魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第70話『SHOOT WATER!』

 

天幕に戻ってきたアーシュラは、早速も喋る匣に命じて、バイオリンを手に持つことにした。

 

アーシュラはともかくとして、他男子3人は疲労をしているのは間違いなかった。

 

予め用意しておいたカット済みのはちみつレモンを皿に出しながら、天幕の中に音色を響かせる。

 

 

(いい音楽だ……)

 

心身を癒される音色は達也の心身領域にまで―――有り体に言えば、魂すらも柔らかく包み込むかのようだ。

 

本来は魔術師たちの持つ『魔術回路』を安定させたり、不調を取り除くものだそうだが……魔法師相手では、演算領域に対して作用が働くようだ。

 

耳から入り、肌身を震わせていくメロディーは、10分もすると自分たちの身体を好調に持っていくのだった。

 

「あとは自分の方で『体律』と『同律』を行っていけば、試合開始時点では絶好調(MAX)になるはずだから」

 

「おう!! ダンケだぜアーシュラ!!」

 

「しっかし、こんな技法があるなんて……いや僕の家だって『両儀』や『浅上』と関わりはあったはずなのに……」

 

「2学期には父さんが教えていたはずだけどね」

 

そんな言葉の後に、はちみつレモンを食べるアーシュラ。

その目は―――先程の自分の試合を見ているようだ。

 

しかも、例の『セクシーポーズ』の前からのリプレイであったのだから、何事かと思うのだった。

 

「勝って兜の緒を締めよとは至言だが、お前が見て意味はあるのか?」

 

「レオン君やミッキーにもアドバイス出来るかもしれないし、『他の動き』を見ることって必要だね」

 

その言葉に、あの魔導災害の下手人が映っている可能性を探しているのかと気づく達也。そんなわけで――――。

 

「……なにやってんの?」

 

「男子高校生に抱擁の意味を問うとは―――ナンセンスだな」

 

「要はセクハラってことね♪」

 

「この痛みも、抱きしめた柔らかさと引き換えならば惜しくはない」

 

一昨日の夜と同じくあすなろ抱きをする。

 

しかし、当然ながらあの夜とは違い、アーシュラは自分の首に巻かれた達也の手の甲を笑顔で抓るのだった。

 

そうしていると、キャンバスの仕切り、控室と外を閉ざしている布が凍りついていくのをアーシュラは見て―――。

 

「ふっ!!!」

 

 

ドラゴンブレスでかき消しておくのだった。

 

当然、布を凍らせていた下手人はその勢いで倒れ込んだわけだ。(布で見えきれないが)

 

「ぎゃああ!! あ、アーシュラぁああ!!……ううっ……なんじゃとて―――!!!」

 

声で察する。というか、声ではない時点で予想通りだったが。

 

「あなたのマイシスターが泣いているわ。行ってきなさいよ」

 

「泣かせたのはお前じゃないか……とはいえ、深雪……これがオレの休息方法だ。怒るならばオレに対して怒れ」

 

勝手に人の体を抱き枕のように使うなと、言いたくなる達也の言動だが……。

 

その言葉に観念して仕切り布から出てきた深雪(どんより眼)他―――数名―――休息していた選手を考慮した人数がやってくるのだった。

 

「まずは一勝おめでとう。達也君、吉田君、西城君、アーシュラさん……」

 

めいめいの返答で会長の祝いの言葉に返したチームメンバーたち。

 

そして会長は伝達事項を伝えてくるのだった。

 

「色々と聞きたいことは多いんだけど、それは置いておくわ。で―――とりあえず伝えておくけど次のステージは『荒野』よ」

 

 

 

「司波達也、西城レオンハルト、吉田幹比古に関しての攻略方法は理解できた―――それで、肝心要の『衛宮アーシュラ』に関してはどうなんだ?」

 

「フフフフフフ―――よくぞ聞いてくれました、将輝……」

 

「おおっ! 流石は3高が誇る黒田官兵衛!魔法師の今孔明! して! どうやって衛宮と闘いあうのじゃ!?」

 

三高会議室。そこにて机を並べて、学年の違いなど関係なく話し合う。今日で全てが決まる新人戦プリンセス・ガードだが、不死鳥のごとく復活を果たした一高チーム―――聞く所によれば、十文字克人によるゴリ押しで戦線復帰が可能になったようだが、その不死鳥には『真・大魔王バーン』が存在していた。

 

そんなわけで沓子の囃し立てに対して、吉祥寺真紅郎は笑い続けて―――最後には……。

 

「全然なにも対策が立てられませんでした……」

 

顔を手で覆って悲しい告白を言うのだった。もう『シクシク』という擬音が聞こえるようだった。

 

「正直……魔法が効くかどうかすら不明なんだろう、四十九院さん?」

 

「じゃろうな。対魔力のレベルが違いすぎるからの……」

 

「―――消極策だけど……衛宮さんを足止め。つまり引いて守ることで『攻め込ませない』。倒せなくても、足止めすることで、その間にモノリスを押さえる―――数はこちらに優位があるんだ。利かなくても自由に動かさせない……」

 

つまりは―――、一昨日の夜に司波達也が衛宮アーシュラにやったような―――。

 

『まるで眠り姫だな』(爆)

『抱きしめたいなガンダム』(変態)

 

―――を、やれということだ。如何に攻防力がダンチであろうと、砲撃で塩漬けにするように魔法を連発していけば、長篠合戦のような塹壕戦に持ち込めば、彼女は自由に動けない。動かさせない。盤上にて機能を停止させてしまえばいい……のだが。

 

「シミュレーションしただけならば、100回やって100回も、彼女は無理やりこちらの『投網』『馬防柵』を食い破って、攻撃に転じていたよ」

 

「―――――――だとしても、それだけが『衛宮アーシュラ』がいる一高に勝つための策なんですね?」

 

「……うん」

 

一色愛梨の確認の言葉に力なく頷く真紅郎。これ以外の策となれば、もはや盤外戦術を駆使するしかない。

 

具体的に、衛宮アーシュラのチカラはルール違反すぎるとか言って、選手交代をさせる。

 

また如何にもな理由となれば、『衛宮アーシュラ』という将来有望な魔法師のことを考えて、2種目をやった上、エキシビションでも十師族と戦ったことを考慮しての出場憂慮を行うとか……。

 

「ジョージ。そういう裏工作はもう嫌だぞ……」

 

「分かっているさ……」

 

これ以上の説明は将輝の機嫌を損ねるだけだ。

 

だが勝つための方策として、まだ見なければならない。一高はあと2試合を勝たなければ、決勝リーグには行けないのだから。

 

 

「荒野ですか……砂塵吹きすさび、タンブルウィードがくるくる転がり、バッファローや牛の白骨があったりするステージですかね」

 

「西部劇を想像しすぎだ。荒野の用心棒は名作だと思うけどな」

 

アーシュラの想像力に、この大会のステージ設定者たちは追いつけていないようだ。ともあれ、それだけで意図は気づけた。

 

先程の戦いで、達也とアーシュラが八高を引っ掻き回す撹乱作戦を展開したことから、見晴らしのいいステージならば、真正面からの力押しの戦いになるのだ。

 

つまりは運営委員会のいやがらせである。

 

「姉川の戦い。ガウガメラの戦い。平面決戦ほど力押しが直に出るものはないわ―――そして兵力を揃えたからと言って、確実に有利をもらえるとも言えない」

 

「確かに姉川では、信長公記の記述だけならば、浅井家臣『磯野員昌』の直線駆けで、かなり深くまで織田軍は入り込まれたみたいだからね」

 

アーシュラの何気ない戦術眼に幹比古が応える。

 

「まぁワタシのせいで、男子3人が苦労するのは偲びないから、突撃突破を仕掛けて相手を壊乱させますか」

 

「で、俺たちゃヤブ蚊とだけ戦ってろと?」

 

「そんなわけなーい。というわけで司波君、ボード」

 

「俺はハレビの希理子か」

 

電子的な卓上ボードを出して、アーシュラの立てた作戦が天幕にいる全員に伝わる。それを聞いたあとに出る言葉は―――。

 

「上手くいくと思うか?」

 

「最初はね。けれど最後には乱戦に縺れ込むでしょうよ」

 

「だったらば、止めといた方がいいんじゃ……」

 

達也とアーシュラの言葉のあとに、光井ほのかが言うが……。

 

「あちらさんの方が数では多いんだ。寧ろ、整然と魔法の並列斉射なんかを展開して、火力で圧倒された方がイヤな展開だ」

 

相手に戦術状況を作らせない。混沌とした状況に叩き込むことが必要なのだ。

 

大勢に小勢が勝つ秘訣とはそこにある。

 

「それでも、まだ不安要素はある。相手である二高のプリンセスは、去年の女子マーシャル・マジックアーツの中学生チャンピオン。接近戦では群を抜いた実力をしている」

 

「双護手鈎とかいいのかしら?」

 

「一応は月牙部分を刃引きしているという垂れ込みだが……」

 

北山雫の情報とここまでの戦いで振るわれた得物を見て、アーシュラは呟く。

 

ソレに対して補足した達也だが……。

 

「まぁコイツはワタシが潰すわ。ご心配なく」

 

「……アーシュラ。本当に勝てるの?」

 

「ちょいと珍しい得物持ってるけど、敵じゃないわね」

 

荒野に木々はあるか分からないが、それでも枯れ枝の一本ぐらいは存在しているだろう。なければ適当に作るぐらいはいいだろう。

 

あの後、アーシュラは自分に掛けられた制約を読み直して、要は武器の持ち込みが禁止なだけで、武器―――というか適当なもの、フィールドに落ちている木々を武器にすることは許されているようだ。

 

そもそも移動魔法で岩をぶつけることがオーケーである以上、そこまでルールに雁字搦めだと、今度は中東の笛ならぬ九校戦の笛などと揶揄されることを恐れた。

 

そんな所だろう。

 

「けれどあの時、クー・フーリンと戦った際は、相手も木槍だったから何とかなったんじゃないの? こっちは金属、それも鋼なのよ?」

 

「アナタって時々、考えがクソ浅いわよねー……」

 

「言いたくもなるわよ!! 大体、なんでさっきからお兄様が、アナタの背中にオンブバッタみたいに抱きついてるのよ!」

 

「要は見当違いのクレームってことね。というよりワタシこそ、『これ』に文句つけたいんだけど!! ワタシはアンタの兄貴からセクハラ受けてる立場なのよ!?」

 

「お兄様のあすなろ抱きは、そんな低俗なものじゃないわよ!」

 

「好きでもない相手、嫌悪を抱いてる相手から肉体的なスキンシップを受ける! これを世間一般ではセクハラというのよ!!」

 

「うぐっ!」

 

そこまでイヤなのかと達也がショックを受けているものの、それを力づくでなんともしないのは――――。

 

(風のクッションを、自分の身体と俺の身体の接触の境界に入れて、防御している)

 

ちょっとしたキラー・ク○ーン(猫草装備)の技で、肉体的な接触をガードしているアーシュラ。

 

なにげにスゴイことをやっているのだが、深雪には気づかれてはいないから、こうなっているのだろう。

 

「あんまり深雪を怒らせるのもアレだからな。名残惜しいがアーシュラから離れよう」

 

最初っからそうしていろよという、周囲から無言でのクレームがあったが、達也は気にしないことにした。

 

「なにはともあれ、そろそろ移動しましょう。ワタシはともかく男子一同は準備があるんだし」

 

「そうだな。幹比古、レオ先に行っておこうか」

 

達也の号令で、天幕から男子がいなくなると同時に、アーシュラの個人端末に一通のメールが届く。

 

「―――――――」

 

即座に開いて一読。嬉しさ半分。悲しさ半分。

 

返信の内容は―――――――。

 

『今の生活を大事にして、ワタシはワタシでアナタよりも『いい男』つかまえるつもりなんだから、忘れたほうがいいよ。ワタシみたいな危ない女のことなんて』

 

意訳の和訳をすれば、そういう文言で『元カノ未練マン3号』を黙らせるのだった。

 

英文にも関わらず、倒置法を感じさせる文言をメールにして送信。その後には立ち上がり、戦場へと向かうことにする……。

 

その様子を、バッチリちびっ子パイセン『中条あずさ』に見られてしまったのは余談でしかない。

 

 

 

荒野に集いし戦士たちの闘争。その戦いは正しく七人の侍ならぬ四人の保安官(パット・ギャレット)によって、無数の野伏せりならぬ十六人のアウトロー(ビリー・ザ・キッド)を叩く戦いである。

 

「む、十文字。衛宮が持っている『武器』、アレは何なんだ?」

 

「アレか……実を言うと、流石に運営の方も、アーシュラが無手で戦っていることに、大会外部から色々言われたらしくてな。CADなど術式のアシスタンツも持たず、かといって『自作礼装』なんて凶悪な武器を使わせるわけにもいかず……」

 

説明が長いと上級生一同が思うほどに、言い訳がましい十文字克人の言葉だが。結局の所―――正体は戦いの中で示されるのだった。

 

見晴らしのいい荒野ステージ。一高にだけ課された恐るべきルールで、自陣と敵陣との距離は通常の倍以上もあるが、魔法師にとっては苦にならない距離である。

 

そして尋常の魔法師を越えた存在がいるならば―――当然……。

 

 

八高とは違い、戦力の逐次投入などという愚策を演じないでいく二高。堅実に、陸上戦のセオリーで、陣取りゲームのように勢力で戦力を拡大していく様相。

 

魔法で牽制しつつ、一高が動くのをジリジリと待つ焦燥感。

 

二高とて全戦力で動いているわけではない。

 

ディフェンスに3人。二高のプリンセス含めての陣営―――残り13人で前進をしているのだ。

 

射程が短い術式解体は、未だに届かない距離。ゆえに本陣へと届かんとする攻撃は、アーシュラが防御陣を展開して防いでいる。

 

攻撃は確実に続く。そして―――、一高陣営が定めたラインに足を踏み出した瞬間―――達也とアーシュラは瞬発した。

 

疾い。速い。疾速い―――。

 

バトル・ボードでも発揮された速度が脚―――おまけにあんなヒールブーツで行えるという事実に理不尽さを覚える。

 

しかしながら、まさかこの距離で詰め寄られるとは思っていなかった二高は、驚きながらも、何とか魔法を当てようとするのだが。

 

アーシュラも達也も尋常の速度ではない。移動魔法だろうが荷重魔法だろうが、ターゲッティングするまえに設定位置から逃れていくのだ。

 

その様子―――交錯しながらの接近に、観客席にいた一高副会長 服部行部は苦笑いをするしかなかった。

 

やがて距離は詰まり、遂にこちらと接敵するか!? 上等だという思いでいた二高を―――嘲笑うかのように、直角に2方向に別れた達也とアーシュラ。

 

行動に驚愕したのもつかの間。再び直線駆けを左右で行う2人。

 

(本陣モノリスを陥れるつもりか!?)

 

こちらとの戦いを避けて、そうするだけの力を持っている。

 

反転して後背を突くか、それともこちらもモノリスを陥れるか。

 

二高が判断に迷った所、頭を茹だらせていると判断した時点で―――。

 

達也は銃型CADを側方に向け、同じくアーシュラも銃を側方に向けた。

 

『FULL FIRE!!』

 

放たれる単一魔法―――そして―――。

 

「アーシュラが放っているのは、み、水か!?」

 

「蚯蚓じゃないぞ。水だ」

 

「分かっとるわい!!」

 

十文字の意外なボケにツッコむ摩利だが、正しく予想外。

 

アーシュラが持っていた銃―――それは……。

 

 

「水鉄砲……!!」

 

「ちなみに、アルトリア先生が士郎先生と遊んだ市内プールで拾ったものらしい」

 

ただの水鉄砲に歴史あり―――と思いつつも……。

 

 

(水鉄砲ならばFULL FIREではなく、SHOOT WATERの方が良かったのでは?)

 

などと、小賢しいことを考える面子が若干いたのはご愛嬌である……。

 

 

 

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