魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
一高テント。色々と大騒ぎ、中騒ぎ、小騒ぎ……あらゆるざわつきを吸収してきた天幕が今回も、違う
「うんうん♪ 我ながら完璧な仕上がりだわー♪ やっぱりあーちゃんってば、色んな髪型とか衣装が似合うからいじり甲斐ありすぎ!!」
「そ、そうですか……」
「昔は『ムサシちゃんみたいな髪型にして♪』って士郎くんに頼んでいたのに、いまじゃこんな風になっちゃって、おねーさんはかなしいーぞ♪」
「耳元に息吹きかけないでください」
髪型をセットしているスタイリストに見えて実は大剣豪である女性。宮本武蔵(疑惑)にからかわれている一高最強のペンドラゴン(確信)という構図を誰もが見ていた。
「……なんで摩利は、地面に正座しているの?」
そんな中、一人だけ苦行に挑んでいる同級生にして3年の優秀生の一人に、3年の優秀生は問いかけた。
「己の不甲斐なさと格闘中だ。
目を瞑って己と対話していると言う摩利に、真由美は疑問ばかりしか出ない。いや、事の顛末自体は報告を受けていたのだが……。
どういう意味なのかを視線で『準備完了』している達也に問うと。
「簡単に言えば、エリカと渡辺委員長が、そちらの巌流殿と立ち会って、5分も保たずに倒された後、貞操の危機が訪れたわけでして」
「そこまでは、聞いているわ。それで……その後よ」
「―――アーシュラが、『あいや待たれよムサシ殿。そこな乙女を手篭めにするは、あまりにも酷というもの、一人は想う人もいる身代ゆえ、我が身を以てアナタを慰めましょう』と……」
その言葉の意味を知って全員が赤くなったり、しかめっ面をしたり、様々な様子。
「……それで、どどどどどどうなったのかしら?」
「………宮本武蔵の戦衣装……魔術師が言うところの霊衣で戦うことで手打ちとしたそうです」
色々と『妄想』の想像を膨らましていた真由美の期待を打ち砕く形で、そんな真実が達也の口から明かされるのだった。
その言葉に、しかめっ面の人間たちが『ホッ』としたのは蛇足である。
「それで現在、ガード3戦目の前のヘアセットの最中ということです」
「な、なるほど……ちなみに、摩利と千葉さん……武蔵さんとどれだけの差があると想う?」
「明朗な表現ではないですが、アリと象の差ですね……2人が動揺していたことを差し引いても、まともな攻撃は通じませんでしたよ」
ぐさりっ!と、正座をしている摩利の心臓に言葉の槍が突き刺さる。
「現代魔法も使ったのよね?」
「会長、そんなものが効くと思っています?サーヴァント相手に 」
倒置法で言ってくる達也に、『そんな言い方をしなくても』といじける真由美だが、流石にそれは見立てが浅すぎる。
ならば、言っておかなければなるまい。
「3戦目の後は3高対6高の試合ですからね……アーシュラも見るんだろ?」
最後のセットなのか、特徴的な髪留めをされているアーシュラに達也は問う。
「ええ、エリセとボイジャーを見ておかないと、少し不安だもの」
達也としては照準を一条将輝に向けていたのだが、アーシュラの目は、6高に向いている。
「確かにお前ならば『爆れつプリンス』なんて鎧袖一触かもしれんが……俺やレオは、あの王子様に勝つことが出来るか不安なんだ。力は貸してもらえるんだよな?」
「そりゃ当然だけど、まずは目の前の闘いに集中しましょう。今回はワタシがディフェンダーやるから、男子3人で『三匹が斬る!』をやってきて、特にレオン君は―――フラストレーション溜まっているんじゃない?」
髪のセットが終わり椅子から立ち上がったアーシュラは、挑戦的な目でレオを見てくる。受けたレオは、銀色の腕輪を見ながら疑問を口にする。
「そいつはいいんだが、俺の『コレ』は秘密兵器だろ? 出来れば、3高ないし6高との闘いまで秘匿したほうが良くないか?」
確かに達也も、それは考えていたことだ。こちらの手札を簡単に晒さない。言うなれば、不才・無才を装う……能ある鷹は爪隠すでいったほうがいいと思ったのだが。
「いいや、もう見せてもいいぐらいよ。ワタシが考えるに、3高辺りはアンタたち男子なんて味噌っかす以下にしか見ていないと想うわ。特に司波君なんて、『正面から打ち合えば負けることはない』なんて高を括っているわね。
そして、ワタシを止める策を見つけることが出来なくて、右往左往しているってところ」
「「「………」」」
恐ろしいほどの先見の明であるが、そうだとしても、ここで見せる意味はあるのか。
その疑問が渦巻くも―――。
「この試合で、仮にもしも『2科生』であるアナタ達が、とんでもない実力で五高を叩きのめせば、それだけで3高のプランはご破算。一から戦略を練ろうとも、多分当たって砕けろぐらいしかなくなるわね」
「―――成程、確かに理に適う、か…」
要するに、3高を混乱に叩き落とせということだ。悪くはないプランだ。
早期の段階で秘策である『テオス』を見せていれば、何かを爆れつプリンスとその参謀役は行っていたかも知れないが……。
「まぁそれ以外の理由としては、そろそろ男としての矜持を見せてほしいわけよ♪ ワタシが前に出ていたから仕方ないけど、1−E男子のちょっとカッコいいところ見てみたいー♪」
俺たちゃモタリケ君かいと想いつつも、そう言われたならば仕方あるまい。
何より、武蔵ちゃんのヘアセットの後に、椅子から立ち上がったアーシュラの
藍色と紫の中間の着物を赤い帯や赤い小物、肩当てなどで装飾した姿は、この上なく美と艶と危険な匂いを感じさせる。
描かれている草花の文様は達也には分からないが、それでも見事なものだ。
何よりアーシュラの伯母さんのお下がりと同じく胸元見えているし、へそ出しコーデであることに……。
(とんだデンジャラスガールだな)
普段はそんな気配を見せないくせに、一度着飾るとどうしても男を惑わすニンフのように、どこまでも魅了してくるのだからたちの悪い女だ……。
「あのさ。何で後ろから抱きついているの?」
「こうしなくちゃならないと思えたんだ」
しかし、もはやアーシュラもコレには諦めたようで、風の障壁を張ることも止めたようだ。呆れたような顔でため息を突いて、男からバックハグを受け入れる女子の構図に、誰もが色んな気分だ。
それに対して、深雪とほのかは『あきらめるなよっ!!』とシューゾーのように言いたくなるのだった。
だが試合前に、そんな悋気を出すわけにもいかず、拳を握りしめてそれを眺めているしか出来なかった。
「それじゃ、私は観客席の茉莉花ちゃんとアリサちゃんの相手をしているわ♪」
その言葉に、アーシュラは即座に対抗策を打ち出す。
「克人さん。こっちの両刀遣いを、JS2人に必要以上に接触させない方がいいです」
必要以上に言葉を重ねず、それでも練武場でのことを察して、アーシュラの意図を読み取った克人が動き出す。
「むっ、そうか。申し訳ないが武蔵殿、自分も同道しましょう」
「いいでしょう! 十文字君は私のシュミではないけど、その剛力体躯は、全ての武芸者が憧れるものだから、頼りにさせてもらうわ!!」
そう言ってから、『狡い武蔵ちゃん』は克人の腕を取って、自分が服の奥に持つ『メガトン級ムサシ』を当てるのだった。
「む、むむむ武蔵殿! この若輩をからかわれては困ります……自分も男子ゆえ、妙なことを考えてしまいますぞ」
いつもどこか固い口調の克人が、それ以上に畏まったことを言っている様子に、よっぽど混乱していることを誰もが認識する。
一高の親分たる十文字克人すらも手玉に取る兵法者―――それが宮本武蔵なのか。ヤツの五輪書には房中術もあるのではないかと、勘ぐる人間も出てきたが。
「じゃあ美味しいうどんを奢ってくれたならば離れましょう。私も、初心な男子をいつまでもからかうシュミはないからね」
「渡辺と千葉のことを考えれば、それぐらいの銭は出しましょう。お付き合いしますよ大剣豪殿」
克人さんのお小遣い大丈夫かな? と完全にたかられるモードに入ってしまったことに心配するのだが、まぁとにかく、もはや賽は投げられたのだ。
アリサと茉莉花が犠牲になる前に、ヤツをうどん漬けにしてくれ、十文字克人!
そんな心を持ちつつ、プリンセス・ガード第三戦目、決勝リーグへと到れる最後の闘いが幕を開ける。
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八高、二高との闘いの時とは違う衣装を身に着けたアーシュラの登場に、観客席は熱狂を出した。あれだけの美少女が着飾れば、それだけで
だが、それは開始前だけの話で、現在のところドローンカメラが鮮明に映しているのは、美少女ではなく、泥臭くも戦う男三人の姿であった。
「バカな……アレだけのことが出来るってのに、隠していたのか!?」
「―――」
あからさまに驚愕を出す一条将輝とは違って、沈黙で驚きを出す吉祥寺真紅郎は、もはや何度目のちゃぶ台返しをされたのか分からぬ想いに囚われる。
そう。
司波達也
西城レオンハルト
吉田幹比古
この三人の放つ魔法は、正しく『特級』であった。
そういう三高の一年エースの驚愕と同じく、一高の陣営も、色々と混乱していた。
例外は……摩利と同じく正座をしていた千葉エリカと柴田美月……そして、自慢気にドヤァという顔をしている藤丸立華である。
映像では、先陣を切るレオが敵を視認した時には、膝を曲げて地面に手を当てた。すると地面を『動かした』のか、大津波として五高の眼前を圧倒する。
高さ10m幅50m以上の土砂の大津波に、障壁か、打ち砕くか。
悩む前に、その土砂の大津波に『乗っていた』達也が、高く跳躍して五高の後ろを取る。
アーシュラと同速で動いていたアグレッシブライナーの存在に気付いた時、目を取られた時には、土砂の大津波が五高生6名を戦闘不能にしていた。
恐らくただの土砂ではなく『魔力』を込めたものなのだろう。
即座にテクニカルジャッジが下されて、6名が審判団に連れて行かれる。
「おのれ!!!」
徐々に進撃してくる三人に対して、恐れとも仇討ちとも取れる言葉で向かってくる五高生2人。
それに対して、達也は―――。
「風でたたらを踏ませ―――」
言いながら腕輪型のCADを操作して、強風、否―――豪風……衛宮アーシュラの
「―――上から落とす雷で終わらせる」
上方で発生した魔法陣から、落雷が指向されて落ちた。
2名が昏倒する。落雷の威力は相当であり、ピクピク動くのを見て、ヘルメットを取って戦闘不能にする。
「達也もいい感じだな」
「ああ、これが……剣製の魔術師 衛宮士郎が出した結論。現代魔法を『達者に使う』上での方法論か」
魔法を『作る』立場の達也だからこそ分かる驚きは、レオとは少し違えども大意は同意であった。
しかし、何故―――現代魔法師の開発者たちは、この方法を取らなかったのか?
疑問が渦巻くも、闘いはまだ続くわけで、思考を終えてから五高ディフェンダーたちを打倒していく。
「俺が風、レオが炎、幹比古は雷―――押して押して進もう」
「いつになく好戦的だね達也」
こういう時に、慎重論を唱えるのが司波達也だと想っていただけに、幹比古は素直に感想を述べた。
「人間は誰しも成長するものさ。時には力押しもいいもんだ」
だからアーシュラにセクハラ紛いのバックハグをやっているのかと、レオと幹比古が驚愕。
不快なプシオンを感じつつも、渓谷に流れるせせらぎの音をかき消す轟音で進撃する三匹に対して―――。
モノリスのガードをしていたアーシュラは―――。
後ろに流れる滝の音を聞きながら瞑想をしていた。
あらゆる悟りを開こうとする武芸者の体を取るアーシュラ。
森羅万象をその身に取り入れようとするその様子は、何か尊いものを感じさせる。
瞬間、平らな岩の上での座禅を終えて、腰元にある木刀に手を伸ばすアーシュラ。
―――
音にすればそれだけ。早業一閃。眼前に生い茂る森の木々が伐採されていき。
「まさか、気配を読まれるなんて」
最後の木が伐採された時に、そこから女子が現れた。
「殺気に満ちた眼で見られれば、例え遠間からでも分かるわよ。アンタ達って山籠もりとかしたことないでしょ」
ならば、お前はやったことがあるのか。
ありそうだ。あるだろう。そう思える確信が一高側にあった。
現れた五高のプリンセス―――女子魔法剣術の達人の一人。去年の女子中学生の部門では、ベスト4に輝いた女がそこにいた。
「能書きなんてどうでもいいわ。さっさとやりましょう」
「ふん、生意気な女、スタイルと同じくらいわがままなアンタを、満座の客の前で打ち倒してやるわ」
抜き払った二振りの木刀と長い―――太郎太刀。その模造刀を抜き払う五高プリンセス。
一髪千鈞を引くような空気などというものはなく―――プレデトリーに挑みかかるアーシュラ。
切り株を足場にして、積極的に前に出る。
扱いに難があるだろうそのバランスが悪すぎる剣を相手にしても、アーシュラは、そのバランスを崩すべく剣を振るう。
―――重っ!! なんなのよこの子の剣は!?―――
プリンセスたる『進藤 琴乃』は、その太郎太刀の模擬刀―――ましてや『本物』を模した真剣とて扱ってきた達人だ。
だが、この女にとってはそうではない。
簡単に琴乃が持っている陥穽を突いてきて、こちらは防戦一方になる。
―――持っている得物の変化……明確な剣を持つと、こいつは覚醒するっていうのね……!―――
数時間前の練武場での剣戟は見ていた。
どう考えても対抗できるものではないことは、理解できていた。
だが―――。
(タダ勝ちなんてさせるもんかっ!! )
一矢報いる。この剣の女王……老師の言う『赤き竜姫』に、自分たち魔法師が、恐怖に竦み上がって大人しくエサになる類の生き物ではないと、刻みつけてやるのだ。
「おおおおっ!!!!」
意気を上げて放たれる攻撃。
太郎太刀をほぼ水平にしての突きの連打。角度に変化を付けながらもほぼ一直線に放たれるそれは、アーシュラにとっては慣れたものだ。
しかしながら、その気迫に剣が『上擦る』。その好機を見逃す琴乃ではなかった。
身体全てを抉り、貫き通す連撃。数多の魔法剣士たちを倒してきた高速の突撃が繰り返されて、大きく飛びのいたアーシュラは、そこで構えを取る。
止まる琴乃は、その構えを詳細に見る。
奇態な構え。右手を上に、左手を腰より下に横構え。
剣はどちらも寝かせており、判断するにカウンター狙いの構えだが……。
―――なめるなっ!!!―――
エミヤの剣がどれだけ速かろうと、それでも自分の剣の突撃の方が速い。
がら空きの
九校戦始まって以来、あの十師族の一条将輝ですらなしえなかった竜殺しを、我が手で成し遂げる。
その心の下、放たれた攻撃―――迅雷一閃の名前が似合う突きは。
―――
アーシュラから発生する、釣り上げるような、巻き込むような颶風でバランスが崩れる。突きのモーションが崩れる。
その間隙。一瞬の『淀み』を見たアーシュラは、烈光と見紛う剣閃―――都合15閃を放ち、走り抜けた。
不心得者には、光が何度も走ったかのようにしか見えなかった。
そしてその剣戟の作用として、前のめりとなった末の移動。捌いていた神速の歩法は、お互いの位置を入れ替えていた。
標的を見失い、そして常人の目では捉えきれぬ剣閃を放たれた進藤 琴乃が、完全に停止する。
数秒後には―――下着を残して
「御粗末!!」
まるで料理勝負後の勝利宣言のような言葉。吹き飛ばされる進藤と同時にブザーが鳴り響く。
どうやら達也たちがモノリスを陥落させたのか、メンバーを全滅させたのか。どちらにせよ決勝リーグ……準決勝の相手は、次の3高対6高の『負けた方』が来ることになるだろう。
だが、その前に色々と説明してほしい面子はいるだろうと想い、マンドクセーと想うのだった。