22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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 今回は日常回(?)です。人格崩壊注意。むしろ誰これ?になりそうです。


私たちの日常 2

 お披露目ライブが無事に……無事に? 終わり、壁の間で合田さんから業務連絡(明日以降の予定等)を受けて解散となった。

 私含め数人は打ち上げに行こうと思ったんだけど、今日のところはライブ後の疲労だったり、予定が合わないとかで今日のところは解散となった。

 

 夕飯、入浴などを済ませ、今は歯磨きしながらスマホをいじっていた。

まだライブの興奮が冷めやらぬ、といった感じでこのまま眠れる気がしない。

ふと気になり、『22/7』で検索をかけてみた。

 

(やっぱりまだ話題にはならないよね)

 

 検索トップは案の定G.I.Pのトップサイト。とはいっても、メンバーの宣材写真と簡単なプロフィールだけの簡素なもの。

 

(これからライブをしていけば、その時の画像なんかもアップされるのかな……)

 

 目を閉じれば目蓋の裏にはあのサイリウムの海。赤、青、黄色……それぞれのメンバーカラーを示したそれ。その中には自分のメンバーカラーであるターコイズもたしかにあった。

 会場は手狭ながらも満員御礼。山形と比べて暖かいとはいえ、時期は2月。当然寒いわけなのだが、その寒さを感じさせない会場の熱気。

 私たちメンバー、スタッフさん、観客ーー200余人で作り上げた初ライブ。そして締めくくりはみうちゃんのスピーチ。

 

(『私の居場所』……か)

 

 麗華、みゃーこ、ジュン、桜、あかね、絢香、ニコルん、そしてみうちゃん。『壁』によって集められたとはいえ、今の私の仲間……

一人一人のプロフィールを愛おしく思いながら見ていく。

 

(友達は昔も今もいるけれど……一緒になって1つのことをやりとげたことってあったかな……)

 

 別に仲が悪いわけではない。一緒に遊びに行くこともあれば勉強会だってする。それでも今回のように1つのことに真剣に取り組むようなことはなかった。それでも別に構わないと思っていた。

 

(部活でもやってたら、少しは違ったのかな)

 

 今さらどうというわけでもないけどそんなことをふと思いながらページを閉じようとして、ふと手が止まる。目も止まる。

 チラリと卓上カレンダーを確認する。

 

「もが!? んぐっ!?」

 

 驚きの声をあげようとしてーー歯磨き中だったのを思い出し、洗面所にダッシュした。

 

 残されたスマホに表示されていたのはとあるメンバーのプロフィール画面だった。

 

 

 

 

「HELLO、凛子ちゃん」

 

 待ち合わせのカフェで通りを眺めながらボーッとしてると、本日の待ち人がやってきた。

 

「やっほ、桜。ごめんね急で」

 

「びっくりしたよー。凛子ちゃんから連絡来ると思わなかったから」

 

 だよね。私が桜の立場でもびっくりするもの。

まぁ、連絡いれたのは今日じゃなくて昨日なんだけどね。

トレーナーさんの都合で急きょレッスンがお休みになったとはいえ、桜に用事があったら……まぁその時はその時かなぁと思っていたけど。

 

「あれ? 凛子ちゃん制服?」

 

 私の姿を見て不思議に思ったのだろう。ちなみに今日は平日。普通ならば学生が制服を着ていることになんの疑問もないだろう。

もっとも私たちは『特殊』な部類にはなるけど。

 

「今日はうちの学校の卒業式だったんだ」

 

「Graduation ceremony!? じゃあ凛子ちゃんも!?」

 

 

「あ~……違う違う。私は送り出す側」

 

 桜は私が卒業生なのかと思ったようだけれどそうではない。

実際は受付として卒業生の名前を名簿で確認して、卒業生の胸には花のコサージュを付け、父兄の方を講堂へ案内する。そんなところ。

 

 当然在校生の私たちも式には出席。仲の良かった先輩が卒業する子達は涙を流しながら先輩達の晴れ姿を見つめていた。

私は日頃の疲れもあって、お偉いさんの長い話を子守唄に船を漕いでいた。仕方ないね。おめでたい式とかになるとこぞって実際に見たこともないお偉いさん(大概代理だったりする)が長々と祝辞を読み上げるんだよね。

 

(卒業……か)

 

 今日の卒業式で泣いていた子達のように、私が卒業する時には別れを惜しんでくれる子はいるのかな?

少なくとも今日の私のようになんの接点もなく、ただただお偉いさんの話にヘドバンする子が大半なんだろうな。

 

(『ずっと忘れない、はなれても』……なんてのはやっぱりないのかな)

 

 さっき桜が卒業式を英語で言ったことで思い出した曲の1フレーズ。卒業=永遠の別れじゃないとは思うけど、それ以降も仲良くしていられる人はそんなにいないと思う。

 

『別れは出会いの始まり』……あれ? 逆だっけ?

 ともあれ卒業したからといってそこで自分の人間関係が終了するわけじゃなく、新しい環境になればまた新しい出会いがある。

その新しい環境に慣れるまでは相談だったり、励まし合ったりするだろう。

でも一度慣れてしまえば今度は疎かになってしまい、気づけば連絡先を知ってるだけの関係になってたりする。

場合によってはその連絡先すら変わっていて分からないこともある。

 

『ずっと友達だからね!』よくプリクラとかで使われるフレーズではあるけれど、永遠に不変なんてものはないのかもしれない。

 

(なんて、センチメンタルがすぎるなぁ~……)

 

 卒業式の空気に当てられたのか、柄にもないことを考えてしまった。

 

「凛子ちゃん?」

 

「ん? どしたの?」

 

「さっきからボーッとしてるみたいだけど大丈夫?」

 

 向かい側に座る桜がこちらを不安そうに見ていた。彼女の前にはいつの間にかーーというか私が考え事してる間に注文したのだろうーー飲み物が置いてあった。

 

「あ~……うん。今日が楽しみで寝てなくてね……」

 

「え!? 凛子ちゃん寝てないの!?」

 

 桜が驚きの声をあげる。

 

「桜、少しトーンを落として」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 他の客の視線がこっちに向いたけど、桜が謝るとすぐさま何もなかったかのように戻った。

 

「私たち一応アイドルなんだから、ちゃんと寝られる時に寝なきゃ」

 

「はい、すみません……」

 

 まさか桜に怒られるとは思わなかった。まぁ、私に非があるのは確かなんだけれど。

 

「それなら今日じゃなくても……」

 

「だめ! 今日じゃなきゃ……」

 

 そうじゃなきゃ()()()()()

 

桜の手を掴んで引き留める。

ここで解散……というのだけは何がなんでも避けたかった。

 

「……本当に辛かったら言ってね?」

 

 私の無言の懇願に、桜が折れてくれた。

 

「大丈夫。ブラックコーヒー飲めば眠気なんて飛ぶから!」

 

「ちなみに今日は何杯飲んだの?」

 

「桜が来るまでに2杯おかわりしたから……3杯目?」

 

「本当に大丈夫なのかな?」

 

 私の答えに桜は不安そうに呟いた。

ちなみに本当は5杯目なんだけどね。本当のこと言ったら帰されるし、少なめに申告した。

 

 

 

 

 喫茶店を出た私たちはショッピングモールに向かった。

平日なのもあって休日に比べるとそこまで人は多くないようだ。

卒業式終わりなのか私みたいに制服を着ている人もちらほらみられた。

 

(そういえば、私制服だったなぁ……)

 

 今更ながらガラスに映った自分と、横を歩く桜の姿を横目で確認する。

 何の飾り気もない指定の制服にローファー、3月とはいえまだ肌寒いので薄手のコート。山形だったらもう少し厚着しなきゃいられないけど、意外とこれでも十分だったりする。

 一方の桜はいつものピンクのもこもこしたコートにスカート、ストッキングと、いつもどおりの可愛さ。

 

「桜ってさ……」

 

「うん?」

 

「ファーのついた手袋とか似合いそうだよね」

 

「あるよ?」

 

 あ、やっぱり? そんでもって、これまたファー付きの耳当てなんてしそうなんだよね。どこか子供っぽいかなと思うんだけど、なんとなく桜の可愛さ? 上品さ? そんな雰囲気にしっくりくる気がする。

 

「うーん……」

 

「どうしたの?」

 

「桜の可愛さに嫉妬中?」

 

 たぶん私が桜のような服装にしようものなら『あざとい』、『なんか、こう……違うんだよなぁ』とか言われそう。

 

「凛子ちゃんもかわいいと思うよ?」

 

 ほら、ほら! そのこっちを覗き込みながらの仕草がもうずるいんだって!!

 

「それに私、制服だし……」

 

「制服姿の凛子ちゃんも新鮮で、別な一面を発見! なんてね」

 

 おどけつつも少女のようでいて、どこか妖艶な(あくまでも個人の主観です)笑みを浮かべる桜。

 

(おぅ……このど直球っぷり。日本よ、これが世界だ)

 

 奥ゆかしいーーといえば聞こえがいいけど、ハッキリ言わないことに美学を感じる(のかな?)日本人にとって、防御なんて捨ててかかってこい! と言わんばかりに思ったことを口にする外国の方の言葉は時に胸に刺さる。

 

(あかね、絢香。真のたらしって私じゃなくて、桜だと思うんだ……)

 

「どうしたの? 具合悪いの?」

 

「うん、大丈夫……」

 

 しかも無自覚なのが恐ろしいところ。これが天然系ジゴロ……いや、むしろ天使なのかな?

 

(みうちゃんといい、桜といい……うちのメンバーは純粋すぎる子がいるなぁ……)

 

 彼女たちに芸能界……というより社会の汚れた部分を見せないようにするにはどうすればいいか。密かに頭を抱えるのだった。

 

閑話休題

 

 

 アイドルになる以前は……というか数ヶ月前まで学校に行く以外は大体バイトをしていた勤労学生だった私にとって、ショッピングモールというのは縁遠いものだった。

別にショッピングモール自体に1度も来たことがないというわけではないし、友達付き合いもそんなに悪いわけではなかった(と、思う)。

 

 バイトがない日には遊びに行ったり、テスト期間はファミレスやファーストフード店、友達の家で勉強会をやったり、打ち上げでカラオケに行ったりもした。

 

 せいぜいショッピングモールに行くといえば、併設されている映画館で気になった作品が上映された時くらいで、観終わったあとは散財しないようにそそくさと撤退していた。

 

 まぁ……何が言いたいかというとーー

 

(なにこれ!?)

 

 ここは誘惑が多すぎる。

以前のーーファッションに無頓着な私なら歯牙にもかけずに通りすぎていた。

智恵理ねぇからファッションを色々教えてもらった頃の私なら金額を確認しただけで引き下がっていた。

 

 今はまだまだ認知度が無いに等しいとはいえアイドルの端くれなのでそれなりに気をつかわなきゃなぁと思ってはいる。そしてーー嫌な言い方ではあるけれどーーそれなりの資金もある。

 

 桜と2人で服を見てまわっているのだけれどーー

 

「桜ってズルい」

 

「え?」

 

 この子、似合わない服があるのだろうかというぐらいに着こなす。清楚系は言わずもがな。ボーイッシュなものからV系、スポーティーなものも……

 

(もしかしたら桜が着ればイモっぽいジャージもおしゃれ着になるのでは?)

 

「り、凛子ちゃん。顔が怖いよ~」

 

「あ、ごめん」

 

 最初のうちは桜のイメージに沿った服を合わせていたのだけど、ちょっとイメージを変えてみたところ熱中してしまっていた。

うん。着こなしちゃう桜がズルいんだ。私は悪くない(責任転嫁)

 

「凛子ちゃんは気になった服無いの?」

 

「私? いや、私は今日はいいかなぁ~って。色んな服の桜を見られただけでも~「ずるい」はい?」

 

 頬を膨らませて明らかに『不機嫌です』という顔をしている桜。

 

「ず、ずるいって何が?」

 

「私も凛子ちゃんの色々な格好見たいです!」

 

「はい?」

 

 え、何を言っているの、この子……

 

「私も凛子ちゃんを着せかえ人形にしたいです!」

 

「はい!?」

 

 本当に何言ってるの、この子!?

動揺している私などお構いなしに『桃色の婦人』の『お尋ね者』の名を冠する曲の振り付けのごとく両手を構えてジリジリと桜が迫る。

 

「えっと……桜? 顔が……というか目が怖いよ?」ジリジリ

 

「大丈夫、大丈夫。怖くないですよ~」ジリジリ

 

「えっと……話し合おう、話し合えば分かる」ジリジリ

 

 追い詰められて咄嗟に出た言葉が、いかにも『浮気現場を目撃して怒り狂った妻を宥める夫』のようなセリフなのは、我ながら情けない。

 

「凛子ちゃん、Are you ready?」ジリジリ

 

「えっと……」

 

「私は準備出来てます!」ダッ!

 

「!?」

 

 勝負は一瞬だった。

 

 

 

 

「ふぅ……満足しました」

 

 先ほどの肉食動物のような狂気が嘘のように消え失せ、晴れやかな笑顔を見せる桜。

 

「もうお嫁に行けない……」グスッ

 

 その一方で自分の身体を抱きしめて『よよよ』と嘆く少女。私だけどね。

 

 服屋でのファッションショー擬き(お店に迷惑がかかるから良い子は真似しちゃダメだよ? 凛子お姉さんとの約束)を終えて、各々気に入ったものを買って店を出た。さすがにあんなことをして何も買わないなんて真似は良心が咎めた。

 

「凛子ちゃんがお嫁に行けなかったら、私がもらってあげます!」

 

「あ、結構です~」

 

「え~っ」

 

 またもや冗談か分からないことをサラッと言う桜に対して、私は徹底的に塩対応。……これが冗談じゃなかった時のことを考えたら怖いからね。

それに対して桜は不満げにぶーぶー言いながら頬を膨らませた。

 

「さて……次はどうする?」

 

「ん~……凛子ちゃんは何か考えてないの?」

 

「学校の友達とはいつもノリと行き当たりバッタリで決めてるからなぁ~」

 

 基本的には私が何か提案する前に『アレしたい!』、『あそこに行こう!』とパッパと美里が決めてしまうのでそれに着いていく形になっている。もちろん不満はないけどね。

 

「時に桜……お昼は食べた?」

 

 

「まだ食べてないよ?」

 

「そう。実は私もまだなんだ。どこか食べに行かない?」

 

 卒業式の後片付けをして解散となってから待ち合わせ場所に行ったためにお昼ごはんを食べてなくて、正直先ほどから腹の虫が主張し始めている。

 とは言っても、もう時刻は3時近く。お店によってはお昼の営業を終了して、休憩、夕方から夜にかけての準備に入るところもあるだろう。

 

「となると、ファミレスとかかな……」

 

「凛子ちゃん。私、行ってみたいお店があるんだけど……」

 

「お! 本当に? どこどこ?」

 

 桜からの提案に私の期待値も急上昇した。

 

「えっとね……」

 

 

 

 

 平日。それもお昼時を過ぎていたこともあり、私たちはまたされることもなく席に着くことが出来た。これが土日でそれもお昼時だったなら、例え2人だったとしても幾分かは待たされたことだろう。

 お店の中は閑古鳥が鳴くほどではないけど、ようやくお昼休憩がとれたのか、スーツ姿のビジネスマン、保育園のお迎え待ちなのかママ友の集まりっぽいグループなど疎らだった。

 

 そして席に着いた私たちの前を、レーンに載せられたお皿が行き交い、時には新幹線を模した機械に載ってお皿が横切っていく。

 

「桜、本当にここで良かったの?」

 

 桜のリクエストで来たのは、お寿司屋さん。それも回転寿司。

 

「うん! 1度来てみたいと思ってたんだけど、1人じゃ入り辛くて……」

 

 確かに女子高生が1人で回転寿司に行くのは、少しハードルが高いかもしれない。それに桜の見た目も相まって尚更だろう。

 私? 私だったら回転寿司どころかラーメン屋でも吉○屋でも行くけどね。

 

「ところで、生魚は大丈夫なの?」

 

 寿司や刺身として日本では当たり前のように食べられている生魚だけど、海外ではその文化はあまりないと聞いたことがある。(日本とどこかの国ぐらいらしい)海外でもお寿司屋さんが出来たことで多少は食べる機会も増えてきたようだけれど、苦手な人は少なくない。

 幸い炙ったお寿司やお肉を使った寿司。巻物、海老天巻きなんかもあるから大丈夫だとは思うけど……

 

「大丈夫だよ」

 

 桜からは大丈夫との答え。まぁ、彼女が気になったお寿司があればシェアすればいいだけの話だし、せっかく桜が来たがっていたのにああだこうだ言うのは野暮だろう。

 

「あ!」

 

 唐突に桜が声をあげる。

 

「ん? どした?」

 

「お寿司を食べる時のマナーってあるの? もし破ったら追い出されちゃうとか……」

 

 少々不安そうにこちらを見ながら訪ねてくる。

 

「1つ、お皿はレーンに戻さない。2つ、取ったもの、頼んだものは戻さない。3つ、食べられない量を頼んだり取ったりしない」

 

 まぁ、この辺は外国人の方とか子どもがやりがいなんだけどね。

 

「4つ、美味しく、楽しく食べること。以上」

 

 通な人だと有名なものだと『味の淡白な白身から食べるべき!』とかあるけど、そんなのは回らないお寿司屋さんでやって、と言いたくなる。あくまで回転寿司もファミレスと同じで家族や友達なんかと楽しく食事するところだと私は思っている。

 ファミレスで堅苦しいテーブルマナーを気にしている人はそうそういないと思うし、お店側、周りの客に迷惑をかけないよう最低限のマナーを守ればそれでいいと思う。

 

 桜にそれだけを言っておしぼりで手を拭く。

 

「凛子ちゃん。誰も取ってないみたいなんだけど……取っていいんだよね?」

 

 おしぼりで手を拭きながら桜が疑問を口にする。確かに目の前で寿司が通りすぎるのに誰も取らないのだから疑問に思うだろう。

 

「取っても大丈夫だよ」

 

「じゃあ何で誰も取らないの?」

 

「生魚って鮮度が大事だからさ。回っている間にネタが乾いちゃうんだよね。……一応鮮度管理はしているからそんなに時間の経っているものは無いけどね」

 

 昔だったらそんなこと一切気にすることなく、色鮮やかなお寿司が回っていたんだけどね。最近じゃ最低限のディスプレー代わりだしね。

 

「と、いうわけで気になるお寿司があればこのタブレットで注文するんだよ」

 

 私たちの間にあるタブレットを指して説明する。

 

「そうすると……ほら、ちょうど来たよ」

 

 説明している最中に目の前をお寿司の皿を乗っけた新幹線が通過していく。端の席の方が注文していたようだ。

 

「あんな風にお寿司が運ばれてくる……と。物によっては店員さんが持ってきてくれるのもあるけどね」

 

「unbelievable!!」

 

 桜が目を輝かせて驚く。まぁ、無理もないよね。私も初めて見た時は画期的だなぁと思ったもの。慣れって怖いね。

 

「ところで……アレルギーはある? 甲殻類とか……」

 

「こう……かくるい?」

 

 コテンと擬音が付きそうな感じで首をかしげた。かわいいかよ……

 

「えっと……エビとかカニとか」

 

 せっかく楽しんでいるのに、アレルギーで病院沙汰になったりしてお寿司に恐怖心を抱かれたら申し訳ないしね。

 

「大丈夫だよ」

 

 とりあえず無いみたいだけど、本人が自覚していない場合もあるし、食べる時には注意して見れば大丈夫かな?

 

「桜……お味噌汁飲む?」

 

 私は『椀物』をタッチして確認する。

 

「お味噌汁……飲みたいかなぁ」

 

「『あおさ』と『貝』のがあるんだけど……」

 

 ちなみに私はいつも『あおさ』を頼む。

 

「あおさ?」

 

「えっと……海苔の一種なのかな? 海草ではあるんだけれど……」

 

 私も詳しくは知らないんだよね。じゃあなんで飲んでるかって?

貝の身がうまく取れないんだよぉ!

 

「じゃあ、あおさで」

 

「はいよぉ~」

 

 先にあおさのお味噌汁を2杯注文しておく。

その間にもらったおしぼりで手を拭いて、小皿を取ってガリを盛る。

 

「凛子ちゃん。それなぁに?」

 

「ん? これ? ガリっていうの」

 

「Garlic!?」

 

Garlic(ニンニク)じゃなくてGinger(ショウガ)だねぇ~。ショウガの酢漬けってところかな。少し食べてみる?」

 

 ガリを盛った小皿を桜に差し出すと、桜は箸で一つまみすると恐る恐る口へーー

 

「!!」

 

「あ、ダメだった?」

 

 すぐさま口に手をあてたので、ポケットティッシュを出そうとしたがーー

 

「酸っぱくてびっくりしたけど、美味しい」

 

「あ、そっち? なら良かった」

 

 大丈夫そうなので一安心。

 

「ガリには食欲増進、口直しのほかにも殺菌作用があるらしいから、少しでもいいから食べな~」

 

「はぁい」

 

 そう言いながら私は湯呑みにお茶を注ぎ、桜に渡す。

 

「お茶?」

 

「そう。用語では『あがり』っていうんだけどね。これまた殺菌作用と魚の脂を流す作用があるんだって。飲みたくなったら、お茶はこれ、お湯はここから出るからね?」

 

「あ、お湯が出るんだ。手を洗うところかと思ってた」

 

(危なかった~)

 

 桜の話を聞いて内心ヒヤリとした。知らず知らずのうちに火傷はさけられたようだ。ホッと胸を撫で下ろす。

 

「さて……何が食べたいかなぁ?」

 

 

 

 

 

「お腹いっぱいです」

 

 お店から出た桜は満足げだ。

 

「それは良かった」

 

(私は心もいっぱいです)

 

 端から見たら満足した妹を微笑ましく見つめる姉(に見えればいいなぁ)といった言動をしているが、内心桜の可愛さでノックアウト寸前だ。

 

 じゃあ、ダイジェストで御送りいたしましょう。

 

 

『お寿司屋さんにラーメン!? 唐揚げ!? 気になる……気になるけど~』(しばし葛藤)

 

『Oh! 舌火傷しちゃいました』スコシナミダメ(えび天握りを食べて)

 

『えんがわ? えんがわって魚がいるんですか? 違う? ヒラメのこと? へぇ~』ベンキョウニナリマシタ

 

『サーモン……とろサーモン……焼きサーモン……何が違うんでしょう? ……頼んでみていい?』(少し遠慮がち)

 

『ガリ~、あがり~、I girly~♪』(現在)

 

 

(何この可愛い生物! ……おっと、取り乱すところだった。危ない危ない)

 

 時計を見れば4時を少し回っていた。楽しい時間もそろそろ終わりが近い。

 

「桜。あと1店だけ付き合ってくれない?」

 

「of course」

 

 にっこり笑って同意してくれた。

 

「ありがとう。じゃあ、着いてきて」

 

 少し先を行く私とはぐれないように桜は歩く速度を早めた。

 

「ここ?」

 

 着いたのはパワーストーンを扱ったアクセサリーのお店。

 

「そう。こんにちは~」

 

 ドアを開けて店内に入ると、カウンターに女性が1人。

 

「まいど!」

 

 もはや顔馴染みなので私に対してはこんな感じ。

 

「お世話様です。えっと……あ、あったあった」

 

 カバンから引換券を2枚引っ張り出す。

 

「これ、お願いしま~す」

 

「はいよぉ~。んじゃ、店内見て待ってて」

 

 そういうと立ち上がって店の奥へ行ってしまった。

 

「よく来るの?」

 

 私と店主のやり取りを見ていた桜は、店主が引っ込んでから訪ねる。

 

「ん~……姉さん……あ、親戚のお姉さんの同級生なんだけどね。割とお世話になってるよ」

 

 お陰で多少の無理も聞いてもらったりしてるし。

 

「ほい、お待たせ!」

 

「ひゃあ!?」

 

 急に音もなく後ろから声をかけられた桜は、文字通り飛び上がった。

 

「……その人、女の子の可愛い声を聞きたがる変態さんだから気をつけてね」

 

「凛子ちゃん……その情報はもう少し早く欲しかったです……」

 

 涙目でこちらを睨む桜。ダメだぞ~? 世の中にはそういった表情を『ご褒美』として喜ぶ人間もいるんだからね。

 

「いやぁ、今ので満足したわぁ~。じゃ、これね」

 

「ありがとうございます」

 

「いやぁ、片っぽは日数が短くて大変だったけどなんとかなったわぁ~」

 

「すみません」

 

「いいよいいよ。可愛い可愛いりんりんの頼みだからねぇ~。んじゃ、お代は……こんなもんになります!」

 

 いかにも商人といったように電卓をカタカタ叩いて、こちらに示す。

 

「いつもすみません」

 

 私から見ても『まけて』くれているのが分かる金額だった。

 

「聞いたよ~。アイドルになったんだって?」

 

 財布からお金を出している時に世間話程度に言われた。

 

「まだ駆け出しですけどね。じゃあ、これで」

 

「毎度。これからもご贔屓にしてくれると嬉しいかなぁ~。ほい、お釣」

 

 

「大々的に宣伝しましょうか?」

 

 お釣をしまいながらニヤリと笑う。

 

「ん~……休みがとれなくなるのはイヤだから、メンバーの子に教えてくれればいいかなぁ~」

 

 儲かるのはいいんだけどね、と苦笑い。

 

「この子もメンバーなんですよ?」

 

 私の影に隠れて、店主と距離をとる桜を見やる。

 

「あ、やっぱり? そんな気はしたのよね~。えっと……お名前は?」

 

「藤間……桜です」

 

 警戒心は解かないまでも、名前はしっかり答える。とりあえず、安心させるためにポンポンと頭を撫でると、少し私の服の裾をつかむ力が弱まった。

 

「桜ちゃんね。うちの凛子がご迷惑をおかけするとは思うけど、末長くよろしくね?」

 

「え? なんで結婚の報告みたいになってるの!? 私、結婚させられるの!?」

 

 店主の、まるで結婚報告を聞いた母親のような言葉に突っ込みを隠しきれない。

 

「はい!」

 

 屈託ない笑顔を浮かべながら即答する桜。

 

「え? あれ? 本当に? えぇ~……」

 

「そっかぁ~……じゃあ、その2つのどちらかがさくr」

 

「おっと~。じゃあ、用も済んだしお暇するとしますかね。じゃ、行こうか桜~」

 

 店主が余計な口を開く前に桜の手を引いて店を出る。

 

「ありがとうございました~」

 

 背中にかけられた声は、顔は見なくても店主のニヤニヤした表情を想像するのに容易かった。

 

 

 暦の上では春ではあるけれど、まだ冬の空風の寒さに身を縮める気温。日が長くなってきたとはいえ、東の空には夜の帳が落ちつつある。

 

「そろそろ、帰ろうか」

 

 平日なこともあり、もう少ししたら帰宅ラッシュで電車がごった返すだろう。

 

「凛子ちゃん、今日は誘ってくれてありがとうね」

 

「なんのなんの。桜が楽しめたならそれが1番だよ」

 

(とはいえ、まだ肝心なことを伝えていないんだけど)

 

 ふと足を止める。

 

 先ほど、店主が余計な茶々をいれそうになったから急いで出てきたものの……

 

「改めて伝えようとすると、こっ恥ずかしいものがあるなぁ……」

 

「え?」

 

 声に出ていたのか、桜がこちらを振り向いた途端ーー

 

ビュオッ

 

 強めの風が吹き、桜が髪を押さえる。

暗くなってきたことで、モールのライトが徐々に点灯してゆく。

 

「桜。今日桜を誘ったのはね、言わなきゃ行けないことがあったんだよ」

 

「……うん」

 

 私が足を止めていたことで、先を歩いていた桜が私の方を向いた。

 

 

 

「ハッピーバースデー、桜」

 

「え?」

 

 先ほどの袋を手渡すと、桜は呆然としていた。

 

「私……凛子ちゃんに言ったっけ?」

 

「ううん、この間のライブの時のプロフィールに載ってたから……」

 

「これ……私に?」

 

「うん……気に入ってくれればいいけど」

 

 恥ずかしいのと、桜の反応を見るのが怖くて、視線を下げる。今見えているのは、小刻みに震えている私のローファーの爪先位だ。

 

 

トンッ!

 

 

 ふと何かが私にぶつかった。そして嗅ぎ慣れた匂いもした。それはいつかの時と同じ感覚だった。

 

「Thank You」

 

 桜の声が耳に響いた。

 

 

 

 

 

翌日

 

 

「らんらん、昨日誕生日だったの!?」

 

「遅れたけどおめでとうな~」

 

 部屋にジュンの声が響いた。ついでメンバーが桜に祝福の声をかける。

 

「知らなかったとはいえ、祝ってあげられなくてごめんね」

 

「でしたら、昨日は1人で?」

 

「ううん。凛子ちゃんとデート出来たから楽しかったよ」

 

 申し訳なさそうにする麗華とあかねに、昨日は1人じゃなかったと告げる。

 

「さすがリリィ。手が早いなぁ」

 

 意味深にニヤリと笑う絢香。

 

「どこ行ったの?」

 

「ショッピングモールだよ。服見て、お寿司食べて、凛子ちゃんの知ってるお店につれていってもらったんだぁ」

 

「お寿司!? いいなぁ~!」

 

「回らないやつか!? 回らないやつなんか!?」

 

「回転寿司だよ?」

 

「かぁ~! なんでそこで回転寿司やねん!」

 

 本人がいないところでディスられる凛子。

 

「あ、でも、初めてあれを飲んだけど美味しかったよ?」

 

「あれ?」

 

「あれとは?」

 

「えっと……」

 

 ここで桜は昨日飲んだ味噌汁の具の名前を思い出そうとした。

 

(なんだっけ……『お』がついてて……『さ』?いや、『す』だっけ?)

 

 『お』と『さ行』のどれかがついた3文字だったのは覚えていた。

とりあえず『さ』から順番にいっていけば当たるだろうと思った桜。

 

「おとさ? おとし……おとす……おとせ……おとそ?」

 

 パタン

 

 そのやり取りを本を読んで聞き流していたニコルが本を閉じた。

本の題名が『うさぎの秘密』なのはご愛敬。

 

 そして、そのタイミングでエレベーターのドアが開いた。

 

 

 

「『優しさとか温もりとか 愛に疲れて来る』」

 

 着替えを終えて、エレベーターで下りながら曲を口ずさむ。1人だし密室だからいいけど、誰かいたら気まずいよね。

 

「『そんな自分の苛立ち 何を求めているのか?』」

 

 そうこうしている間にエレベーターは目的の階に到達。

扉が開くとーー

 

 麗華とニコルんが桜の方に行こうとしていた。

 

「『何を拒否しているのか?』」

 

 が、私がエレベーターから降りたタイミングでこちらに方向を変えた。ーーニッコリと笑顔を浮かべながら。

 

「『僕は 出ていくしかない』!!!」

 

 ヤバイって! なんかわからないけど2人を怒らせたようだ。ほとぼりが冷めるまで上の階にーー

 

パタン

 

「『扉を閉めないで! パタンと閉めないで! 1センチだけ開けておいて!!』」

 

 だが悲しいかな。エレベーターは扉を閉めると、『アバヨ』と言わんばかりに上の階へーー

 

ポンッ

 

『「微かな光が 隙間から漏れるほど」』

 

ポンッ

 

「『帰り道を 残していてほしい』」

 

 続きの歌詞を歌いながら右肩に麗華、左肩にニコルんの手が置かれる。

 

 

「何あれ?」

 

「見たらアカンで」

 

「2人はどうしたの?」

 

「白雪さんが藤間さんにお酒を勧めたことに対してのお説教かと」

 

「私、お酒飲んでないよ?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 先ほど『お屠蘇』を飲んだと言った桜が飲酒を否定したことに5人は桜を見やる。

 

「私が飲んだのはお味噌汁だよ? おとその入った」

 

「……そのおとそってどんなものでした?」

 

 情報を整理すべくあかねが尋ねる。

 

「海草? って言ってたかな?」

 

「……あおさ、ですね」

 

 メガネを直しながらあかねが告げる。

 

「あ! それ! あおさ!」

 

「あおさはアオサは、アオサ目アオサ科アオサ属 Ulva の緑藻の総称でアオサノリとも呼ばれています」

 

「ちなみにお屠蘇とは、一年間の邪気を払い長寿を願って正月に呑む縁起物の酒です」

 

「あぁ、お正月に飲まされるあの苦いやつ!」

 

「でも、縁起物やったらええんちゃう?」

 

「作者がお屠蘇をよく調べずにただのお酒と勘違いした結果ですね」

 

(面白そうだから黙っておくか)

 

 ちなみに数分後に入ってきたみうがドン引きしていたことを付け加えておく。

 

 

 

 

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 あいなっちの活動休止、ちはるんの2月での卒業……正直気持ちの整理がつきません。でも、ちはるんがいるうちになんとか麗華のお当番回まで行ければな、と思います。
 パシフィコ横浜……行きたいなぁ……
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