魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第7話『トラブルシューターⅠ』挿絵あり

「何故、お前たちがここにいる!? 司波達也、衛宮アーシュラ!?」

 

「選ばれたからに決まっている」

 

 名を名乗った覚えはないものの、委員会本部に入ってくるなり名指ししてきた森崎に対して、達也はドライに返答する。

 

 別に選ばれたくはなかったがな、と達也は心中でのみ付け加えておきながらだが。

 

 それに対して、アーシュラは―――。

 

「―――君の無様を笑いに来た。そう言えば、君の気が済むんだろう?」

 

 お前はどこの大尉だ。後には大佐で総帥になるかもしれないが、その言葉に違わずアーシュラのインナーガウンは深雪よりも凝ったものであり、テーラーマシンで作ったにしても『紅色』に複雑な金色の星を象ったものだ。

 

 ともあれどうしてこうなったかなど瑣末事だと言わんばかりに、実力で選ばれただけだという言葉に不満はあるようだが……。

 

「やかましいぞ新入り。私が直に実力を見て査定したんだ。文句があるならば私に言え」

 

「オトコマエですねー委員長」

 

「女だからな?間違えるなよ」

 

 パカンと丸めたなにかの紙束で森崎をはたいた渡辺委員長が、その言葉で一喝したことに対するアーシュラからの賞賛は不評のようだ。

 

「まぁいい、座れ。昨日の魔力の波動を感じたものならば分かることだが、今はいい」

 

「失礼します!」

 

 反省文50枚の効果なのか、萎縮し放題の森崎なのか、どうなのかはわからないが、まぁともあれ森崎は着席を果たす。

 

 委員会にいる男子数名。ゴミ袋を捨てにいったアーシュラと入れ替わる形で入ってきた委員の中には、「あれだけの波動」を感じたことに少しだけ泡吹いていた様子もあったのだから。

 

 要は、アーシュラの戦いは外部にも「漏れ出ていて」、異常を検知したということだ。

 

(だからこそ、あの時もアルトリア先生は2人の戦いに強制介入したんだよな……)

 

 折り悪くか、それとも運よくか、どちらにせよ森崎は学年主席たる衛宮アーシュラがどれだけできるかを分かっていないようだ。

 

 達也とアーシュラの対面に腰掛ける森崎は、少しだけ怯えながらもアーシュラを見ては、その肩口に目を向けていた。

 

「フォウくんならばいないわよ」

 

「―――ッ」

 

 アーシュラからの「冷たい魔法」にあからさまに狼狽する森崎だが、これ以上は進行の邪魔になるとして口を噤むあたりはわきまえている男である。

 

 そのやり取りを最後に、渡辺委員長は口を開く。

 

 

「そのままで聞いてくれ。今年もまた、あのバカ騒ぎ(バッカーノ)の一週間がやってきた」

 

 何故イタリア語含み? というアーシュラの疑問はともあれ、委員長曰く『ミイラ取りがミイラになる事態』もあったらしく、『気をつけろ』という『睨むような』言葉で釘が刺された。

 

 そんなにまでも凄まじいのかと思いつつ、それならば『神代アイドルの弓』を用意すれば良かったかと少し後悔していたが、渡辺委員長曰くの『卒業生補充分』というのに該当していた一年三人は一斉に立ち上がり、委員長の紹介を受けた。

 

(一科二科の違いってのは根強いんだなー。ケンおじいちゃんが聞けば『憤慨』するかも)

 

 姿勢を崩さずに、達也に向けられる視線に同情していたが、達也は達也で、アーシュラに向けられる『熱のある視線』に同情していた。

 

「E組の司波は私が実力を見た。B組の衛宮は私自身で実力を確認した。いずれも一線級だ―――が、衛宮」

 

「何でしょうか?」

 

「本来ならば単独での取締がルールなんだが、君は一応『女子』だ。腕章を着けていても、何か起こったらば『アレ』だから、今日から何日間かは誰かと組んで巡回してくれ」

 

 それは風紀委員としてのスキルを疑われているのではなかろうかとアーシュラも達也も想うが、特に抗弁するものではないので、アーシュラは『分かりました』と返した。

 

「よし。では―――誰か衛宮と組んで―――……お前らな……あからさますぎだろ!!!」

 

 摩利の憤慨するような言葉の原因は、下に目線をやったり自信を持っていたり、態度は違えど『一斉挙手』した先輩風紀委員たちに向けたものである。

 

 あからさまに「下心満載です」と分かるものに、風紀委員が風紀を乱してどうする?と頭を痛めつつ渡辺摩利は諦めの気持ちで司波達也を見た。

 

「……達也君。頼めるか?」

「分かりました」

 

 安全牌である同級生の無表情クールに預けられるのだった。

 

 そしてもう一人、紹介するべき「人物」がいるとして、委員長はまだ号令を掛けていなかった。

 

「私よりも上位の役職、「保安部長」に就任してもらうことにした。フフフ、彼あってこそこの学校の秩序は保たれるのかもしれない」

 

 怪しげな笑みを浮かべて(妖しくないのは女性として残念だろうが)、ともあれ渡辺摩利はドアを開けて―――「保安部長」を招き入れた。

 

 保安部長は―――モフモフの毛玉の姿に首元で結ばれたローブのようなものを纏う―――。

 

『フォウフォウフォー!』

 

 ―――現代に生きる魔猫であった。

 

「ぎゃあああああああ!!!!」

 

「そんなに驚かなくてもいいだろう森末、こんな可愛らしく愛くるしい存在に対して、お前の人間性を疑うぞ」

 

「も、森崎ですが……い、委員長本気ですか!?」

 

「実力に関してはお前が肌身を以て知っているだろう。ならば問題ない」

 

 実力云々という話だろうか。何人かがそんな風な疑問を覚えるが、完全に小動物の愛くるしさに顔を崩している渡辺摩利を前にして、だめだこりゃと思うのだった。

 

「まぁフォウには、「単独顕現」という転移能力にも似たものがありますからね。保安部長という役職は悪くないんじゃないでしょうか。愛らしい見た目と言語を理解していない小動物と思って、平気で秘密や愚痴を暴露しますから」

 

 アーシュラの不意の説明が入り、全員が全員ではないが、とりあえず納得する。

 

 そんなハイスペックなキャットだったとは……。少しばかり達也は考え直してキャスパリーグなる魔獣に対する脅威度を上げておくのだが…。

 

『フォウーフォ―――ウ』

 

 どうにもやはりそういう存在には見えないことが脱力を生むのだった……。

 

(とはいえ、俺の「眼」でも詳細を見きれない以上は、規格外の存在であることは間違いないんだがな)

 

 ちなみに言うと、見たあとにはフォウは―――。

 

『ナカムラシスベシフォ―――ウ!!』

 

 などと肉球拳で達也に殴りかかるのだった。ちなみにかなり痛かった上に、「再成」も「掛り」が悪かったことは追記しておくべきことである。

 

「以上の体制で、我らはこのどんちゃん騒ぎを乗り越えるのだ。では―――かかれ!!」

 

 摩利の号令の言葉で一斉起立、礼をした風紀委員の先輩たちは方々に散っていく。

 

 残された一年三人は、委員長の手招きに応じて向かう。

 

「三人とも、こちらに―――」

 

 そして渡されるは三人分の風紀の腕章と携帯型のビデオレコーダー。

 

 レコーダーは、男の場合は胸ポケットに入れるタイプだが、女の場合はバストの膨らみを考慮してか、ネクタイピンと見間違うものをネクタイ部分に装着である。

 だが、録画時間は男子と遜色ないそうだ。

 

「風紀委員はCAD携行が許可されている。だが不正使用は厳罰だからな―――衛宮の場合はどうしよう……」

「考えてなかったんですか?」

 

 摩利の言葉に少しだけ呆れる達也は、昨日見つけたCADを使うようだ。

 

 そして話の内容について行けない森崎に構わず、ようやく思い出したアーシュラは口を開く。

 

「ワタシは、『これ』を使います。

 そのへんに落ちている木枝ですら、ワタシが使えばとんでもなくなりますので。非殺傷系列の武装となると、これですね。その上で違反者に制止及び停止を警告しても止まらなかった場合に、相手を拘束してしまえばいいんですよね?」

 

 長々とした説明を受けて、弘法は筆を選ばずの体現なのだと気付かされる。だが完全に疑問は氷解してはいない。

 

「ああ、あまり危険な真似をしなければいいんだが―――これ、『布』か?」

「ええ『布』です」

「そうか……えっ、これで?」

「はい。これでやります―――」

 

【挿絵表示】

 

 何度も赤布とアーシュラを交互に見る渡辺委員長。

 達也も森崎も、冗談だろうか? と思いながらも、本気であることを理解して―――。

 

「面倒なんで実践しましょうか。流石に司波君と森崎君は今からなので―――まぁとりあえず渡辺委員長で―――」

 

「なめるなよ!! 昨日の轍は踏まない!! 来るなら来い!!!」

 

 勢い込む渡辺摩利。実験台とされても抵抗する気概でCADを操作するも―――。

 

「―――私に■■■―――」

 

 そんな言葉が響き、布は――――。

 

 ……約5分後……

 

「では行ってまいります!!」

「ああ……気をつけてな。少ししたらば私も向かう」

 

 扉の向こうに消えていく一年生。その内の一人を『司令官ポーズ』(CV 立木文彦)で考えながら想う。

 

(私は大変な女を風紀委員に引き入れてしまったのかも知れない―――)

 

 この魔法科高校に嵐を巻き起こす『嵐の王』(ワイルドハント)の存在に、渡辺摩利は汗を掻きながらも笑みを零すのだった……。

 

 そんな委員長の独白とは違い、途中まで一緒の通路を歩かざるを得なかった三人の1年は無言だった。

 

 肩を怒らせて大股で歩いている―――ふうに見えるが、歩行自体は普通な森崎を先頭に歩く集団―――ではない。

 

「ハッタリが得意なようだな。二種類のCADを使ってのまともな魔法行使を、お前のような2科生ができる訳がない」

 

「ワタシに当たれないからと、いちいちこっちの男子に当たってるんじねーわよ。小者が」

 

「だ、誰が小者だ……!?」

 

「YOU!」

 

 指差しながら口を開くアーシュラに気圧される森崎。

 

 次いでアーシュラは口舌という現代魔法師がおざなりにしがちなものを用いて、相手を断罪しにかかる。

 

「道化の騎士フェロットにも優るほどの道化だな、お前は。武器も武装も立派だが、斬りかかる相手が達人・剣豪であれば、楡の枝ですら武器になる。

 そして、湖の騎士が手に持った楡の枝であっさり頭を叩き割られる類の人間だよ―――」

 

「な、なにがフェロットだの湖の騎士だ? ワケわからないことを―――」

 

「端的に言えば、武器の見事さだけに目を取られて、相手の力量も見抜けない大間抜けってことだよ。

 どちらにせよ、フォウをただの小動物だと侮った時点で、キミの底なんて見透かせるもの。

 せっかく拾った命、小者は小者らしく弁えて生きなさい。刹那の命のやり取り―――そこに次があると思っている以上、「次の瞬間」にはあっさり死ぬから」

 

「―――ッ!!!!!」

 

 顔を猿のように真赤にさせた後には踵を返して、こちらから遠ざかる森崎の姿―――。

 

 あまりにあまりな言いようだが、ある意味―――次なんてものがあると思って必死になれないヤツは、達也にとっても能天気の類にしか思えないのだった。

 

 そして、これが自分のような劣等生ならばともかく、公的にもとんでもない成績を修めている学年主席では、反論の言葉も捨て台詞も出てこないのだろう。

 

『ああ、無情』としかいいようがないことに感想を出さないままに、校舎を出ると同時にアーシュラは口を開く。

 

 

「んじゃま、作戦開始といきますか。ワタシも物言いに関しては返したけど、本当に大丈夫なの? シルバー・トーラスじゃないんでしょそれ?」

 

「オレもお前ほどじゃないが奥の手を持っているんでな。心配ご無用。そしてトーラス・シルバーだ」

 

「何で普通に『銀牛』じゃなくて『銀色の牛』なんて言いたいけど、意味が通らない名詞にするかな?」

 

「―――さぁな」

 

 ただ単にちょっとした茶目っ気であったが、シャーマンキングをわざわざキングオブシャーマンと言うほど堅苦しくなくていいのではないかという、少しの不満を達也は浮かべていたが、目の前に広がる部活勧誘の波、校舎外でのお祭り騒ぎのほどはとんでもなかった。

 

 魔法競技クラブは明確に『花持ち』(一科)の生徒を狙っていくが、そうでないクラブは『花なし』(二科)の生徒に主に声掛けをしていく。

 

 もちろん一科であっても魔法競技に興味がなければそれ以外に行くのだが……。

 

「アーシュラは弓道部に入るのか?」

 

「そうだよ。いやー良かったよ、受験する学校に望みの部活があって。でなければ、本当に入学はリッカだけに任せようかと思っていたほどだし」

 

 現代魔法の最高峰にして国家のエリートを育てようという学び舎も、この少女にとっては望みの部活があるかどうかという点だけが魅力らしく、こんな言動を誰かが聞けば顰蹙を買うだけだが―――。

 

「それは君も同じような気がするけどね。人事(ひとごと)言うより我が頭の蝿を追えって話だよ」

 

 なかなかに痛烈な皮肉であると同時に、アーシュラが俺の何を知っているのだろうという疑問も出てきたが、とりあえず今は置いておくとして……。

 

 部活間のテントの隙間でごにゃごにゃとしているのを見たアーシュラは、ネクタイピンの録画機器を『REC』にした上で、司波達也にも目配せ。

 

 ―――騒動の解決(トラブルシュート)に2人は赴くのだった。

 

 


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