魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
事態は風雲急を告げていた。いきなり現れた『動く死体』。その対処に対して―――魔法師たちは想うように動けなかった。
「重火器で応戦しろ! 魔法が効かないならば焼いてしまえ!!!」
「りょ、了解!!」
その中でも、魔法師の軍人として部隊を率いる風間は、死徒の使い魔であるグールに魔法が効かないことに、臍を噛むしかなかった。魔法師の軍として、精鋭選良の人材であると理解していた自分たちを絶望に追い込む。
こんな理不尽がそこかしこにあるのだと理解していても、どうしても納得出来ない。
自分たち、魔法師が表に出てくるのとは逆に、世界の裏側……闇の部分は、暗く、重く……そして吐き気を催すほどに血生臭いことは理解していた。
理解していただけで実感出来なかったのだが、今にも観客席へとなだれ込もうとする『日光を克服したグール』に対して、防衛ラインを張っていたのだが……。
「少佐!?」
「ッ!!」
防衛ラインを張っていた自分たちをあざ笑うように、グールたちの行進はゾンビ映画のセオリーを無視した。
いわゆる『壁走り』という、重力の軛から解放されたような動きを見せたのだ。
直立の
広すぎる観客席へといたるための通路で――――。
「兵隊が邪魔ですな。空けさせてもらいましょうか」
―――そんな言葉で呆気なく進み出たのは、洒脱なスーツに身を包んだ中年男性。パッと見た年頃は風間と同じぐらいだろうか。そんな男性は、銃器よりも原始的な『槍』を手にしていた。
どんな所以や権限があるのかは分からないが……それでも時代錯誤な長めのスカートの女学生服を着た女性。これまた長い銀髪を伸ばした女性が現れて告げる。
「ここは私が受け持ちましょう。あなたがたは、観客の避難を」
「シスター・チトセ……!!」
妙齢な女性……としか見えない女が現れて、目の前の死者たちを受け持つと言われた時には、大隊全てが反感の想いを抱いたのだが。
「―――わかりました……お任せしましょう」
「少佐!?」
「急げ! まごつかずに、我々が一分一秒でも行動を返さなければ、犠牲が出るのだぞ!!」
反論を封じるように、そんな言葉で兵隊を誘導した。官階が上であるということを利用したその言葉だったのだが、最終的には―――。
「では、やらせてもらおうか! エリ・エリ・レマ・サバクタニ!!」
どこから出したのか大楯を持ち、赤槍を振るって自分たちがさんざん苦労した食屍鬼を簡単に熨していく男の姿。
強壮な体躯から繰り出される一撃一撃は、それだけで一つの暴力的な『魔法』だ。
そう。これこそが最大の理不尽。
サーヴァント……英霊という、人理における超上位存在にとって、現代魔法に値するだけの現象や破壊力というのは―――。
(手足を動かす時に起きてしまう自然な現象なのだ……!!)
風間が、その理不尽を噛み締めながら、部下と同じ苦渋を呑み込みながらも、そこを離脱するのだった。
その殺戮武剛の限りをまだ見たいと思っていても……。
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「どれだけの『吸血』を行ったんだか―――」
様子を異様にして、観客席にやってくる『食屍鬼』たちは多すぎる。
日光を克服したグール……地球規模の『寒冷化』を果たした世界において、確かに死徒たちのありようも変わったのだが、ここまで変わるものなのだろうか。
(考えるよりも行動しろってところね)
プリンセスガードの会場……霧か土煙が発生をして詳細な状況がわからないものの、戦闘の轟音はこちらにも響いている。
同時に、それはまだアーシュラが健在だということだ。不意に―――アーシュラから念話が入る。その要請に従い、動き出す。
「セイバー・ガウェイン!! 『太陽』を作り出せますか!?」
「マスターリッカが望むならば、このガウェイン!! それぐらいはこなしてみせましょう!!!」
別に曇天というわけではないが、それでも日光の強さを増すことで下手人を燻り出す。同時に……。
「スターズ、コスモス、ゴッズ、アニムス、アニマ、アニムスフィア―――ヘリオス!!!」
中天の世界にあって最強のガウェイン卿の霊基を利用して、屍食鬼たちにとって天敵たる太陽を強化する。
真夏の太陽が、こちらが用立てた『疑似太陽』を通して、この空間にある夜気を吹き飛ばす。
そのことが原因なのか、呻き出す死者たち。死者であることを偽装していた連中が燻り出された。
そうしていると、どこからか現れた教会の代行者が、重槍や黒鍵を用いて死者たちを刺し貫いていくのだった。
(これで諸共に魔法師も殺そうだなんて出来ないでしょ!!)
してやられたというのに、現れた代行者たちは何の感情もなく動き出す。
どうやらあちらは、
「エリセ!!!!!」
『聞こえてるわよ!! けれど―――ああ、もう知らないわよ!!! ボイジャー!! いくわよ!!』
ガード会場の中に未だに留まる、一高と六高の選手たちをこちらに呼び寄せることにするのだった。
大半の観客たちは逃げているのだが、それでも残っている連中もいることに頭を痛める。
残っている理由は、分かるのだが……。
「ここにいてもあなたたちには何も出来ないわ。早く逃げて」
「けれど達也さんが……!!」
「レオとミキを残してアタシたちだけ逃げろっての!?」
「愛情・友情に篤いこと大いに結構ですけどね。分水嶺ってものがあるんですよ!! そして―――」
瞬間、ギャラハッドの展開した『城』を通り抜けて、何人もの人間が飛んできた。
「モミ! 受け止めてあげて!!」
『■■■❚❚❚―――!!!」
殆ど投げ飛ばされたような調子で観客席に帰還してきた六高と一高の選手たちを、『巨大な恐竜』は、その広すぎて大きすぎる背中で受け止める。
背中には単衣が一枚、その体躯に相応しいサイズで存在しており、着地の衝撃はそれほどないようだ。
カリンの求めに応じて、それを行った恐竜は、ミッション・コンプリートしたことでサムズアップをして、マスターたるカリンも「YEAH!!」と返すのだった。
ともあれ飛ばされたのは、15人弱。
全員を鬼女紅葉が受け止めたわけではない。数人は、立華の『星』で受け止めた。
そうした後に―――ボイジャーとエリセが高空から突入するようにやってくる。
「―――状況は分かっているけど、司波達也は?」
既知ではない人間にとっては、とんでもない登場だったろうが、立華は何も思わない。
「ここに『残る』って、最初はエリセに『鎖』で括り付けて飛ばそうとしていたんだけどね……」
ボイジャーらしからぬ戸惑った言葉を聞きつつも、それならば仕方ないということで全員を逃がすことにする。
したのだが、どうしても頑として動こうとしない面子を前にして痺れを切らす。
「アナタが、ここにいても何も出来ない。それを分かっているんですか!?」
観客席の縁―――ギャラハッドが展開した盾であり城―――に手を当てて、なんとか見ようと目を凝らしている深雪は叫ぶ。
「けれども、お兄様が!!」
「だとしても、ここにいればアナタを死徒の使い魔も狙ってくる。状況を理解して!!」
「……!!」
こちらの言葉に更に激高して、何かを言おうとした瞬間。
状況に変化が現れる。遂に死徒―――その中でも醜悪なものが、闘技場中央に現れたのだった。
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エリセとボイジャーに余計な連中を連れ出せと命じて、それに至るまでアーシュラは、目の前の紅外套との闘いを演じていた。
最初は投影した武器で渡り合っていたが、隻腕のベディヴィエールが投げてくれた『伯父』を掴んだあとには、いつもの『黄金の宝剣』が、手元にあるのだった。
そして『戦闘衣装』を変更させて朱雷を纏う紅外套を押し返す。
「おおおっ!!!」
「―――ッ!!!!」
魔獣の如き膂力は中々に難儀なものであったが、マルミアドワーズという武器を握ったアーシュラは、聖杯戦争ルールで言うところのステータス値が2ランクアップするのである。
一気呵成の勢いで以て、鉄剣を握る紅外套に襲いかかる。
そして―――その外套を切り裂いた向こうの顔は……。
「お前は―――やはり!!」
大きく飛び退いた外套の顔を見たアーシュラは、剣を構え直す。
「名にし負う大ローマ連合軍の皇帝の『娘』が暗殺者の真似事とは―――ローマは、大シーザーの名を貶めるか!? 」
「そういうアナタこそ、赤き龍の『娘』でありながら、守るべき民を放棄した自由騎士だ。そのような言いざまは癇に障る!」
言い合いを横で聞いている達也は、その言葉がなにか重要なのだと気づいていた。だが、詳細を知らぬだけにもどかしい思いだ。
「なんで逃げなかったのよ?」
近くに来たアーシュラから小声で問われた達也は―――。
「お前を一人にしておけなかった」
「バカを言わないで、アナタに対処できる事態じゃないことぐらい、分かるでしょうに!」
こういう時に
「それでも……イヤなんだよ。俺に出来ることならば、やってやる。だから――――」
アーシュラに拒絶されるたびに、もどかしい気持ちが達也に飛来する。
その心をごまかすことは出来ずに、達也は言い放つ。
―――アーシュラのそばにいさせてくれ―――
そんな言葉を言われた後には、アーシュラは。
「投影・開始」
呪文を唱えて、2丁拳銃を達也の手元に渡した。
「―――これは、士郎先生やアーシュラの使っていた双剣に似ている……」
いきなり手元に現れた重みに驚くも、よこされた得物を検分する。
その得物は剣としての用途の他に銃としての用途もあるらしく、銃口よりも先に伸びる形で刃が下部に存在していた。
似たような兵器でいえば銃剣だろうが、それでは語弊がある。あえて言えば『拳銃剣』とでも言うべきもののようだ。
「詳しい説明は省くけど、その得物を解すれば、アナタの術もサーヴァントに『それなり』に通じるはず―――気休め程度だけど、トーラス・シルバーよりも、そっち使っときなさい」
その言葉に従う。とりあえずサーヴァントと直接やり合うことなど出来ないので、嫌がらせのような魔弾を放つ程度は出来るだろう。
CADと仕様の違いはあるだろうが、それでもアーシュラから手助けを許可されたことが、嬉しかった。
そして『敵』である赤髪の女を見据える……赤毛であるのだが、ところどころに金のメッシュが見える美少女の顔は―――見れば見るほどにアーシュラやアルトリア先生に似ている。
そんな赤髪の女は―――。
「ゴルゴーンの鎖は破棄だわ。本気の剣を私もお見せしよう。赤き竜!!!」
『余の出番だな! 顕現するぞ!!
勢いある言葉と同時にアッドのような礼装……朱金の箱を手にする。そのしゃべる箱が、アッドと同じく現代魔法の術理ではありえない変化を果たしていき、赤毛の手の中に巨大な剣が握られていた。
アーシュラの持つマルミアドワーズと、対の剣と言っても過言ではないサイズと魔力―――。
だが、その『銀色の剣身』に『赤』と『黒』の百合紋様を描いたそれは、マルミアドワーズが『聖剣』であるならば、赤毛の持つのは『魔剣』……ある種の禍々しさを感じる。
「――――――さぁて、では出てきてもらいましょうか―――ディープ・マンジュリカ。クローバーの持つ『原理』を食らうのが、あなたの役目よ!!」
瞬間、どこからともなく巨大な蜘蛛が現れて、赤毛の後ろに守護獣のように鎮座する。
「影の中に潜ませていたか。名を聞いておこうかしら、大シーザーの『娘』―――アナタの名前を」
そんな突然のことにも落ち着いて対応するアーシュラは、本当に当然のこととして受け止めて、赤毛の名前を問いただす。
「いと気高きブリテンの龍から、名を問われたならば、答えるのが信条というものか」
受けた赤毛の方も、さぞ面白いことかのように、言葉を紡ぐ。
「ローマ皇帝にしてコロシアムの剣帝『ルーシャス・ヒベリウス』の―――
「その名は―――露悪的すぎるわね!!」
言葉で戦闘の口火を切ったアーシュラとルーシャナという姫騎士2人。
2人は、即座に高速―――否、光速とみまごう速度で移動しあい、中央でぶつかりあうのだった。