魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第58話『妥協点を探る』

戦いの結果は、烈としても『予想通り』すぎて『残念』であった。

 

既に隠居した身とはいえ、現在の魔法師界に目を光らせている九島烈としては、若い魔法師の中でも最有力たる一条将輝ですら、ブリテンの姫騎士に何一つ及ばないことに嘆息せざるをえない。

 

だが、『分かりきっていた』ことだ。

 

(そして一条将輝は、見せすぎていたな……誇りも過ぎれば驕りとなるというところか)

 

彼の使う『爆裂』がどのようなものであるかを理解していれば、自ずと懇親会の時の自分の術のように弾き飛ばされる。

 

そのことを分かっていなかったのだ。

 

「もっとも、速攻戦術ぐらいしか見いだせる隙が無かったわけだが」

 

このことは十師族嫌いの軍人や政治家、はたまたマスコミたちにとって格好の攻撃材料となるだろう。

 

しかし――――。

 

「賢しい理屈や奸智で戦う小僧よりも、よっぽど良いだろうな」

 

そういう男―――元・弟子を思い出す。

 

―――男には、死ぬと分かっていても、行動しなくてはならない時がある。

 

―――負けると分かっていても、戦わなくてはならない時がある。

 

―――俺にとって、それは『いま』なんですよ!!

 

そうして赤き騎士と青き騎士―――その他、多くの戦士の集団に『若武者』『見習い騎士』として、元・弟子が入った時を思い出した……。

 

 

「さてさて、どうなるやら……」

 

まさか、十師族にして実戦経験者である一条将輝が負けると思っていなかった九校の反応の全てを、少しだけ烈は『痛快』な気分で笑っておくのだった―――。

 

 

 

「……十文字くんは、こんなことをする人間じゃないと思っていたんだけどね」

 

「だが、『落とし所』としては順当だろう。一条殿としても、いくらかは面目が立つだろうしな」

 

「………」

 

テント内で男女2人が重苦しい空気を出して、それでスタッフの動きにも色々と影響が出ることを考慮して、それも踏まえた上で、中条は誰かに説明を求めたかった。

 

「市原先輩、衛宮さんの戦いに『落とし所』というのは、どういうことなんでしょうか?」

 

「まぁあの2人は難しい会話をしていましたから、分かりにくかったでしょうが、つまり『十師族』としての面目を守ることと、衛宮さんの目的達成―――両得のために、小野D……ではなく、アッドくんこと『神話礼装マルミアドワーズ』を使わせたということです」

 

「??? えっと、それだと衛宮さんは普通に勝ちますよね?」

 

謎掛け(リドル)のような物言いの市原に、中条は困惑して再び問い返す。

 

「ええ、勝ちます。そして―――『マルミアドワーズ』が無くても(・・・・)、衛宮さんは勝ちます。彼女のアイスピラーズでの手練は、十文字君も突破出来ませんでしたから―――つまり……。

『衛宮アーシュラは、一条将輝という『強敵』『難敵』を倒すために、そのような『規格外の礼装』を使わざるを得なかった』

そういうシチュエーションを作るために、あの戦い方はあったのです」

 

「――――――――」

 

思わず絶句してしまう中条あずさ。

 

確かに『八百長』『中盆』などという話ではない。だが、それは……何というか、奥歯に物が挟まるかのような、言いたいことを出せないところが出来てしまうのだ。

 

「これはいうなれば、九校戦という大会ルールの狭さに起因します。もちろんCAD本体のスペックというのは『上限』が決まっており、登録される術式の『危険性』の定義も定まっています。

単純な話、藤丸さんや衛宮さんのような規格外の『魔術師』を除けば、『現代魔法』を『発動』させる器物、武器であるアシスタンツの方が、現象改変の『疾さ』では優ります。

しかし、魔術師の放つ『魔術』―――分類にもよりますが、彼らの術は、我々よりも現象改変の『深さ』で優る―――そうとしか言えないんですよ。ゆえに『魔術触媒』を介した場合の力というのは、我々の放つ魔法式を砕くだけの力を有しますから」

 

市原の語る理屈自体は、理解が『浅くとも』、概ねの魔法師ならば理解していることだ。

 

つまりは―――アーシュラのやったことは『アリバイ作り』ということだ。

正しい意味ではないのだが、そういう意味も同然だろう。

 

「けどそれって―――」

 

いいのだろうか? どうしてもそういった疑問が浮かんでしまう。

 

別に、この九校戦という学生魔法大会は『現代魔法師』だけが出場できる大会であるなどと、偏屈なことは言わない。

 

古式魔法のアイテム……呪符や宝石、魔女の箒(ウィッチズブルーム)を使うことは、『違反』『反則』であるなどとは言わない。

 

けれど――――――。

 

「何だか私達の使うアシスタンツが随分と―――その、『不合理』に思えてしまいます……」

 

その言葉に誰もが思ってしまう。結局の所、汎用型にせよ、特化型にせよ……。

 

『術者の地力』というものに依存した『術式保存機』でしかないと思えるのだ。

 

 

「現代魔法師ならば直面する問題ですね。結局、我々の使う器具は、総じてこの時代のテクノロジーに対してローテクすぎます。

私や中条さん―――あるいは2科生に、真由美さんや十文字君のような術を同じような規模で、同じ速度で、同じレベルで使わせたい。使わせなければならない『事情』が出来た。

そう仮定したならば、『魔術師』は、ある程度、何かしらの術者を『拡大する触媒』を準備するでしょう。

しかし、『魔法師』ならば――――」

 

「無理な話なのだから、やめておけ。才能の差……で終わってしまう話ですもんね―――」

 

いつぞや衛宮アーシュラが言ってきた『不都合な真実』というものが、重くのしかかる。

 

魔術師とて自分に出来ない術式というものもあるだろうが、それでも『それを補う手段』を講じれる。

 

魔術師ならば、『自分にないものは他から持ってくる』。そういう原則があるらしいのだが、どうにも、魔法師にはそれが無いのだ。

 

「―――まぁあえてフォローするように言わせてもらえば、魔術協会の時計塔によって、アルビオンで発掘される魔力鉱石、多くの呪体は独占状態ですからね。仮に、アルカトラスのダンジョン(迷宮)をいくらか見つけたとしても、そこから何かを魔法師が手に入れることは不可能でしょう」

 

今までの会話を聞いていたかのように、藤丸立華がテント内に入り込みながら、そんなことを言ってきた。

 

その言葉の意味。つまり魔法師が知らぬ技術や地下資源があるということが告げられたのだが……。

 

「―――しかし、アーシュラが変えちゃうかも知れませんね。今の魔法師たちの状況を」

 

「「「????」」」

 

「私にも内緒で『あんなこと』をしていたなんて、ちょっぴり妬けちゃいますが……まぁ2学期を楽しみにしておきましょう」

 

―――この大会では出せそうにありませんからね。

 

という淋しげな言葉と同時に、立華は溜まっていた書類仕事を猛烈な勢いでこなしていく。

 

なんのこっちゃと想いながらも、何があってももはや驚きゃしないと想いつつも、バトル・ボードでの決勝戦は始まろうとしていた。

 

 

 

「――――」

 

「――――」

 

「――――」

 

三高テント内は誰もが沈黙していた。その理由は端的に言えば、一人の男の放つプレッシャーがすごすぎたからだ。

 

最初こそ、ドントマインドの気持ちで激励してやろうと思っていた先輩方も、思わず沈黙してしまうぐらいの怒気を放って一条将輝は帰ってきたのだ。

 

武器が規格外だったから。あんなの反則だ。チートアイテムの使用だ。

 

などと言えば、将輝は怒りを爆発させていたかもしれない―――。

 

(衛宮アーシュラ……!)

 

全てはあの少女の手のひらの上で踊らされていただけだった。しかし、アレを超えることなど無理ではないかと思う。

 

しかし―――。

 

それを認めるわけにはいかない。それこそが、十師族としての矜持なのだから。

 

男子新人戦アイスピラーズで優勝したにも関わらず、敗北感を味わう一条将輝は、この上なく飢餓感を覚えるのだった。

 

 

「―――と、まぁお主のおかげで、将輝爆発警報が発令中。三高は緊張状態じゃ。まさか彼奴を凹ませるとは、誰も思ってもおらなかったからの」

 

「そりゃ悪かったわね。けれど『手心』を加えたことは、まるっとお見通しか。芝居が過ぎたかしらね」

 

プールサイドにてボードのチェックを受けながら、三高の四十九院沓子と会話をしていたアーシュラは、まとめた髪を少しだけ掻いてから嫌な気分を霧散させる。

 

「今日は九高全てが一堂に介して、お主と色々と話したいと思っておる。食堂に来るんじゃろ?」

 

「――――――正直、行きたくない気分が優っているんだけど、友人の一人からも頭下げられたし、悪くなりそうな食材を消費するためにも、行かせてもらうわよ」

 

「なんでお主、そこまで一人になりたがるのじゃ?」

 

「―――『私』を倒せる相手は―――『私』だけだからよ」

 

「………」

 

遠い目をしながら、寂寥感を灯した目を見た沓子は、何も言えなくなってしまった。

 

「当然、同年代限定だけどね。(アルトリア)には勝てないわよ。あの人の信念を持った剣はどこまでも重いのよ。

ワタシには、あんな剣は振るえない。ワタシには守りたいものも、何が何でも通したいものなんかないもの。当然、人理ぐらいは守りたいんだけどね」

 

「……ならば、ワシがお主に敗北を刻み込んでやる! お主とてどれだけのチカラを携えようと、一人の人間であることを教えてやる!!」

 

「そう。期待せずに待ってるわ―――そして、ワタシにとって厄介な敵は―――」

 

勢いよく言う沓子を半ば無視して、プールサイドにやってきた青みがかった黒髪の少女を見るアーシュラ。

 

水色の瞳を見据える翠色の瞳は、この大会で一番に好戦的な色を作る。

 

それを受けた水色の瞳も、戦いの予感に目を輝かせる。

 

「待たせたわね。ようやく敵同士よ死神。一度は、どんな形でもアナタとは戦ってみたかったのよ」

 

「気が合うわね姫騎士。本当のところを言うとね。誇り高き英霊のチカラ―――ノーブルファンタズムを便利な武器も同然に使うアナタは、一度だけと言わず、何度でも八つ裂きにしたかった」

 

「マシュ・キリエライトの宝具は元々、ギャラハッドのものよ。そしてギャラハッドの宝具は、持ち主によって『変質』する―――」

 

「ええ、けれど……戦う理由は出来たわね」

 

にらみ合う2人の少女。

 

それを見て自分は眼中にはないという憤りを持ちながら、沓子は静かな闘志を燃やすのだった。

 

そして―――波乗りの決勝戦は始まる―――。

 

 


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