魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
まぁ色々と裏側が見える配信の早さだが2年間の待機に見合うものなのか。
色々と考えつつも、新話お送りします
突如公示された魔法大学付属第一高校の生徒会長選挙のルールは、多くの生徒達を混乱に招いた。
多くの人間ではないが、衛宮アーシュラに生徒会長の推薦があったのは知られた話。それを断ったのちに公示されたことを考えれば、彼女がこの選挙の原因と見るのは間違いなかった。
『選ばれたものにしか抜けない、岩に突き立つ伝説の剣を抜いたヤツが王様とかいうのよりもいいでしょうが。当然、ワタシはそれがイヤだから、これを良しとするわ』
そんな納得しろとも言い切れないが、悪態を着くような言い方に、反感とも何とも言い切れないものが渦巻くのは当然だった。
「票の動向が読めないのよね……」
「ああ、魔法競技系の部活は統一候補を立てんと動き出して、その中でも白羽の矢が立っていた候補が服部だったんだが、アイツが部活連会頭を拝命した上に、ソレ以外の候補となると、魔法競技部活は自部活に近い人間を譲らないとして、ある種の内ゲバ状態だ」
「かといって魔法競技の部活内には、それぞれのクラスでのリーダーを立てたい人間もいて、中々に意思の統一に困っている様子だ」
「そして非魔法競技部活とてそれぞれだ。1科生は、中条を推しているように見えて、実際は違う人間を……ともなっている」
旧・三巨頭……というには気が早いが、後々にはそう呼ばれるはずの面子の会話。それを傍で聞いている中条あずさが、少しだけ『暗い表情』をしているのが、藤丸立華は気にはなったのだ。
「―――このままいけば、四年前の如く魔法の打ち合いになりかねないんだけど……」
「普通の選挙のごとく『供託金』みたいなものを徴収するシステムでもあれば良かったのでは?」
「それだと言い方は悪いが、『金持ち』しか立候補出来ないということになる……立華、お前とアーシュラの狙いは一体何なんだ?」
ようやく会話に入ったことを受けて、十文字克人は―――生徒会会計の一年女子に対して質問をぶつけた。
その質問と同時に、視線が全て向くが……藤丸立華はとくに構うことなく口を開く。
「まず一つ目。人づての通り一遍でしか私は知りませんけど、そういう魔法の打ち合いはありえないでしょ」
「それは……どうしてだ?」
「現在の魔法科高校の『生徒会長』という職が、『魅力的なもの』ではないからですよ」
四年前の『民主的で自由な選挙』に端を発する魔法の打ち合いの主原因とは、生徒会長というものの持つ権限のデカさと、卒業後にも通じる『実績』が魅力的であったからだ。
そして打ち合いの最大の原因は、当選確実と見受けられていた人間が、当時の一高で主流な論調の人間とは真逆の人間だったことが原因である。
要は―――自分たちと同調できる人間以外に、そこには立ってほしくないとする気持ちが発端。そういうことである。
「現在のところ、一高及び魔法科高校を取り巻く状況は良くないですね。例え、卒業後にも通じるネームバリューだとしても、十師族や数字持ちの家以外―――いや、そういう家であっても、どうなるか不透明ですから」
火中の栗を拾う。
マスコミからも、とてつもない勢いで言われた『マギクス・バッシング』。そのことに心を痛めた人間ばかりでは、そういった心意気を持った人間はいないのだ。
「4月のブランシュ事件、8月の九校戦で起きた
「―――不吉なことを言うな……」
「考えざるをえないでしょうよ。そして何より生徒自治が高い魔法科高校ですからね。いざという時には、他の生徒の命すら、その『双肩』にのしかかる。今までの苦労は分かりませんが、今季から来季までの生徒会長にかかる重みは相当なものですよ」
その言葉に、誰しもが沈痛な表情で考える。そして、それこそが……アーシュラを推薦した理由でもあったというのに……真由美は恨めしげな顔をする。
「だからこそ、今回の選挙は盛り上がらないし、票読みも出来ない……そして2科生の大半、三年生及び二年生の殆どは、アーシュラを推薦する運びでしょうよ」
「だったら最初っから―――いえ、堂々巡りなのね。明らかかつ詳らかな形で指名されなきゃ、意味がないってこと」
藤丸の読みが当たるかどうかは分からない。だが、彼らをステップアップさせたカルデアという国際機関は、アーシュラに関わりが深いのだ。
「あの藤丸さん……カルデアでは、壬生さんなど2科生たちは、本当に―――ヒドイ人体実験じみたことはされていないんですよね?」
話題を横にそらす中条あずさの言葉、だが特に拘ることも無いので、『そのはずです』とだけ返してから、どうしてそう思ったのかを問いかける。
「私も真由美さんと同じで2科に……友人と『ハッキリ』断言出来るヒトはいませんでした。1科生として本当に狭い交友関係を持っていました」
だが、それでも少しだけクラス制度ではないところで関わった人間がいないわけではない。その一人が剣道部の壬生紗耶香であったのだ。
数言会話しただけ。確かあれは、武道場で使う器具に関してのことだったか―――。
その会話とて、今考えれば『隔意』と言えるものも少しあったが……。
それでも同級生が、あそこまでの魔法力を得て帰還してきた。同時に、あんな風に冷たい目をして『悪・即・斬』とでも言える戦いで摩利を叩きのめしたことに、少しだけあずさは『敵意』混じりの疑問を持つ。
もしもカルデアという『人理保障』のための国際機関が、そのように魔法師をモルモット扱いしているならば―――さすがのあずさとて、許せない。
効くか効かないかは別にしても、藤丸・衛宮両名に魔法で戦うことを決意したのだが……。
「まぁ英霊に学び、英霊と衣食住を共にすることで、なにかの『変化』が起こるだろうことは予想していましたよ」
「それは―――」
「人体実験という意味合いでは、正しくその通りでしたよ。そこを否定はしません」
本音を言えば、『そんなことはない』という言葉を聞きたかった一同は沈黙する。
「……どういった変化を予想していたんだ?」
「一つには、英霊のチカラを得ていくだろうということですかね。アーシュラの霊衣などを見れば分かるように、ヒトというのは、存外『思い込み』で変化する生物なんですよ」
魔術世界では『共感呪術』と呼ばれる形式だ。これを利用して、『究極の美』を以て『 』に至ろうとした一族がいたそうだが、その過程で偶然の産物として、美姫の世話役が、その美姫と同じ美しさを得たことがあるそうだ。
「脳神経の分野では『ミラーニューロン』と呼ばれる作用の一つです。同じ釜の飯を食っていればなんとやら。強烈な神秘を携える、人類史に刻まれた英傑と呼ばれる存在と十日以上も一緒にいれば、自然と英傑の動きや技能、思想……気持ちへの共感を身に着けたりするものです」
「そういうものか?」
「少なくとも野球やサッカー……運動競技で極まった動きや技ありなプレーを見せられれば、それを真似たいとして、すぐに練習する……特にその競技をやっていればね」
そう言われると分からないわけではない。魔法科高校の魔法師を志す人間たちとはいえ、スポーツや音楽、その他の
その中で『すごいプレイヤー』『すごい人物』に出会えば、知ってしまえば向上心が刺激されるものだ。
そう考えれば……分からなくもない―――そしてその中で、壬生を筆頭に多くの2科生……
「アーシュラが言っていましたよね? 獅子心王は、寝物語にアーサー王と円卓の騎士の伝説を聞かされていたから、その魂を変質させられていった……憧れ、憧憬が―――彼を伝説のアーサー王ファンへと変えていったのだと」
「そういうものか……正直言ってそれを眉唾ものと言い切れない。―――これなんだな……。これが……2科生が感じていたことなんだな……とてつもない羨望を産んでしまう」
講師がいて、魔法の実技を学ぶ機会に恵まれている1科生を羨んでいた、2科生たちの気持ちを摩利は痛感して、自分を慕ってくれていた後輩が離れた原因もまた理解した。
「まぁ
摩利の言葉に応えてから中条あずさに眼を向けながら……。藤丸立華は口を開く。
「―――私としては、アーシュラが会長になることは賛成出来ませんよ。彼女は獅子心王とは違い、血塗れの王道をひた走ったアーサー王に対して憧れなど持てていませんから、起こり得る結果は悲惨なものになります」
「独裁体制を敷くと言うんですか……?」
以前に、アーシュラがアルトリアとの会話の中で言っていたことを思い出して、あずさはそう問いかける。
返事は当然のごとく肯定であった。
「まぁやるでしょうね。彼女が会長に選ばれれば―――」
「……そんなこと……本気でやるんですか?」
「アーシュラならばやりますよ。彼女は『実現不可能なこと』を成し遂げる類の天才という名の『孔』です。いざ打ち合いとなれば、一人ひとりの首根っこを押さえてゲンコツ一発、地面にめり込ませることも可能です」
魔法が効かない相手が最大級の膂力で以て襲いかかる。はっきりいって悪夢だろう。だが、ソレ以上に……そこまで剛力の相手が上に立つことは――――。
(いざという時には、たしかに……頼もしいな。だが……)
本当にソレがいいことなのだろうか?
摩利の考えは、あずさも抱いていたことであった。
もしかしたらば、自分の在任中に死者が出るかもしれない。取り返しがつかないことが起こるかもしれない。
それでも……。
これからも1科が魔法科高校の選良となるためではない。ただ……衛宮アーシュラという自由騎士が王になることを、中条あずさは受け入れらなかった。
「―――真由美さん。魔法競技部活が談合していたってことは、選挙運動自体はやっても構わないんですよね?」
「人聞きの悪い言い方だけど、そうね。それは構わない―――って、あーちゃん? もしかして……」
何気なく後輩の質問に返した真由美だが、チョココロネヘアーの後輩は、意を決して立ち上がる。
「衛宮アーシュラに第一高校の頭を張らせるわけにはいきません……九校戦の時に何度か話していて、彼女の語る論にも納得していた私ですが、今回ばかりは譲れません……私が! 中条あずさが!! 来季の第一高校生徒会長になります!!!」
その端的かつ熱い言葉、あずさの中で、どういう結論に至ったのかは分からないが、それでも……その言葉が、全てを変える。
「藤丸さんは、アーシュラさんを会長にしたくないんですよね?」
「ええ、言っていた通りです」
挑戦的とも挑発的とも取れる言い様だが、特に反感反発を覚えるわけでもなく返す。
「ならば私に協力してください」
そうして特に何事もなく協力要請を快諾した立華ではあるが、最初にやらされることが……。
「せっかくのロリィな体型を活かしていると思うんですけどね」
「全くもって褒め言葉じゃないですね!!」
うがー! と喚く中条あずさではあるが、ともあれ『戦支度』を整えて、そうしてから出陣するのだが……。
その様子を先輩一同は呆然とするように見ながら、今度こそ選挙戦は混沌の様相を見せるのであった。
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「―――というわけで、魔法競技系の部活はこの一高だけでなく、魔法科高校全てで重視されているのよ。衛宮さんみたいに『興味ない』とする人間でも、その重要性は分かってくれているはず」
「はぁ」
そのわりには、九校戦ではその部活関連の部員が出場してなかったように思う。正面にいる、自分も出場した『クラウドボール女子部』の部長とやらに問いただしたい気持ちを抑えながら、少しの熱を帯びて語る話を右から左に受け流してから、生返事で返していく。
ともあれ語り尽くして満足したのか、『それじゃ当選のあかつきにはよろしくね』などと言って去っていくのだった。
捕らぬ狸の皮算用とは誰も思わないのだろうか。
『マーシャルマジックアーツ部』『コンバット・シューティング部』『スピード・シューティング部』……そして『クラウド・ボール部』である。しかも男女共通で来ればいいものを、男女別々にやってくるのだからウザい限りであった。
カフェラウンジから退避しよう。弓道場にもう行こうと考えた時に―――。
「ずいぶんと千客万来だったな」
「ブルータスお前もか」
やってきた男子に少しばかり辟易する。
「お前はローマ皇帝カエサルなのか?」
「カエサル陛下とは、食に関して語り合える仲だわ」
カルデアという魔境にいれば、とかく知り合える英霊は多い。ともあれ、そういうことではないのか、司波達也はアーシュラの対面に座る。
「何かあったの?」
「あったといえばあったな。実を言うとレオやエリカたちは……何故か俺に一票を入れるってな」
「そりゃ結構なことじゃない。別にワタシがアレコレ言うことじゃないわね」
「……お前は別になる気は無いとするが、本当になったとしたらば、どうするんだよ?」
「ワタシみたいな『無頼漢のはぐれもの』に、票なんて集まんないわよ。けれどもアナタがベスト16に躍り出たならば、やるべきことは一つだわ」
何をするつもりなのか。右手の指を虚空で動かして、まるで達也の目を惑わすように、まるで『とんぼ』の気分になるかのように、達也の目の前で、そんなことをされてしまう。
まるで稚気あふれる女子にイタズラをされている心地ながら、それでも『理解』をした。
「―――『そんなこと』をするのか、お前は?」
「するわよー。別に躊躇う理由がどこにあるのよ。そもそも……ワタシは会長にならない・なりたくない人間なのよ」
確かにそれならば、一気に評決は定まるかもしれない。しかし……。
「まぁアナタ以外の人間を選ぶかもしれないから、まだ分からないわ」
未来は
『運命』なんて見えなければ良かったのだ。先が見えても突き進むなんて破滅を……。
そうアーシュラが考えた瞬間、カフェラウンジが少しだけざわめく。
その理由は、入りこんできた女子が見覚えない人間であったからである。
アプリコット色の髪をストレートヘアーにした美少女。短躯ながらも、その姿に……ようやく何人かは、見覚えの中でも一番近い人物が分かり、合点がいく。
「な、中条なのか……!?」
何故か、というと失礼かもしれないが、カフェにいた桐原武明が、やってきた人物の容姿の変化に誰よりも驚く。
そして中条あずさは―――目当ての人物=衛宮アーシュラの近くまでやってきて……。
「アーシュラさん……アナタには第一高校生徒会長はまだ早い!! 今期の生徒会長には私―――中条あずさがなります!!!」
指差ししながらそんな一方的な宣戦布告をするのだったが……。
「はぁ、どうぞご自由に」
カフェラウンジにいた生徒たちの殆どがスタンディングオベーションしているなか、騒がしい中でもアーシュラは、淡々とそんな言葉を返すのだった。
そうして、生徒会長選挙の日は刻一刻と迫る―――。