魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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データが吹っ飛んだ。

最近、googleドキュメントが使いづらい。そのせいかword形式で打っていたデータが保存及びアップロードされず、これは第二稿ともいえるものです。

まぁ大筋は覚えていたんですが、ガラル三鳥ならぬガラル三騎士のうちのトリ子を引けなかった呪いか。はたまたランスロっ子ちゃんってエクシアよりもBB戦士の白龍頑駄無に似ていると思った呪いか―――まぁともあれ書けたので、どうぞよろしく。


第69話『break up!』

衛宮アーシュラの恐るべき精神攻撃に、魔法科高校全男子生徒が、いろいろな意味で『やられた』としても、試合は見なければならないとして、誰もが一高の試合に注目する。

 

最初に前線に躍り出た衛宮アーシュラが、偵察部隊3名を無力化したあとに、偵察が全滅したことを受けて動き出した8名を森の中に引きずり込んでいった様子を見て―――三高の1年エース2人は考える。

 

 

「あの調子ならば、8名を野戦で下すこともできそうなのに、なぜワザワザ森の中に招いたんだ?」

 

「消耗を気にした―――そんなところか? いや、ヤツの魔力量は規格外だ。そんな訳がない」

 

「そうだね……―――衛宮さんにだけ気にしていちゃマズイね。司波達也も接敵したみたいだ」

 

真面目な会話をする2人だが、その様子は若干シュールなもの。

 

なんせ2人とも鼻にティッシュを詰め込んで、そんな会話をしているのだ。

 

「ホントウ―――男って……」

 

「いや、そうは言うけどさ。あれはちょっと卑怯だ―――なんていうか夕食会では、あんな女っ気を見せないでいたのに、ここに来てアレだぞ。ギャップ萌えってやつなんだよ一色」

 

「熱弁を振るってまた鼻血ブー(死語)しないでくださいよ。戦う前から貧血状態とか洒落になりませんし」

 

2人の男にティッシュを寄越した、この大会では珍しい金髪の美少女の言に、一条としても、申し訳ない限りである。

 

 

「一色さんも、あんな格好する?」

 

「衛宮さんの衣装が見た目通りの『ただの衣服』であれば、それで良かったんですけどね―――あれと同じものは用立てられませんわ」

 

ジト目で吉祥寺の言葉に返した一色愛梨だが、その言葉の意味にどういうことだと思う。

 

「ワシの目が見えた通りならば、あのセクシー&キュートな魔女衣装は、精霊や妖精などが作り上げたものじゃろうな。糸の一本一本、生地の織り目にすら格別のチカラが通っておる」

 

「そんなものを着ていたのか、彼女は……」

 

古式魔法の大家であり、精霊魔法に通じた四十九院沓子の言葉に、一条は驚愕する。

 

よくあるファンタジーゲームにおけるビキニアーマーの防御力とかに、明確な説明が出来ないでいたが、そんな風なことを言われると納得してしまいそうになる。

 

「多分、プロテクションスーツを着ることを許されなかったからこその策なんだろうね」

 

「……現代魔法や魔法家がいいようにやられっぱなしだからこそ、そんな風にあからさまなルーラーバインド(支配者からの禁則)を行っているんでしょうけど―――不愉快だわ。手枷足枷を嵌めた相手に勝ったとして何がいいんですか!」

 

「……十師族にいる俺とて、こんな闘いはしたくない。やるならば互先でやりたいさ」

 

だが、我を通して『全ての師族』に意見を通せるほど、一条将輝は強力ではない。

 

せめて自分の父親だけは、そういう裏工作などに手を染めていないことを信じたいが、それでも……負けてしまったことは事実なのだ。親に養われている身としては、これ以上の我は通せない。

 

「まぁまぁ、落ち着け愛梨。別に一条殿や一色本家の思惑と決まったわけではあるまい。限りなく黒に近いグレーじゃが」

 

「沓子、フォローになってない」

 

栞に窘められながらも、衛宮の扱う精霊―――いや、恐らく妖精魔術は教えてもらいたいので、目を向けることは忘れない。そうしていると、遂に一高モノリスに八高のアタッカーが到達したようだ。

 

 

3対1の闘いの様相―――それは、1に不利なものになるはずだったが、予想外なことにどちらも不動の状況になっていた。

 

(なんだ。こいつらどうして動かないんだ?)

 

1である西城レオンハルトは、目の前―――モノリスに鍵を打ち込める範囲に入ってこない八高に少しの疑問を覚えたが、即座にカンよく察した。

 

(そうか、こいつらこの武器が、アーシュラの持つアッドと同じだと思っているんだ!!)

 

要は八高はビビっているのだった。そうと分かれば、レオは早かった。

奇襲は相手の出方を待つよりも先に先手を取るもの。闘いの勘所を押さえられるレオの思考は行動となり、分離されていた刃を振り回して―――八高アタッカーの脇腹を思いっきりぶっ叩くのだった。

 

「ぶごっ!!!」

 

「なっ!?」

 

「そういう武器か!?」

 

一人が思いっきりふっ飛ばされて、一人が驚いて、一人が察したが、そうしたところでもはや遅い。

 

即座に広く散開出来ていればよかったのだが、殆ど横並びであったことが災いして、ふっ飛ばされた同級生がのしかかる重みで身動きを取れないところを見て、レオは頭上ほどの高さで小通連を振り回すのだった。

 

人間、如何に冷静さを持とうとしても、小さな羽虫―――毒持ちの『蜂』が頭上で動いていたら、羽ばたいてれば、どうしても気になるものだ。

 

更に言えばそれが蜂よりは死に対する恐怖がなくても、それなりの質量と重量を持った『物体』であれば恐ろしいものだ。

 

ブンブンと膂力の限りで振り回された刃先が遂に―――。

 

「がぁっ!!!!」

 

「山田!?」

 

一人、気絶した相手を介抱していた一人のヘルメットをふっ飛ばした。

 

これにて2人が脱落したことで、残り1人は覚悟を決めて、レオから離脱を図り―――それでもモノリスを攻める姿勢は崩していない。

 

その姿勢を見て、一度だけ刃先を柄に戻したレオ―――。

 

恐らく、相手はこちらが振り下ろした刃を受け止めてから何かをしてくるだろう。

 

小通連の刃先は、決して現代魔法の障壁などで防げないものではない。

 

移動魔法なのか、それとも何なのかは分からない。だが、それでも―――振り下ろされた刃先を受け止めることを選んだ八高のアタッカーは―――。

 

「パンツァー!!!」

 

投射されて目測通りに自分の頭上に来た刃先を、上方に展開した障壁で受け止める。そして刃先を投げ捨ててその攻撃手段を失わせたあとに―――。

 

というのが目論見だったのだが、それは容易く崩れる。

 

頭上に振り下ろされる刃がバラけて細片の刃になる。

 

その数は13ほどになろうか……。

 

そして、障壁の範囲から逃れて側方に落ちて、そこから浮遊していた細片の刃は無防備な八高の身体を強かに打ち付ける。

 

その威力を前にして、強烈な衝撃を受けた八高アタッカーは、昏倒するのだった。

 

 

……そんなレオの大金星を見た一高首脳陣は、ちょっとした驚きを覚えていた。

 

 

「ウソ……西城くんってあんな精緻で複雑な群体制御が出来たの?」

 

「一応、事前に見た資料だけならば、硬化魔法に特化した魔法師だったはずだがな。それゆえの、小通連という硬化魔法を利用した分離飛剣での戦法を聞いていたが……」

 

驚愕する真由美。そして、腕組みして唸るように十文字が、先程の現象を頭の中で組み立てていくと……。

 

2科生というラベルが嘘くさく思えてくるのだ。

 

硬化魔法で位置を固定化していた刃を分離させた上で、それら一つ一つを移動魔法で障壁から逃れさせて……側面から高速でぶつける。

 

これほどの複雑な工程を戦闘の中で瞬時に行える。まぁそういう『式』を組んでおけばと思えるが……。

 

「うん……?」

 

「どうした市原? 何か気づけたことがあるか?」

 

画面を早戻し再生していた市原鈴音の怪訝な声。

 

それに気づいた渡辺摩利が問うと

 

「ええ、気のせいかもしれませんが……」

 

正答かどうかはまだわからないと前置きしてから、鈴音は神妙な面持ちで、同級生であり差を感じる3人に口を開く。

 

「西城くんが分裂させた刃片―――私にはナニカの―――既知ではない奇妙な『文字』に見えたんです」

 

 

森の木々に手を当てながらレオの闘いを見届けたアーシュラは、一安心してからそろそろ決着を着ける頃合いかと思う。

 

「行くのかい?」

 

「ええ、どうやら八高のプリンセスは、とんでもない得物を持っているみたいだからね」

 

流石にあんな得物を相手にしては、司波達也も難儀するだろう。

 

そんな考えでアーシュラは動き出すことにした。吉田幹比古の展開した木霊迷路とやらで、森の中で混乱している八高の残り選手を行きがけの駄賃として倒すことは忘れない。

 

「それじゃ援護よろ」

「ああ、達也を助けてあげて」

 

手をあげてから、混乱している、三半規管を乱されて方向感覚を失っている八高選手の前に躍り出る。

 

「え、えみぶごっ!!!」

 

口上を述べる前に魔弾を当てて、気絶させる。

 

気づいたらしき連中―――2人が森の奥から魔法を放つも―――。

 

「丸見えなのよ!!」

 

魔法を解き放とうと起動式を展開した時点で、アーシュラの目は相手の位置を突き止めて、そこに魔弾を奔らせていた。

 

身体の中央で炸裂する大玉の魔弾は、容易くプロテクションスーツの機構を超えて、肌から奥の内臓を痛めつけるのだった。

 

 

「これ以上はさせるかよっ!!」

 

「可愛くてイロッポイ〜ンだとしても―――ぴぎっ!!」

 

「岩鬼!?」

 

樹上に躍り出て太い枝に乗り、睥睨しながら魔法を……と思った時に、岩鬼なる選手に落雷が炸裂。

 

ミッキーからの援護を受けて、もうひとりに魔弾が放たれたのは瞬時だった。

 

枝から落ちたことで、係員からの救護よりも先に風を用いて保護しておくことは忘れない。

 

念の為に首を取るならぬヘルメットを外して―――――。

 

「―――(くび)取ったどー!!残るは姫将首取るだけ!!」

 

「島津豊久みたいな真似しなくていいと思う!!!」

 

士郎先生が九州は大分出身であることを思い出した幹比古は、流石は統治が難しいお国柄の人と想いつつ……。

 

(そういえば大分と言えば、日本でも有数の霊脈地で色々と魔の噂が絶えない―――『冬木』がある場所だったよな……)

 

もしかして、そこの出身なんだろうかと幹比古は推理しつつ、快活に森を駆け抜けるアーシュラを見送るのだった。

 

 

一度は八高のディフェンダーを熨した達也であったが、大返しよろしく森の中からやってきたプリンセスとそのガード一人に、モノリスへの接近を閉ざされていた。

 

「怯えろ! 竦め!! 衛宮アーシュラがいないまま倒される恐怖を、その身に刻めぇ!!」

 

いっそのこと分解してやりたくなるような得物と弁舌を振るうは、八高プリンセス 鬼頭キヌである。

 

プリンセスは糸で繋がれたギロチンチャクラム―――有り体に言えば、清朝末期に活躍した暗殺者『血滴子』の使ったフライング・ギロチンに似たものを振るってきているのだ。

 

当然、本来ならばそんなものはレギュレーション違反なのだが、ただの金属円盤―――それに付くギロチンの刃は魔法で形成されたもので、それが切断力を発揮して達也に振るわれているのだ。

 

刃が魔法で形成されているならば、術式解体でふっ飛ばそうとするが、その意図を読み取って、ツッチーこと土田 和哉が絶妙なタイミングで、達也に意地腐れな妨害を掛けてくるのだ。

 

餅つきの阿吽の呼吸のように、そのコンビネーションを達也は崩すに崩せないでいた。

 

そうして退きつつも回り込もうとしていたタイミングで―――

 

 

―――モルゴース―――

 

―――言葉が聞こえて森の奥から黒い濁流が流れてきた。それは大津波とまではいかなくても、それなりの勢いで八高の足を取ろうとしていた。

 

コールタールの沼、重油の真っ只中に取り残されようとする前に、鬼頭と土田は脱した。

 

そんな誰が歩いても滑り転びそうな大地を、達也に背中を見せながら滑るようにやってきた存在が一人。

 

アーシュラだ。

 

「待たせたわね。騎兵隊の到着よ!!」

 

「ったく派手な登場だな……」

 

達也の鼻をくすぐるように、ポニーテールのまとまった房が眼前に広がった。

 

大輪を咲かす華のような金髪を自然と手に取り、何となく鼻先に持っていったのだが……。

 

「エミヤァアアア!!! 全魔法科高校女子生徒の恨みを込めて―――キサマをコロス!!!」

 

「なんて言っているけど……あんまり気にしないでね……」

 

名前のとおりに鬼頭鬼怒(キヌ)になるプリンセスの釈明なのか、何なのかは分からないが、土田の言葉に対して。

 

「ありがと♪」

 

などと魅惑の笑顔で返したアーシュラに。

 

「キシャアアアアアア!!!!」

 

もうプリンセスじゃねぇよ、と言いたくなる奇声と怒れ人の面相を発して、フライング・ギロチンを高速で振るう鬼頭に対して、アーシュラは恐れずに前進をする。

 

如何に魔法無効化能力があれども、それで膾に斬り刻まれることもあるだろうに―――。

 

その達也の『浅い予想』を覆して、アーシュラは手に何かの術を施したのか、達也でも見えにくいものをしてから、回転するギロチン円盤に対して―――。

 

「珍しい得物持ってるけど!!!」

 

「―――正気なの!?」

 

「回転が素直すぎ!! 」

 

驚いた鬼頭に対して、更に驚くことにアーシュラは、素手で回転するギロチンを掴み取ったのだ。

 

回転が止まり、そして動力を失ったかのように沈黙するギロチンを前に―――。

 

「―――『風』で止めてるのか!!」

 

気づいた土田がアーシュラの足元に隆起を掛けようとしたのだが……。

 

「オレを忘れてもらっては困るな」

 

横合いから達也が掛けた術式解体で土田の式をふっ飛ばした後に―――。

 

 

「―――風妖精槌(ストライク・ウインド)!!」

 

 

シンバルでも叩くようにギロチンを叩き合わせたままに、その中央で気圧の束が放たれて、鬼頭とその身体を抑えようとした土田が森の奥にふっ飛ばされた。

 

悲鳴を残しながら吹っ飛んだ2人を見た後には即座に行動。

 

「モノリスは?」

 

「開けてない。頼む」

 

「ホイッ!!」

 

言い合いながらも走り抜けて有効範囲に入った瞬間、指輪から無系統魔法を『鍵』として放ったアーシュラによって、3分の1の文字コードのモノリスが開け放たれた。

 

もっとも……放つ際の気楽な言葉はどうかと思う。ストライク・ウインドはカッコよかったのに……。

 

ともあれ取り決め通り、モノリス正面に陣取る達也。そしてその背中を守られる形でアーシュラと背中合わせになる。

 

プロテクションスーツ越しでも感じるアーシュラの感触に少し嬉しさを出しながらも、コードを打ち込む手は滑らかだったのだが―――。

 

 

「「やらせはせん!! やらせはせんぞぉおお!!!!」」

 

宇宙要塞の総司令官の如き声をあげて、2人がリターンしてきたのだった。

 

それを見てもアーシュラに焦りはなく―――そして……。

 

 

「――――幻想展開・妖精神盾(ラウンド・アヴァロン)

 

何かを掲げるようなポーズ、盾だろうかと思えるものを見せたあとに言葉が続き、半径―――6mはすっぽり収める半球状のドームが展開。当然、中心はアーシュラと達也なのだが……。

 

ドームの内側から見る光景はとてつもなく幻想的で、まるで常世の春を感じさせていたのだが……背中越しに肘打ちされてしまう。

 

「惚けてないで、コードを打ち込んで」

「悪い―――」

 

もう少しこのまま、この春色の巣にいたかった気持ちを断ち切るかのように、巣篭もりのドームを展開した相手から言われる。

 

そして、ドームの外側ではあらゆる魔法をシャットアウトされたことで絶望したのか、土田に泣きつく鬼頭の姿を見つつも―――。

 

達也によるコード送信は終わり、一高の勝利は確定するのだった……。

 

 


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