魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
草原ステージの方向に現れた巨大な蜘蛛を下半身にした『美女』の姿を見た瞬間に、立華は『ぬかった』と感じた。
(水魔スミレの後継者が狙っていたのは、四葉深雪の原理ではなく、四葉達也の方だったのか!!)
気づいた時には、既に遅い。
「―――どうします?」
「……駆けつける準備はしておいて、下手に城を解き放ち汚染させては、元の木阿弥だわ」
だが、これは有る意味では望んだ展開だ。下手に観客席で暴れまわられるよりも、アーシュラが、一人で対処した方がいいぐらいだ。
「武蔵ちゃん。いける?」
「オッケー♪ だけど―――少しばかり見ておきましょう。あの少年が、どこまでやれるかを見るのも一興でしょ?」
「……まぁ、そりゃそうか」
アーシュラの人外魔境の戦場に残ると言ったのだ。ちったぁ肝のぶっとい所を見せてもらわなければ、ちょっとばかり対応を考えるようだ。
言いながらも襲いかかる最後の死者集団を斬り捨てた武蔵ちゃんと共に、死徒の『分体』を殺すべく―――未だに観客席に残っていたグールを始末しにかかるのだった―――その前に……。
「残るというのならば、もはやご自由にどうぞ。けれども、あなた方の擬い物たる魔法じゃあ何も出来ませんから」
「「「「………」」」」
反目と反感を覚えつつも、それでも何も出来ない今では、兄を見ることもできなくなりつつ有る。
既にフィールドは先程と同じく完全な視界不良となっている。中で何が起きているかすらわからない。
唯一、音だけは物々しく響き、そして轟音となりて会場全体を揺らすのだった。
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巨大な得物を高速で振るう。そういう現実離れした『現実』を見せられても、達也はやるべきことを行う。
アーシュラとルーシャナとかいう女の戦いは、巨大な蜘蛛の上にて行われている。
蜘蛛の体格は、あの『エハングウェン』とかいう船の半分ほどであり、そこをフィールドとして戦う2人は、何も頓着していないようだ。
アーシュラとしては、ルーシャナと戦うと同時に、この蜘蛛を始末せねばならないからだが、蜘蛛こと……ディープ・マンジュリカの一応の仲間であるルーシャナは、身を少しは気遣わないのかと想う。
位置を変え、太刀筋を変化させ、飛び回るように動きながらも2人の姫騎士は、相手との闘争を行う。
二人の間で、黄金と赤黒の剣筋が、水しぶきのように何度も散らばる。
その最中で、達也に出来ることは―――。
(脚の一本でも崩れるならば!!)
出来うることならばアーシュラに優勢が取れるように、ルーシャナが位置取っている側の脚に攻撃を仕掛ける。
容赦なくミストディスパージョンの要領で放った魔法は―――その銃を介したからなのか。
強烈な魔力弾の連射に変わる。相手に対して分解を掛けるべき魔法だが、この銃を介した場合、このように変化するようだ。
照準機能及び術式補助としてのCADとは違うことを改めて実感するも――――。
「手応えはあったか」
血しぶきをあげて崩れ去る蜘蛛の巨大な脚の一本、しかし、即座に再生なのか『元通りの脚』が復元される。
手応えを少しだけ喪失したが―――。
「続けて!!! 効いていないわけじゃないわ!!」
「小賢しい真似を!!!」
蜘蛛の上で切り結ぶアーシュラが言ってきて、赤毛が達也の攻撃を煩わしいとしてきた。
しかし、遂に蜘蛛もその巨体を動かしながら、地上にいる達也を狙ってきた。その巨体の鈍重さならば―――なんて甘い考えは、即座に消え去る。巨体の速さと一歩の踏破距離は、達也の全力での駆け足を容易く凌駕する。
歩道を走る歩行者が並走する自動車に勝てないのと同じ理屈だ。
「HYYYAAAAAAAA!!!!!」
絶叫と共に、蜘蛛糸が銃弾と同等の速度で体のあちこちから放たれる。
明らかに達也を狙った攻撃だが、60本は放たれた糸の半分以上は、緑色の短槍が上下から撃ち放たれて、斬り捨てていた。
(アーシュラか)
残ったものを躱し、消し去るが―――……。
「デカイ、速い、そして飛び道具まで持っているか…」
魔法を打ち出しながらも、簡単な戦力評価を下してから、このままではマズイと想いながらも、飛行魔法などで距離を取れるならば、そうしていたのだが……。
飛行デバイスを持っていれば、などと言っていても仕方ない。
(蜘蛛の体上で戦いをする。というよりも、あの半裸の女を何とか出来るならば)
アーシュラが求めるのは、それだろう。
死徒なる存在を倒すための方策が、現代魔法にあるとは思えない。だが、少なくともあのルーシャナとかいう女は、達也を指して『クローバーの原理』などと言っていたのだ。
(俺は餌のようだな)
その言葉を利用させてもらう。
重力制御の術式で蜘蛛の身上に乗りこむ。
『イデアブラッドォオオオ!!!!』
意味は分からないが、絶叫と共に糸弾を打ち込んでくる女。その言葉に恐怖を覚えずに、躱しきれないものは、拳銃剣を振るいながら進む。打ち込む魔法で消し飛ばしながらも、対処しきれないものは剣で切り裂く。
そうしながらも前に進む。足元から攻撃の兆候を感じて、魔力弾を足元にばらまきながら飛び跳ねるように進む。
擦過する糸玉がヘルメットを弾き、明後日の方向に砕きながら飛ばす。
残り10m―――その距離に至った時点で……。
蜘蛛の体から飛び出る幾つもの糸『槍』が、主に足元から達也を串刺しにした。
串刺しにした男だが、絶命はしていない。否。
「逃げたか」
串刺しにした司波達也の体は無く、木造の人形がそこにあった。
遠くまで行ってはいないはずだ。
どこかにいるはずだ。
―――間一髪で、司波達也を何とか救えたアーシュラは、ホッとしつつも、このまま返した方がいいかと思えてきた。
あの水魔スミレの後継者たるディープ・マンジュリカの総体を消し飛ばすには、
両手での振り抜き……マルミアドワーズを使った『龍脈焼却型兵装』での一撃を叩き込むことも出来る。
その場合、富士山が消え去ることもあり得るかもしれないが。
「お前、心で喋っているつもりだったろうが、しっかり声出てたぞ。前半すごい失礼な感じで」
幻聴が聞こえたが、無視しておかなければならない。
「いやいや無視するな」
「イヤな男だ。攻め方は悪くなかったんだけどね。どうしても総力の差が出てしまうのよ」
「……あの吸血鬼の言うイデアブラッド、ルーシャナとかが言う原理ってのは、何なんだ? それを俺が使えば、アイツラにも勝てるのか?」
「―――――――あなたの使う『星を焼き尽くす魔法』。あれを極めた先にある力とだけ言っておくわ。あんなものは原理血戒の初歩よ」
その言葉に、心臓を掴まれたような気分になった達也だが、破顔してから降参するしかなかった。
「……ズルいよな。俺はお前のことを知らないのに、お前は俺のことを隅から隅まで知っているなんて……」
「文句ならば深夜さんと真夜さんに言ってよ。四葉の源流も、それを思い出したのはアナタが生誕してから10年が経ってからだったんだから」
言いながらも、どうしたものかと想う。
「―――それを強制開放することは可能か? 幹比古の時のように、己の中にあるものを『正しく』するならば、やってくれアーシュラ」
「本気?」
その眼が射抜くものが、何であるかは知らない。だがそれでも―――。
「お前が富士山ごと、 あの吸血鬼だか化け物を倒すことを防げるならば、その方がいいさ」
力持ちすぎる彼女の後始末ぐらいは、やってやろうと思えた。
「―――分かったわ」
これ以上の問答は無意味。というか、そろそろ見つかるだろうと考えたアーシュラは、四の五の言わずにやるべきことを行うことにした。
いつぞや抱きつかれた時とは違い、自分から抱きついて『やるべきこと』をやる。
レテ・ミストレスという異名を持っていた魔法師の掛けた魔法を解く時、何が起こるかは分からない。
だが、それを解除した上で、力を開放出来るようにする―――面倒な処置をすっ飛ばして、今のアーシュラは手っ取り早く、それを行うことにした。
鏡面界という『異界』で行われた『それ』は、2人だけしか知り得ないこと―――――。
……なわけはなく、横の地面に突き立てられていた黄金の巨大剣に宿る疑似人格は、ばっちり見ているのだった。
そのことが、後に大きな混乱を招くのだが、今の2人にとっては、どうでも良かった。
…
「……慣れすぎだろ。どんだけ九島コウマとしてきたんだよ……」
「女の人生を詮索するな。そしてここまで『サービス』したんだから、絶対に勝ちなさいよ。ワタシをアナタの『勝利の女神』にして」
「――――――ああ。当たり前だ」
こちらの言葉で更に顔を真っ赤にした司波達也。
彼に掛けられた全ての封印措置を外したあとに、地面からマルミアドワーズを引き抜き、そして―――。
「ほんじゃ! いっちょ頼むわよアッド!!」
『おうさ!!! 『乗りな』! 小僧!! エハングウェンほどじゃないが! 波動エンジンを積み込んだ宇宙戦艦なみの体験をさせてやるぜ!!』
「言っている意味はよく分からないが、アッドの最速理論に間違いはない」
どういう根拠で言っているのか心配になる司波達也を『剣』に乗せながら―――アーシュラは上空に飛び立つのだった。
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「―――異界に逃げ込んだか。ならば、この会場ごと砕くまでだ」
封鎖されたフィールドから諸共に灰燼に帰してやるという想いで、特大の赤雷を溜め込むルーシャナの下―――。
ディープ・マンジュリカの足元……腹の下に巨大な魔法陣が生成。気付くのが遅かった―――巨大吸血鬼とルーシャナ。
その不意を突く形で―――サーフボードの如き要領で巨大剣に乗った勢いよくアーシュラが飛び出してきた。
音速にも達する勢いのままに立ち込める『霧』を晴らして、マンジュリカごとルーシャナを上空に打ち上げる。
「――――」
「――――」
さすがにこれにはビックリだったようで、驚愕の顔が張り付いたままに打ち上げられた彼らは『虚空のステージ』で戦うことになる。
「これは!?」
「霊峰富士の魔力を独占しての戦いは、もはや出来ないわよ。剣帝ルーシャスの娘、水魔の後継者―――」
勝ち名乗りは早すぎると、ルーシャナが動き出すことは理解していたので、剣戟が再び始まる。
「頼んだわよ! 司波くん!!」
「これが成功したらば、俺のことは―――名前で呼んでもらう!!」
やすい男である。そう思ったのも束の間、全ての制約を解放された上で『血の巡り』を良くした司波達也は、飛び跳ねるようにしてマンジュリカに向かう。
「エサにしたのか?」
「そんなわけないわ。あの男は卑怯卑劣卑陋の三拍子が揃った卑の王様―――卑王よ。もはやあの吸血鬼の運命は定まったわ―――」
「成程、ならば―――存分にしあえるということだな」
言葉を交わしながら高速の剣戟を交わし合う姫騎士2人―――しかし、片方は虚空に投影した宝具を操りながら、司波達也の突進をサポートする。
攻撃力は正しく
必然的にアーシュラは、達也を見続けなければならないのだ。
そんな達也の心は、この上なく躍動していた。
(不思議だ。妹以外の為に戦う―――自分の心に焼き付いた女の子の為に戦えるという現実が)
ここまで心地いいなど。
アーシュラの強烈な人間力に酔わされて、酔っているだけなのかもしれない。
だが、それでも構わない。
この
この
自分の突進を援護するために、綺羅びやかな魔力の宝剣を打ち出してくれるアーシュラ。
自分を見てくれているという現実が、どうしても喜びを生み出すのだ。
『キサマァ!!!!』
「俺が食いたいんだろう吸血鬼!! 腹を下したとしても知らないからな!!! お前の胃袋にもたれてやる!!」
干将莫耶という拳銃剣を使って吸血鬼の肉体を穿っていく。放たれる魔法はどうやら効いているようだが、致命傷には程遠い。
だが――――。
今の俺ならば、『何とか出来る』。
その確信を持ちながら、アーシュラが自分を守護するように打ち出した宝剣を、時には振るいながら、吸血鬼との戦いに興じるのだった。