魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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もう少しテンポよく話を進めたい。そう思える現在。

説明話とか省きたいときもあります。


第75話『疑問と解決』

「人の魔法を探らない。確かにこれは魔法師ないし魔術師の間でも不文律の原則であり、多くの社会でもあえて人の腹を探らないという律はあるけれども……」

 

滔々と語る言葉に対して、ずぞぞぞぞ!と麺を啜りこむ音が響く。

 

それが返答なのかと、対面にいる真由美が落ち込むが、それにも構わずガード出場メンバーはアーシュラに構う。

 

「アーシュラ、伊勢うどんの方がいいのか?」

 

「運動した後なんだから柔らかいうどんのほうがいいのよ。消化を助ける温泉卵のトッピングが、この上なく五臓六腑に染み渡るわ」

 

嬉しそうに『うどん』をすすり込む姿を見ると、本当に色気もへったくれもないのだが……そういう風に食事をこの上なく楽しむ姿も最近は魅力的に見えてくるのは、この子のある種の魔法のようにも思えてくる面子だ。

 

「なるほど……」

 

その一人である達也は妙な感心をしつつも、おなじく『伊勢うどん』―――油揚げが乗っているのを食べるのだった。

 

「アナタの故郷の方の信州そば、ほうとうなんかは何かの機会につくって『お兄様! 深雪が手塩にかけて、お兄様のためだけのうどんをいずれごちそうして差し上げますゆえ!!』―――」

 

達也とアーシュラの間に割り込む深雪の言葉と行動に、真由美の表情筋が強ばる。

 

もはや暴発寸前だと理解したあずさは、心持ち重心を後ろに置き、いつでも逃げ出せるようにしておきつつも、フォローのために口を出すことにした。

 

「いつぞやの一高女子会『弾劾裁判の間違いでは?』ーーーともかく、あの時に説明してくれた『例の魔導実験』が、今日の西城君、吉田君、司波君の闊達な魔法運用に繋がったんですよね?途中で部屋に訪れた私は、最初から知ることが出来ませんでしたけど、見た限りでは、衛宮さんのデータを個々のデバイスにアウトプットした……そんなところでは?」

 

「概ねはそんなところです。今日に至るまでワタシがレアルタヌアに溜め込んだ術式の残留ログ。バイタルパターン、エーテルウェーブ、『心象風景』の有り様。

それらを一種のプログラムコードとして他のデバイスに打ち込み、現代魔法の発動の簡易化に利用しました」

 

その言葉に全員がざわつく。

アーシュラは、何気ないことのように言ってくるが、それは多くの魔法研究者たちが、やろうとしても出来なかったことだ。

 

いわゆる『現代魔法の不可能領域』

 

魔法師―――広義の意味で言えばサイオンというエネルギーを扱う人間たち。

その人間たちが簡便に魔法を使うツールを生み出したとしても、どうしても克服出来なかったものがある。

 

それは、個々人の能力値の多少を補うための『補助ツール』の開発。

 

現代魔法における国際的評価基準の三要素。

 

構築速度(速さ)

巨大領土(大きさ)

絶対干渉(重さ)

 

そのどれかが『足らない』

どれもが『足りていない』

 

けれど、そういう風な『力足らずの魔法師』でも『こういった魔法』が使いたい。使わせなければならないという状況に陥った場合のサポートは、多くの凡例的な状況で想定されてくるものだった。

 

特に軍事的な観点で言えば、個々で『地力』や『得意』として出来る魔法が違っていても、どういう規模であれ『隊』を組ませなければならないとした際に、簡易の手当キットを使うよりも回復魔法の方が速い面もあるので、軍に所属する魔法師には、むしろ攻防術よりも『回復術』の取得の方を優先したい本音がある……。

 

相手を攻撃する術よりも、銃弾飛び交う中でも兵士を生きて帰らせる術の方が欲しい。

 

もっとも現代魔法での『回復』というのは、RPGにおける傷病治療の簡易という面は少なく、そこまで万能ではない。

 

万能ではないのだが、それでも『ホイミ』や『ケアル』―――出来れば『ベホイミ』『ケアルガ』程度の回復術を、魔法師の誰でも『当たり前』のように使えるようになっていれば、応急処置を施した上で生還させることも出来るはずだ。

急場を防ぐだけの『一時しのぎ』であっても、危機的状況を脱することが肝要。

 

そうであれば、どんな状況でも、そうそう不幸なことも起こるまい。

 

目の前であからさまに交通事故に巻き込まれた怪我人がいて、そのヒトを助ける―――せめて救急車がたどり着くまでに、持ちこたえる程度が出来ればいいのだが。

 

そんなことをあらゆる想定をして考えていた達也だが、やはり全員が、そういった『簡易化』に対して疑問を出す。

 

「じゃあ、士郎先生は……2科生全員に、それを教授しようとしているの?」

 

「それだとただ単にアーシュラの技法を模倣(トレース)しているだけじゃないか? いや、まぁ―――武芸であれ、どんな技術取得も、全ては達人の模倣から始まるわけだから、悪弊とも言い切れないんだが……」

 

「だが、画期的な方法だ。1科生であっても『足りていない』所を補いたいという人間はいるんだ。むしろ―――シロウ先生は、『その先』を目指しているのか?」

 

三巨頭のそれぞれの態度と言葉。

 

困惑と不安から少ない言葉の真由美。

 

疑問と納得の混ぜ合わせの摩利。

 

納得と未来の展望を見ている克人。

 

それを見てもアーシュラは、うどんを啜り込んでから話を続ける。

 

「ご懸念通りならば、確かにワタシの『コピー』だけが出るんでしょうけど、どうせワタシは触媒(キャタリスト)なだけです。後は、各々で自分の伸ばすべき所に『覚醒』していくだけです」

 

「―――そうなの?」

 

「そうなんですよ」

 

素気ない言葉の返しに真由美は押されがちである。

 

「なんかワタシに対してだけ、言葉少なに、というか『けんもほろろ』に対応されてるような……」

 

その通りだと睨みつけることで、アーシュラは真由美に意を伝える。

 

「ううっ……」

 

「あんまり真由美をいじめるなよ。そりゃまぁ……傍から見れば、色々とアレな女ではあるが……」

 

フォローになっていないフォローを入れた摩利に次いでから、アーシュラは口を開く。

 

「そもそも一高だけなのかどうか分からないですけど、カリキュラムだって四角四角に、定形解答・模範解答を追い求める内容ばかりで、クソみたいにつまんない。特に百舌谷センセーの授業が一番つまんない。

こんな風に『定形』(お利口さん)を求めるならば、『私』のコードで簡易に授業をこなしていった方がメンドクサクないと思いますけどね。簿記計算で、電卓使っても良い所をワザワザ『算盤』弾いて計算しているみたいで、不合理・不効率・不平等極まりないと想いますよ」

 

「むぅ……だが無意識領域における変換は、そんな風に出来るものなのか?」

 

「その言葉自体が、恐ろしく妙なものだと想いますけどね」

 

「どういうことだ?」

 

「人間というのは、程度の差はあれ、どんなものにすら『意識』を払っている。無意識領域なんてのは、ただの集中している状態で見えている世界の在り方なだけです」

 

「つまり?」

 

「我々は『不感』のままに『何か』を行うことは出来ない。蓄積されたものが全てを決定づける。『私』のは、そのきっかけ作りですよ」

 

いまいち要領を得ないアーシュラの発言。重要なことを言われているはずなのだが、理解力が乏しい面子ばかりなので、こういう時の説明役を求めることにする。

 

「士郎さん―――士郎先生のコンセプトは単純ですよ。ようは、それぞれでやりやすいようにやれるような環境づくりをしただけ。そのために自分の娘を触媒として差し出して、司波君を利用してコードキャストを作り上げた」

 

「……つまりどういうことだ?」

 

藤丸立華の言葉を聞いても十文字は疑問符ばかりだ。

頭が硬いと言わんばかりに苦笑の溜息を突いた立華は、追加の説明をする。

 

「つまりですね。ここに一枚の『キャンバス』があるとします。まっさらな白いものです。そこに『デッサンモデル』―――なんでもいいですが、そうですね……いまだに正座を継続している渡辺委員長を描くとしましょうか。さて、みなさんならば、まずどこから描きますか?」

 

顔かな?

髪―――前髪。

頭だろうか。

 

めいめいの答えを聞きながらも、主にやはり『ヘッド部分』から描き始めるという『ジョーシキ』的な所を聞いてから、立華はこの中で唯一の美術部員に問いかける。

 

「柴田さん。アナタならばどこから描きますか? 忌憚なくどうぞ」

 

意見を求められた美月は少し戸惑うも、意見を求められたので答える。

 

「―――脚、というか『膝』からですかね? 多分、私が渡辺委員長の前にいるならば、やっぱりそうですね。膝から描き始めます」

 

その言葉に少しだけざわつきが漏れる。

 

まさか、この中に小中学校で美術科目を受けてこなかった人間がいないわけではないだろう。

 

だが、その『セオリー』とは真逆の所を言われて、どうしてもざわつきが大きくなる。

 

「柴田、なんで私をそこから描くんだ? 個人的には、しかみ像の如くこのしかめっ面から描いてほしいんだが……」

 

「脱糞しているんですか委員長?」

 

「そんなわけあるか……というか、女子がそういう言葉を軽々しく使うなよっ」

 

アーシュラのからかうような言葉に拗ねたように返す渡辺摩利。

 

だが美月が、そこから描いていくとした理由は……。

 

「あえて言えば、多分ですけど委員長の姿勢の良さが、そこから全体を通して描けるんですよ。頭は、先刻の武蔵さんとの闘いの反省で項垂れていたのか、バランスが悪くなっているんで、始点を別に持っていきたかったんですよね」

 

 

「「「「「―――――」」」」」

 

思わず全員が絶句してしまう。美月は確かに一高生だが、九校戦に関わるメンバーではないので、現在いる天幕に入ることは無かったので、その状態の摩利を見ていたわけではないのに……。

 

―――そこまで見抜けるものなのか?―――

 

画狂『葛飾北斎』が波頭に『ミルククラウン』と同じものを見たように、人の目は千差万別と言えるかも知れないが……。

 

「このようにヒトは『千差万別』。見たものが同じであっても感じ方もヒトそれぞれ。ある種の『極まった』漫画家・イラストレーターは、キャラデザインを起こす際に『手、足』から描き始めるなんてこともあるそうです。つまり『設計図』(デザイン)を『どこ』から作り上げるかは、ヒトそれぞれで『違う』。だというのに、現代魔法はそれを異端として、設計図を『こうであれ』『かくあれかし』という『書き方の手順』すらを押し付けた、本当に頭の硬いものですからね。これじゃ、達者に出来る人間が限られるのも仕方ないでしょ」

 

「―――理解は出来た……我々の頭が硬すぎるということもな……しかし、何故……」

 

現代魔法が誕生してから、この手法が取られなかったのだ。当然、衛宮士郎オリジナルの方法であるならば、この時に至るまで公開されなかった理由も分かるのだが……。

 

「一つには、その『意思』を持つものが現れるかどうか。たとえ『きっかけ』はどうあれ、現在の魔法師の状態に疑義を持ち、その在り様に一石を投じる覚悟があるかどうか―――その人間を求めていた」

 

人差し指を立てて、士郎先生の考えを言うアーシュラ。

 

「二つ目には、娘のコードを正確に読み取り、かつテオス・クリロノミアからそれを現代魔法に取り込めるかどうか。コレに関しては、要するにアーシュラ・クリロノミアと『成る』ことが出来るかどうか。それを求めていた」

 

二本指を立てて説明をする立華の言葉。

 

「最後には……まぁ、アナタ方、現代魔法師の『作成者』(クリエイター)の一人である『クモ』の張った『巣』から逃れられるかどうか―――その『賭け』なんでしょうね。父さんのやりたいことは」

 

その言葉は、どことなく全員を『ぞっ』とさせた。特に、現代魔法に特化させる形で改造された家系の人間たちは―――『作成者のクモ』という言葉に、なぜだか分からないが、言い知れぬ怖気を覚えたのだ。

 

生物的な嫌悪感……その脳裏に『オレンジ色の成熟した女』の姿を、誰もがイメージしてしまった。

 

悪いものでは、吐き気に近いものを覚えてしまう。胃の腑がざわつくのを覚えたのだ。

 

「レオ?」

 

「エリカちゃん?」

 

幹比古と美月は互いに気分を悪くした友人を心配した。そしてまさか吐かせるわけにもいかず、即時にアーシュラはリフレッシュの術を発動。同時に『音律』を変えて気分転換させるのだった。

 

全員が復調したのを見てから立華は口を開く。

 

「失礼、少しよろしくないものを思い出させましたね。

まぁあとは、2学期から始まる士郎先生の授業で行われる、『体律』『同律』『感知』によって変わると想っていてください―――『魔宝使い』が訪れなかった世界の変革は、ここからとしか言えませんね」

 

カレッジ(門派)同士の『出入り』も無いくせに、実力主義を口実に、脱落者・落第生・劣等生は完全放棄。魔法師も『ニンゲン』であるというのならば、そこには性格の差異があり、成長するスピードも違うにも拘らず、魔法大学への入学者数のノルマ達成のために、あまりに暴力的な行いと主義がまかり通るならば、『私』のテオスが全てを変えるだけ。定形の模倣(フォームフェイク)しか出来ないニンゲン(1科生)たちと、模倣から本当の意味での『創造』へと到れるニンゲン(2科生)たちとに分断させるのみ」

 

その締めの言葉も同然の宣言に、真由美は顔を青くする。その未来を選択することを止めたい。

 

けれど、それが『正しい行い』ならば、それを止めるための大義名分など無いのだから。

 

「それは……私のような『CAD』による魔法使用が不便な人間であっても伸びるものなんですか?」

 

「り―――鈴音ちゃん……」

 

真由美の後ろの方から声が上がった。その人間は、正式な九校戦メンバーの一人であり、作戦参謀である人間だった。

 

この可能性を危惧していた。そういう未来が来ることを恐れていた。

 

1科生であっても、上にいる人間に劣等感を持ち、懊悩している人間が靡く可能性があるのだと……。

 

「もちろん。というか鈴音先輩の場合、簡単なことで克人さんクラスに伸びると想いますけどね」

 

「む」

 

例にあげられた克人が少しだけ呻くも、構わずアーシュラは言葉を続ける。

 

「いますぐにでも、伸びたいというのならば―――ですが、『ワタシ』としてはお父さんの仕事を奪うのも忍びないので―――2学期を待ってください」

 

その言葉に苦笑を返す

 

「残念です。ですが……私だけは分かります。どんな技法であれ、トリックであれ……フランス三銃士のように、司波くん(アトス)西城君(ポルトス)吉田君(アラミス)―――2科生である男子3人が、1科生クラスの魔法力で、正面から15人の五高精鋭(リシュリュー宰相の刺客)を打ち破ったことだけは、紛れもない『事実』ですから―――お三方、がんばりましたね。おめでとうございます」

 

「お言葉はありがたいですが、まだ全ての闘いに決着は着いていませんから―――ですが、ありがとうございます市原先輩。本当にうれしいです」

 

(ワタシがダルタニアンか……)

 

アトス司波の言葉を聞きながらも、考えることはそんな所だった。

 

と、想っていると――――。

 

「司波ちゃん先生、そろそろ『試合』じゃないかな?」

 

「シバの字が違うぞ。それに何ていうか……そのキャラは色々と……『未来』を先取りしちゃっているような気がする」

 

「そうね。コウマの妹で、ワタシの幼なじみに声が激似だもの」

 

「………コウマ・クドウ・シールズという人間は、お前の元カレなんだよな?」

 

「その表現は正しいわ」

 

「―――比べてしまうか?」

 

「何を?」

 

「……いや、なんでもない失言だ。忘れてくれ。席を取ってくれている宮本殿に合流しよう」

 

「ええ、分かったわ」

 

そうして天幕から出ていこうとするアーシュラと達也だが、そのやり取り―――まるで『花とゆめコミックス』の漫画を思わせるものが、もやもやしたものを天幕に作りつつも、3高と6高の闘いは始まろうとしていた。

 

 

 


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