魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
「なるほど、事情は理解できました。が、しかし―――ここまでなる前に止めることも出来たはず」
「それを言われると少しばかり心苦しいですね……けれど、興味があったんですよ。メイガスというものの力に―――」
模擬戦部屋の床に正座させられながら、アルトリア先生の質疑に対して七草真由美は正直に答える。
傍で聞いている達也と深雪は良くわからないのだが、十文字先輩―――会長と同じく十師族の三年生は、アーシュラと立華のことを知っているらしく、聞いた七草会長は渡辺委員長に頼む形でここ数日、こういった機会を狙っていたということだ。
校門前でのいざこざも、止めようと思えばいつでもストップを掛けられたところからして、陰謀がすぎていないかと思う。
「えっ? 衛宮さんも藤丸さんも魔術師なんですか!?」
「―――」
「そうですよ中条先輩。先輩の中での『魔術師観』が、どういったものかにもよりますが……とりあえず最近は、中条先輩みたいな『ちびっ子』は食べていませんね」
「ひぃいいい!!!」
明らかに怯えを見せている中条あずさを更に怖がらせる藤丸立華に、『悪趣味な』と誰もが思う。
ちびっ子などと呼ばれたことに対する憤りなどは、霧散しているようだ。魔法師の大半は魔術師に対してネガティブなイメージしか持てないのは当たり前だ。
「リッカ、そういう悪趣味な真似は止めなさい。アナタの専攻は天体魔術であって
「いやー、中条先輩を怖がらせたくて♪」
端的な理由に『更に悪趣味な』と誰もが思うのだった。
「この学校にも、魔術師でありながら『魔法師』として潜り込んでいる人間もいるはずですから、堂々と言ってくれている分、藤丸さんも衛宮さんもまだ『マシ』な方でしょう」
そんな2人に対して、とんでもない『内情』をバラす市原先輩の言葉。
その言葉に中条先輩だけが驚くのだった。
「天体魔術ということは拙速な考えかもしれませんが、藤丸さんは『カルデア派』の方なのでしょう。西欧財閥、聖堂教会と組んでいる『アルビオン派』とは毛色は違うと考えますが、如何?」
「……随分と『我々』の内情に詳しいですね市原先輩」
「私も家が没落した時に、『どちらか』とやっていかないかと両親が話していたものでして―――まぁその前に、魔法協会から『やんわり』と説得されてそのままということです」
市原先輩の家の事情は見えないが、そういう人もいるらしい。魔術師と言えば魔法師にとって『不可解な人種』にしか思えない。
彼らが希求していることが分からないというのが一番だが……。
「まぁどちらにせよ。頼りになる後輩がやってきたのですから、こき使うことにしましょう」
「リンちゃん! もうちょっとオブラートに!!」
そんな言葉で、それ以上の追求は止みになってしまった。
対して2人は、やる気はないらしかったが……。
「カツトからも念押しをお願いされていましたので、言わせてもらいましょう。
いいからやりなさい―――これ以上ゴネて断るならば『山』です」
アルトリア先生の一喝とも説教とも言えぬその言葉で―――。
「渡辺委員長。風紀委員として衛宮アーシュラ、活動させてもらいます」
「七草会長。生徒会役員として藤丸立華、粉骨砕身させてもらいます」
180度の態度変更を以って請け負う2人の姿に、『山』ってなんだ?と恐ろしくて聞けない疑問が出来上がるのだった。
固まった表情で完全に魂が抜けているとしか言えないそれは―――アルトリア先生だけが出せる最強の呪文なのかもしれない。
色んな悶着ありながらも、2人はそれぞれの役職の場所に赴くこととなった2人。
その前に、模擬戦部屋に出来上がった破壊痕から壁の完全修復まで行う『手際』に驚くのだったが……2人にとっては普通のことらしい。
「そりゃ魔術師同士が戦えば、『規模』次第ではとんでもない破壊が起こるからね」
「秘匿をするためには、世俗の方々からこういった『異常』を隠す
何を当たり前のことをという感じに言う2人に対して、そう考えれば魔法師というのは、かなり世間様にとって迷惑な存在なのかもしれない―――。
そんな感想を抱きつつ、アーシュラと一緒に風紀委員会本部とやらに向かうと……。
「きちゃにゃい! 渡辺先輩、汚部屋女子なんですか―――!?」
「どういう意味だ!? 私の部屋はちゃんとしているぞ! シュウがいつ転がり込んできてもばっちり!! 問題は、ここにいる連中が大雑把すぎることだ!!」
鼻を押さえながら嫌そうに言うアーシュラと、せっせと掃除に励むことであった。
達也も、放ったらかしにされているCADをアーシュラの掃除でダメになる前に保護することで、掃除は一時間もしない内に終わりを迎えるのだった。
「そのままでいいから聞いてくれ。お前たち―――特に達也君をスカウトしたのには理由がある」
耳をダンボのようにしながらゴミ袋を縛っていたアーシュラの聞いた通りならば、2科生で初ということが一番の目的のようだ。
「今まで我々は、ある種の人種差別のように『能力の有無』を盾にして、2科生を『取り締まる側』に入れてこなかった。
その軋轢こそが、我々が何とかしたいものなんだ」
風紀委員長はそう言うが、どう言ったところで『取り締まる側』というのは嫌われ者になりやすい。
更に言えば、組織である以上、権限がある分『思いあがる』輩は出やすい。
どこの国でもそうだが、いわゆる『不良警官』というのは出る。そういう『思いあがった愚物』がマイノリティに対して差別的であれば、一気に火が付き暴動となる。
(更に言えばUSNAでは、警官の『アルバイト』が許容される。まぁ州によって違うけど、公務員的な側面が薄いんだよね)
そんな風に思いながら、警務として徹底させるならば、部活に入ることすら許さない方向の方が同部活に対する『温情』が出にくく、かつ『公正』さが出ると思うのだが、その辺りの『ツメ』が委員長は甘い。
マイノリティに対してだけ向けられたものではないとアピールする為の、2科生の風紀委員就任なんて――――――何が変わろうかと思う。
『フォウフォウー』(意訳:意味不明だよねー)
アーシュラの内心に対して同意をしたフォウに苦笑しつつ、所詮は学生の風紀委員なのだ。そこまで求めることは無理なのだろう。
肩に移動したフォウと一緒にゴミ袋を捨てに行こうとしたアーシュラを止める委員長。
「なにか?」
「いや、お前は何か意見は無いのかなーと思って」
「ワタシは一科生ですし、そもそも『魔法師』じゃありませんから」
なんてドライな言葉を吐くアーシュラに渡辺委員長は苦笑する。
だが、そこでアーシュラはCADを持つ達也に向かって口を開いた。
問いかけるべきは彼に対してのはずだから……。
「司波くんが持ってる『それ』ってさ、結局……何のためにあるの?」
「?? どういう意味だ?」
「魔法師はさ、『それ』を手にした瞬間から『平均化』したはずなんだよね。
けれど―――何で一科と二科なんて区別が着くの?」
「……それは拙速な結論だ。人それぞれに適性や得意なものがあるように、魔法師にもそういった区分けがある……如何に多くの術式が登録できて、様々な魔法式を起動できたとしても、それを正確に、ブレがないままに大規模な形で発動出来るように訓練することが求められているんだ……」
少しばかりたどたどしくも、言葉を選びながら達也はアーシュラの疑問に返答したが、それでも彼女は納得がいかないようだ。
「けれど、機械の調整の良し悪しで左右されるものなんて、結局
『人理』の極みとして『神秘の御業』を技術に落とし込むならば―――魔法師と呼ばれる存在には、『大差』が着くなんて道理に沿わないと思えないの?」
達也からすればアーシュラの言動は、魔法師のことを分かっていない人間の拙い理解にしか思えないが(一部、意味不明な単語もあり)……よくよく聞けば、今の魔法師社会を徹底的に皮肉った言葉で正鵠を射抜いていた。
現代の医術が、『肥満』というものを本人の『不摂生』の末ではなく、『病理』として『切除』『解消』を可能とし、視力の矯正すら簡単にした世界で――――。
魔法師の世界だけが、そのテクノロジーを遍く全ての人に恩恵として与えられていないのだ……。
何故、技術で『昔』を駆逐したというのに、それが全ての人間に与えられていない?
個人個人の『資質』によって差が着く分野であるならば、テクノロジーはそれを、『差』を埋めるべきなのに……。
そういう風にアーシュラは詰るように言っているのだ……。
次いで彼女は口を開く。
「かつて、様々なものの輸送手段として一番に優れていた
馬は人々の輸送手段と連絡手段から陥落を果たして、鉄道路線は世界の標準となった。
この流れは連絡手段こそ電信に奪われたけど、輸送手段は未だにトップだ」
「それは――――」
「人々はどうして鉄道が走っているかは知らないけれど、それがどういう『機能』かは分かっている。電気はスイッチを入れれば使えるもの、水道は蛇口をひねれば出るもの―――『そうしておけば』良かったんだよ。たとえそれが社会的にスポイルされた結果であっても、現代魔法もそういう風にしておけば良かったんだよ。
人理の果てに手にしたものが、その『コードキャスト』ならば、使える人間に『絶対的な資質』を求めなければよかった―――『私』が考えるのは、そういうことです……」
アーシュラの言葉は、呪いのようにこの場にいる魔法師2人を苛む。
それは……魔法師を『超人』という域から『達人』程度に貶める所業だ。だが……それを求めるべきだったという言葉は間違いなく『正しい』のだ。
どうしようもなく『正しくて』、それを『否定』せざるを得なかったのだ。
「だとしても……今はまだ、その『領域』に魔法師及び非魔法師を乗せられていないんだ……悔しいことにな」
「そう。悲しいね。みんなが『生きている』のに、身を切られるような思いをしている人間もいるのに……」
―――『未来』が変えられないことは―――。
寂寥を灯した瞳のアーシュラの二の句が、達也にだけ明朗に分かってしまった。
その唇の最初の動きだけでそれを理解してしまった達也には、何も言えぬまま―――姫騎士は去っていく―――。
ゴミ袋を捨てるためだけに……そのゴミ袋の中には、もしかしたらば―――『焼却』してはならないものがあったとしても―――要らないものとアーシュラのように『誰か』が判断したならば、そうならざるをえないのだ……。
・
・
・
……つつが無く放課後に至るまで授業を受けることで、一日を終えた気分のアーシュラと立華は、前と上に伸びをしつつ身体を解していたのだが、今日一日かけて色んな人間に、魔法科高校の役職に就いたことを根掘り葉掘り聞かれて、それが残っていたことを思い出すのだった。
忘却したかったことであると同時に、部活勧誘期間とやらであることも加わり……気分はドンラッキー。
「さっ、行こっか。うだっていても問題は解決しないからね」
「うう〜〜みゅ。いつまでも悩んでいられないか」
是非もないヨネ!の精神で、そろそろ行くようだな、と立ち上がる。
事前情報から『作っておいた』赤布を手にしたアーシュラに声がかかる。
同じクラスの相津郁夫だったかと思い出して、応対する。
「衛宮さん」
「? どったの?」
「いや、オレは剣術部の演舞を見に行こうと思っているからさ。それだけ……」
「そう。怪我しないでね。何でもこの時期は部活間で魔法の打ち合いもあるらしいから、相津くんも気をつけて」
「! ああ、ありがとう……」
恐らく相津は、アーシュラを剣術部に誘いたかったのだろうが、本人が弓道部に入ると聞いていただけに、そちらにまで話を伸ばせず、それでも向けられた労りの笑顔だけで、天にも上らんばかりの相津郁夫に『哀れ』と立華は思うのだった。
(なんでこの子ばかりモテるのかしらね……USNAにいた時にも、アンジェリーナと私もいたのに、男子は全員コイツにばかり目をやっていたもの)
ただ伝承を紐解けば分かることもある。
騎士王アルトリア・ペンドラゴンの母親というのは、当時のブリテンにおいて絶世の美女として存在していた。
ブリテンの王『ウーサー・ペンドラゴン』の家臣、コーンウォール公『ゴルロイス』の妻『イグレーヌ』は、ウーサーが是が非でも欲しがったという女性だが……。
(まぁ結局、どうやってもコーンウォール公に操立てしたイグレーヌは首を振らずに、やむを得ず花の魔術師『マーリン』に変身術を掛けてもらって―――だったものね)
軍勢を以って攻め立てたとしても、コーンウォール公は敢然と立ち向かって、それでも最終的には『ウーサー』と婚姻を結ばねばならなかった事実。
戦国の世の姫君などどこでも同じだが、それにしても女のために家臣を攻めるなど、実はイグレーヌ妃には何かあったのではないかと思うほどだ。
(意図しない魅了、あるいは『意図』してウーサーを魅了した……)
前者であれば可哀想な乱世の姫で通るが、後者だった場合とんでもない悪女である。
そして後者の可能性を考えられる要素は、モルガン妃からありったけ考えられる……。
(じゃあアーシュラはどうしてなのかしら?)
という疑問に辿り着いた立華は、うんうん唸ってしまい……。
「リッカ大丈夫!?」
「だいじょばない!!」
「その妙な日本語が出てる分には大丈夫だね」
幼なじみは塩対応であった。まぁ、妙なことを考えていたのはその通りなので―――途中で鉢合わせした司波達也にアーシュラを預けて風紀委員会に連れていかせるのだった。
かなり微妙な表情を司波達也はしていたが、行き先は一緒である以上、そうせざるを得ないのは彼にも分かっていたことだ。
「さてと―――私も行くとしますか」
生徒会という名の新しき戦場に向かう前に―――見えてきた『ビジョン』。そこに現れるものに顔を顰めた。
「―――……」
そこまで見えたことで、これが祖母の求めたオーダーの『序章』なのだと分かった。
だが、それにしても急展開ではある……。
人理版図に現れた『歪み』。人類の航路図を破却させんとする『誰かの企み』を阻止するオルタナティブオーダー……それは、『ここ』から始まる。
『分岐点』に立ちながら、信ずるべきはアーシュラのみ。
その『心』で藤丸立華は歩みを止めないでいく―――。たとえそれが……どんな結果になろうと……。