魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第60話『美少女には魔剣を教えてあげよう♪』by武蔵ちゃん

 

―――レースは既に最終盤である三周目である。

 

水しぶきを盛大に上げながら、モンキーターンよろしく身体を振り回しながら速度を落とさずに、コースを順調に滑っていくアーシュラがトップである。

 

次いで同じぐらいの速度で先頭を狙うエリセの姿。そして他の2人は――――――。

 

「―――三高と七高が加速したぞ!?」

 

「このまま2人だけのデッドヒートで終わらせるなよ―――!!!」

 

「いいぞ―――!!」

 

などと何も分からないでいる大半の観客とは違い、三高 四十九院 沓子、七高 浜田 幸子は屈辱に内心を塗りたくられていた。

 

自分たちは、『己のチカラ』で加速したわけではない。

 

置き土産的に『宇津見エリセ』が残した加速の航路を進んでいるだけだ。

 

そしてその意図も理解している。

 

(宇津見め。ワシとハマコーを衛宮への当て馬にする気じゃな!!)

 

あるいは、鷹狩りの追い込み役とも言えるか。ともあれ、そういう腹立たしい思惑が透けて見える宇津見を崩すべく、精霊魔法『エンコの暴れ水』を放つ。

 

しかし―――。

 

「ヌルい! 甘い! 私を崩したくば、大洪水、大海嘯なみの術を持ってくるのね!」

 

衛宮すらも巻き込んだ術であったが、両名ともその波の動きに負けない、むしろその波の動きすらも利用した走法を見せつける。

 

そして―――。

 

「このまま、当て馬で終われるかぁ!!」

 

「ハマコー!?」

 

「ハマーDと呼びな!! ちんまいの!」

 

「誰が『ちんまい』のじゃ!?」

 

言い合いながらも、七高浜田が放った現代魔法。その中でも水を盛大に動かす術が、前方を快活に進む衛宮及び宇津見を呑み込まんとする。

 

俗に『TUBE』『サザン』と呼ばれるものが、衛宮の水面を乱す。

 

乱れる水面を鎮めるはずの衛宮がそれをしなかったことで、限界か? と幾人かが想い―――しかし、クラウドボールでのことを良く分かっていた一色愛梨は、それこそが衛宮アーシュラの次手、次なる自分を、次なる力を見せてくる前振りなのだと良く分かっていた。

 

(何を見せてくれるのかしら?)

 

そう険しくない顔、どちらかといえば楽しみにするような顔で見ていた愛梨だった。

 

 

そして、妖精たちの出番には少し早い『エルフィンダンス』が披露される。

 

 

 

「アーシュラ―――」

 

力の限界ではないと分かっていても、相手の思惑に乗る彼女を見ると、どうしても不安になるのは、達也の闘い方が、相手が能力を行使する前に即時粉砕ばかりを旨としているからだろう。

 

わざわざ相手の思惑や能力を見るまでもなく戦えばいい。特になにかしら自分を上回るものがあれば、自分に害を加えるその前に叩き殺してしまえ。そういう考えばかりになるからだ。

 

要するに―――アーシュラの言う通り達也は『臆病者』なのだ。

 

 

そして自分とは反対に、勇気ある者……『勇者』としての資質を持つものの振る舞いが披露される。

 

「ああっ! 呑み込まれ―――」

「ない! アイツがそんな無様を見せるわけがあるか!」

「お兄様!?」

 

アーシュラの大海嘯の中での『不安定』に、声を上げた深雪を即座に否定する。

 

そして、事実―――その大海嘯の中でアーシュラは、踊っていた。舞っていた。

 

波に乗るのではなく、波すらもまるで己の舞台(ステージ)であるかのように、姫騎士はボードに乗りながらすべてを決める。

 

魅せるためにキメるのではなく、キメるために魅せる。

 

ライドトリックが、鮮やかに見せられていく。

 

それはまるで『ダンス』である。

 

踊り、舞い、飛び、そしてまた踊る。踊りと舞は、元来日本語では区別される要素である。 

旋律に合わせて縦の動きを行うものが踊りであり、すり足による旋回運動を軸とするものが舞である。

舞踊、とはこれらを統合して、明治期に坪内逍遥が称したものである。

 

その観点で言えば、アーシュラが合わせる旋律とは、すなわち水の歌。大地の歌。山の歌。風の歌……凡そ常人の耳には聞こえないはずの地球の言葉である。

 

それらに合わせて美しい動きが全員の眼に焼き付く。

 

揺れ動く波間を舞台(イタ)として踏んでいくアーシュラは、立っている場所が何であれ何も変わらない。

 

正しく神懸かり。何かが取り憑いたかのように、アーシュラはハマコーの度を超えた妨害術の中でも軽妙さを忘れないでいる。

 

神憑り―――神楽を舞う白拍子のように、彼女に神然としたものを見ている者たちは感じていく。

その状態で他の妨害が飛んできたとしても、彼女は目で見ずに反応ができる。

 

動きの一つ一つが無駄なく、そして彼女を中心として世界が広がるかのように、全ての妨害は意味をなさない。

 

その背中に白鳥の羽を持つかのように、彼女は――――。

 

 

 

「アイツ――――」

 

「「「――――カブいてやがる(踊ってやがる)!!」」」

 

 

誰もが理解を果たしてしまうぐらいに、驚異的な体を使っての芸……。

 

手振り身振り一つ、生き様一人に『赤心』(まごころ)を込めることで、人は輝く。人生は違ってくる。

 

それを言葉ではなく身体全体で表現するアーシュラは、最高の芸人(エンターテイナー)だった。

 

『まごころ』(赤心)を持つから、伝えるものこそ人間なのだと、魔法師全てに伝える……。

 

 

『―――み、見事すぎるライド、いやフェアリーダンス、いやいや、エルフィンダンスと表するべきもので、妨害を己のBIGWAVEに変えた衛宮アーシュラ! 独走状態に入ったか!?』

 

実況も見入っていたぐらいの唖然のあとには、姿勢を低くしてアーシュラは最後の直線コースを駆け抜ける。

 

誰もが勝利を確信する中―――。

 

 

「まだじゃ! まだ終わらんよ!!」

 

勝負は九回になるまで分からない。その前にコールドゲームになる可能性を打ち消すべく、沓子は最後の大技を解き放つ。

 

コースの端から端まで広がり、更に言えば円柱のごとき滝流れ―――下から上へと水が猛烈な勢いで上がっていくものが作られた。

 

 

レギュレーション違反ではないかと誰もが思うぐらいに、強烈な術。

 

水柱―――本当の意味で、そういったものが作られた。

 

強烈な勢いで『上下』に水を吐き出しているそれを前にしては、アーシュラとて止まらざるを得ない。

 

そう浅い考えを持った連中の思惑を切り裂き、眼前の水柱を障害とも考えないアーシュラは、その手に無刀(・・)を持つ。

 

矛盾した表現ではあるが、アーシュラは霊刀でもなんでもなく、ただ己の手に『得物』を握っているというイメージだけで、水柱へと立ち向かうことを決めた。

 

ボードのスピードは緩めない。体幹は間違いなくボードの感触を掴んでいる。

 

掌中(しょうちゅう)に無いはずの刀の重みを感じた瞬間に、アーシュラは覚醒を果たす。

 

「ムサシちゃん! 大剣豪の力 お借りします!!!」

 

そして大剣豪のワザマエが披露される。

 

「天象、海を断つ! 魔法、水濠、何するものぞ!!!―――」

 

剣の構え―――大仰なもの、隙だらけだと、素人であろうと魔法剣士の誰もが思う構えを取りながら、滑るように水柱に急接近するアーシュラ。

 

しかしその構えは、玄人、達人であれば、先の先、後の先、対の先であろうと、どこからでも鋭く打ち据えられると理解出来るものだ――。

 

紫色の魔力光を足元で渦回しながら―――。神域の剣客の技が極まる。

 

「これが―――宮本武蔵の『魔剣破り、承る!』(がんりゅうじま)だぁ―――!!!」

 

――――十字を刻む斬撃の跡だけが水柱に懸かり、それが見えた後には大瀑布として水柱は形を消し去った。

 

そしてアーシュラは、その大瀑布の後ろに駆け抜けていた。

 

とんでもない早業。何が起こったかを正確に見届けたものなど殆どいやしない。

 

そしてその大瀑布の影響を受けて、後続は行き足が止まらざるを得ない。

 

「無刀術での『水着剣豪』の技再現だなんて……!!」

 

「わ、わしの作った水柱を無手で「斬り裂いた」!? うっべべべ!!!」

 

大瀑布の水滴が豪雨のように後続を打ち付ける。

術者である沓子ですらその様子なのだから、威力などは推して識るべしである。

 

そのまま独走状態となったアーシュラを止めるすべはなく、ゴールラインで振られたチェッカーフラッグが勝者を確定させていた。

 

『決まった―――!!! ゴ――――――――ル!! バトル・ボード女子新人戦優勝は、一高 衛宮アーシュラ!! クラウドボールに続き、2種目制覇のダブルヴィクトリー!! 正しく快挙です!!―――続いて二位は六高 宇津見エリセ、三位は七高 浜田幸子 四位に三高 四十九院 沓子と続きます!!』

 

 

実況も大興奮にならざるをえないのは理解できる。全てが超絶の技の連続だ。

 

理屈だらけの解説など不要なぐらいに、超常の理屈で締めくくったアーシュラの力の前に……。

 

「野暮な話だな」

 

結局、魔法師の魔法とて、理屈詰めで『解説』されたところで理解に達する人ばかりではない。

 

それはそれで不明なままでいいとする心根と、無理解な大衆に対する嘲笑という、ある意味下劣なものばかりを魔法師は行う。

 

だとすれば、誰の目に見えても『スゴイ』と分かるやり方……ショーマンシップを意識した闘い方がいいのだろう。

 

たとえ……魔法師が理解に苦しんだとしても、多くの人が『面白い』と思えるものの方が。そういう心根での芸なのだ。

 

「現に、アーシュラの試合だけ視聴率がかなりいいというデータもありますからね」

 

「だろうな。魔法師にしか分かり得ない理屈詰めの闘いなんて、映像では視覚処理されたところで、多くの人が面白いと言えるものじゃないんだろうさ」

 

いままでは―――達也も『それでいい』と思っていた。最終的に勝てば、全ては正当化されるといえばいいのか。多くの人に理解されなくてもといえばいいのか。

 

だが、現在でもプロスポーツ及び学生スポーツでは、勝ち負けに関わらず『面白いプレー』『技ありプレー』『好プレー』『珍プレー』……というのは、多くの人の耳目を集めピックアップされる。

 

別に彼らは、試合の最中にそれを狙ったわけではない(例外もあるが)。ただ勝つために全力を尽くした結果。頭と身体が最高のパフォーマンスを自然(ナチュラル)に行ったのだ。

 

そこにあるのは、『理論理屈』とは真逆の『直観力』とでもいうべきもの。

 

真剣勝負の世界で、一番に重要視される人間の根本能力である。

 

 

「………」

 

悔しさ、悲しさ、怒り―――はなくとも、少しの苛立ちを混ぜた雫の面相が、アーシュラを見ている。

 

ウイニングランを行いながら観客席に手を振るアーシュラの姿は、勝利の女神を思わせる。

 

観客席の一つ、アーシュラの知り合いが固まったところで少し速度を緩めると、今大会では恒例となってしまったゴルシキックならぬ、アーシュラスプラッシュを観客席に行う。

 

観客たちを楽しい歓声に沸かせながら、誰の目にも美しい虹の橋を掛けるアーシュラは、応援をしてくれた北海道の妹分たちなどに、再度手をふるのだった。

 

「さてと……悪いが深雪、雫―――先に戻っていてくれ」

 

「お兄様……言わずとも分かりますが、その……あんまり競技後の女子に近づくのは如何なものでしょうか?」

 

「アイツが『確実』に今日の夕食会に来るというのならば、何も心配はしなかったんだがな」

 

深雪が嫉妬混じりにそういうのは理解していたが、それでも譲れないことは多い。

 

どうしても心配してしまうのは、ダブル優勝したということで、すっかり今日の夕食会を忘れて、知人たちと祝勝会を開く可能性があったからだ。

 

時々、というかかなり薄情なところがあるアーシュラを捕まえるべく、既に十文字会頭などは、立華の辺りにて展開している。

 

まぁ異母妹がいるという暴露があったらしいので、そういう体での張り付きは功を奏しているようだ。

 

……何で同級生と飯を喰うだけで、こんなマルタ○の女における刑事役たちのようなことをやらにゃならんのか。

 

カルト教団の信者どもが襲いかかってきたとしても、鎧袖一触した上で、教団本部からあらゆる違法施設を叩き潰すことも出来るだろう―――そんな想像をした時点で、雫は声を掛けてきた。

 

「達也さん……まだほのかのミラージ・バット新人戦が残っている」

 

「―――ああ、大丈夫だ。微力を尽くすさ」

 

そういう意味での苛立ちもあったのかと思ってしまいながらも、アーシュラを捕まえた後はどうしたものかと想いながら―――。

 

(電子マネーの残高は大丈夫だよな)

 

―――『接待費用』を考えてしまうのだった。

 

 

「完敗よ。―――おめでとう。けれど次は負けない」

 

そんな端的な言葉と握手を以てから、七高 浜田 幸子は控室から一番に出ていくのであった。

 

「土佐の女は潔いの。いわゆる『はちきん』というやつかの?」

 

「そりゃ坂本龍馬の姉 乙女は有名だものね」

 

「だからといって高知県の女が、全てそうじゃないでしょ」

 

ウェットスーツを着替えてから何気なく制汗スプレーを吹きかけながら、どうしたものかと思う。

 

(夕食会まで時間はあるわけだけど―――その間、誰かしらが引っ付いているわよね)

 

筆頭は鉄面皮ノーエモメン『司波達也』だが、そこまで信用はないのかと言いたくなる。

 

「―――ところでじゃ、衛宮。一高のスーパーエンジニア『司波達也』じゃったか……おぬしと付き合っとるのか?」

 

などと考えていたところで、三高 四十九院がとんでもないことを言ってくるのだった。

 

「―――いや、全然違うけど。なんでそんな流言が三高で流れてるの?」

 

邪気のない笑顔で女子らしいトークがしたいと思える四十九院に答えたのだが、本人は至って真面目のようだ。

 

「ボードの準決の後に、一条と吉祥寺のやつが、おぬしに挑戦状を叩きつけに行こうとしたらば、お主と司波達也が抱き合うシーンと出くわしたと言っておったのじゃ」

 

あれか。と思い出して、エリセがいることも踏まえて慎重に返答していく。

 

「抱き合っていたわけじゃない。正確に言えば、抱きしめられただけ。その時、ちょっと司波君と『内緒話』することがあったんだけど、向こうから一条寺コンビがやってきて、聞かれたくないからと、そうされただけよ」

 

自校の一年エースが、青木村コンビのような略され方で呼ばれたが、四十九院は少しだけ苦笑しつつも話を続ける。

 

「どんな話の内容かは聞かないでおこう。しかし、司波達也は気があるんじゃないかの?」

 

「あんまり嬉しくないわね……」

 

額を抑えながら考えるに―――。まぁ、ありえざる未来だろう。そして気があるのも何かの気のせいだと気づくだろう。

 

「まぁアンタそういうのから縁遠いもんね。USNAで弘真(こうま)と付き合ったのも、友達感覚の延長だったし」

 

「なんと!? まさかの元カレありだったのか!?」

 

エリセの無駄な証言で、四十九院にアーシュラの過去が少しだけバレてしまう。

 

別にこの程度ならば、どうということはないのだが。

 

「半年も保たなかったから、そんなロマンチックなことが無かったけどね」

 

自嘲気味に吐き出しながら、思うことはコウマに対するものではない。

 

半年間……側でイヤな想いをしていた相手を思えば、悪いことをしたという後悔の念ばかりだ。

 

結局、自分が本気でないならば、そんな中途半端は、他の想っている人を傷つけるだけなのだ。

 

そんなことも理解できていなかった。

 

 

「もういいでしょ四十九院さん。ワタシも失恋の恋バナなんて積極的にしたくないし、惚れた腫れたなんてのは―――ワタシには縁遠いものなのよ」

 

「ううーむ。歪んどるの」

 

やかましい。と無言で想いながら三人同時に更衣室を出ると少し離れたところで廊下の壁に寄りかかっている一高の九校戦制服を纏う男が一人。

 

対応は―――ただ一つ!

 

「キャー!! 一高の司波達也くんが女子の控室に―――!!」

 

「エッチ―――!!!」

 

「ヘンタイ―――♪♪」

 

「入っていないだろうが。渡り廊下で待っていただけなんだが、六高の宇津見はともかく、三高の四十九院まで……人聞き悪いことを言うな」

 

最初にいうべきことを最後にする司波達也に、何の用か―――察せられないほど、アーシュラもバカではない。

 

「夕食会まではまだ時間があるでしょ。何をしに来たのよ?」

 

出迎えというか監視だろうと思ったのは間違いではないらしくて、少しだけ苦虫を噛んだような表情筋の変化を見届ける。

 

「祝ってやろうかと想って、ケーキどうだ?」

 

「結構よ。疲れているんだから部屋で休ませて」

 

片手を上げて『パス』を告げて去っていくことにする。

 

「………アーシュラ………会長からの伝言だ。今日の夕食会には、ピラーズでの衣装を着て出席してほしいそうだ」

 

「なんでそういう風なことするのかな? とはいえ、そう言うからには別に従わなくてもいいわけだ」

 

「まぁそうだけどな」

 

達也ですら嘆くほどに我道を往くアーシュラ。羨ましさ半分、不安半分を持ってしまうぐらいに闊達にものごとを裁いていく彼女は―――――――。

 

どこまでも魅力的であるように、達也には思えてしまうのだった。

 

 

そして夕食会は始まる……。

 

 

 

 

 

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