22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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 明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今回は桜のお当番回となります。


千本の桜、二人の桜1

 桜前線が徐々に北上してきて、各地で桜の開花宣言が発表された。

開花宣言って気象台だかで定めた木に5、6輪咲いてればいいんだっけ。それも満開じゃなきゃダメらしく、それも係の人が目視で確認するらしい。

 

 桜の開花はバラバラのくせに散るときは一斉に散るのはなんなんだろうね。山形にいた時なんかは4月の中旬にようやっと咲いたと思ったら5月にはさっと散ったりしたし。

 

 日本人って桜が好きだよね。日本の国花だし、古くは万葉集に記されてるし、警察のバッチにも象られているし、試験に受かることを『桜咲く』って言うし、日本人と桜は切っても切り離せないんだろうね。

 まぁ、長々と言ってるけど、端的に言えばーー

 

(お花見したいなぁ……)

 

 ファーストライブから1ヶ月とちょい。まだまだ大きな仕事はなくて、レッスンの日々。

 ネットの掲示板では話題として出ることはあるけど、まだまだメディアには認知されていない……のかな?

つまりは顔だししてもバレないということ。

 

(弁当作って、団子は……買っていこうか。ジュンも一緒に連れて行けば美味しい団子屋見つけてくれるかな?)

 

 お菓子において並々ならぬ執念? 情熱を燃やすジュン。彼女が美味しいと言うなら、そこは美味しいところなんだと思う。

 

(ニコルんと麗華は……怒るかな?)

 

『お花見をしよう』と言えば、おそらく2人は反対するだろう。

 

『アイドルの自覚はあるのか』と言われるのは目にみえている。

 

 みゃーことジュン、桜あたりを引き込んだ上で『アイドルだからこそ時期のものには敏感に!』と屁理屈をこねよう。

 

 

 

「おっは……よー」

 

 着替えて『壁の間』に行くと、桜が電話していたーー英語で。

 

「ぺらぺらやん!」

 

「当然だろ。生まれも育ちも自由の国、なんだから」

 

「スゴいよね。やっぱり帰国子女なんだなって思うもん」

 

 ソファーに座ってお菓子を食べているみゃーこたちに合流する。

 

「私が英語で話しかけられたら『I can't speak English』っていう自身あるもの」

 

「いや、しゃべれとるやん!」ビシッ

 

 みゃーこがすかさずツッコミを入れる。

外国人が『私日本語分かりませ~ん』っていうのと同じだと思うよ?

 

「あれ? can't? don't? 正しいのはどっち??」

 

 出来る=canだから、出来ない=can'tだと思うけど……speakって動詞? だし……あれぇ?

 

「そこのアホコンビ、漫才はあとでやれよ」

 

「だってさ、ジュン」

 

 お菓子を1つつまみながらジュンを見やる。

 

「いやいや、今のはみゃーことりんりんでしょ!?」

 

「え? みゃーこはともかく、私もアホなの? 心外なんだけど……」

 

「なんやと!? 私は確定かい! アホを感染させたろか!?」

 

 私はそこまでアホじゃないよ! ……アホじゃないよね?

 

「訂正、アホトリオ」

 

「「私も入ってるし!?」」ガーン

 

 ジュンとハモる。

 

「明るく前向きで正直。美人の三大要素ね」

 

「ご両親の育て方がいいのでしょう」

 

 そんなガヤを気にすること無く麗華とあかねが所感を述べる。

ご両親の愛を受け、すくすくと、真っ直ぐ素直に育つ。言葉にすると割と簡単なのに、これ以上に難しいことはない。

 親は親で思い通りにいかないこと、今までとは勝手が違うこともあるし、子どもは子どもで親に言われることを受け入れられるか、というのもある。まぁ、いずれにしても無償の愛がなければなせないだろう。

 

「愛されてるなぁ……」

 

 思わず口にした言葉。口にしてからハッとするも、運良く誰にも聞かれていなかったようだ。

 

「まさに自由の女神!」

 

「お前はアホの女神だね」

 

「そうそう、独立宣言読まれへん! ってなんでやねん!」

 

 ちょうどみゃーこと絢香が漫才してたからね。

 

 

「いいよね~。らんらんは悩みなんかなさそうで」

 

「お前が言うな」

 

 いや、ジュンにも悩みはあると思うよ? ……たぶん、おそらく、きっと。

 

 

ゴゴゴゴゴ

 

「!!」

 

 と、轟音が響き、部屋が光に包まれる。

 

「ま、また!?」

 

「うぅ~……慣れないよ~……」

 

 御披露目ライブ以来の『指令』に麗華は驚き、ジュンは轟音に耳を塞ぐ。

 

「来た来た~!」

 

 一方でみゃーこは待ってましたと言わんばかりに喜ぶ。

これがソシャゲの演出なら虹色に光ればSSレアの指令が出るのだろうか? SSレアの指令ってなんだろうね?

 そして出てきた指令はーー

 

『一目千本桜で グラビア撮影を 成功させよ』

 

 

「ということで今から奈良に行きます」

 

 

 合田さんが指令を確認して告げる。

 

「え!? マジかよ! 展開早ない!?」

 

 いくら『壁』至上主義とはいえ、フットワークが軽いにも程がある。今から撮影機材を準備して奈良までなんて……

 

「やったー! トナカイトナカイ~」

 

「鹿では?」

 

 無邪気に喜ぶジュンと冷静に指摘するあかね。

残念ながら奈良にはトナカイはいない。

 

 

「急遽出版社に掛け合った所1か月後の週刊少年マンデーの表紙が決まりました」

 

「うそーん……」

 

 『週刊少年マンデー』といえば、毎週月曜日に小学館より発行される少年誌だ。集英社より発行される『週刊少年スキップ』、講談社より発行される『週刊少年コミック』と並ぶ三大少年誌だ。

 

 私個人としては、メイドと世界有数の財閥のご子息との生活を描いた『凪のごとし』、女の子でありながらプロ野球選手を目指す『minor』という作品が好きだ。

 

 

 

「また急やで~。荷物何持ってけばええねん?」

 

「鹿せんべいじゃん?」

 

「それは現地で調達可能です」

 

 急な地方への移動に、必要なものを確認するみゃーこ、奈良=鹿ということで鹿せんべいを挙げるジュンに、またも冷静に指摘するあかね。

 そもそも、行くまでの間にジュンが食べない保証もないし。

ちなみに食べても無害ではないが、美味しくないらしいよ、鹿せんべい。

 

「新幹線で2時間半だって」

 

「で、京都から乗り換えで奈良まで行く……と」

 

 しかも今すぐってことは弾丸で行って、撮影終わったらとんぼ返り……

 

「無茶ぶり甚だしいわ壁ちゃん。かわいい顔して」

 

「不穏な佇まいにも見えてきました」

 

「イノセントな怖さあるよな~」

 

「というか、買ったのはみゃーこだよね?」

 

「まぁ、そこはええやん?」

 

 あ、ごまかした。

 

 

「ていうかマジですごくない?マンデーってグラビアじゃ花形でしょ?」

 

「うん。旬のアイドルだったり女優だったりを起用してるよね」

 

「そもそもこんな急遽で抑えられるものではありません」

 

「なんか得体の知れへん力が働いてるよな」

 

「逆に怖くなるレベルね」

 

 確かにここまで御膳立てされると恐ろしいものがあるよね。

 

「きゃー! 悪の組織みたいでかっこいいー!」

 

「悪の組織なんだ……」

 

 目を煌めかせて喜ぶジュン。ただ、悪の組織ってのが引っ掛かるんだけど。

 

「言われたでしょ。私達は選ばれたの。恵まれてるなら精一杯味わえばいいわ」

 

 そう言ってニコルんはさっさと行ってーー

 

(待って! さっきまで制服着てたよね!? いつの間に着替えたの!? 手元の本とみうちゃんをチラチラ見てたはずなのに!?)

 

『壁』の得体の知れなさにも恐ろしさを感じたが、ニコルんの判断力と行動力にも末恐ろしさを感じた。

 

「女王かよ」

 

「まー考えてもしゃーないな」

 

「ニコルじゃなくてエリザベスだな」

 

「エリザベス……」

 

 またもや絢香によって新たにあだ名が与えられた。

 

私→リリィ、みうちゃん→クリステル、ジュン→子ども、麗華→風紀委員、ニコルん→エリザベス←NEW

 

「なんか……大変なことになっちゃったね……ん?」

 

 みうちゃんが桜に声をかけるも、当の桜は何かを考えているのか無反応。

 

「桜?」

 

「え?」

 

「大丈夫? ボーッとしてたみたいだけど」

 

「うん、大丈夫だよ。さ、私たちも支度しなきゃ」ニコッ

 

 笑いかけて桜は行ってしまった。

 

「凛子ちゃん、私たちも……」

 

「あ、うん。そうだね」

 

 少し引っかかったけど、みうちゃんに促され私たちも準備のために部屋を出た。

 

 

 

 

「わーい! おいしそ~」

 

 弁当を前にジュンが目を輝かせる。……いや、ここからは見えないんだけどね。

 

「なんか普通に旅行みたいだし楽しいことばっかじゃん」

 

 新幹線での移動中、つかの間ーーといっても2時間半もあるーー休憩に駅弁に舌鼓をうつ。

 

(やっぱり新幹線って言えば駅弁だよね。これだけでテンションがかなり変わるしね)

 

 ちなみに私が食べているのは山形は米沢の『牛肉どまんなか弁当』。

 

 お前、奈良に行くのになんで山形の駅弁食べてるんだって言われそうですけど、実は人気なんです!

そもそも山形とはいえ、山形では米沢駅じゃないと買えないんです!

少し前までは『つばさ』の車内で買えたんですけどね……今では駅弁フェアの時にヤマザワぐらいでしか買えないんですよね……

 

 閑話休題

 

 

「セッティングはぜーんぶスタッフさんがやってくれるしな」

 

「この調子でいけばお昼過ぎぐらいには着くわね」

 

「吉野山の桜は有名ですし個人的にも興味があります」

 

 みゃーこが後ろを振り返りながらしゃべる。

珍しくあかねもテンションがいつもに比べて高いようだ。

 

ちなみに座席は前列窓側から、ニコルん、みゃーこ、絢香。

中列にあかね、ジュン、麗華。後列に桜、みうちゃん、私という順だ。

 

「なーなー。マンデーって発行部数どれくらいなん?」

 

「何?ビビってんの?」

 

「いや……そういうわけじゃなくて……」

 

 みゃーこにしては歯切れが悪いなぁ……どうしたんだろ?

 

「30万部くらいですね」

 

 あかねが検索したのか、数字を読み上げる。

30万部……単純に考えて30万人は読んでいるということ。

もちろん、立ち読みする人もいるし、学校とかで回し読みする人もいるかもしれないからそれ以上の人が目を通すということ。

 

「コンビニとかにも置かれるんやんな?」

 

「当然だろ」

 

「へ~……」

 

(本当にどうしたんだろ? いつもならもっと盛り上がるはずなのに……)

 

 新幹線の車内ということを差し引いてもみゃーこの様子は腑に落ちない。

 

「どうかした?」

 

「いや。すごいなぁ。表紙やで表紙」

 

 規模が大きすぎて実感が湧かないだけだろうか……

 

(様子がおかしいと言えば……桜の様子も気になる)

 

 いつものような明るさは鳴りを潜め、どこか上の空だ。

今は車窓から見える桜を眺めている。

 

 

『え~。この列車は車両点検のため名古屋駅でしばらくの間停車します……』

 

 と、車内アナウンスが入る。 

 

「遅延ですか……」

 

「出鼻くじかれんな~」

 

「鹿さん待ってるのに~」

 

 

 遅延か。となると、この後の乗り換えに支障をきたす可能性がある。

 

(とすると、着くのは日暮れになるのかな……大丈夫なのかな)

 

 念のためネットで乗り換え情報を検索しておく。

それとジュン、鹿は別に待ってないと思う。

 

 

 

 

「も~! まだ~!?」

 

 みゃーこの嘆きが()()木霊する。

 

「頂上まであと1㎞だって」

 

「疲れた~! もう登られへん~」

 

 麗華の答えに、またもみゃーこが嘆く。

 

今、私たちはロケ地までの山道を『徒歩で』進んでいる。

どうしてこうなったかというとーー

 

遅れながらも名古屋を出発。京都に着いたときには本来吉野駅に着く時間になっていた。

そこから電車を乗り継ぎながらも吉野駅に到着したのだが、手配し

ていた車が突如エンスト。結果として日が傾く中、軽い登山を敢行することになってしまった。

 

 もちろん、そんなことを想定しているメンバーなんているわけもなく、人によってはヒールで足場の悪い道を進むはめになっている。

 

「鹿は!?鹿さんどこ!?」

 

「戸田さん。奈良は鹿の養殖場じゃありません」

 

 撮影……というよりも鹿に会うことを楽しみにしていたジュンは辺りを見渡し、鹿を探すも、あかねに諭される。

 

「新幹線ごっつい遅れるし、車もエンストって何やね~ん」

 

「スタッフさんは荷物運んでるんだから文句言わない」

 

 みゃーこが弱音を吐くも、麗華に正論で返される。

麗華の言うとおり、スタッフさんは文句1つ言うことなく、撮影機材を担いで先を進んでいる。

 特に合田さんなんかはその体格に偽りなし、とでもいうかのように重い機材を担いで先頭を進んでいる。しかも疲れを一切表に出さないのだから頭の下がる思いだ。

 

 

「みうちゃん、辛いんだったら荷物持とうか?」

 

 手を膝に当て、項垂れるみうちゃんに声をかける。

日々のレッスンで体力がついてきたとはいえ、山登りは勝手が違う。私はまだ余裕があるため、みうちゃんの荷物を受け取ろうとする。

 

「ううん。……大丈夫」

 

 みうちゃんは顔をあげて拒否する。

私の目からしたら大丈夫には見えないんだけど、みうちゃんが頑なに拒むことは目に見えていた。

 

「そう? 無理そうなら遠慮せずに言ってね?」

 

「ねぇ……時間やばくない?」

 

 絢香がスマホで時間を確認する。陽もずいぶん傾いてきている。

 

「これ……撮影に間に合うん?」

 

 みゃーこの疑問に答える人は誰もいなかった。

 

 

 

「着いたー!」

 

「まだいける!よっしゃ撮るで!」

 

 ようやく目的の頂上までたどり着き、すぐさま着替えてスタイリストさんに整えてもらう。

 

 だいぶ陽が落ちてきているけど、まだ撮れないこともない。

 

「にしても…確かに周り桜だらけね」

 

「1、2、3、4、5、6……」

 

「戸田さん。千本数えるならあちらの展望台へどうぞ」

 

 麗華の言うとおり、見渡す限り桜だらけ。

1本1本数えて確認しようとするジュンに、あかねは展望台で数えることをおすすめする。

 

でもね、ジュン。1本1本数えようとすると、日が暮れるよ? もう十分暮れてるけど。

 

 それを聞いて桜が展望台に駆け出した。私も気になって後を追う。

 

「わぁ……」

 

 思わず言葉を失った。

展望台から眼下に広がるは桜の絨毯。先ほど境内で見たのとはまた違う赴きがあった。『一目千本桜』と呼ばれるのも納得がいく。

 

「これが…おばあさまの……」

 

「えっ?」

 

 ポツッ

 

 何かが頭の上に落ちた。頭上を見やると、厚い雲が頭上を覆っていた。

 

 

 降りだした雨はあっという間に地面を濡らし、雨雲は傾いていた陽を覆い隠してしまった。

 

 ただでさえ時間に余裕が無かったのに、雨が降ってしまい、撮影続行は困難を極めた。

 

 設置したテントにメンバー、スタッフが避難して、動向を確認している。ーー私たち2人以外は。

 

「そっか……」

 

 私と桜は展望台に残り、桜の昔話を聞いていた。

桜のご両親は仕事で海外に行くことが多く、その間は桜のおばあさまが面倒を見ていたこと。そのためかなりのおばあちゃんっ子だったこと。

 おばあさまの故郷が日本で、名前が『桜』だったこと。そのため桜も『桜』の名前も大好きだったこと。

一目千本桜の話と、桜とおばあさまの約束……そしてーー

 

「……」グスッ

 

「凛子ちゃん……」

 

「な、泣いてないよ! うん。雨、雨が目に入っちゃっただけだから!」

 

 悲しいお話だけど、泣いちゃダメだ。

 

「じゃあ、桜のおばあさまにちゃんと見てもらおう? 今の桜をさ」

 

 

 




 原作との変更点
週刊誌スキップ、コミックの追加。スキップ→ジャンプ、コミック→マガジン、マンデー止むのをサンデーとお考えください。ただ、本来だと表紙にグラビアを使うのはマガジンが多いので……解釈がごっちゃになりますね。

新幹線での移動経路。
原作では新大阪となっていましたが、乗り換えの回数を減らしたりしたため、新幹線の到着駅が京都に変更になってます。
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