魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
ホテルに併設されたカフェラウンジ。この真夜中においても営業してくれている場所に、一高女子がオールの面子で集まっていた。
本来ならばキャピキャピしていてもいい集まりではあるが、居並ぶ面子からそういう女子特有の空気は感じられない。
そして、一人の女子の言葉を皮切りに話しは始まる。
「んで、真夜中にワタシ一人を弾劾裁判に掛けるという、実に下劣極まりないことをする気持ちはどうなんだか」
「そ、そ、そういうわけじゃないわよ……いえ、白状するわ……私はアナタに嫉妬している。アーシュラはお兄様に―――司波達也に冷たいのに、すごく乾いた態度ばかり取っているのに……なんで、アナタばかり……!!」
悔しげにうつむき加減に言う深雪に、特に思うこともなくアーシュラは返す。
「怖いからじゃない? ワタシの全てはアナタと司波君を上回っているもの。いざとなれば、気に入らない相手を威圧して、脅して、黙らせてきたアナタたち兄妹の在り方は、ワタシには通用しないもの」
居並ぶ面子の中でも、主要な会話は深雪とアーシュラになっている。
だが、それを聞いている面子は、どうしたものかと思う。
深雪が半ば泣きながら詰る言葉はアーシュラには通用しない。それどころか返す刀で、深雪を斬り裂いていく様子になんというか……色々だ。
「だから、ワタシに礼を尽くす方向にシフトしたんでしょ? 言うなれば、太閤が神君を従わせるために、母も姉も人質として送ったように」
「お兄様のあすなろ抱きを、秀吉から家康に贈られた陣羽織みたいに語るな!!!」
テーブルをばしばし叩いて泣きながら詰る深雪。中々に歴史を知っている辺りに変な関心をしつつ、嘆息しながらフォローをするために、マスターたる立華は口を開く。
「まぁ司波君からすれば、アーシュラはいままで周りにいなかったタイプの女子なんでしょ―――深雪さんと光井さんを見ていれば分かるけど、結局、自分に媚びている女じゃないからこそ興味を覚えちゃうんじゃない?」
「「こ、媚びている女!!??」」
聞き手の品性を疑わせるような言葉だが、一部の人間は『正しい表現』だと思えていた。
ほのかと深雪が驚愕しているが、雫もそれは薄々感づいていた。
「彼の人物像とか正確にはわからないけど、多分……自分のやることに賛同と称賛だけを与える存在ばかりを周囲に置いて、自分のやることに反意と反対を示す存在をとにかく冷遇してきた―――まぁ実社会でもそういうのがあるけれど、彼の場合、それがとんでもないレベルなのよね」
「そうだとしても―――達也さんはスゴイんだもの!! 術式のコードを書き換えたり、ちゃんと理論だてて、戦術だって!!」
「別に私は『能力値』的なものを論じてはいません。しかし、その自分の在り方、自分の人間性に対して噛みつかれた時に―――アーシュラはぜんぜん違う存在だった。自分が何か自慢気にしても媚びてこない女だから、どうしても眼を離せないんでしょうね」
彼を論じている光井ほのかとて、達也の人間性ではなく、そういった能力的なものだけが優れているとしか語れていないのはどうかと想いつつも、話は続く。
「確かに、な……藤丸の言いたいことは、ちょっと私は分かる気がする」
「摩利?」
今まで一年同士の話を聞いていた、ある意味聞き役であった、3年で風紀委員長の渡辺摩利は、ラウンジにてジュースを飲みながら春先の話をする。
「風紀委員として採用した後、即座に委員会本部に2人を連れて行った時、片付けをしている最中の、達也君とアーシュラの会話を思い出すよ。
―――『何故、CADはそんな不効率な道具なの?』 っていう話をな。
そうか……あの時から達也君は、アーシュラに執着していたのか……」
「「――――――」」
得心・納得をしたかのように何度も頷く渡辺摩利に対して、明確に達也に想いを寄せる深雪とほのかの険相が向けられる。
「けれど、アーシュラさんは……司波君を嫌っていますよね? それなのにそこまで近づこうと思うんですか?」
「確かに、彼のパーソナリティを鑑みるに、
中条あずさも、入学初期の2人の会話は耳に入っていたからこそ疑問を呈したのだが、言われてみれば少しだけ納得する。
自分と正反対だからこそ、惹かれることもあるのだと。
「だからこそ
苦笑してからオレンジジュースを飲む藤丸。喉を湿らせてから口を開く。
「けど、それが恋とか愛とか、そういうものかはまだ不確定じゃないですか?」
「あすなろ抱きなんて夕食会でやって、それは説得力無いわよー……」
付け足すかのような藤丸のフォローに対して、七草真由美は、そりゃ無理な話だと何とも言えぬ顔で思うのだった。
「………私はなんだか納得できない……ほのかは、達也さんを好きだと隠すことも出来ないぐらいに、いつでも訴えてきたのに、あんなしょっぱい対応ばかりの衛宮さんに……」
「それが恋愛の妙なのかもね。結局、『みんな』に自分のことを褒め称えられていても、物足りない―――自分を認めてくれない相手、自分よりも『人間』らしい存在に、自分を見てほしいってところかしら」
「けれど衛宮さんは達也さんを必要としていない―――」
「必要としていないからと、物申すことがないという話じゃないってところかな? クラウドでアレコレあった分、私には分かる気がするけど」
立華の言葉にそれでも納得できない雫に対して、里美スバルが苦笑しながら言う。
達也にとってアーシュラとは、深雪の思うような鼻持ちならない相手ではなく、不器用な男なりに色々と行うことで、何が何でも自分の方を見てほしい相手ということだ。
「なんだか『100万回生きたねこ』みたいだねー。……ああ、九校戦会議の時から、司波くんに『自慢しい』だの『傲慢ちゃん』だの言っていたのは、そういうことか……」
春日菜々美の言葉で、殆どが納得する。
―――当然、納得できない面子はいるわけで、中でも……。
「さっきから黙って聞いていたけど、あの鉄面皮ノーエモメンが、ワタシに懸想しているとかあり得ないわよ」
話題の張本人たる
ちなみに、ほのかと深雪は『鉄面皮!?』『ノーエモメン!?』などという評価に、怒りとも驚きとも言える表情を浮かべていた。
「そしてワタシが司波くんを想うこともないわね。いま、ワタシが『コレ』を着けているのは、司波くんなりに考えたことを証明してあげるため―――要はボランティア活動よ。まさか左手の薬指に嵌めてくるとは思わなかったけど……」
コレと言った後に、
本人は不満げな様子で『それなりに太い指』を反るように伸ばして、見ている指輪に嘆息しているのだが……。そんな様子ですら、見ようによっては男からの贈り物を無下にはしない慈悲深い女に見えるのだから―――すごい話だ。
着ているのは、色気もなにもないライオンパジャマだとしても(爆)
「驚いたな。今まで―――その魔術で隠しながらエンゲージリングを着けていたのかい?」
「だからエンゲージリングじゃないっての……とにかく、コレを使って石を玉に変える!
里美スバルの感心とも驚嘆とも取れる言葉に、げんなり反応するアーシュラだが、それでもやるべきことはきっちりやる。
それが、みんなのためになるならば、何も想うところはない。
「……アーシュラはズルいですね。お兄様の能力やスキルを必要とせず、それを称賛しない態度がかえって気を引くだなんて……」
「アナタや―――多分だけど年下のご親族……『いとこ』とかから褒めちぎられていたから……そういうことをしない、必要としない人間だから、妙にワタシが気になるんでしょ。俺様タイプな男にはよくあるとかいう、一過性の熱病みたいなものだと思うけど?」
髪をかきながらいじけるような深雪にげんなりしながらアーシュラは言うも、さんざっぱら言われたことで意見に変節が出てきたようだ。
「今となっては、
「そりゃ考えすぎでしょ……とりあえずアナタの兄御の試みは、父さんの考えでもあるから、万全にこなしてあげるわよ」
深雪の言葉にアーシュラは嘆息してしまう。確かに、そう見れば何かの少女漫画の展開や関係性にも見えるが……。
(彼と会話した所で、一晩で法隆寺を建てられるような心にはなれないわよ)
ただ……一つだけ『交わること』があるとすれば……。
そんな風に嘆息していた所、一人の女性が立ち上がり、アーシュラに口を開く。
「部長?」
声を上げたのは光井ほのかであり、その人物を示していた。
ボード・バイアスロン部の女子部長『五十嵐 亜実』。怪我を負ったことで本戦ミラージを欠場せざるを得なくなった人が―――。
「司波くんとのあれやこれやの話が出てきて何だけど―――お願い衛宮さん!! ウチの弟―――鷹輔を―――『男』にしてあげて!!!」
両の掌を合わせて必死の懇願―――頭を下げてでも願うことに対して……。
全員から、エターナルフォースブリザードともいえる視線が飛ぶのは間違いなかった……。
「そ、そういう意味じゃないから!」
だが、そういう風にしか聞こえませんとして、五十嵐亜実に対してアーシュラは生ゴミを見るような眼を向けるのだった……。
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翌日―――。
一高テント内。本来ならば、様々な人間が忙しなく動いていてもいい時間帯。午前中のその場所にて―――。
場違いながらも、優美で優雅―――されど時には勇壮な音色が響き渡る。
だが、それは転調を繰り返しながら大いなる『魔曲』へと変貌していき、聴いているものたち全ての身体と『魔法師の演算領域』に、『変調』ないし『安定』『上昇』『限界突破』などを与えていく。
弦を震わす音色が変わるたびに、それが付与されていき、演奏が終わった頃には―――「調律作業」は終わっていた……。
弾き終わりは、バイオリン保持を終える前から分かっただけに、それを聴いていたものたちは、盛大な拍手を狭いテント内でも行うのだった。
「いやはや……こんな技法があって、しかも―――音楽としても十分以上に水準を満たしているなんて……」
側聞する限りでは、同じくバイオリンでセミプロ級の腕前を持っているとかいう七草会長に、平淡な顔で返す。
「身体及び魔力の賦活は、『サウンドスリーパー』では出来ませんからね。心身領域と魔法力が直結しているかどうかすら不明な以上―――まぁとにかく、残るは勝つだけなので、あとはよろしく」
難しい説明はやめて、面倒なのであとは上役たちに丸投げするのだった。
本当に聞かせたあとは、戦うだけなのだから……。
「―――ありがとう衛宮さん!! 何だか、変な感じだけど『勇気』をもらった気分だよ」
(そういう曲目リクエストだったからね……)
興奮しきりでこちらに近づく五十嵐 鷹輔に、「第1試合がんばってね♫」とやる気を上げるように作った『とびきりスマイル0円』で言いながら、心中でそんなことを想っていたアーシュラは―――。
……昨夜のカフェラウンジでの女子衆の会話を思い出す。
『つまり、緊張しいの五十嵐君をアンインストールして、恐れを知らない戦士のように振る舞わせるために、渡辺委員長の時のような調律作業を頼むと?』
『ウチの弟が、プレッシャーに弱いのは分かっていたのに、三巨頭に伝えておくべきだったのに……』
実弟と参加出来る唯一の九校戦ということで、舞い上がっていたことを少しだけ後悔している五十嵐先輩に……フォローになるかどうかは分からないが、どちらにせよ一年男子全体がブレーキになっているのは事実だと伝えておく。
『まぁ傍から見ていれば、そうなのよね……人選を間違えたかしら?』
『そもそも、一年男子なんて跳ねっ返りの暴れ馬みたいな連中、まとめるべき『チームリーダー』がいない印象ですね。能力値は高いんだけど、あれじゃ『個の集団』でしかありませんよ』
中々に見ているアーシュラの言葉に、此処に居る三巨頭のうちの2人は肝を掴まれた気分になる。
『―――いまさらな話ですけどね』
嘆息しながら曲目でも検索しているのか、楽譜を
―――そして、このテント内において、魔曲は奏でられたのであった……。
「さてと、一仕事終えたのでソト出てきます」
「……たまにはテント内でお話したりしない?」
「いや、お気遣い結構です。何かあればご一報を端末に」
プリンセス・ガードに出場する五十嵐と皆本を送り出したアーシュラは、テントから退散する。第二試合まで―――周囲を『警戒』することにしたのだった。
(そろそろ『何か』起きてもおかしくない頃合い……聖堂教会の代行者は言っていた。この大会の関係者の中に『死徒』はいるのだと―――)
生徒、運営委員、はたまた観戦客。いくらでも容疑者はいるが、それでも―――
(大会が終わるまでに見つからなければ、魔法師だろうと、そうでなかろうと諸共に殺すか)
大雑把すぎる教会関係者に頭を痛めつつも、ここに『サン・バルテルミ』が起こらないようにしなければならないのだ……。