魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
「お兄様がアーシュラを誘わないようにしなければなりませんね」
「そ、そうだね! その為にも私達で達也さんを独占しておかないといけないよね!!」
「というわけで、七草会長及び皆さんにも協力してもらいますよ。いいですよね!?」
有無を言わさぬ強権的な物言いをする司波深雪と真っ先に同意をした光井ほのかに、若干の反発心を持つ先輩・同輩は多い……。
こんな後ろ向きすぎる邪魔立て。完璧に司波深雪が『転生』など無い、本物の『悪役令嬢』にしか思えないのだ。
だが、そう思われても構わないと言わんばかりに荒れ狂う深雪に、誰も意見出来ないのだ。後輩に威圧される先輩たちだが―――仕方なく動くのだった。
「―――ならば、俺がまず先発してアーシュラをダンスに誘おう。女子陣は、司波兄御の拘束しておけ……」
げんなりする。それを表情に出さずに十文字克人は動き出すのであった。
だが、別にアーシュラとダンスをすることがイヤなわけではない。寧ろ誘いたいぐらいだった。
よって―――。
「アーシュラ、俺と一曲踊ってくれないか?」
「十師族の長子が、ワタシのような野良犬とオープニングを飾るとか、どうなんですかね」
自分を卑下するような言い方だが、それでも克人は構わず誘いをかける。
「意外と―――お前が本物の『プリンセス』なんじゃないかと、俺は思っているんだがな」
「メシばかり食っているリナ・インバースみたいなお姫様とか、ありえないでしょ。まぁ……エスコートよろしくおねがいしますね」
言いながらも克人の誘いの手を取ってダンスホールへと赴く辺り、その辺りのマナーは心得ているようだ。
その金髪の姫騎士の姿に、色々なことを思う人間たちは多い。
羨望、恐怖、憧憬、畏怖……あの新人戦ガードのハプニングで見せられた大立ち回りは、現実離れすぎていて、それでも現実なのだと認識させられる……。
長身のアーシュラの背丈を越えた巨大な剣を、軽々とナイフでも振るうようにして扱うアーシュラの動きは―――。
「……英雄とは、彼女のようなことを言うのかしら?」
「――だとすれば、風来坊すぎて無頼漢すぎる英雄だな」
真由美と摩利の会話……。
「十師族の中でアイツらの扱いはどうなっているんだ?」
「カルデアに関しては、とりあえず触らぬ神に祟りなし。
私も最近まで知らなかったんだけど、十大研究所の『研究』にも、彼らの手は色々と回っていたそうなのよ」
研究所の『出資者』が、最終的に『現代魔法師の開発』に『全面的な協力』を願い出たのが、当時、様々な意味で旺盛に活動していた時計塔『貴族主義』の一家『アニムスフィア』であるとのことだ。
今更ながら、本当に因果な話である。
「衛宮家に関しては?」
「割れてるわ。当初、一条家は『長男の嫁』にアーシュラさんを―――とか考えていたみたいだけど」
自分たちの権力・戦力を維持するために、目立った魔法師を内側に取り込むという考えは、昔からなくはない話だが……。
「それを止めたのが、十師族内部にいたってことか」
「ええ……まぁそもそも、士郎先生とアルトリア先生が認めないだろうけど」
その内訳として『四葉』『十文字』『九島』……『七草』ということだ。その意図はどちらかといえば、利害関係からというよりも―――心情ゆえであるのだから、真由美は余計に分からなくなった。
(父は当初から『衛宮家に不義理を働くな』と言っていたわね……つまり、我が家と衛宮家には何かがあったということ?)
普段から権謀術数を巡らす父のことを嫌悪していた真由美だが、アルトリアから言われた後に、なんとなく視点を変えて父を見た時に―――少しだけ見えたものがある。
それは、けっして七草の家は盤石な権力基盤を有しているわけではない。寧ろ、何とか他家に付け込まれないように、何とか力を保たなければならないということだった。
政治家との折衝や多くの人員を抱え込む理由も、全てはそこに集約されていた。
(……家を守りながら日本の秩序を守る立場……それを簡単に捨てられる立場ではない、か)
色々と高校生にしては、らしくない悩みを持ちながら、パーティー会場を俯瞰で眺めていた真由美は―――。
先程まで深雪のディフェンス(爆)で、多くの男子生徒から誘いを受けていたアーシュラに視線を向けた。
流石に一息ついたらしきアーシュラのダンスステップは、普通の男子高校生には耐えきれるものではなかったらしく、十文字克人を筆頭に死屍累々という塩梅であったりする。
今日まで見てきた立ち回りですら、侮っていたことを痛感する。
そんなアーシュラは壁際で端末を開いたりする。昔で言うケータイいじり、スマホいじりとも言える。
ちょうど良くも、真由美と摩利からはちょっと頭を下から覗かせても見える位置。
そこにて連絡を開いた。相手との通信が開始される。
最初こそ『SOUNDONLY』であったが、端末の画面―――立体投影が表示されて、そこに一人の男の顔が出てきた。
端末画面を『眼』で詳細に見ていた真由美は、ちょっとした覗き見気分。疲弊しきったアーシュラだからこそ、今ならば余計なジャミングが発生することはないだろうと思えてのイタズラ―――。
だが、それはある意味では間違いであった。
見えてきたアーシュラの通話相手。その男―――少年の顔を見た時に、真由美は息を呑んだ。
喉が引きつる気分だ。全身が痺れるような心地。
アルトリアに言われてから七草の家のルーツを探る上で、父の若い頃の写真―――眼帯をしていたり、義眼にしたりしていた時期―――それ以前のものすらも詳細に見た時を思い出した。
そう―――、アーシュラが映し出した『少年』の顔は―――真由美の父『七草弘一』に似ていて、それでいながら……『司波達也』にもどこか似ていた。
楽しげというか、何かを嘆くように会話をする中で、その唇の動きから、少年の名前を聞いた。
ホールにある音がなければ、詳細に聞こえたかもしれないその少年の名前―――。
―――少し外に出るわ『コウマ』―――
流石にオーケストラの音を気遣ったのか、中庭の方へとアーシュラは行くようだ。
その姿に気づくものは多くはない。しかし―――、一人だけその様子に感づいたものが出て……実妹との踊りを終えたあとに休んでいたその男は、追うようにして庭へと向かうようだ。
「そういや、あの2人……戦いの最中に3分ほど姿が見えなくなったよな」
「そうね……」
戦塵が舞う中でもあの2人の姿は目立つ限りだった。その中でも2人の姿が消えたのは、誰もが見ている。
その後は、巨大大蜘蛛の下部から突然、巨大剣をモーターボードの進化系たるフライボードよろしくにして現れたのだった。
思考がまとまらない中でも、そんなことを考える余裕はある真由美は思う。
出てきた司波達也の『能力値』は、かなり高まっていた。アーシュラという騎士が、何かをしたと思うのだが……。
『イッヒッヒ! 学生共に張り付いた『悪い魔力』を吸うために、ここに置き去りにされるとは思っていなかったぜ!! まぁ食うけどよ!!』
先程から手すりの上から瘴気のような―――『悪い魔力』を換気するかのごとく食べている喋る匣ならば、分かるのではないかと思うのだった。
眼にも見えるほどに黒々とした『煙』のようなものを吸い取るアッドに対して……。
「アッド、あの2人―――なんかあったのか?」
『ああ? あの2人って、俺の姪っ子とあのよ、小僧っ子のことか?』
何かを途中で言いよどんだらしき喋る魔術礼装だが、摩利の言葉に対して―――。
『あったと言えばあったが、俺の口からは姪っ子の秘密は、おいそれと言えねぇ。ワリーなお嬢ちゃん』
「そりゃいいんだが……アッドは、アーシュラの伯父なのか?」
匣が伯父ってどういうことなんだろうと思いつつも、ガタガタと
『アーシュラからすれば、『俺』に定着した『疑似人格』のモデルは、確かに『伯父』にあたる。ただ、俺自身はそういった意識があるんだか無いんだか、微妙な心地ではある。言うなれば、作られたコピーが、自身のオリジナルがいると分かっているのに、それで自我崩壊するか否か、ぐらいの感覚ではあるんだな』
「クチの悪いお前が、そんな状態であったとは……」
結構衝撃的なことを言われて、摩利も真由美も驚くばかりだ。
『オリジナルの記憶も俺はなんとなく持っている。幾度か偶発的な事件で再生されたこともあるからな。だから、オレはアイツの伯父さんなのさ』
言いながらも、吸血鬼騒ぎで出来た悪い魔力を『ずもももも』という勢いで食っていたアッド。その正体が、何となく分かりつつも、たた整合性という意味では何もかもが付かない―――彼ら『衛宮家』の謎は深まるばかりだ。
(せめて何か教えてほしいもんだ……)
摩利としては、真由美のもどかしさ以上に感じてしまうのは―――、そのチカラの原点を『自慢』するぐらいはしてくれた方がいいのに。
まるで『出来て当然』『やれて当然』みたいに煽るから、反感が渦巻く。
二科生に対する見識だってそうだ。
少しは自慢するように言ってもいいのに、『このド低脳がァ―――ッ!』とか言うから、ああなのだ。
そう考えると夏休み明けが怖い。何が怖いって―――。
起こっているだろう変化に真由美が耐えきれずに、色々と不調を来すのではないかと思えてだ。
いや、いまだって彼女はいっぱいいっぱいだ。
別に真由美だからどうにか出来た話ではない。歴代の生徒会の中では、改革の意思が堅かった人間ではある。
だが、その改革案がクソみたいなものであって、おまけにそんなのが十師族の長女から出たとなれば、反感は強まる。
外野からの意見も聞くと、確かに真由美の言っていることは、一見いいことのようで、全く実益を伴わない案であった。
(……まぁ何にせよ。私たち、魔法師というのは、どうであれ『シニシズム』と『スノビズム』しかない―――『器のちっさい』連中ということなんだな)
そんな結論を、うつむき加減の真由美を見ながら渡辺摩利は出しておくのだった。
そして中庭では、少しだけ――――――その価値観から脱却しつつある男子と、それを行った女子との『触れあい』が始まろうとしていたのだった。