魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
来年の更新はいつになるかわかりませんが、お待ちいただければと思います。
「……四葉の長子は、星の触覚に惹かれているのか?」
闘いの末に見えてきた全てのことに、烈としては頭を悩ませる。若人の恋愛事情など好きにさせたいのが、本来の老人の考えだ。
相手がどのような人間―――『海の物とも山の物ともつかぬ』であるかを懸念するのは、親の役目でしかないはずだが。だが、それでも烈はその組み合わせを危惧した。
もう一方の『四葉の長子』ならば、何の問題もなかった。だが、画面にて組み合わせた手の指を絡めようとする男子に「スケベ!!」などと真っ赤な顔で言いながらも、治療は確実に行うあたり、彼女の気持ちがわからなかったりする……。
「問い詰めるのも大人気ないというか、健と違って、私はあの子たちに好かれていないからな」
こればかりは烈の悪癖であり、自分の欠点であると自覚している。要は選民意識・選民思想が過ぎている。
人を能力の多寡で押し込めようとするその態度は、姫騎士たちには見透かされていたのだ。
それの良し悪しはあれども、その考えの果てが、あの「魔法大学付属第一高校の変」と、世間で呼称されることであった。
結局の所、烈の考えの最たるものが、あそこに集約されていた。
別にあそこの校長。百山東が主導したわけではないだろうが、それでも……。
「―――……」
嘆息をする。別にこんな未来を見たかったわけではない。
だが、選んでしまった結末がこれなのだ。それを受け入れながら生きていくしかない。
そんな風にシニカルになっていた時に―――。
「閣下、来客です」
「誰かね?」
「国防陸軍の風間少佐と名乗っておりますが……お伝えしたいことがあるそうです」
秘書官のどうしましょうか?という思案の顔と言葉に、映し出された扉前の来客は、たしかに「独立魔装」の「大天狗 風間」であると確認できた。
応接室にお通ししろ。と伝えて何を伝えられるのかを、少しだけ頭を痛めながらも―――とりあえず聞く耳だけは持っておくのだった。
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毎度おなじみとなってしまった、一高テントでのあれやこれや。予定通り、目論見通りにプリンセスガードの決勝進出を決めたというのに、全員の表情は硬い。
まるでお通夜モードであるかのように、本当に暗いのだ。
そんな中でも構わずに、アーシュラはいつもどおりに、エネルギー補給に勤しむのだった。特に今は幹比古の治療を終えたので、先の戦闘と合わせて通常の状態よりも「六割減」なのである。
次から次へと、山のように積まれたサンドイッチと惣菜パンを腹に入れていき、補給をせねばならない。
エリセも問題だが、その後におそらく出てくる「クモの使い魔」を倒すためにも―――。
というアーシュラの内心など分からぬ面子が多いので、黙々と咀嚼するアーシュラに誰も何も言えなかった。
どこか鬼気迫る様子が、何かの緊迫感を覚えさせていたのも一因。そして、山のように積まれたパン類が全て消えて、お茶を煽るように飲み干したアーシュラの湯呑み茶碗(ライオンが描かれたもの)が、机に置かれた音で―――。
「ごちそうさまでした」
(((((全部食いやがった………!!))))
別に、アーシュラのポケットマネーから出た仕出し弁当ならぬ仕出しパンだから構わないのだが、まさかあれだけの食糧を食い切るとは……。
「今更だが、そんなに食って大丈夫なのか?」
「本当に今更ですね。そして、今まで食ってから試合に赴いたのを見ているはず」
「まぁ、そうなんだけどな……」
後輩の体調を心配する摩利だが、それは今更すぎた。そして本題を切り出すタイミングを失ってしまった。
「アーシュラ、今までの戦いで尽力してくれてありがとう」
「それはどうも。勝つたびに皆さん暗い顔をしているんで、そんな風に思われているとは思いませんでしたよ」
「七草などと一緒にするな。俺は、お前が並み居る実力派魔法師を、ちぎっちゃ投げちぎっちゃ投げ戦維喪失させるたびに、心が湧き上がるぞ」
当てこするように言われた真由美としては、克人に言い返したい気分だったが、ともあれ今は疑問の解消が一番だ。
「そんな中、今回は心穏やかならざることがあった。みなまで言わなくても分かるな?」
「カリバーンに関してですね?」
「ああ、あのウェディングケーキ入刀の魔術は、司波達也に好意を抱く女子たちにざわつきを生んで、そしてお前に好意を抱く俺や五十里などの男子に動揺をさせた……」
「本心かどうか知りませんけど、随分とおピンクなことを考えますね」
少しだけ心がざわつく事を言われてしまう。邪推と言われれば、そのとおりだとしかいいようがないことだが。
「まぁ端的に言えば、別に司波くんの助けがなくてもカリバーンは放てましたよ。ただあのとき、一色さんの剣を受け止めて、乾坤一擲のチャンスをくれた努力を無駄にしちゃいましたからね。まぁそれでです。勝利の栄誉は、自分の手もあったのだとしといてやろうという、ワタシなりの気遣いです」
「アーシュラ………ありがとう」
そんな深い気遣いがあったとは思っていなかったのか、達也から礼が言われる。別にそんなことはどうでもいいアーシュラなので―――。
「聞きたいことがあるならば、はやくどうぞ」
「そうか……ならば端的に聞こう。カリバーンとは、やっぱり騎士王の名で知られるアーサー王の武器だな。それをお前は扱えるのか?」
「使えるかどうかで言えば、そのとおりです。刃の機能で振るうだけならば、克人さんにも使えますけどね」
「そうなんだろうな。だが、あの試合でお前が持ち込んだのは、アッドのような礼装でもなければ―――ただの
その言葉にお茶を一啜りするアーシュラ。推測としては、このあたりまでができればいいだろう。別に正解であり正答を教えるほど馬鹿ではないので―――。
「そういう理解で構いませんよ」
「……そうか―――そんなことが出来るのか、魔術師は……」
もはや驚くことも疲れてしまうぐらいに、人知を超えた能力の発露に、克人も疲れ気味になってしまうも、アーシュラはかまわず追い打ちをかける。
「出来るんですよ。ただ一つ、別にワタシのようなケースは「特殊」ではないとだけ言っておきましょう。かつてワタシのようにアーサー王の宝具を使えた人間が、歴史上にも存在していたわけですから」
ざわつくテント内。古式ゆかしくファンタジックな所とは無縁の現代魔法師が大半ではあるが、流石に現代魔法に使われる名前―――魔法名というのが、そういった神話や伝説から取られているのは間違いなく知っているわけで。
「その人間は、中世イングランドの王「リチャード1世」。またの名を「獅子心王」……ライオンハートと呼ばれたアーサー王の大ファンです」
「ファ、ファンならばそういうことも、で、出来るのか?」
なんというか、現代魔法師としての価値観がゆらぎそうなアーシュラの言動に、克人としてもどうしようもなくなるのだが、本人はいたって真面目なのだ。
「詳しいところは割愛しますが、獅子心王は幼い頃から、宮廷の楽師にアーサー王と円卓の騎士の伝説を歌わせて、それを子守唄代わりにしていたというぐらいに大ファンでしてね。イングランド王になった後は、アーサー王の遺物を求めて、西に東にと渡り歩いたそうですよ」
「う、うむ。そこまでは理解できている―――が、それだけで出来るものなのか?」
「胎教に代表されるように、音楽というものが幼時の頃に与える影響というものは、かなり大きいものです。特に中世時代というのは、もはや神秘が薄まったとはいえ、その有り様を変えて残していった。
その言葉に、誰かがツバを呑み込んだ音が生々しく響く。
そして話は続く。
「そんなわけで獅子心王は、アーサー王の大ファンとなり、ただの装飾剣から食器のフォークにまで『エクスカリバー』『カリバーン』と名付けて、愛用して、それを『宝具』へと昇華するまでにいたったわけです。言うなればワタシのカリバーンは、獅子心王のスキルの
久々に聞くアーシュラのとんでも解説。獅子心王―――リチャード1世のことすら知識が不確かであり、アーサー王との関係性すらあやふやな面子ばかりで、それが真実であるということすら断定しきれない人間ばかり。
「……お前も魂を変質させられたのか?」
「さぁ? 本来のワタシがどんなんだったのかなんて知らないし、気付いた時にはこんなんだったしね。どうでもいいことだわ」
まるで『同類』にでも出会ったかのような目をする司波達也をあしらいながら、内心ではウソを付けたことに『ホッ』としておく。
そして―――。
「克人さん。そろそろ『外』にいる方を入れませんか? それともワタシ一人で応対しましょうか?」
「むっ、外?」
言われて全員が、テントの向こうに目を向けて、一番近くにいた人間がテントの幕を開けると、そこには、数時間前に敗れた三高生徒を引き連れた妙齢の女性がいた。
夏場にも関わらずキッチリしたパンツスーツ姿の女性は、どこか女豹とも雌獅子のような印象の鋭さを持っている。
「アナタは―――?」
その佇まいに、只者ではないと悟った克人が問うと、紅を引いた唇を開く女。
「魔法大学附属第三高校の校長 前田千鶴だ。ウチの生徒たちが世話になったな」
お礼参りに来たのかとか言いたくなる言動だが、そういう風にも聞こえかねない言いようをする女史の登場に、全員が緊張する。
「―――キミが『聖剣製の後継者』アーシュラ・エミヤ・ペンドラゴンで、そちらが『ロード・アニムスフィア』の孫たる藤丸立華でいいのかな?」
「「違います」」
「しれっとウソつくんじゃない!! ったく……士郎さんは、どんな教育をしているんだ………」
問いかけた女史の言葉に、さらりととんでもない返しをする2人。しかしながら、要件を優先した前田千鶴は話を続けてきた。
「色々と悪かったな。その髪も、一色の服のために切り落としたそうで―――申し訳ない」
「お気になさらず。それなりの腕前でしたよ。楽しめた」
「我が校の女子エースも、キミにかかればそれなりの腕前か。悔しい限りだ―――」
明らかに『社交辞令』としか取れないセリフを吐かれた前田千鶴は苦笑する。そんな千鶴の心を察しつつも、立華は話を進めてほしいと思って口を出した。
「ミズ・クレーン。申し訳ありませんが、要件はお早めに。お答えするのはアーシュラではなく、私のはずでしょう」
「せっかちだな、お前は―――まぁいいさ。聞きたいことは、一つだ……ウチの生徒たち……あたしが面倒見てきた連中が全員、お前の出した『船』に乗ったことが悔しい。だからこそ、現在どうなっているのかが知りたいんだ。頼む藤丸―――ウチの普通科の生徒たちの様子を教えてくれ」
「連絡は取れていると思っていたんですが」
「確かに取れている。けれどもアニムスフィアのちょ『ちょっと待ってください!』―――なんだ?七草君」
選手だからか十師族の長女だからなのかは分からないが、会長を知っていた前田校長が、そんな風に返してきたことで、本当に自分が知らされていないことを、会話しているのだと気づき……真由美は、心を落ち着けてから問い返すことにした。
「なんだか先程から聞いていると……三高の生徒さん方が、何かのイベント……恐らく国連組織『カルデア』に連れて行かれたと推測しますが―――それは!?」
聞きたくないはずなのに、聞かなければならないという使命感から、前田校長に鬼気迫る態度でいた真由美に前田千鶴は、少し考えてから視線を藤丸に向ける。
「百山先生から聞かされていたが、本当にキミには何も知らされていなかったんだな―――教えても構わないか?」
「どうぞ。もはや会長の出場種目は全て終わりましたし、本戦ミラージとモノリスに出場する方々は、特に何も感じないでしょうから」
「ふむ。思っていた以上に一高の状況は悪いんだな……」
何故に藤丸の許可が必要なのか。それ以上に、他校の校長からそんな講評をされて、少しばかり呻く人間は多い。
「まぁいい。簡潔に言えば、そちらと第二高校で言うところの2科生たちと、三高の普通科の生徒たちは、希望者だけ―――とは言うが、全員が尽く……例外ありだが、ともあれ『単位取得』のために、人理継続保障機関『フィニス・カルデア』の
苦笑して手を振りながら吐かれた言葉に、誰もが沈黙をして、そして理解が追いついた時には、とんでもなくうるさいぐらいの驚きの声が上がるのだった。
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「まさか死徒が極東にやってくるとはな。アレは殆ど欧州圏内から出てこない類だと思っていたのだがね」
「仰る通りです。しかし現実に死体が動き出して、この九校戦会場付近で人食いを行おうとしているのは、事実です……それらの被害は未然に、サーヴァント及び聖堂教会の代行者によって始末されているようですが」
あからさまに気に入らない、気に食わないという態度を見せる風間に苦笑するが、ならば我々の『魔法』で屍の一体でもどうこうできるかといえば、まず不可能だ。
そのことも理解できているので、益々腹立たしいというところか。
「一高と二高との戦いで使われた魔法―――いや、『宝具』もまた情報が降りてきていない……キミは私に、あの竜姫と星姫に言うことを聞かせられると思っているのかね?」
そんな憤慨を理解していても、烈に出来ることなど何も無いのだ。元老院という
だからこそ、今回のことは黙認されているのだ。
「ですが、アナタだけがこの国で何とか出来る人物でしょう。ここで何も出来なければ、アナタの作った十師族制度に対する疑義が、あちこちから出てきますよ? ただでさえ、一高で起きたことで、魔法師の社会的立場は危ういのですから」
「……むぅ……」
風間に言われたことは分かる。わかりすぎるほど理解できた。
(腸が煮え繰り返るような想いも、呑み込まねばならないか―――)
そうして―――重い腰を上げて、件の一高テントに赴くことにした。何にせよ……嫌われ者のジジイだとしても、孫と同じ年代の子のために尽力せねばならないのだと、そういう決意で老骨に鞭打つことにするのであった……。