魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
中庭に出ていくアーシュラの姿を、ほのかとのダンスの最中に見てしまった。
死屍累々と成り果てた魔法科高校男子勢。アーシュラのステップに合わせた結果のそれだが……。
(―――)
それでもアーシュラと踊れたという事実に、嫉妬を覚えてしまう達也がそこにいるのであった。
というか、企みが聞こえっぱなしだったのだから当然なのだが……。
せめて立華辺りと、現在踊っていれば……気を利かせて送り出してくれたのに……。
「達也さん。ありがとうございました―――私と踊ってくれて」
「そこまで畏まることじゃないだろ。俺みたいな無骨者と踊ってくれてありがとう。ほのか」
だが、だからといって目の前の女性を歓待することは忘れない。バトル・ボードでほのかに失態を繰り出してしまった達也なのだから……。
「―――達也さん。中庭に行ってきたらどうです?」
「深雪の号令にいの一番に賛意を出していただろう。どういうことだ?」
「流石に……ちょっとだけ理不尽かなって思えて、それに―――達也さんの希望を通すことも必要じゃないですか」
エレメンツ特有の従属精神とも奉仕精神とも言えるものだろうが、もはや分かりきっているが、ほのかが恋敵(?)を利することをしてくるとは……。
「私は―――アナタが、達也さんが好きだから―――可能な限り、アナタの希望を叶えたいんですよ」
「それが、君にとって残酷な結末になったとしても、か?」
いくら朴念仁ともノーエモメンだの鉄面皮だの言われても、達也は『ほのか』の気持ちが分かる。
その感情は勘違いだ。忘れなさい。などと冷たく突き放すことも出来る。しかし―――色々なことを考えて、それでもやっぱり―――自分の気持ちがあの『最強無敵の妖精竜』に向けられていることに、ウソはつけないのだった。
「私を見てくれていないわけじゃない。アナタを独り占めしたい気持ちが無いわけじゃない。けれど―――アナタを縛り付けたくないんです……」
深雪とは意見を異にするほのかの真剣な眼差しを受けて、達也は気配を消しつつ―――。
「ありがとう」
ほのかが掛けてくれた一種の空気屈折術―――インビジブル・エアを光波振動で再現したという術を受けつつ、達也は『中庭』へと向かうのだった。
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『―――あの男と付き合うのか?』
彼是、色んなシーンはあったので、流石にコウマは緊張感を持ってそこを問うてきた。
苦笑しながら『分からない』とだけ言って、今は付き合っていないと伝える。
「……ただ、アナタとはもう終わっているのだから、そこに希望は抱かない方がいいと思うわ」
『………惚れ込むほどではないが、長い付き合いをしていれば、どうなるかわからないか。やっぱり俺も日本へと向かうべきだった』
「アンジェリーナ……妹を、恋人を『自由』にさせるために軍人になったアナタの決意って、そんなものなの? 失望させないでよコウマ。ワタシが愛した男が、そんな軽薄な存在だとは思いたくないわよ」
ワタシを失望させないで。
その言葉に―――画面の向こうのコウマは―――。
『それでも―――君を心配したり、想うことだけは許してくれよ』
なんで、こう……元カノ未練マンばかりアーシュラの周りにはいるのだろう。他の男と付き合えば諦められるのか?
そう思いながらも……。
「リーナに怒られない程度、友人を心配する程度であれば、構わないわよ」
『ありがとう。ハワイで待ってるよ―――I LOVE PRINCESS BRAVE』
後半の文言は小さくて聞かなかったことにしとこうと想いながら、その言葉を最後に通信が途切れた端末を仕舞う。
一息吐いてから、どうしたものかと想う。
いまだに会場内では、踊れや騒げ―――とまではいかなくとも、未だにアレなようだ。
また戻って誘われるのもめんどくさいので、このまま中庭で
―――その歌声が佳境に入った時に、達也は中庭に訪れた。そこには―――。
まん丸の月をバックに歌い上げている自然の粋美があった……。
中庭の噴水に沈み込むことのない足。それをサポートしているのは、達也の眼には詳細には見えないが、精霊の加護……湖の妖精ヴィヴィアンに愛されたことで、彼女を水が害することはない。
だからこそ、彼女は何もなしにこの幻想を作り上げられる。
この前では、水面歩行という『現象』を、様々な物理逸脱構築でしかなせない魔法師という存在が、とてつもなく歪で面倒なものにしか思えないのだった。
魔法というものを識るがゆえに、その天然自然の全てに、自分が崩れ去るのを感じる……。
踊りながら歌う彼女―――何かを尊く、敬うかのような調子でいる彼女を彩るかのように、庭園に白い花―――白百合が咲き誇る。
それはかつて、『永遠』を定義しようとした魔術師が壊された場面。
この世界で一番美しいモノを見てしまったがゆえに、全てを壊された
全てを喪失したがゆえに、触れることすら畏れた時に、信仰が崩れ去ったのだ……。
彼女が踊る姿を反射する水面に、ドレス姿の彼女が見える。
達也には分からなかった、知らなかったが、それは―――星の後継者、受肉した精霊種『真祖の王族』が着ることが許されるドレス。
彼らの
その衣装が現実のアーシュラ・ペンドラゴンと徐々に重なっていく。投影されていく彼女の姿が現実のものとなった時に……。
達也は姿を見せて、そして噴水の縁に飛び乗った。
分かっていたのだろう。知っていたのだろう。
だから表情に変化を見せないアーシュラに、無言で誘いの手を出した。いつもの彼女ならば『カッコつけ』とか悪罵を言ってくるはずなのに―――。
「『私』と踊るのね――――――達也」
「プリンセスドラゴン――――――どうか、この俺と踊ってくれ」
神然とした様子のままに、達也の誘いの手を取る
少しだけ驚くも、達也が踏みしめた一歩が水面を『踏み抜く』ことはなく、水面を歩く……達也が何もやっていないというのに、それを出来ることに驚く。
しかし、そんな現実は目の前の奇跡に比べれば些細なことだ……。
薄い笑みを浮かべて
波紋が発生して、映し出された2人の姿が揺らぐ。それでも、姫君とのワルツが刻まれる。
アーシュラのステップは、多くの体力自慢を疲れさせた。その意味が分かる。
彼女は、いつでも自由で、そして闊達で、どうしても自分たちの壁を壊していく、そのステップ……赤心を込めた踊りは、最大級のプシオンを放射して、パートナーを疲労させるのだろう。
(だが、オレをそんじょそこらの男だと思うなよ)
力強く、絡めるようにアーシュラの指に自分の指を絡ませながら、達也は決意する。
月光のもと、月の写し身を踏みしめながら―――
達也がどうしても眼を離せない少女との月のワルツが刻まれる。
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「やれやれ、どこのポップスターなのやら……」
遂に2人がいないことに気付いた面子が中庭を見渡せる場所に行くと、そこには
幻想の城を創り上げた姫―――アーシュラはいつの間にか、ドレス姿を纏って水面をステージに踊っていた。
そのパートナーたる司波達也は、いつの間にか黒のタキシードを着せられていた。
(もはやマーブル・ファンタズム級ですね。アーシュラの能力は……)
元々、そういった素質はあったのだが、ここまで来ると苦笑せざるを得ない。
しかし――――。
(魔法師たちからすれば、とんでもない話でしょうね)
制御されない意思のもと放射されたサイオンが現象を生むのとは、レベチすぎるものだ。
「相変わらずスゴイことするわね」
「アナタだってやろうと思えば出来るのでは?」
「あんまり邪霊を操ってそういうことはしたくないわね」
エリセの半眼ため息を見ながらも、アーシュラの創り上げたキャメロット城に殆どが驚きながらも、目敏いというかいろんな感情を持つ人間たちは、笑顔でワルツを刻む司波達也とアーシュラ・ペンドラゴンを見ている。
付き合っているんだか、付き合っていないんだか。
なにはともあれ―――。
(アーシュラの正体は、知られつつあるんでしょうね。しかし、正答を出した時にどうなるやら……)
人理の歪み、腐り果てつつあるこの世界の定礎を治すには、一度は『奇跡』の再現が必要なのだから。
そう達観した想いでいなければ―――――。
(アッドが撮影した姪っ子の戦闘プレイバックの中にあった―――キスシーンで、狂奔状態の司波深雪の冷気を抑え込む役目を放棄したくなりますからね)
四葉がかつて『どういう因果』か手に入れた原理を覚醒させるためであったという理屈を解説することも出来たのだが、もはや理屈や道理では止まらないぐらいに、司波深雪の心は砕かれている。
まぁ、どうにかこうにか取り戻せるというのならば、取り戻せばいいのだが……。
「―――藤丸、アーシュラは……アレか? コウマ・クドウ・シールズとは……どこまで行っていたんだ?」
毎度のことながら、質問の代表者として立ち上がる十文字克人だが、その質問に対しては……。
「克人さん。アナタ最低ですよ」
生ゴミを見るような眼で十文字克人に返すも、今夜の十文字克人は譲らない。
「いや! 分かる!! 不躾すぎて、不道徳かつ……男として、最低な質問だというのは―――が……アレは衝撃的すぎるぞ!!!」
「恋人がいた女の子なんだから、そういうのに慣れていても普通でしょ」
「むぅ……正直、アーシュラが……なんか繋がらなかったからな……ちょっとなぁ」
困惑しきった十文字会頭に、自校他校関わらず舎弟とも言える人間たちも戸惑うも……。
「や―――♪♪ これだ・か・らオトコは―――♪」
「どんだけオンナノコに
囃し立てるように、カリンと一緒になって会頭に『現実』を教えてやるのだった。指差しながらの言葉に会頭は更に呻く。
「む、むぅ……そういうものか? あの大食漢なアーシュラが……そんな経験豊富とか、ちょっとショックなんだが」
顔に似合わず少年らしい純粋さを持つ克人に苦笑しつつ、言葉を続ける。
「アーシュラは、あんまり気取ったりとか、男の前では
そしてアーシュラは、男の子の前で、モテたいから、気を惹きたいからとカワイコぶったりする同性が嫌いな、典型的な女子ですから」
その言葉に一高女子―――特に一年組の大半のハートにぐさり!と心の宝具が突き刺さる。特に光井ほのかにはクリティカルヒットである。
「だから、コウマの前でもメシはいつもどおり五人前はふつーに食べてましたし、そこまでアレコレ『ぶりっ』てはいませんでしたよ―――まぁだからこそ、その分、キスとかスキンシップは結構な頻度であったりして……私やコウマの妹といる時にも、2人して、いつの間にか『しけ込む』時もありましたよ」
後半は若干、怒りを覚えながらの発言で、周囲にいるみんなには状況とかは想定しやすかった。
「そ、そうかぁ……克人くんショック。あんな風に男っ気が無くて、メシは10人前は食うアーシュラにそんな一面があっただなんて―――転じて一高女子の女子力の低さに驚きだぞ」
ぐさりっ!!! 戯けたような十文字会頭の言葉だが、後半の文言が突き刺さる面子は多い。
「当たり前じゃないですか、アーシュラと司波くんを接触させないために、あんな風な包囲網を敷いたんですから、女子会というか婦人会レベルの嫌がらせですよね」
ぐさりっぐさりっ!!!!!
さらなる言葉の槍が、一高女子を襲う。一際ぶっといのが突き刺さったのは、司波深雪である。
「むぅ、言われてみればなんたる白い巨塔……」
「まぁ何にせよ。アーシュラに対して奸策巡らしたところで無理なんですよ。彼女は純粋に生命体として、あなた達よりも上のステージに居るんですから」
そんな言葉で締めくくりながら、言外に『余計な手出し・詮索はするな』と釘を差しておくのであった。
知られつつはあるだろうが、アーシュラの本当の正体―――そんなものは上っ面でしか無い。
具体的には―――。
(パラミシアの能力かと思いきや、ゾオンの能力で、しかも想うままに戦えるとか……そんな感じ)
内心でのみそんなことを思いながらも、アーシュラが作り上げる幻想の城を見ながら……鎮魂歌で土地が浄化されるのを見守るのであった。
九校戦は、各人のいろんなものを壊しつつ、いろんなもの残しつつも終わりを告げて……残り少ない夏をそれぞれで過ごし―――
季節は巡る……。