魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
サーヴァント達による訓練。それも魔法を達者に行うために課せられているものは、非常に実用的かつ、すごいものであり――――。
正直、現代魔法の教訓としてよくある『実技が分からなければ理論も分からない』という『頭でっかち』なものではなく―――
身体感覚・肌感覚・五境……何とでも言えるものをフルに利用した、非常に『実践的』なものだ。
「我々のような人種というのは、本来的には『閃き』が先んじてあり、『理屈』なんてのは、それを補強するための後付けのものでしかないと想いますけどね」
俗に99%の努力と1%の閃きというやつである。だが、結局の所―――魔法師とて『天才型』の人物ばかりではないので、そういった訓練が主になった。
要は
魔法師とは、インプットされた情報をアウトプットする装置。
『理屈通り』にすれば魔法は『発動』する。そう信じていただけに―――そうではない人間のことを失念していた。
なにはともあれ……。
「確かにカメハウスであり、カリン塔であり、ナメック星だな……亀仙人に、カリン様、神様(善のナメック星人)、最長老様ばかりだな……だが、なぜ七草や俺たちに秘密にしていた? それはやましいことがあるからじゃないのか?」
「いいえ、全然。そもそも文科省の正式な認可を降りたものであるならば、別に1科生のみなさんに教えることも無いでしょうよ。第一、2科生たちへのパスポートを発行するだけでも『一苦労』だったもんで。何より、この九校戦にマジになるならば、そんな風な事情を言うことで、妙な気苦労を負わせるのもどうなんだ?―――というのを校長先生から言われたので、黙ってましたし、みんなには黙ってもらいました」
一挙に言われたことで、腕組みして唸るようにしてから言葉を吐き出す十文字。
「……『理屈・道理』は通っているな」
「ええ、『現代魔法の実践』と同じく」
立華の口から『最大級の皮肉』を言われたことで、流石の皆も少しだけ気色ばむ。
だが明確な反論は出来ない。明朗なことを何も言えない。
結局の所……情実に訴えた『現代魔法師』らしからぬことを言うしかないのだが、それを言えば『今までのこと』が虚ろになる。
だから何も言えない。
それでも言うからには、先程の皮肉を飲み込んででも言わなければならないのだ。
「ただ、一言……もう真由美の友人としてしか言えない。お前には降参するしか無い! 藤丸……だから、一言あっても良かったじゃないか。真由美はお前の上役なんだぞ?」
「不確定要素は取り除くべきでしょうよ。少なくとも私には、会長が空港なり横浜港辺りで諸手を挙げて、万歳三唱して、2科生の皆を送り出すなんて未来は無いだろうなと思えていたんですよ。実際、先程の文科省からの公式文書でも、先に出てきた言葉が『先生方への擁護』とか、的外れもいいところでしたから」
摩利の弱い反論もバッサリ切り捨てる藤丸立華。何を言っても返される。
無情なる結論は出てしまったのだ。
2科生たちは決して才能が無いわけではない。適切な指導者を仰げば、1科生相当の力を伸ばす『スジ』がある人間なのだと。
悪いのは――――何も教えなかった連中であり、それに迎合していた1科生なのだと……。
「しかし……あのサージェント・スカサハとやら、ケルト神話における影の国の女王スカサハなんだよな?」
話の転換を狙ったわけではないだろうが、それでも場の空気を一新する一言を放つは前田千鶴であり、特にこだわるものもない藤丸は返答する。
「ええ、そうですが」
「……普段からあんな、上着の裾よりもスカートが短い服を着ているのか? タイツとの絶対領域とか色々とアレだぞ」
あんな強烈な美女が、まだ若年……未成年の生徒の前で、
「まさか。ただ『久々の若獅子たちの教導だ。流石に『現代人』には、いつもの衣装では緊張しよう。むしろ男であれば大興奮、女であっても真似したいと思える霊衣で相対しようではないか』とか、ウキウキしながら言ってましたよ」
―――英雄もまた、人格のある存在なのであった。
「そうか……」
何処か不満げというか納得しきれないものを覚えている、前田千鶴女史の言葉―――ソレに対して……。
「着たいんですか?『魔境のサージェント』の衣装を」
「バ、バカなことを言うな! 私の歳であんな衣装着れるか!! せめて―――肌年齢が、20年若ければ……」
見た目はともかく、スカサハは流石に自分よりも歳上であるとは理解していたらしく、怒るように言ってから、ため息を突く様子。
それが自分の歳に関してか、それともあんなエロ衣装を着た魔女に特訓を受けていた、普通科生徒に対する気持ちなのかは判断が出来ない。
まぁどちらにせよ教職としては、複雑だろうが……。
「私でなくても京音辺りに着せて、普通科生徒を奮起させるのも―――『アリ』か……!」
もっともすぐさま『次善の策』を出して、未来への展望を出す辺りは流石とも言えるか。
などと立華が得心していた一方で……。
「アーシュラもあれと同じ衣装は……『出せる』のか?」
「まぁやろうと思えば。スカサハの霊衣変更は、かなり簡便なもので、ルーンを使用すればそれなりには」
やれないわけではないが、やる必要はない。そんな文言を聞いた達也は……。
「成程……『簡単』ならば、着てるところを見たいんだが。画面越しではなく直接見ることで、それを知りたい」
「別にいいけど……なんでワタシにひざまずくようにしてるの?」
「いや、お前が想像しているような浅くて邪なものはない。中坊の頃に、沖縄で世紀末覇王から受けた古傷が疼き出したんだ……」
そのセリフを聞いても、最終的には『エターナルフォースブリザード』な視線が飛んでくるのは間違いなく―――。
「このエロ学派め」
そんな悪罵が飛んでくるのだった。ぐさりと達也の心に突き刺さる言葉に耐えつつ、とりあえず立ち上がる。流石にこれ以上深雪からの冷視線には耐えきれない。
と、達也が持ち直した時に。
「なぁ藤丸……壬生も、このセミナーに参加しているんだよな?」
「ええ、そうですけど」
桐原武明が遠慮するように問う。そう言えば先程のライブ映像の中で、彼女の姿を見ていなかったと達也は気付いた。参加していないならば分かるが、参加しているならば……。
「見えなかったんだが、どうしたんだ? まさか―――」
「まさか?」
「……『無事』ならば、連絡させてほしい……」
「まぁ五体満足とは行きませんが、ちゃんと基礎補講を受けたあとに『スペシャルメニュー』を受けているようです。……ほぅ。五騎以上もの英霊たちから個人教導を受けているそうです―――有望ですねぇ」
その言葉にざわつきが生まれて―――。
「ち、千秋の姿も見えなかったんだけど、もしかして!?」
「平河さんも同じく。彼女、どうにも技術者畑みたいです……とりあえず、先んじて問われた壬生先輩の方から見てみましょうか」
そうして映像端末が最初に見せたものは―――『嵐』であった。
『動きの精度を高める!! 銃弾の初速にすら先んじる『瞬歩』『縮地』の秘技は、身体への支配が基本ですよ!!』
『はい! 沖田先生!!』
『紗耶香さん!! アナタの三段突き!! 見せてみなさい!!! 試衛館塾頭―――天然理心流の剣士として、バッチ受け止めてみせましょう!!』
嵐のようなやり取りの中でも剣戟は絶え間なく続き、その速度と膂力は、とんでもないものを画面越しでも見せていた。
絶えず脚を止めずに動き回りながらも、剣戟を放つそれは、正しく……サーヴァント級である。
まさか、ここまでになるとは思っていなかった面子があんぐりして、ライブカメラを認識したのか、『道場』……といえる場所にいた他のサーヴァントたちが、軽く『こちら』に手を挙げてきた。
それを皮切りに―――。桜色の髪をした美少女剣士と立ち会っていた壬生紗耶香の姿がかき消える。
だが、次の瞬間に美少女剣士―――沖田という美少女の後ろに出た紗耶香は、剣戟を既に放ったあとであった。
『くっ……! 迎撃されましたか!!』
『こちらとしても、壱の突き、弐の突きを再現されるとは想いませんでしたよ!! ただ、トドメの一撃が惜しかったですね』
その手に持つ刀―――その腹の部分で受け止めたと思える。こちらから見た限りでは、二つ『大小』の穴が穿たれていた。
それが……どうやら紗耶香の技を『必殺』にしなかった原因。人の身でありながら音速の攻撃を放つ紗耶香と、いなしたサーヴァント―――どちらにも驚愕を覚える。
『うぐっ……ありがとうございます。手合わせ・ご指導ありがとうございました、沖田さん』
丁寧な一礼をしたあとに、どこからか現れた少女……随分と可愛らしい子が、壬生の頭にタオルを掛けてくれている。デコが広い女の子―――しかし、どこかのお姫様を感じさせる気品が慈母を思わせていた。
壬生を労るような視線が羨望を生んでいた。
『いえいえ。次は休憩を挟んで、バインバインの源頼光どのと―――いきたいところですが、少々お話された方がいいでしょうね。マスター立華! アーシュラちゃん!! 幕末の美少女剣士『沖田さん』が、紗耶香さんにおつなぎしますね―――♪』
『藤丸さん!? アーシュラちゃんまで………いま九校戦の真っ只中じゃない? 私の方で時差ボケかな?』
「紛うこと無く九校戦の最中です。色々ありましてね。皆さんが、カルデアとハワイとラスベガスを特急で行き来していることが、明るみに出ちゃったんですよ」
『そっか……九校戦八日目で『ようやく』か。まぁどうでもいいけど』
どうでもいいけど。その言葉が再始動させるキッカケになったのか、七草会長がモニターの正面に出てこようとした。それを一種の敵意と見たのか、アーシュラが通せんぼしようとしたが、それを良しとした藤丸が、席を譲りながら通信機器を寄越す。
「壬生さん。久しぶりですね―――」
『どうも』
軽い口調と、どことなく侮蔑したような返しが、その目が訴える感情が真由美を震わせる。
「……先程からカルデアにいる皆さんの様子を見させてもらっていましたが、凄かったです……全員が全員―――私など1科生が到達出来るものを飛び越えた能力を得ていて、正直……羨ましさを覚えたぐらいです―――けれど……せめて一言、同じ剣の道にいる……ま…渡辺、桐原君にあっても良かったのではないですか?」
『一言とは?』
「―――九校戦に応援に行けない理由を……カルデアに行くとまではいかずとも、それとなく言ってくれれば」
『言ったらば、その人達はちゃんと私達を送り出してくれましたか? 結団式の際の九校戦メンバーのように?』
疑問と疑念を持つのは当然だった。
「当たり前です!! 何で全て秘密にしてまで―――私が……七草真由美という『クソ女』が信頼も信用も出来なくても……他の人……他の1科生にまで内緒で、そんなことしてほしくなかったのに……」
『けれど、それが校長先生からの指示だったので。『特に七草真由美には言うな。吉田茂の秘密解散のように、内密にしておけ』って』
裏で三味線弾きすぎる校長先生に、嫌悪感を覚える。けれど、自分を理解しすぎたその言動に、もはや何も言えない。
本当に敗残の中にあった袁術の気分になっていた時に―――。
『あの、もういいですか? 時間を無駄にしたくないんですよ。頼光さ『ママ、もしくはお母さんで!』……頼光ママが呼んでいるので……』
先程から、道場中央で壬生を呼んでいた超美人が割り込むように言って、訂正する壬生。
更に言えば、自分との会話が『無駄』と言われたことに、もはや―――踏んだり蹴ったりとは、このことだ。
そんなモニターに無理やり割り込むのは、摩利であって、引ったくるように真由美から通信機器を奪い取ってから、急いで声を掛ける。
「壬生!! 私は真由美のような『グチグチ』したことは言わない!! だから一言教えてくれ!! いま―――お前は―――
その言葉を受けて、初めて壬生紗耶香の表情に変化が現れる。その元で―――吐かれた言葉は……。
『はい! 私は―――ようやく『私』の可能性を、自分が『何者』であるかが理解出来ましたから!!』
満面の笑みを浮かべて答える少女剣士の言に、色々な感情を渦巻かせながらも……渡辺摩利は『悔し笑顔』で返す。
「そうか……なら―――いいさ。がんばれよ!」
摩利の言葉を受けて一礼をした壬生紗耶香は、頼光ママのところへと嬉しそうに駆け出す。
そして見えてきた、雷霆を扱った剣戟の練習が始まったりする―――その後には、平河千秋の様子を見て、その後には何もなくなった。
英霊たちの個別指導を受けている人間たちは、全員ではないが、それでも基礎講座を終えたあとには、自分が学びたいことを知っていそうな人々に聞きに行ったりしている様子を見て……。
「喜ばしいことだ。本当に、すごい魔法技能を持った魔法師が多く世に出てくれる。これは……いいことのはずなのに―――素直に喜べないのは、俺が、七草が……十師族など数字持ちの人間たちが、『肝が小さい小者』であるという証明か……」
克人の方で『結論』は出たのだった。
「で、もうよろしいですかね?ミズ?」
「ああ、ありがとう。しかし……羨ましい限りだな。あの中には、
「利家公の上様―――織田信長公ならばいましたけれどね」
「教えてほしかったぁ……」
その言葉を皮切りに――――前田千鶴は出ていく準備をする。
「士郎さんとアルトリアさんが音頭を取っている時点で大丈夫だとは思っていたんだが、それでも今は本当に安心できた。ありがとう2人とも―――決勝戦、どうなるか楽しみに見ておくよ」
手を挙げて快活に去っていく女傑の姿を見送ってから、端末を仕舞う藤丸。そうして長々とした説明は終わった。
「闇将軍閣下はまだいられるので?」
「いや、今―――違うところから連絡が来た。どうやら私が知りたい情報を、シスター・チトセは教えてくれるそうだな……遅きに失するぐらいだと私は想うのだが……解決出来るのかね?」
「さて。代行者たちは『シト』を始末できればそれでいい。ただ、そのために出る被害は特に考慮していない……流石に土地ごとの抹消まではしないと信じたいですが、状況が状況ですからね―――避難誘導はお願いします。唇痕を確認してしまえば、どうなるか分かりませんから」
「―――………分かった。京都・奈良では、君たちの忠告を聞き入れず、多くの犠牲を出した私だ―――だから、この事態を解決する上で―――もう若人の犠牲を出さないでくれ……」
老人の深い一礼を受けて、それでも『承知した』と頷けないアーシュラと藤丸―――その胸中に何が渦巻いているのか理解できずとも―――闘いの時はやってくる。
そして何より……。
(((((なにか物騒なことが起きようとしているのか?)))))
よく考えれば、森崎たちファーストチームが襲われた一件が未解決であったことを思い出して、それ関連であることを理解するのが精一杯であった。
それでも、『あの時』のようなことは、もうごめんだ。
「2人とも、九島老師がいなくなって早々にあれではあるが―――何が起こっているかを教えてくれ」
その言葉のあとに、超然とした2人の後輩から説明されたことで、事態の深刻さを全員が実感するのだった……。