中の中には、勘よくワタシの術の『源』ぐらいには、気がついている者がいるはずですよ」

 

「六高の宇津見さんとか?」

 

「ソレ以外にも、三高の花京院、いや優曇華院だっけか? あの子もですね」

 

多分、四十九院(つくしいん)という一年だろうが、随分な覚えられ方である。

 

「なんでも聞けば応えてくれるいいセンセーばかりいる一科生だから、そんなんなん(・・・・・・)ですよ。まずは会長達の推理を言ってくださいよ。

略奪公と呼ばれた伝説の魔術師『ウェイバー・ベルベット』に鍛えられた、衛宮士郎が長女『衛宮アーシュラ』が採点してあげましょう」

 

なんたる上から目線。だが、事実としてそうなのだから仕方ない話でもある。

 

だが、これは挑まれた戦いだ。

 

戦いというほど苛烈ではないが、それでも聞かねばならないのだ。でなければ―――。

 

このままでは、ただ2人の魔術師によって、魔法科高校のトップと自負する一高が恐怖独裁支配されてしまうのだ。

 

そして2科の生徒たちを『贔屓』して、その『力』を分け与えて―――。

 

正直言えば、真由美としては士郎先生やアルトリア先生の教導というのは、自分の『改革の邪魔』でしかなかった。

 

確かに、入学時の試験結果だけで学び・教わる機会の有無が決定づけられる無情な制度を、真由美も良いとは想っていなかった。

 

だが、それは漫然と、増えることもない教員の増加という『無成果』を前にしては仕方ないと、『諦めの境地』でいた。

 

そういう意味では、真由美も骨の髄まで十師族的な価値観に染まっていた。

 

いいものは独り占め。

力あるものは限定されているべき。

富めるものは少ない方がいい。

 

 

そこまで強烈でなくとも、そこから何かを分け与えることも出来たはずだ。

 

そのための改革。まずは生徒自治制度上の優遇措置を無くすことから始めて、そこから『1科』の優秀生徒が2科の生徒を指導するという『大教室制度』を学校側に認めさせていくことが、真由美の描いた絵図だったのだが―――。

 

(見限られたのかしら……)

 

この構想を一度は、百山校長や十文字克人に打ち明けたことがあった。

 

だが、ソレに対して今まで動きが無かったことが、百山校長に決断をさせた。

 

親友であり兄貴分であった男の日本への帰還。それは、教職員としてのものであった。

 

その先触れとして『剣製のエミヤ』の教員就任要請―――。

 

だからこそ、真由美は戦わなければならなかったのだ。

 

 

「―――まずは、あの術は竜を使ったものだと想っているわ」

 

「無難な解答ですね」

 

つまんない女。そう言っているかのような言い方に、真由美は呻く。

アーシュラは鶏足(フライドチキン)をバリバリムシャムシャ食い尽くす。

 

「……竜言語魔術の類だと想っているわ」

 

「減点5ですね」

 

「――――詠唱した呪文から……もう分かんないわよ。アスラシュレーシュタって何!? 変幻の鱗の魔蛇ってなんなのよ!?」

 

「んじゃ終わりですね。ごちそう様でした」

 

嘆くように叫んだ真由美に対して、用意されていた食事をペットたちと共に食い尽くしたアーシュラに全員がビックリして、このまま何も答えずに―――行くつもりかぁ。

 

と、想っていた時に―――救世主が現れた。

 

テントを潜り、光が差し込みながら入ってくるのは男2人。まさしく救いの光であった

 

「アーシュラ、これで少しは教えてくれるか? アスラの一人―――もしくは王にして、リグ・ヴェーダの叙事詩で語られるインドラの宿敵『邪龍ヴリトラ』の事に関して」

 

多くの弁当(えみ屋)に、それなりに高いお店の『テイクアウト』を多量に持ってきた巨漢―――十文字克人と司波達也の姿。

 

アーシュラのいるテーブル付近に広げられたことと、その会頭の『解答』に対して、少しだけ笑みを浮かべて口を開く―――。

 

それは―――――。

 

 

「つまり衛宮さんは、竜という属性を持った魔術師ということ?」

 

「まだ完全に見えないが、四高の佐埜を叩きのめした蛇龍は、インドに関わる神話(マイソロジー)では有名な『邪龍ヴリトラ』で間違いないじゃろう。ヴリトラはアスラ(魔族)の王としても有名じゃからな」

 

「まさか……そんな強烈な存在を喚起して、攻撃術として使うなんて……」

 

現代魔法的な考えではないが、ある種の上位存在の力を借り受けることで術を発動させるという方式は、知らぬものではない。

 

もっとも、人間というキャパで使える力には限りがあるので、あまり一般的ではないのだが……。

 

「―――わしとしては喚起しているのではなく、もっと『直接的』なものだと見ているがな」

 

その想像が当たった場合が恐ろしい。それは恐らく『神降ろし』が出来る神子。

 

ある種の『自然の触覚』も同然だからだ。

 

「それじゃ四十九院は、俺と衛宮が戦った場合、どうなると思う?」

 

「お主の爆裂ならば、特化型のCADで衛宮が防備を果たす前に―――と思わなくもない」

 

四高の佐埜との戦い。佐埜は栞と戦ったときと違って汎用型を使っている。

 

汎用型の起動方法である特定のキーを打鍵してからの発動。それは本来ならば、古式魔法よりも疾いはずなのだが。

 

だが……。

 

「衛宮が全身の魔術回路、いや『魔力炉心』を起動させた時点で、魔力が充溢し―――魔術師が言うところの「1小節」(ワンカウント)での術式構築が可能となる―――」

 

「そこまで凄いのか。まぁこういう防御術を発動されたならば、俺の爆裂は通らないか」

 

「速さ勝負でしか勝てぬが、あちらとてそこは馬鹿ではあるまい。お主の発動そのものを『妨害』するなり、あるいは単純に数本を犠牲にした上で、防備し残った氷柱だけで勝負を仕掛けていくだろう」

 

「……だが、彼女に勝つことが出来ればボーナスゲットだ。優勝は確実だろうから、これも挑むことで三高の勝利に貢献したい――――」

 

決意表明をしようとした時、鳴り響く端末音。

 

一条将輝の個人端末に着信が入ったようで、「すまん」と言ってから誰にも声を聞かれない所―――テントの外に移動する将輝に『女か?』と邪推するものがいる一方で、『家の人だろう』と正答を推測したものがいた。

 

そして、その正答こそが思わぬ混乱を三高に招くことになるのだった……。

 

 

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