22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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 はじめましての方ははじめまして。いつも読んでいただいているかたはありがとうございます。ハマの珍人です。
 22/7にハマってしまったので書いてみようと思いました。
少しでもナナニジに興味をもっていただければ幸いです。


さよなら平凡な日々

 大人なんてものは自分勝手だ。

責任を伴うときには

 

『もう子供じゃないんだから』

 

と言うくせに、権利を主張しようものなら

 

『子供のくせに』

 

『大人の話に首を突っ込むんじゃない』

 

 とさらりと意見を翻し、こちらの話には耳を貸さない。

 

 大人同士でもそれは変わらず、『どっちが子供なんだか……』と言いたくなるような次元の言い争いを国単位でやっていたりする。

 

 特に親なんかは創造主だと言わんばかりにーーまるで人形遊びする子供のように自分の子供に接する。

 

 だから私は、大人が大っ嫌いだ。

 

 

 

 

()()()。どっか寄ってかない?」

 

 ホームルームが終わり先生が教室から出るや、私の机の前にしゃがみこむようにやって来た美里。

ちなみに『ひめ』というのは私のあだ名だ。

 

「あ~……ごめん。今日もバイトなんだわ」

 

「えぇ~……せっかくの華の女子高生が青春しないでバイト三昧ってどうなの~?」

 

「な~に言ってんの。バイトこそが学生の本分でしょ? 労働バンザイ!」

 

「いや、学生の本分は勉強だからね……」

 

 不満げな美里を茶化すように小さくバンザイすると、すかさずツッコミを入れてくる彩。

分かってはいるんだけどね……

 

「ほら、勉強はお金にならないじゃん」

 

「かぁ~! 金の亡者め!」

 

 ニヤリと笑いながら言うと、オーバーに嘆くようなフリをする美里。

 

「でも、()()って意外と成績いいよね」

 

「ちょっと~、意外ってなにさ~」

 

「いや、見た目ギャルなのによく周りのこと見て動くし、人のやりたがらないことを率先してやるし、何故か勉強もできるし……」

 

 さすが学級委員の彩は人のことをよく見ているようだ。

 

「あれ~? 褒められてる? それともディスられてる~?」

 

 ちょっとした照れ隠しに彩に軽口をたたく。

 

「そう言えば()()っていつ勉強してるの?」

 

「授業と、バイト終わってから復習してるくらい?」

 

「ちぇっ! ちぇっ! このガリ勉コンビが!!」

 

 『裏切り者~』と嘆く美里。

 

「と、いうことは美里は今回の期末は自力で頑張るってことでいいんだよね?」

 

「いや~、期末が楽しみだねぇ~。み・さ・と♪」

 

 さっきからひどい言われようだったのもあって少し仕返しがしたくなった。ニッコリと笑うとーー

 

「いやいや、お二人にはいつも感謝してるのでございますよ~。あ、肩揉みます? 飲み物買ってきましょうか?」

 

「あ、バイト行かなきゃなんで帰るね~」

 

「頑張ってね」

 

「あ、ちょっ、()()! さっきの冗談だよね!? ()()()~!」

 

 美里の絶叫を背に教室を出て、ふと窓の外を見る。

 

(今夜は冷え込むかなぁ……)

 

 どんよりとした12月の空は、今にも雪が舞い降りそうな空模様だ。

 

(さすがに『あっち』ほどは降らないとは思うけど……)

 

 冷え込むなら防寒をしっかりしないとなぁと心の中でごちる。

 

『◼️◼️ちゃん、顔真っ赤だね! ◼️◼️みたい!』

 

『おい! 毒◼️◼️! こっちくんなよ! 毒がうつるだろ!』

 

「……はぁ」

 

 つい思い出さなくてもいいことを思い出してしまった。

 

「帰ろ」

 

 イヤなことをため息とともに吐き出してマフラーをしっかりとつけ直す。

 

 

 

 

「ただいま~、って言っても誰もいないんだけどね」

 

 ごちりながら鞄を置いて、ポストから取り出した手紙を確認する。新聞の勧誘、共同スペースの掃除のお知らせ、近くの店の安売りのチラシ……

 

「ん?」

 

 一番下にあったの見慣れないは黒い封筒。

 

「芸能プロダクション? G・I・Project?」

 

 全く覚えがなく、誰かの郵便物が紛れ込んだのかと思ったけど……

 

(切手がない?)

 

 宛名もなければ切手も貼っていない。当然郵便局のスタンプもない。つまりこれはポストに直接投げ込まれたものなのだろう。

 

(イタズラ……にしては手が込んでる)

 

 近所には小学生のお子さんを持つご家庭もあるからイタズラとして放り込まれたのかと思った。

 念のために調べてみると、プロダクション自体は実在するもののようだ。

 

 

『拝啓、突然のお手紙失礼致します。

 

 芸能プロダクション G・I・P と申します

 

 この度、我が社の新プロジェクトのメンバーにーー』

 

 

 宛名は私に間違いなく、読み進めていくとプロジェクトのメンバーに選ばれた。とりあえず指定日に指定の場所に来てほしいとのことだった。

 問題なのは、応募した覚えがないことと、『選ばれた』ということ。当たり前のことだけど、オーディションに参加した覚えは全くない。

 

「と、なると……詐欺か、『どっちか』かなぁ」

 

 封筒をテーブルの上に置いて着替えをするために自室へ入った。

 

 

 

 

「じゃあ、智恵理ねぇじゃないの?」

 

『私じゃないよ。そもそもアンタこういうのに興味ないじゃない』

 

 バイトが終わり、帰宅するや心当たりの一人である従姉妹で美容師の智恵理ねぇに電話した。彼女の反応からして心当たりがないらしい。

 

「だよねぇ……じゃあ、杏奈ねぇかな? でも……」

 

 もう一人の心当たり、従姉妹の妹の方。杏奈ねぇかと考えはしたがーー

 

『いや、杏奈なら自分で応募するでしょ。そもそも畑違いなわけだけど』

 

 杏奈ねぇは大学の友人とバンドを組んでいて、そこのボーカルをしている。インディーズでありながら熱烈な人気で、メジャーデビューもそう遠くないと言われているらしい。

 

「確かに……杏奈ねぇのはバンドであって、アイドルじゃないもんね」

 

 ロックを高らかに歌い上げる彼女が、正統派アイドルの衣装を着てアイドルソング……あまり想像出来ないかな。

 

『しっかし……アンタがアイドルねぇ……そしたら、スタイリストで雇ってもらおうかな』

 

 ハハッと笑いながらとんでもないことを言ってのける智恵理ねぇ。

 

「いや、仮になるとしても私にそんな権限ないからね?」

 

『え? ならないの? せっかくの機会なのに?』

 

 いや、さっき『アンタは興味ない』って自分で言ってたじゃん?

 

「え? ならないよ。興味ないもん」

 

『でもさ、こうしてチャンスが舞い込んできたんだしさ……話聞いてみるだけでもいいんじゃない? ほら……シンデレラストーリーってやつ?』

 

「シンデレラストーリーねぇ……おとぎ話は好きじゃないんだけどなぁ」

 

 そうそうハッピーエンドなんてないし、そもそもがグリム童話が原作の怖い話だったりするし……まぁ、1番の理由は違うんだけどね。

 

『とか言いながら、行ってはみるつもりでバイトのお休みもらってるんでしょ?』

 

「んぐ!?」

 

 どうやら智恵理ねぇにはお見通しらしい。

 

『アンタは優しいからねぇ……お父さんのことなら気にしなくてもいいのに』

 

 本当にこの人はどこまでお見通しなんだろう……

 

『アンタはまだ学生なんだから学生生活を謳歌すればいいの。私も就職したし』

 

「そんなわけにはいかないよ……」

 

 こうして学校に通えるのは叔父さんのおかげだ。前は一緒に住んでいたけど、何もかもお世話になりっぱなしなのも申し訳なくて一人暮らしを始めることにした。ーーもっとも金銭面で援助してもらっているから変わりはないけど……それでも出来ることはしようと学費が免除される特待生になるため勉強して、バイトも始めた。

 

「興味はないけど……お金になるなら話だけでも聞いてみようかなって」

 

 詐欺なら詐欺で警察にしょっぴけばいいし、と笑う。

 

『アンタはそれでいいの?』

 

「うん。今まではなんとなく流されてきたけど、これは私が自分で決めたことだから」

 

『そっかぁ……じゃあ、私は何も言わない』

 

「心配してくれてありがとう、智恵理ねぇ」

 

 智恵理ねぇには助けてもらってばっかりだ。

 

『何言ってんの。アンタも妹みたいなもんよ。ま、アイドルになったらスタイリストとして雇ってくれればいいよん♪』

 

「あ、それ本気だったの?」

 

 冗談だと思っていたら割と本気だったらしい。

 

『アンタの髪のことはアンタ以上に分かってるのよ?』

 

 確かに昔から髪をとかしてくれたのも、化粧を教えてくれたのも智恵理ねぇだった。最近はカットやヘアアレンジをお願いしてるし。

 

「その節は大変お世話になりました」

 

『いえいえ。まぁ、経過だけでも教えてくれればいいわ』

 

「うん。遅くにごめんね」

 

 なんやかんや言ってたらそれなりにいい時間に成っていた。

明日も早いだろうにーー

 

『さっきも言ったけど、アンタは妹みたいなもんなんだから、困った時には頼りなさい』

 

「うん……」

 

『さっ、夜更かしはお肌の大敵なんだから寝なさい』

 

「うん。おやすみなさい」

 

 智恵理ねぇと話したおかげで少し気が軽くなった気がする。

手紙の送り主の考えていることは分からないけれど、なるようになるだろう。

 

(あれ? でもこの場所ってーー)

 

 

 

 

 

 

 某時刻 都内 某所

 

 よくドッキリの撮影とかでテロップでこんな感じに出ているんだろうなぁ。正確には12月17日、時間は午前11時45分。それはいいけど……

 

(何故動物園? それもゴリラの前?)

 

 指定された日は週末。まぁそれはいい。学生だから平日にされても行けないし。……社会人だったら有休とか使うんだろうけど。

 ただ、指定された場所は動物園のゴリラの前。

 

(動物園だけでも謎なのに、あえてのゴリラの前)

 

 100歩譲って動物園はいいだろう。でも、普通は入り口だったり、休憩所だったりしない? ゴリラって……

 

 差出人の謎チョイスに頭を抱える。そもそも何が悲しくて女子高生が1人動物園に来なきゃ行けないのだろう。

いや、スケッチするためとかで来る人もいるだろうけど。

それでもパンダだったりコアラだったりカピバラだったりだろう。

好き好んでゴリラの前に来る人なんて家族連れ以外ーー

 

「いた」

 

 思わず声が出てしまったがいかにも待ち合わせって感じの黒髪の子が1人。ゴリラに背を向けて、手元の何かをじっと見ている。

 

(あの子が差出人? いや、違う)

 

 よく見ると、手元に持っているのは私と同じ手紙のようだ。

ということはあの子もプロジェクトのメンバーなのだろう。

長い前髪で顔がよく見えないが儚げな印象を受けた。

 声をかけようと近づこうとするとーー

 

(もう1人?)

 

 先ほどの子に近づき話しかける子がいた。

どこか品のある彼女はにこやかに話しかけている。黒髪の少女は少し警戒しているようだったけど徐々に警戒が解けていくように見えた。

 

 先ほどの子が儚げな印象なのに対して、彼女は可愛らしい妖精のような印象を受けた。金髪ロングに淡いピンクのコートを纏っているからだろうか。人間大になったティンカーベルと言われても納得しそう。

 

「きゃー!!」

 

「!?」

 

 と、そんな仲睦まじくしている彼女たちのすぐ近くで急に叫び声をあげて腰を抜かした少女。

 

「ごり……ゴリラと目があった!!」

 

 ……はい?

 

「うわ~! 怖いよ~! 食べられちゃうんだ、私!!」

 

 ってか、うるさっ! 彼女たちとはそれなりに離れているのにここまで声が聞こえてくるって。

 そんな彼女は先ほどの2人の陰に隠れる。

 

「ここで食べられちゃうんだ! やだよ~! ゴリラの餌になるのやだよ~!」

 

 いや、一応強化ガラス(?)で仕切られてるし……ってかゴリラって人食べないでしょ? 確かボスゴリラとも言えるシルバーバックは臆病なんじゃなかったっけ?

 

「ううん! 嘘だもん!『こいつ美味そうだな』って目で見てたもん! ソースかケチャップかで悩んでるの!」

 

 心を読まれたのかと思ったが、ティンカーベル(でいいかな)が『ゴリラは人を食べない』と説明したのだろう。それに対して、ソースかケチャップで悩んでるって、ツッコミどころしかない。森の賢者さんはソースやケチャップも使えるのか。

私がゴリラなら十中八九、『なんやコイツ』って目で見る自信がある。

 

 そんなハチャメチャを眺めていると、先ほどの騒がし娘が他の人にぶつかってしまった。うん。柔らかいクッション(隠語)のおかげでダメージは少なそう。

 

「    」

 

 ぶつかられた相手、赤髪ロングの綺麗系の彼女は何やら怒っていた。まぁ、ぶつかったことより、先ほどから騒いでいることに対してだろうなぁ。先ほどの騒ぎでそれなりに人が集まってきてるし。

 

「きゃっ! メスゴリラ!!」

 

 メ ス ゴ リ ラ (笑)

 

 ゴリラパニックから抜け出せずにいたのか、口をついて出た言葉が謝罪ではなくまさかのメスゴリラ。もちろん、彼女の見た目がゴリラということはけしてない。

 

「    」

 

 言われた本人も自分のこととは当然思わなかった様子。

これまた何を言っているか聞き取れないものの、自分の後ろをキョロキョロ。

 

(いや、だからゴリラが動物園歩いていたら騒ぎになってるからね!)

 

 と、そこで最初の黒髪の子以外も例の手紙を取り出した。

 

(あ、みんなメンバーなんだね)

 

 先ほどの騒ぎの関係者はみんな同じ手紙に呼び出されたメンバーだったようだ。ということはこのあたりに他のメンバーもいそうだ。

 例えば、先ほどからベンチに座って本を読んでる、金髪ショートのあの子。わざわざ動物園、それもゴリラの近くで本を読むなんて待ち合わせで時間潰している以外のなにものでもない(特大ブーメラン)

 

「   」

 

「ん?」

 

 またメスゴリラ(笑)さんが騒ぎ始めた。何するのかと思えば帰ろうたしているところでーー

 

(え?)

 

 よく見るとまた1人増えてた。青い髪のメガネをかけたいかにも知性的な子だ。

こうなってくると彼女もメンバーなのだろう。

 

「   」

 

「はぁっ!?」カアッ

 

「   」

 

「   」カアッ

 

「   」

 

「じっ!じじ……」カアッ

 

 

 おーおー、理系の彼女が何かを言う度にメスゴリラ(笑)さんの顔が赤くなっていって百面相を曝している、どうやら彼女は顔に出やすいらしい。

 

(というか、合流するタイミング失ったなぁ)

 

「ねぇ、ちょっと」

 

 話がトントン拍子に進みすぎて、どう合流しようか考えていると突然声をかけられる。

 

「はい?」

 

 振り返ると、セクシー系かつダウナー系な子がいた。

というか、生足で寒くないの?

 

「場所、ここであってる?」

 

 彼女の手元にも『おう、姉ちゃん! また会ったな!』と言わんばかりの例の手紙。

 

「……何で私に?」

 

「周り、見てみなよ」

 

 見渡すと先ほどまでいた人たちは私たちを残して誰もいなかった。騒ぎ云々もあったけど、お昼時だしね。

 

「ここにいるのはあの子たちとあなただけ。ってことはあなたも関係者でしょ?」

 

「あはは~。バレたか」

 

 舌をチロリと出して笑う。

 

「で、こんなとこで離れて盗み見?」

 

「いやぁ、合流するタイミングを逃しちゃって~」

 

 ゴリラのせいで、ゴリラのせいで。

 

「何言ってんの。そんなの堂々としてればいいじゃん」

 

 ほら、行くよと先行く彼女の背を追いかけた。

 

 

 

「あ~! 間に合った! 東京の地下鉄鬼やでほんま……迷路の実験かと思ったわ……」

 

 先ほどの彼女とともに他のメンバーと合流を果たし、8人ーーやはり金髪ショートの子もメンバーだったーーもう来ないと思ったところに彼女がやって来た。

 

「って誰がモルモットやねーん! あっちゅう間に増殖したろか!」

 

『……』

 

「は?」

 

 自分の口から思わず冷めた声が出たけど、私は悪くないよね?

 

「お見受けしたところあんたらにも手紙が来たらしいな。時間に正確なんは社会人として当然やな」

 

(間に合ってない、とツッコミいれたいけど……いれたら負けな気がする)

 

 周りの空気などお構いなしに彼女は続ける。

 

「うちは都! 何はなくともみゃーこがいる! 浪速のおしゃべりガール河野都や!」

 

 おう、謝罪もなしにさらっと自己紹介しおったぞ。なかなかの強かさだ。初対面だが好印象だぞ。

 

「新幹線で挨拶考えてきてん! どない? ギブミーリアクショーン!」

 

『いや……どないって言われても……』

 

「あ、なるほど。『何はなくとも』の『何は』と『浪速』をかけたんですね。いやぁ、なるほど~」パチパチパチ

 

 良くできました、と称賛する。

 

「いや、なんかこう……違うねん……説明してくれってわけじゃなくてな……」

 

 しっくりこない彼女。そんな時、晴れなのに突如影が射しーー

 

「ギャー!」

 

 目の前のに現れた男性に都が驚きーー

 

「ゴリ、ゴリラー!!」

 

 

「んぷっ!!」

 

 本日3度目のゴリラパニックに堪えきれず、私はお腹を抱えて蹲り笑い転げた。

 

 

 

 

 

 

「……し、失礼しました」

 

 一頻り笑いの波が去り、反動で恥ずかしくてしょうがなかった。

 

「大丈夫?」

 

 ダウナー系の彼女が心配してくれるけど、今はその優しさが少し辛い。

 

「ありがとう」

 

 とりあえず感謝を述べて、男性に進めてくれるように促す。

男性は合田さん(剛田じゃなくて良かった。熊田じゃなくてなお良かった)といい、本プロジェクトのマネージャーらしい。

 

「あなた方にはアイドルユニットとしてメジャーデビューしていただきます」

 

「オーディションがあるんじゃないんですか?」

 

 ティンカーベル(仮)が当たり前の疑問をぶつけるもーー

 

「オーディションなどありません。すでに選別は終わってます」

 

 やはりオーディションはないようだ。でも、『選別』とは……。

手紙にも『選ばれた』と書いてあったが……

 

「あなた方は偶然ではなく、選ばれた9人なのです」

 

「で……でもなんで? うち学芸会でも木の役やったし、音楽も2やし~」

 

 都も自分が選ばれたことに疑問があるらしい。

 

「だからこそいいのです。我々が求めているのは新しいアイドルです。是非ご同行を。見ていただくのが1番早い」

 

 そう言って背を向ける合田さん。

 

「あの、1ついいでしょうか?」

 

 手を挙げて合田さんを呼び止める。何を言うんだ、と周りの視線が刺さる。先ほどのこともあり警戒されているのだろうか。

 

「なんでしょう?」

 

「先ほど『選別』と言いましたが、それは誰が? それもどのように行ったのでしょう?」

 

 私以外の話を聞いても応募した様子はなく、手紙で呼び出されたようだ。そうなると一体ーー

 

「そちらも見ていただくのが1番早い。是非ご同行を」

 

 そう言って再び背を向けると歩き始めた。

 

「ちょっと! こんな怪しい話についていくつもり!?」

 

 合田さんをメンバーが追いかけるな中、メスゴ……赤髪の彼女が声をあげる。言っていることは正論なんだよね。

 

「あなたはどうする?」

 

 それでも1人、また1人と続くなか、そこに立ち尽くす彼女に声をかける。

 

「帰るなら帰ってもいいと思うけど……」

 

「っ!!」

 

 下唇を噛み、キッと前を向くとそのまま彼女も他のメンバーに続いた。

 

 

 

 動物園にいたはずが、気がつくと地下道を歩いていた。

みんな不安そうだけれど、誰も話すことなくただ足音だけが反響していた。

合田さんがカードキーを取り出し、読み込む。

 

 

「な……なんやねんこれ!?」

 

「すごい広ーい」

 

「ここって動物園の……」

 

「地下のはずです……」

 

 何故かオフィスがありました。え? 動物園の地下だよね? もしかしてさっきの動物はみんな着ぐるみってオチないよね?

 

 受付で入館証を受け取り、合田さんの案内のもと各部署を見学した。ダンスレッスンルーム、ボイトレルーム、トレーニングルーム、レコーディングルーム、カフェ、会議室、オフィスetc……会議室やオフィスの方々は私たちが見学に言っても嫌な顔1つせず受け入れてくれた。

 

 設備としてはかなり充実していた。ただ、気になる点が1つ。

 

(他のアイドルがいない?)

 

「いかがですか? これらの施設はすべて今日のため。あなた方への期待の表れです」

 

 つまりこの施設……というかオフィスはこのプロジェクトのために作られたというもの。詐欺ではなかったが、それはそれで騙されるんじゃないかと不安になる。

 

「最後に1番大切な部屋に案内します。あなた方の部屋です」

 

 そこは『部屋』というにはいささか大きすぎて荘厳なーー強いて言うなら神殿とでも言うべきところだった。

 

「事務所にいる時はこちらで待機して頂きます」

 

 先ほどまでのオフィスと違いLEDの明るさはなく、少しほの暗い室内。中央にはレッドカーペットが敷かれ、高級品と思わしき机や柔らかそうなソファがある。

 そして正面にはーー

 

「何よ……これ……」

 

「壁です」

 

 赤髪さんの質問にかなりシンプルに答える合田さん。見れば分かる。紛うことなき壁。でもそうじゃない。ただの壁ではなく何か意匠をこらしたようなーー

 

「細かいことに関しては我々も知らされておりません。分かっているのは壁が不定期に指令を吐き出すということ」

 

「吐き出すって生き物やないんやから……」

 

 壁が指令を吐き出すって言われても、ハイそうですかって納得できないんだけど……

 

「そしてその指令には必ず従わなければいけないということ」

 

「指令って?」

 

「分かりません。 少なくとも我々もまだ一度も指令が吐き出されたところを見たことがない」

 

「えぇ……」

 

 思わず声が出てしまった私を誰が責められよう。

『壁が指令を吐きます! 私たちは見たことがありませんが、指令は絶対です!』ってエイプリルフールで小学生がつく嘘レベルだろう。

『この方法でガチャ引くと当たるんだって! 私当たったことないけど』の方がまだ信憑性があるだろう。

 そもそも見たことないのに『指令が絶対』ってーー

 

「じゃあ私たちは誰が何のために選んだかも分からないし、目的が分からないものに従うしかないっていうの!?」

 

「そうです」

 

 赤髪さんが私たちの気持ちを代弁するかのように訪ねると、帰ってきた言葉はこれまたシンプル。

 

「そりゃ~素敵なアイドルだね」

 

「壁はプロジェクトの絶対的存在です」

 

 ダウナーさんが皮肉るも、壁は絶対だという合田さん。

壁を乗り越えてデビューするんじゃなくて壁によってデビューするアイドル。ワケわかんないね。

 

 それはみんなも同じようで、私が疑っていた詐欺説もとびだし、ついにはーー

 

「どっかの石油王の道楽ってわけでもなさそうだし」

 

 石 油 王 (笑) アラブ系かそちらの方かな。

 

「道楽ってなによ!」

 

「自分で考えろ、現代っ子」

 

「何よ!」

 

「まぁまぁ、落ち着いて。ね?」

 

 ここまで張りつめていた赤髪さんがイライラし始めました。どうやら想像を越えていくものには弱いようです。風紀委員タイプかな?

 それにしてもダウナーさん、ワードのチョイスが面白いなぁ。

 

「あなたたち馬鹿? 相手が誰かなんてどうでもいい。これはチャンスよ。スターへの道が約束されているなら利用するまでよ」

 

 金髪ショートさんはかなり強気なご様子。利用できるものは何でも踏み台にして更なる高みへ……と。

 

「チャンスかぁ……みうちゃんは……あれ? みうちゃん……?」

 

 ティンカーベルが呼び掛けるも、黒髪の彼女ーーみうちゃんはいなくなっていた。いなくなっていた。

 

(え? 帰った?)

 

「なんや、帰ってしもたん?」

 

「そのようですね……」

 

 騒ぎ立てる都と対照的に冷静に言ってのける理系さん。

 

「やる気がないならそれまででしょ」

 

「まぁ、何か用事があって言い出せなかっただけかもしれないし……」

 

 冷たく突き放す金髪ショートさんとティンカーベル。

 

「まぁまぁ、とりあえず……自己紹介でもしない? まだ名前聞いてなかったし、都しか知らないんだよね……」

 

 名前が分からなければ何て呼べばいいか悩むし。特にメスゴ……さん。

 

「私はニコル。斎藤ニコル。馴れ合う気はないから」

 

 そう言って斎藤さんも出ていってしまった。

 

「う~ん……失敗しちゃったかな? まぁ仕方ないか。じゃあ私ね?」

 

 かべのところまで歩いていき、クルリと壁に背を向ける。

 

「私は凛子。白雪凛子。よろしくね」

 

 白雪凛子。それが私の名前。

 




 没案
『G・I・P』

 待ち合わせに指定されたのは何故かゴリラの前。

(まさかこのG・I・Pって、『Gorilla Idol Project』の略じゃないよね?)チラッ

ゴリラ『  』ツブラナヒトミ

「合田と申します」メイシ

(Gouda Idol Projectだったかぁ~)


 思った以上に伸びてしまいました。次回(あれば)文字数減るかもです
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