魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
徐々に近づく第一高校生徒会長選挙。
ドブ板選挙のように、遂に『志願者』である数名が学内演説を行い、自分に一票を入れてくれるように話を振る。
そんな数名の中に、アーシュラはいなかったりする。
全くの無関心を決めているとも感じた魔法競技部活の面子。アーシュラに一票を投じようと決めていた人間たちは、志願者のうちの一人『中条あずさ』の必死な様子にどうしようかと動揺する。
そんな色んな意味で困惑しつつある『生徒会長選挙』の中……一年の様子はと言えば―――。
「も、もう一回勝負してアーシュラ!」
「無理、疲れた。単位も取得したし終了」
諸元の端末に入力して終わらせる態度を見せているアーシュラの無情な態度に、周囲の面子は苦笑したり憤慨したりするも、構わずに終わらせるのであった。
そんなアーシュラの無情な態度に、対戦相手であった司波深雪は何とも言えぬ表情をしてから、拳を握りしめるのであった。最強の女王を下す黄金竜王の態度は、人によっては気儘に見えただろう。
というか、そもそも本当に疲れているのだろうかという疑問が胸を突く。
ともあれ、そういう態度は一科生全体に不満や不服をもたらして、アーシュラに対する一票を削っていく。
そうなれば深雪が候補として挙げられていく。
だが……ここで頭の血の巡りがいい人間であれば、これがアーシュラなりの減票策かもしれないと感づく。彼女が生徒会長になりたがっていないのは周知の事実なのだから。
結果として、そうはさせまいという天の邪鬼な人間も多い。
どうにもこうにも五里霧中な現状なのだ。
「―――で、結局私たちに泣きつく羽目になると?」
「……正直言えば中条では、今後の一高をまとめるには力不足です。お嬢さんをやる気にさせるには、お2人の力を借りるしか無いと想いましたので……」
「しかしなぁ……ウチの娘が生徒会長ね……」
カフェラウンジで教師2人と対面で話し合う克人と真由美。ご両親からの反応もあんまり芳しくないことは一目瞭然であった。
「向き不向きだけで言えば、向いているとは言えないだろうな」
「そこはサポートメンバーを増やしますので……」
「そういう意味じゃないんだがな。それに民意で言えば、ウチの娘はそこまで人気じゃない」
沈黙。そこを突かれると真由美も克人も何も言えない。
そして何よりもっとも最大級の原因は―――。
「あの娘はな。反逆者なんだよ―――どこまでいってもな」
「それは……どういう意味でしょうか?」
「多くは語れないが、アーシュラはオレやアルトリアの人生を良く知っている。知っているからこそ、その道で『不幸』になったオレたちに、違う道を教えたい。人間らしさとは『こういうことだ』と、義務や責任だけに囚われて、そういうものを失った人生に『ノー』を突きつけたいのさ」
「――――――」
思わぬ言葉に、生徒2人は絶句してしまった。この2人の過去の片鱗を語られるとは想っていなかったからだ。
言葉は続く。
「魔法師という生き方を選んだことが『窮屈』なのに、それから抜け出そうともせずに、選んでから不平不満を撒き散らす。あなた方の『選択』は、私やシロウに比べて―――未練がましい」
「……ダメなんでしょうか? 魔法師であっても普通の高校生のように振る舞うことは―――」
「普通の高校生は魔法なんて使いませんし、『使えません』」
そんな原則論を出されては真由美はヒドく傷つく。
「まぁあなた達は子供の時分から魔法に慣れ親しんで、家の方で高度な教育を受けてきたから、ここでの教育は退屈で、他のことに価値を見出すでしょうが―――それは『全員』じゃないんですよ」
「そんなことはありません―――と言うには、確かに自分や七草は恵まれていた……。まぁ浅はかな考えでしたよ。真由美演説は」
同輩にまで言われて、真由美はもうズタボロだ……。
「いずれは出てくるかもしれませんよ。中学卒業も近い時期に、サイオン操作の適正が出たばかりに魔法科高校に進学『させられる』人間も―――それでも入学できるかどうか、はたまた入学したところでロクな教育も受けられずに終わるか―――そういう『選別』という名の『標本箱』の未来はいずれ来る―――そう理解しているんですよ。あの子は」
沈黙せざるをえない。
そういう人間がいることを理解していなかった。
そういう生き方を押し付けられる無情を分からなかった。
「というかお前達は、随分と未練がましいというか、いちいち『賽の目』の操作をしたがるな。俺の実家―――ご近所に住んでいたヤクザの組長は、
本当に士郎先生って一体どういう人生を送っていたんだろうと、2人して考えるが―――。
「とりあえず状況は、もはやお前たちの手を離れた。コントロールしようとすれば、逆に犠牲者が出る。火傷程度で済めばいいんだがな」
その言葉の真意は、判然としない。しかし、克人は意を込めて答えることにした。
「―――自分と七草の意見は変わりません。お嬢さん―――衛宮アーシュラに一高の先頭に立っていただく。例えそれが……あなた方、親御さんの意向に沿わずとも、彼女の力と意思、そして下にいるものたちを慮る心は―――この学校にこれから必要なものです」
その言葉に夫婦そろって―――
ともあれ―――。
「時間だぞ」
チャイムが鳴り響く。その音は選挙投票開始の合図である……。
しかし、どうしてもそれは不吉な音にしか聞こえなかったのである。
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投票は電子形式で行われる。そんなわけで、選管立ち会いのもとでの投票箱の見守りというものはない。
しかし―――投票時間は決められており……更に言えば、あらゆる恣意的な状況……偏向を許さないためにも、誰が誰に投票したのかをわからないようなシステムになっている。
コフィンというシステムを使ったそれは、確かに機能していった……そして―――。
―――『第一回の投票結果が出ました』
1−B 衛宮アーシュラ 60.1%
2−A 中条あずさ 22.2%
1−A 司波深雪 11%
1−E 司波達也 5%
その下にも泡沫候補よろしく得票率が表示されたが―――。問題点はそこではなかった。
『投票率93%により第一回選挙結果は無効―――1時間後に再投票を開始』
電子音声と電子文章が同時に行われて、コフィンという『棺桶』の中に入れられた生徒たちのどよめきが聞こえないはずなのに……聞こえるかのようだった。
小休止のためにコフィンから出て、思い思いのグループが作られて、どういうことなのかと話し合う。
(この投票会場には確かに、現在病欠などでいない数名を除けば、全ての一高生が揃っている。それらは最初からカウントされていない)
最初にコフィンに入った人数が表示されたあとに、投票が開始されたのだ。
つまり――――。
「白票を投じたものがいるということか」
「実質『棄権』という扱いになるわけね。何でこんなことに?」
「恐らくだが、票の動向が読めないからこその行動なんだろうな。これが普通の国政・地方行政などの選挙であれば、一回こっきりなんだが……」
今回の選挙は『候補者の得票率70%以上の獲得』『投票率95%以上の達成』が鍵となっている。
つまり票の動向が読めない第一回は、どうしてもこうなるわけだ。
友人一同に対して、士郎先生が前もって用意してくれた茶菓子を食べながら説明した達也だが……ここからどうやってこれを達成するか……。
「棄権ありとはいえ、6割以上もの票がアーシュラに集中している以上、何かしらの工作は行われる。つまり―――」
「アーシュラの牙城を崩すには、切り崩し工作があるってことね?」
「あるいは、アーシュラ自身、別に勝利することを願っちゃいない。勝とうともしていない。だからといって『負けよう』ともしていない。
仮にもしもこの状況が長引けば、俺や深雪に流れている票が、アーシュラに集中して……そういうこともあり得る」
牛歩戦術―――したくはないが、そうなることも想定されている。
「兎に角、今は投票率を『上げる』ことが先決だろうな。残りの7%の有権者が投票してくれれば、なんとかなるんだがな」
だが、そううまくいくとは思えない。この無効票という存在が、どういった意味を持つのかは……まだ分からないのであった。
再びコフィンに入っての投票
結果として―――。
1−B 衛宮アーシュラ 63.1%
2−A 中条あずさ 20.2%
1−A 司波深雪 11%
1−E 司波達也 6%
『投票率96%を確認、条件の達成を確認。これより第二回の投票率における、上位16名による決選投票に移る』
あっさりと投票率が上がったのは、いいことだが……。
中条先輩の得票率がおよそ2%ほど下がっているのが少しばかり気になった。つまりは……。
(さて……どうなるか……)
アーシュラの『策』をするには、条件はそろいつつある。
そんな風に考えながらも……。
(まさか、俺がベスト16の4位に配置されるとはな……)
民意というものの不可思議さを感じた時であった。
そうしながらも、ベスト16に選ばれた候補者は『選挙演説』というネクストステージに入るのだったが……。
「達也くん。ちょっといいかしら?」
「―――なんでしょうか?」
コフィンから出た達也を迎えたのは、前・会長である七草真由美であった。
「今後の選挙に関して、少し聞きたいことがあるのよ」
聞きたいこと……と言われても、何なのか皆目検討がつかない達也だが、先導されるままに行くと、そこには深雪、あずさなど……アーシュラ以外の会長候補者たちが存在していた。
どういうことなのだろうと思いつつ……士郎先生作のラズベリーケーキをぱくつきながら聞くことに。
「期せずして、というと悪い気分になっちゃうけれど、まさか達也くんまで候補者に残っちゃうなんて」
「自分も驚いていますよ。ただ、大勢を変えるにはいろいろなものが足りないとも言えます」
「そうね……」
暗い顔をする真由美。その胸の内は分からないが、もしかしたらば……。
「あの会長、本当にアーシュラに次期生徒会長になってほしいと想っています?」
それは達也の素朴な疑問であった。今日にいたるまで、会長は様々な説得をアーシュラにやってきた。しかし、けんもほろろというか無情な対応ばかり取られたことで、少しの翻意も芽生えているというか、中条会長をという気持ちに陥っているのではないか? そういう『希望』を持っていたのだが……。
「思ってるわよ。当たり前じゃない……ただ、この状況を終わらせるには……どうしたらいいのか……」
「それならば簡単です。今度の選挙演説において―――俺と深雪の票を全てアーシュラに振り向ければいいんです」
「お兄様……」
当然、自分たちがそう演説したところで、それでも自分たちを支持して一票を投じてくれる人間はいるのだろう。
だが、それでも……。
「70%の得票率、それをクリアするに相応しいのはアーシュラだけです……」
選挙を長引かせるよりもいいだろう。
何より、アーシュラならば善でも悪でもないが、魔法科高校を導ける。
19世紀フランスのロマン主義を代表する画家 ウジェーヌ・ドラクロワが描いた『民衆を導く自由の女神』は、 フランス7月革命をモチーフにした作品だと聞く―――。
ならば、彼女になってもらってもいいではないか。
しかし―――予想外は起こる。
魔法科高校の究極の反逆児―――アーシュラ・ペンドラゴンによって……。
『ワタシを支持してくれている人たちに簡単に言っておきます。ワタシは来期の会長に―――中条あずさ氏を強く推薦します。以上です』
得票率1位の女の奇策が―――発動した瞬間であった。