魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
まぁカレンと同系統の女の子だからなー。何かがある!(え)
なんやかんやとすべてのイベントをクリアー出来たことでひと段落着きました。
ボイジャー君をスーパーボイジャー君にするのは―――次なる機会に持ち越しである。(マテ)
仮設テントに全ての機材を持ち込んで色々と周囲を見渡すと、なんともとんでもない風景が広がっていた。
「なんだってそこまでして部員を欲しがるんですかね」
「色々と事情はありますよ。控えめにいってもこの学校は、退学者が年に数十人規模で出てしまうところなので、出来るだけ部員を確保しておきたいんですね」
「退学者が出るという前提で、そういうことをするのは健全じゃないですねぇ」
持ち込んだ端末を立ち上げながら中条あずさと話す。
時計塔ほど極まっていないのは、魔法師が俗世の人間から認められたいというものが根底にあるのかもしれない。
それ以外にも、結局の所……魔法でどうしようもないぐらいの嫌な差を見せられているのだから、学業以外ぐらいは自分の好きなことをやりたいということだろうか。
(もっと端的に言えば、その競技が好きだからやりたいだけなのかもしれないけど)
魔法師の学生に対するスタンスに関しては、特にそれ以上は突っ込まないでおいた。どうせ他人事なのだから。
「あの……藤丸さんも衛宮さんと同じ考えなんですか?」
「唐突ですが、何を問われているのかは理解できます。ですが、質問の内容は明瞭にしないと、会長になったときに困りますよ」
「わ、私は会長になるつもりはありませんよ……」
本人にその気があろうとなかろうと、周囲からの推薦を断りきれる性分ではないのに、難儀なことだ。
ともあれ、中条に対する返答は決まっていた。
「まぁ概ね、私もアーシュラと同じ考えです。確かにある程度の差は生まれましょうが、殆ど全員が同じような「基盤」「礼装」で魔法を行使する以上、そこの差をどうにかするべきだったんですよ」
魔術師的に言えばエイドスを書き換えることも、それ以外の魔法も最終的にはアッシャー…カバラで言うところの物質世界を書き換えることだけに拘泥している。
魔術基盤というものを便宜的に呼称するならば、「アッシャーリライト」というものであり、それが目減りしないというのならば……そういう風にすれば良かったのだ。
誰もが、訓練次第で物質世界を書き換えられる礼装ないし訓練方法を確立するべきなのだ。
「魔法師というのは、魔術師と同じくほんの一握りの人間にしか発現しないギフトらしいですね。遺伝子操作をして望んだ通りの能力が出る人間も、全員が全員じゃないとか」
「それはそうですけど……」
「仮にこれが「天然地力」でしか発現させられない現象操作であるならば、話はそこで終わっていたんですよ。
問題は―――、便利な道具、テクノロジーの産物を手にして、そこから「式」を引き出しておきながら、そこに「差」が出来ることは非合理であり、道理に沿わないことだということなんですよ」
あずさとて一介のCAD技術者を目指す身。多くの研究や、いずれは自分独自のCADを作ってみたいと思ってはいた。同時に、多くの魔法師にとって簡便な術式も作れればとは思っていた。
司波達也が使っていたループキャストのように……。
だが、そこに出来ない奴にも魔法が使えることを簡便化させようという考えはあっただろうか。
恐らく無かった……。ウィードだ、ブルームだ、などという差別的考えはあずさには無かったが、それでも魔法が上手く扱えない人を「哀れんだ」ことはあったはずだ。
哀れんで……憐憫を覚えて、そこで終わりとなった。
中条あずさにとっては、そこで「終わり」となっていた話でしかなかった。
それもまた―――差別というものだった。
「まぁ別にすべての魔法師に博愛精神だのをもたせようなんてのは無茶な話ですが、少なくとも「観測」した限りでは、1科と2科の「境界」を無くす流れ現代魔法師にとっての『グランドオーダー』は失われた……。
―――「枝」は既に「打たれた」ままです。『魔■使い』が来訪する世界になるには、2000年以上も前に流れが失われてしまいましたので」
いきなりな話の流れの転換。一瞬、あずさは呆然としてしまった。
最初だけは現在時制でのことを話していたのに、次なる言葉はあまりにも「遠い世界」、しかし「近い世界」でのことを話されているようで―――ひどくもやもやとした気分をあずさは覚えた。
「え? ど、どういう意味ですか?」
「気にせず。ある種の独白です。まぁともあれ、このままの差を放っておけば、2020年の米国での「ジョージ・フロイド」のような騒ぎになりましょう―――まぁ全ては「2000年」遅かったとも言えますがね」
その言葉でなんとなくは理解する……。つまり人種的な分断ではなく、能力的な優劣や教育の有無で生まれた能力差から来る差別感から、魔法師にも分断は来るのだと。
「魔法師社会は団結と友愛を謳いながら、能力が高くない者たちを平気で放置して、その割に何かあるごとに同胞だというアピールをする変節は見えますものね……」
「その末が横浜でのことですからね。好きで落ちぶれている人間であるならば、それでいいんですよ。けれど、必要があって改造した存在であるならば、それを放置しているなど無責任です」
これらの問題はアスリートなんかにもある話だ。
故障をしたプロスポーツ選手がカムバック出来なかった場合の再就職問題など、あらゆる意味で潰しがきかない。
更に言えば、プロ選手時代の「強烈なイメージ」が残っていれば、別業種に転ずるのもなかなかに難しい。
「だからこそアーシュラにとっては、魔法師がとても矛盾した存在に思えるんですよ。
魔法師の誰もが使える器具を用立てておきながら、それを本当の意味で誰にも使えるようにしていないことがね」
「……魔術は違うんですか?」
「大いに違いますね。才能の差、積み重ねてきた歴史の長さこそが「力の強さ」となる世界なので、血統交配によって一つでも魔術を使える「線」を「加えていく」ことに拘泥しています――、我々の体こそがホウキであり、「世界」に繋ぐための「器物」なんですよ」
魔術とは執念であり、己をそのための「歯車」に置き換えることだ。
際限なく体を苛む痛みも、全身を改造していく不快感も、全て呑み下して己を生命体として「上がらせていく」ことだから。
別に支払っている代償が違うからなんてことを言うわけではないが、それでも―――。
「連絡入りました。さっそく部員争奪戦で一人の女子生徒が拘束されているそうです」
「わ、分かりました。けが人が出るかどうか、連絡を密にしてください」
―――雑談は終わりを迎えて、仮設テントでの作業が本格化する。
結局の所、この流れは止められない。
2095年を迎えて魔術師が滅びず生き残ってしまった世界にて、人理は……腐り落ちようとしているのだから。
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司波達也と走り出したアーシュラは、前方にて揉みくちゃにされているのが、顔見知りであることに気づいて声をかける。
「あれエリカじゃないかな?」
「だな。行くぞ」
「ラジャ!」
非魔法競技系の部活。衣装から察するにバレー部とテニス部の取り合いに巻き込まれたエリカを救出すべく声掛けをする。
「風紀委員の巡回でーす! 強引な勧誘・スカウト行為・客引きは禁じられています!! 即座にそこの一年の赤髪美少女を離すように!! 三密を回避してソーシャルディスタンスを保持するように!!」
2020年のコロナウイルスに対する訓告と都内の風俗店に対する警察の注意喚起にも似ていたが、アーシュラの警告は功を奏していた。
だが、それでも止まらない人間も一部にいるわけで―――。エリカのソーシャルディスタンスを脅かす相手に―――。
おまんら許さんぜよ!! と言わんばかりにヨーヨーではなく、アーシュラの手に赤布が握られた……。
「警告はしました!! よって排除します!!」
先程の委員長に対するかのように、アーシュラが持っていた赤布が風に吹かれてもいないのに張力を持って、四方八方に飛んでいく。
そして最後の口決が唱えられる
「――――
言葉は下知であり、意思持つ布となった赤布が、不逞な行為を働いた先輩方の全身を拘束した。
「「「「うぇええええ!?」」」」
「「「「ど、どういうこと―――!?」」」」
如何に二科生主体のバレー部とテニス部だが、魔法師としての感覚で、とりあえず抵抗を試みたのだが、CADを操作出来る連中ですら、その拘束から逃れられない。
つまり―――あの布は、魔法を弾くほどの器物であるということだ。
「無駄です。マグダラの聖骸布は、男性の拘束に関して絶対的ですから」
『『『アタシたちはどうなる!?』』』
「―――ワタシの基準判定で、XX染色体から外しておきました」
お前ら♀じゃねぇという無情なる宣言に対して、女子生徒が抗議する前に口元を包む赤布。
恐ろしいほどの早業。そしてその間に肌も露わなエリカが乱れを直しながらこちらに出てきた。
「た、助かったよ。アーシュラぁ」
「気にせずでいいよん。―――いま見たように、ワタシの取り締まりは厳しいです。こちらにいるバレー部、テニス部のように『芋虫』みたいになりたくなければ、『正しい部活勧誘』をしてくださいね?」
エリカに気軽に返した後に、ぞっ、とする程に朗らかな笑顔の下、周囲に放たれた言葉に魔法競技部ですら恐ろしい想いだ。
アレは魔法では弾けない。一度放たれれば、確実に違反者を取り締まる『天の羽衣』である――。
周囲は騒然を終えて、しずやかな勧誘をする。ヒートアップしがちな所に放たれた言葉は、正しい勧誘活動の為になっただろう。
アレで拘束されるという醜態は演じたくない。よってそういうことだ。
「流石だな。って―――こんな使い方も出来るのか?」
「エリカ、お色直しはちゃんとしなよ」
達也の称賛など聞いていないように、アーシュラは次の手を打っていた。
布全体の面積とかどうなっているんだろうと思えるぐらい、バレー部とテニス部を拘束しながらも、エリカに試着室よろしく布のカーテンを与えるアーシュラの気遣いである。
「これ時間制限ありで落ちたりとかしないわよね?」
試着室の向こうからエリカのくぐもった声が聞こえて、意外と分厚いのかな? とも思った。いつの時代のコメディ番組のセクシャルハプニングだよ。と達也は思いながらも――――。
「フフフ、ワタシの魔力も有限だから、張力もいつまでもつか……保証はできません!」
「からかうなよ」
エリカに対して言ったアーシュラの頭―――金色の髪のそれを小突いておく。まぁその後、10秒もしないで整えたエリカがカーテンから出てきたわけだが。
少しだけ髪を叩いている辺り、完全ではないのだろう。同時に芋虫状態のバレー部員、テニス部員も解放された。
「―――さて、反省しました?」
『『『『はい…………癒やされました』』』』
『『『『不覚にも気持ちよかったぁ……』』』』
アーシュラの言葉とは真逆な言葉だが、ヒートアップした精神は少しだけ落ち着いたようだ。
そういう効果もあるのかな? と達也は思いつつ、アーシュラが答えてくれるとは限らないので、まぁそのままにしておいた。
布から出た先輩部員たちは、健やかな顔で『よければどうぞ』とチラシと入部届がセットのものをエリカに丁重に渡して、違う人への勧誘に入っていった。
「何というか、俺のフォローは必要か?」
「エリカとふたりっきりになりたいならば、どうぞ! 深雪ちゃんへのコールは、瞬時に完了できる!!」
通信待機状態の端末を見せつけてくるアーシュラに、頬がぴくぴく動く。
やはりこの子は放っておくわけにはいかないなと思いつつ、とりあえずエリカの方に予定を聞いておく。
「うーーーん。第2小体育館で剣道の演武があるとか聞いたから、そっちに行ってみようかと」
「分かった。こっちも一通り回ったらそちらに向かってみるよ。行くぞアーシュラ」
「ラジャー」
―――エリカと別れて数分後。
先ほど聞いた委員長の言葉は事実だったらしく、再びエリカのような被害を受けている女の子2人を見た―――。
「あれは光井 雫さんと北山 ほのかさん!!」
「逆! 苗字と名前が逆なんだけど衛宮さん!!」
名前を間違えたアーシュラだが、わりかし本気でそう思っていたらしくて、「あれ違ったけ?」と悩む様子だった。
仕方なく今度は達也が声かけをすることにした。
「風紀委員です。乱暴な勧誘は止めるように、即時の活動停止を!」
達也が前に出て警告を発する。背後でアーシュラは聖骸布の投射準備をしていた時―――。
集団が少しだけ遅滞をした瞬間、アーシュラの耳に車輪が走るような音が入ってきた。
聞こえると同時に、明後日の方向から―――ボードが勧誘をするための集団を割るように駆け抜けていき―――
年齢は―――多分、三年生以上『OGかな?』とアーシュラは思っておき、自信満々な顔と、形だけの手謝罪をする顔とが―――2人を連れ去っていった。
「バイアスロン部だ!」「取られたぞ!!!」
脱兎のごとく駆けていく2人に唖然としていた達也とアーシュラだったが……取り合えずの行動方針を決めなければならない。
「どうする?」
「今日のOG訪問の予定はない。完全に学内不法侵入だ。いくぞ」
「追いつける?」
「問題ない。お前も遠慮せず『速度』を出せ」
面白がるようなアーシュラに対して怒るような達也だが、その言葉を聞いてから駆け出すは早かった―――。
そんな様子を魔法科高校の屋上から見ておく男女。学生とは違い成人した男女は、学校の有名人となりつつあるが、その平素の姿をさらけ出していた。
娘であるアーシュラからすれば、いつも通りの話だが……。
「魔法科高校の生徒は
「確かにカエデとアヤコにも似ていますね。それを追う我が娘の姿―――フォローはシロウが入れてくださいね。私のは威力過多ですから」
「はいはい。あんまり―――『情けない娘』を演じさせるのも悪いからな。フォローは『最後の最後』だぞ?」
「分かってますよシロウ」
「アルトリア……」
魔法科高校の屋上で、密着状態で、分かってる会話でいちゃつき合う教師夫婦。
夫婦は裸眼でチェイスの様子を見ていたのだが、その様子を『眼』で見ていた七草真由美は、この人達の風紀を正すことは出来ないのかと思ってしまいながら、当てられてしまうのだった。
「大丈夫か七草?」
「全然ダメでーす……」
突っ伏してしまうほどにダダ甘、父が恩義を感じるという夫婦の姿を見ていた所に、十文字の気遣い。
気のない返事をしつつ、手を振ってから問題でも起こったのかと聞く。
「いや、特に『いつもどおり』の風景であることを教えに来ただけだ。まぁ落ち着きを取り戻すのが通常よりも早かったぐらいだが」
「それは良かったじゃない」
だが、それで話は終わりではなく、近くの座椅子に座る軋むような音で真由美は顔を上げて、そちらに向ける。
「……話はそれだけ?」
「少しばかり慰めてやろうかと思ってな。随分と、衛宮と藤丸に引っ掻き回されたみたいようだからな」
「魔術師っていうのは、私達とは違って古い存在だと思っていたけど、何ていうか……全然違う存在なのね」
「俺も理解は中途半端だがな。彼らは魔法師よりも「先」に到達した存在だ。
一般的に、俺たちが使うサイオンと、彼らが主に扱う「真エーテル」と「疑似エーテル」というのは、質が違う力だ。現象に対する改変度の「硬さ」で言えば、どうやっても後者に軍配が上がる」
未だに魔法師たちが魔法を使う際のサイオンが、どこから捻り出されているかはわからない。
明確なものは分からないが、体力の減退、あるいは衰弱とでも言うべきものが、魔法を使いすぎれば発生する以上……体内の燃焼カロリーでも使っているのではないかと思われる。
だが、脳の栄養たるブドウ糖が減っているとも言われて―――はっきりとしたことは分からない。
それに対して彼らは「精気」…オドというものを己の魔力精製器官で生み出して、エーテルへと変化させているのだ。あるいはオド自体がエーテルとも言えるが……。
「十文字君が魔術師を知ったのは「東京でのこと」が原因だったのよね……?」
「お前は弘一殿から「家から出るな」と言われて、当時のことを知らなかったからな……俺は協会が組織する自警団みたいなものに入れられて、警邏を行っていたんだ」
「そこで「彼女たち」を知ったのよね……」
「ああ……今でもあの夜のことは忘れられないな。魘されるぐらいに凄まじく悍ましい闘争の場を、砂浜か公園でも駆けるような少女たちの姿は忘れられない」
5年前といえば、十文字は13歳か12歳……当時からこの巌の体格の厚さとそれにそぐわない緻密な魔法操作は、多くの人間に次代の魔法師界の指導者たれ、という期待を向けさせていた。
今でもそうだろうが……。
そのことを聞こうとすると、苦い顔と少しだけ微笑んだような顔をしてから―――これ以上は言いたくないというのがお決まりだった。
「俺が知りうる限りでは、彼らは市原の言う通り、ロンドンは「時計塔」の主流たる「アルビオン派」とは違って、どちらかといえば魔法師に寛容な「カルデア派」だ。
そんな彼らがこちらに関わってくるなど―――再び起こるのだろう。
魔法師では、容易に対処できぬ魔導の怪異が……」
魔導の怪異。言葉だけを聞けば、いつの時代のライトノベルの世界なのだろうと思える。
父の書斎にあった2000年代初頭のレトロなものを、戯れに読んだ覚えがある真由美は思い出す。
それこそ昔の日本に存在していた「陰陽寮」や「神祇省」という、ある種の「神秘分野」―――かつては信じられていた「力」を司る機関のエージェントが現代にも生き残っていて、その力で俗世の人々を怪異から守る……。
そういうのに近い存在は自分たち魔法師のはずだが、魔法師はそういったことを鼻で笑って、最大級に罰当たりなことに、「山田風太郎」大先生の「魔界転生」を荒唐無稽などと破り捨てるようなメンツが多い。
思い出してから十文字を見ると……。
「―――お前の陰謀にあれは加担せんよ。お前の望みは、お前自身の手で成し遂げろ―――ただ、衛宮や藤丸の言う通り「手遅れ」なのかもしれんがな……」
その言葉に寂しさを滲ませた十文字の言葉が部活連の会議室に染み込んでいき、裏側で動く事態は―――草場を這いずる蛇のように侵食の手を伸ばしていたのだ……。