魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
「沓子は勝てるかしら……?」
「―――勝負は最期までどうなるか分からない。そうでしょ愛梨」
「そうね……」
言いながらも言葉は弱い。十師族の長子、一条将輝を破った衛宮アーシュラは、正しく最強の敵だ。
これと3年間も九校戦だけでなく、色々なところで競い合うなどとんでもない話だ。
一矢報いることすら不可能なのではないかという差を感じた。
衛宮が魔術サイドの人間であることは、魔法界隈でもよほどの『お上りさん』で無い限りは、いずれは気付ける話だ。
だが、それにしたって何かが異常な気がする。
そう……あの『ロード・キャメロット』なる防御魔術にしたって……規格外な気持ちがある。
(そもそも『物理的破壊力』という一点だけならば、現代魔法は魔術師を上回っている面はある……一概に言える話じゃないけど)
そこでの勝負ならば、決して一条将輝は勝ち目が無いわけではないと思っていた。
それでも完封した上で、全ての氷柱を手ずから砕いた手際を思い出す。
―――撃て! マルミアドワーズ!!
―――走れ! スピュメイダー!!
―――弾けて! シャスティフォル!!
―――蹄を鳴らせ! ラムレイ、ドゥン・スタリオン!
言葉を思い出して、それを放った女子の姿を重ねる。
その姿には―――伝説の騎士王を思い出させる。
しかし、かの伝説の騎士王に子孫と言えるものは居らず、唯一の息子はカムランの戦いで騎士王が持つ聖槍ロンゴミニアドによって殺されて、古代ブリテン人の血は大陸から入植征服してきたサクソン人たちによって民族同化させられたようなものだ。
そんな歴史を諳んじたのだが………。
(アーシュラ・エミヤ・ペンドラゴン。アナタは一体……)
何者なのだろう?
そんな気持ちを懐きながらも、レースはスタートをしたのだった……。
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シグナルランプがスタートを音声と共に着くと同時に、四者は飛び出してきた。
本来的にこういう場合、スタートにおいて自分なりに滑りやすい航路を作るのが定石、はたまたスタートで『こけさせる』という手も最近発見されたが―――。
四人の内の三人は理解していた。
小細工を最初っから弄すれば、それを食い破って『黄金竜』は飛び出てくるのだと。
スピードスケートか競艇のボートレースのように、付かず離れずの距離感で並走・後走していく面子。
やはり先頭を走るは衛宮アーシュラである。
序盤から飛ばすならば、飛ばせるが―――アーシュラはエリセの手を知っているだけに油断はしていない。調子乗って突っ走って『虚ろ海』を作られたならば、たまらない。
(なんて考えばかりじゃリードは取れないわね)
だが即座に『直感』が働き、最善手が取られる。水面を滑走しながらも、魔力放出のベクトルを増やす。
他三人からすれば、エンジンが最大に噴かれたような気分だろう。
そして三人が気付いた時には、かなり先へと引き離していたのだ。
CADもなしにそれだけの速度を出したことに、2人は驚き、残り1人―――■■ナミの娘は。
(そうでなくっちゃね。アンタは!!)
戦意を滾らせて、航路を黒く塗りたくるのだった。
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『速い!疾い!
アーシュラ贔屓とも取れる実況だが、事実アーシュラは、他の選手たちと違って策を弄していない。
ただ単にボードを魔力で走らせて、自分で水面を動かしているだけだ。
妨害魔法など一つも行っていない。その事実が、競技種目としての正しさを認識させる。
「ある意味では摩利と同じよね」
「私とは少し毛色が違うさ。あれこれと魔法を併用する私と違って、ボード自体をかっ飛ばすアーシュラとでは、馬力の違うカーレースにしかなりえない」
当然、車体も馬力も一級品で、ドライバーもミハエル・シューマッハなのは、アーシュラということである。
「けれど、四十九院さんの水上に設置した精霊魔法が展開されているわよ―――って……」
渦潮が巻いているような水面を見た真由美であったが、そんなものはなんのそのどころか―――
その渦潮の狭間を軽快に鮮やかに通り抜けていく早業に、舌を巻く想いだ。
水面の影響を受けないようにボードも強化したのだろうが、それにしても……。
「村上海賊の娘かしら……?」
「衛宮先生は大分の出らしいけどな」
鮮やかなボードライディングに色々と思うも、それを何とも無く躱していく姿に熱狂は、ヒートアップする。
『『『『GO! GO!! アーシュラ♪♪』』』』
伊庭アリサと遠上茉莉花の小学生に立華と―――アーシュラの召喚したサーヴァントたちが、声を合わせて応援していく。
子犬のような印象をもたせるホテルのウエイトレスさんが、『姫――!!』と声を張り上げていく姿が印象的だ。
「アーシュラのコスチュームカラーの白、黄、黒を混ぜたタオルを振っているな……」
NBAやプロサッカーリーグの応援の仕方に、色々と味なことをする一団だと思う。
そんなことを思っていると状況に変化が出てくる。
リードされまくったことで行き足を止めるべく、三高 四十九院沓子の大技―――あまりにもとんでもない荒海が、アーシュラの前方に出来上がる。
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―――勝負を急ぎすぎたわね―――
まだ前半一周目の後半で、この大技の連発。組み立てを崩してまで、やることだろうか。
それだけアーシュラに疾走されて、リードを広げられてはたまらないということか。
結論を出したあとには、冬のベーリング海のように荒れ狂う海をそのまま超えるのも一興だが……。
「〜〜〜〜♫」
―――別の手で踏破することにするのだった。
詠うような声を上げることで、海を鎮める。
鎮魂の祈りというよりも、人の心に訴えるような呪文が響き、沓子の精霊たちが鎮められた。
やられた沓子としてはたまったものではない。
これ以上、距離を離されては逆転の芽も出せないとして、放った精霊魔法が全て無為に帰したのだ。
力の無駄遣いをさせられたようなものだ。
(ガチンコの殴り合いでは負けるからと、策を弄した儂の失策か!!)
そんなことはあの初戦を観戦した時から分かっていたことだが、それでも―――。
(ええいっ! 落ち着け!! 勝機はやってくる! レースは三周! ケツに着くことすら出来ないままなわけがないのじゃ!!)
そう信じて突き進む沓子とは違い、徐々にアーシュラに近づくものが、現れる。
六高 宇津見エリセ。アーシュラが明確に敵視した女が、アーシュラの後ろに迫っていくのだった。
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「……本当だったらば、ほのかだってあそこに立っていたはずなのに……」
「―――『本当』にそう思っているか、雫?」
「………」
魔法師にとって、認識すべき現実は正しくなければいけない。いつぞやのことを思い出して何となくたしなめた達也だったが、むすっとした雫に苦笑してしまう。
女子決勝ピラーズを終えた雫と深雪の2人と共に、波乗りの決勝を見る。
こうして見ると、少し達也は策を弄しすぎた感はある。それが尽く裏目に出た結果が、ほのかの予選敗退に繋がった。
「バトル・ボードは確かに魔法競技だが、それでも水上滑走の競艇であることを失念していたかな……」
本当に考えるべきは、『クィディッチ』ではなく『モンキーターン』な考えであったのかもしれない。
鋭角的に旋回するアーシュラ。軽快に進んでいく中、後ろからやってくる人間が居る。
アーシュラと同じく学校指定のスーツではなく、『私用のスイムスーツ』を着ている宇津見エリセが追随する。
そんなエリセの格好は……。
「………」
「お兄様、紳士はジロジロと見ないほうがよろしいかと」
「そうか」
あの宇津見エリセの格好こそが、十文字会頭がご執心になる『えっちぃ格好』かと思っていただけだが、妹から窘められて視線を外す。
余談であり確信である達也の知らない話だが、六高にて宇津見エリセが『当初』予定していた格好は、色々と公序良俗違反極まるもので、男子一同は鼻血ブー(死語)してしまうものであった。
スイムスーツながらも、古代日本の衣装を模したそれは―――胸部分などが横から丸見えだったりするのだが、そこを排除して上着を着せることで何とかした。
その際に『アーシュラに勝つためには身体感覚をフルに使いたいんだけど』という、実にらしい『理由』があったのだが、やはり失格になる可能性を考えて、それは不採用となるのだった。
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来たわね。エリセ!!
来たわよ。アーシュラ!!
視線だけで言葉を交わし合う『準サーヴァント』同士。水路を滑走していく2人に眼が離せない。
先に仕掛けたのはエリセからだ。前方の水路に邪霊の沼を作り上げてトラップとしたそれは、多くの選手を苦しめてきた底なし沼のようなものだったが……。
「〜〜〜♫」
再び歌い出すようなアーシュラの声。そして……黒く塗りたくられた水路が、通常よりも澄み切った色の水になる。
船乗りたちを惑わすセイレーンのように美しい歌声が、エリセの邪霊を『浄化』したのだ。
―――、本当に規格外。
だが、それを顔に出さないで、エリセは高波を『横』から発生させる。
『宇津見選手の放つはビッグウェーブ!! これは衛宮選手を呑み込むか!?』
柔らかい横っ腹を付く形で―――とんでもない高さまで登っていく高波を見て魔法に詳しい人間たちは少しだけ気づく。
「―――あれだけの水量の波なのに、コース全体の水量が変化していない?」
「どこの水位にも変化はないな……」
「ど、どういうことなんだろうね?」
気付いた面々が疑問を口にするも、応えてくれる人間は殆どいない。
正答を知っている人間の大半は、
「相変わらずですねエリセさん」
「水を『召喚』するなんて、やっぱり霊基に枠が無い人はズルいなぁ」
「まぁ彼女にも限界はあるんだけどね。しかし―――」
このようなお遊びの戦いで優劣は着かない。しかし、その中で戦っている事実など分かりはしまい。
アリサと茉莉花も理解はしているが、ともあれ―――。
高波が横から迫る中、アーシュラは、進行方向に張り出していた『風王結界』に変化を促す。
気圧に明確な変化が出たのか、彼女の周囲に『緑色の風』が吹き荒れる。
全ての妨害を、障害を、壁を思うがままに突き破って進め!!! 運命の申し子『アーシュラ・ペンドラゴン』!!
その立華の心の言葉を聞いたわけではないだろうが、姿勢を低く、腰を落としてから加速を果たした時には、アーシュラは高波の中に呑み込まれた。
それを横から見ていた人間たちは、脱落ないし、若干の失速を思った。
そして、それを端に居て避けきったエリセに軍配が上がることを確信していた。
―――直線コースでなければ、難儀したかもしれないけどね。
その予測は裏切られる。そんなことは理解していたエリセは、波の打ち終わり―――波頭の白い飛沫の中からアーシュラが飛び出たのを見て、笑みを浮かべる。
―――そうこなくっちゃね。最大級にノッているアナタを倒さなくっちゃ意味がないわ!
などと想いながらも、爆速という勢いで水面を駆けていく2人のデッドヒートは終わらない。
その様子を見ながらも……。
「
「……サーフボードのテクニックだな」
「え?」
「アングルが違えば見えるはずだ。いわゆるチューブライディングだよ」
魔法に頼りがちな人間たちが陥りやすいものと言えるか、実際、横側からの映像ではなくアーシュラの正面、コース正面から撮られた映像で、アーシュラの離れ業が披露される。
波の中に出来上がるセーフスポットとも言える場所―――トンネルのような場所を進んでいくアーシュラの姿は正しくサーファー。
マジックサーフと言えるものを披露しているのだった。
「そんな! 宇津見選手の魔法の効果範囲内だってのに、普通の水と同じく疾走するなんて……!!」
「事実、出来ているわけだからな。仕方ない」
『波に乗る』程度ならば、魔法師の大半は出来るかもしれないが、アーシュラのボードは宇津見エリセが掛けた水の中を走っているのだ。
雫の驚愕も魔法に明るいものたちならば分かる。そういう分かるやつにしか分からないという風なのを忌避しているのが、九島烈であったと思いつつ、付け加えればアーシュラは、高速発動を旨とするCADも使っていない。
理屈頼みの魔法師の大半を置き去りにする離れ業を前にして、どうしても……。
(もやもやするな……)
達也だけではない。全員が、その魔力の煌めきの元で放つ術の根源を知りたくなってしまう……。
CADを使っている自分たちが邪道と思えてしまうぐらいに、王道・正道を貫いたチカラの使い方は―――。
「―――
直視することが辛いのに、眼を伏せることすら惜しいほどの満面の笑顔を見せるアーシュラから達也は眼を切ることが出来なくなってしまい、左手の薬指にて輝く指輪―――レアルタヌアを見て……。
(今日あたりにでもデータを吸い出させてもらうか)
それが、アーシュラを誘い出すための方便も同然だとしても、そんな気持ちに達也はまるで気付け無いままに、レースは終盤戦へと移行していく…。