魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
「月を見あげるウサギとて―――理性を無くす時もある。暴れる巨人をとっ捕まえる!! さぁさぁ!! ギガントバスターの時間だ!!!」
言いながら鞭剣―――蛇腹剣を操る少女は、その剣を最大級に伸ばしながら宙を駆けていく。
伸ばされた剣は、さながら雲海や波間に何度も浮かんだり沈んだりする竜の姿を思わせる動きを見せつつ、縦横無尽に展開―――。
その蛇腹剣は何度となく相手を切り裂き、そして―――。
「ヴルカーノ・カリゴランテ!!!!」
シメの言葉を吐いた少女は、そのままに相手―――渡辺摩利を『戦維喪失』させていたのだった。
また、戦う少女どちらもがバニーガール姿であるというのが、余計に状況を複雑怪奇なものへと変化させていたのである。
そんな状況に対して……。
「なんでさ」
戦維喪失させた少女の父親であり、この場……魔法科高校の教師である衛宮士郎は、心底の疑問を呈していた。
「えーと……なんでウチの娘が、渡辺と戦って、しかも戦維喪失させるまでに至ったんだっけか?」
こめかみをほぐすように思い悩みつつ、士郎先生はこうなった原因を思い出すのだった。
現在は夏休み明けの二学期初頭……何故こうなったのか―――。
我が娘とその朋友たる藤丸立香は、とにかく自由なままに、九校戦というフィールドで必要なことと必要でないことをやって、全てを解決してきた。
その後は、東京に帰ってくると同時に荷物とパスポートを手に、国際便が出ている空港へと直行。
ハワイへと向かうのであった。
現地にて、妹分たちや同輩や……元カレなどと合流。まぁ色々あったが、ビーチに向かって『きららジャンプ』などをするぐらいには、楽しんできたようでなにより。
昔なつかしの同人誌作りをしてきたとか、『アレか』と分かってしまうぐらいには、何か色々あったようだが……と士郎は想ってから両隣にいる面子からの話を聞くことにする。
「士郎先生は知っていたんですか? アーシュラと立華が、ハワイに行くってのは?」
「まぁな。あの子たちの毎年のルーティンなんだよ。
たまには日本で海水浴でも、と想うが―――海外住まいが長かったからな。あるいは、ハワイの神気でも取り込んでいるのかもしれない」
そんな風に言われては、第二体育館の上階で試合の観戦をしていた達也たちは、何も言えない。
日本の魔法師にとって海外というのは未知の世界だ。別に出国制限―――というのが明確にあるわけではないのだが、それでも魔法師が気楽な気持ちで海外に出るとなると、即座に『外務省』や『国防省』が、揃ってアレコレ文句を着けてくるのだ。
よって―――魔法師が海外に行くことは『特別な事情』が無い限り無理な話なのだ。
「実を言うと、しず―――北山さんが、二人を小笠原諸島に誘いたかったんですけどね……」
「聞く所によると、A組の北山とウチの娘はあんまり仲良しじゃないと聞くけどな」
「……まぁそうですが……」
無理に『反りが合わない相手』を誘わなくてもいいんじゃないか? と言う士郎先生。
この人も自分たちと同じ年頃には、『色々』あったんだろうなと気付かされた達也一同。
「―――まぁ、それにしても七草じゃあ、予想通り―――あの二人を活かしきれなかったか」
「随分と辛辣ですね士郎先生」
「分かりきっていたことだ。そもそも、アーシュラや立華の力を『探ろう』という態度が見え透いていたからな……」
確かに傍から見れば、そういう所はあった。ただアーシュラも立華も秘密主義的というか―――
『まぁお前らじゃわからないか。この
……という風な態度を見せているから―――そして、それを見せられる度に、『一科が二科に対して取っていた態度』を殊更理解させられるという、自縄自縛に陥るのだ。
(おまけにカルデアにて特別セミナーを受けてきた二科生たち、学年問わずは―――とてつもないジャンプアップでレベルアップを果たしていた)
なんやかんやと九校戦の現場のスタッフにいて、更にアーシュラのテオスで簡便な魔法使用を体現してきた達也たちは、少しの自惚れを自覚させられた。
夏休みデビューと言わんばかりにE組の同級生たちが、すごくなっていたことを考えるとズルい気分が出てくる。
特に明らかに成長・進化を果たした壬生紗耶香に対して、過去のわだかまりを持ちながらも、あの時とは違い『魔法剣士』としての勝負を挑んだ渡辺摩利は……。
「ボッコボッコだったもんね……」
渡辺委員長に想うところはあれど、流派の剣士があそこまでやられると、違う想うことも出来るのだろうエリカがむすっとした様子で呟くのだった。
「エリカでも今の壬生先輩に勝つことは無理か?」
「アーシュラには勝てないが、紗耶香さんならば勝てるなんて考えられないわよ。我が―――アドバンス・チーバ流の術理ではね………」
達也の問いかけに最後の方は苦しげに、腹の底から振り絞るように、声を出したエリカの言葉は……夏に起こった出来事の一つを全員に再認識させた。
九校戦において、アーシュラに剣客としての立ち会いを断られた千葉修次OBは、再び東南アジアへの剣客商売(正)に赴く前に、アーシュラというよりも衛宮家に勝負を挑んできたのだ。
尋常な立ち会いではない魔法剣士同士の戦い―――。
士郎及びアルトリアが、『アナタ方とは剣の術理が違う』と言うも、譲らぬ態度の千葉OBは―――。
―――我が家の看板を賭けましょう。もしも修次が娘さんに負けたときには、千葉流の名称を変えて再出発しましょう―――
千葉流道場の道場主―――エリカの父親からもそんなことを言われたことで、アーシュラは千葉道場の最高の剣客『千葉修次』との戦いに挑むことになったのだった。
結果から申せば、アーシュラは完勝であった。
音を置き去りにしたネテロ会長の拳の如き剣戟の連続、そしてあらゆる有効打を凌いだアーシュラの豪剣にして巧剣極まる剣技は、あらゆる意味で千葉OBを打ちのめした。
「次兄上は真剣というか千葉道場の一番の『業物』を出したってのに……ソレに対して―――アーシュラが使ったのは……」
アッド=マルミアドワーズでもなければ、模造刀=フェイク・カリバーンでもなく―――。
「ただの竹刀だった……。なによタイガー道場印のタイガーピアスって……」
そんな得物で負けた結果、流派の名前がとことんふざけたものに改称された挙げ句、数時間後にはどんな『手品』を使ったのか、全ての公的機関にて登録されていたかつての千葉流の名前は『アドバンスオブチーバ流』―――略称『アドバ流』とか『アドチバ流』へと変えられていたのだった。
「一応、俺の姉貴みたいな人からの譲りものなんだけどな……まぁ、藤ねぇのデタラメさは、身に沁みているよ」
エリカの嘆き(突っ伏し)に対して、懐かしい思い出に浸るかのような士郎先生の言葉。
ただ『俺の両腕をガトリングにしたり、神霊ジャガーマンになったり、フリーダムすぎるぞ藤ねぇ……』
果たしてどんな姉貴分だったのか、先生の言葉に少々疑問を懐きつつも、とりあえず今は……階下の事象に対して考える。
そんな風な九校戦含めてのアーシュラの大立ち回りは、色んなものを呼び起こした。
「九校戦本戦モノリスが、プリンセス・ガードに変更しようなんて案もあったぐらいですからね」
「ただ、その前提条件―――にしなくてもいいはずの、アーシュラとハベトロットによる合作霊衣を準備出来なかったそうで、別に普通のアーマー装備でもいいでしょうに」
「流石にそれはちょっと無情すぎませんかね? やっぱりどう言ってもアーシュラがプリティでキュアキュアな衣装で、他校のプリンセスを倒していったのが、動機なんですから」
いつの間にかやってきたアルトリア先生の言葉に、達也は少しだけ噛み付く。確かに、それはプリンセス・ガードという競技の上では『正しい』行いだ。正論ではあるが、まぁそれでも……発端となった存在―――ある種、前例や伝統を覆して『新たなる王道』を見せる存在には、どうしても憧れが出来てしまうのだから。
「随分と―――私の娘は好かれたり嫌われたりと、忙しないですね」
とはいえ、今は下の状況に対する回想をしなければならない。
ことの発端は、そのモノリスからプリンセス・ガードになった際に、『渡辺摩利』に対して着せるドレスは何だったのだろうか?
要するにIFな可能性を知りたい。ぶっちゃけ摩利の乙女な願望の発露であった。
それに対してアーシュラは……。
『仕方ありませんね。渡辺委員長には色々と便宜を図ってもらいましたからね。それぐらいならば―――私の方でどうにかしましょう』
『本当か!?』
予想外に好意的な言葉。そして―――。
『なんやかんやと一学期中は、あなたがいてくれて助かった。本当に……』
そんな言葉で、少しだけ優しげな微笑みをする渡辺摩利。そして―――。
『投影鏡像・並列召喚』
意味合いは分からないが、呪文を唱えたアーシュラの手によって、摩利の身体は光に包まれて―――。
そこにあったのは―――。
太い脚、太い腕、他の部位は太ましさこそないが―――それでも全体的に巨女といえる体型の――――。
巨女の肉襦袢に包まれた渡辺摩利の姿であった。格好の衣装こそ黒いドレッシーな衣装ではあるが、その全体に感じる禍々しさとか、金髪のかつらに着けられた髪飾りとか―――それらを差し引いても―――。
なんというかスゴイ格好であった。
『あとは
胸に詰め物をしたアーシュラが、いい仕事したZE♪と言わんばかりの笑顔を見せた瞬間。
『よかねぇ!!!』
『あじゃぱー!!!』
どんな叫び声だ。そうツッコむも、そのちょっとしたナックルが、あの衛宮アーシュラを吹き飛ばしたことで、肉襦袢が霊衣の類であることは間違いなかった。
『なにをするんですか委員長!?』
『そりゃコッチのセリフだ!! 何だこれは!? 服か? こんなものすらも霊衣なのか!?』
『ええ、妖精騎士バーゲスト肉じゅばんです』
『固有名詞なぞどうでもええわい!! 他になにか言うことはないのか!?』
その言葉に少しだけ考えたアーシュラは……。
『え……あっ! 似合ってますよ!! サイ○ンと同サイズながらもドサ○ドン級のチカラを発揮できる上に、声とかめっちゃクリソツです!!』
『違う!! 全然嬉しくないわい!!』
まぁ花の
だがチカラを込めて熱弁を振るうアーシュラは、真剣そのものであり―――。
『……そのバーゲストなるサーヴァントと会話させてくれないか?』
結局、摩利もそれで少しだけ興味を持って、どんだけそっくりさんなのかを知りたがるのだった。
『いいですけど――――』
急遽、アーシュラは、そのバーゲストなるサーヴァントとの通話を行うのだった。
つなげたのはカルデアなのかどこなのかは分からないが、簡易版の通信端末で、摩利と同じような服装をした―――金髪の美女……やはり巨漢の姿が投影された映像の中にあった。
『―――おおっアーシュラ姫! 久しいですな!! どうなされました?』
『バーゲスト、あなたと少しばかり会話してほしい相手がいるのよ。あなたのドレスを好まない人なんだけど』
『そちらにいる少女ですか……って! なんですかその肉襦袢は!? 姫には私がこんな風に見えているのですか!?』
『けど相性はバッチリなのよ。マジ○ッドとウル○ードファイヤーぐらいに』
親指立ててそんな風に言うアーシュラに、流石のバーゲストも摩利も……歩み寄って話すことにするのだった。
『始めましてミス・バーゲスト、渡辺摩利と申します』
挨拶してから、英語圏のように名を先に名乗るべきだったかと後悔した摩利だったが。
『丁寧な挨拶痛み入ります。私は、モルガン陛下―――姫の伯母の騎士バーゲストです……にしても、私の肉襦袢ですか……ちょっとショックですな』
むしろ、腰を低く言われて畏まってしまうのだった。
『まぁそうですよね……』
その後に、数言交わしただけだが、色々とショックを受けてしまう姿とか、交わした言葉の声音とか―――。
(なんだか……)
(他人のような気がしませんわね)
……奇妙な
十分ほどの会話の後に―――。流石にということで騎士バーゲストは、アーシュラへの説得へと入るのだった。
『先例を語らせてもらいますが、ジャンヌオルタサンタリリィ嬢もかつて、クリスマスにて大失敗を犯したと聞いております。ヒトのためになるものではなく、もらう側が欲しい物を提供すべきだと思いますよ姫』
『そういうものかぁ』
『せめて肉襦袢だけは止めなさい……! メリュジーヌもそうですが、何で『最強種』は、こう……自儘というか、我の理屈だけを優先しちゃうんですか!!』
『そりゃ最強だと理解しているからよ。ドラゴンハートを掴むには、色々と試練を乗り越える必要がある。某ナシェルのごとく』
某の意味が全く無い固有名詞を前に、ツッコミを入れる元気すら失われる。とはいえバーゲストの嘆きももっともなので、アーシュラは今さらながら委員長のリクエストを聞くことにする。
『私の得物がどんなものか知っているよな? だから、お前があのルーシャナとかいうサーヴァントを倒した『超究武神覇斬』の中で使った鞭剣―――蛇腹剣を使ったサーヴァントの衣装がいい』
衣装そのものよりも、得物の良し悪しで判断することにしたのだった。遠目でしか見えなかったが、それでもあの剣は―――少しだけ羨ましかった。
衣装こそ変化しなかったが、あれだけのスゴイ武器なのだ……英霊由来なのかアーシュラオリジナルなのかは分からないが―――。
『―――分かりました。アナタのリクエストを聞かなかった。ワタシの失態ですからね―――投影・開始』
そして、摩利でも持ちやすい―――もしかしたら短躯の剣士の得物なのだろうかというサイズの長剣が寄越された。
鍔も柄も―――アッドを見ていたからか、どちらかといえば地味に感じるほどに飾りっ気はなかった。
ソードブレイカーの役割を持つのか、鍔の左右は剣と同じ方向に伸びてエッジングされている。そんな剣にある特徴といえば、剣身の最初に十字の空洞が射抜かれていた。
『これが―――』
『では衣装変更を行いますが……本当にいいんですか委員長?』
『構わん。男装ぐらいでとやかく言うかよ』
確かに自分が求めたようなプリティでキュアキュアな霊衣じゃないかもしれないが、肉襦袢を着せられて、ちょっとだけ吹っ切れたところもあるのだ。
『まぁ……『男性』サーヴァントの衣装ではありますから、『男装』で間違いではないんですけどね……』
何か歯切れの悪い言い方をするアーシュラだが、覚悟を決めて『頼む』と言うと―――。
結局、アーシュラは委員長に自分の中に登録してあるドレスを着せるのだった。
光の繭のようなものに包まれながら、憧れの変身ヒロインみたいな瞬間を楽しんでいた摩利。
その瞬間、アーシュラと摩利がいるというイベントを聞きつけた多くの連中―――渡辺摩利を慕う千代田花音を筆頭に、魔法の演習場にやってきた人間たちは―――。
「なんだこの霊衣は―――!?」
―――バニーガールコスチュームとしか評することができない姿。真っ赤になって涙目の渡辺摩利を目撃するのであった。