22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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 桜のお当番回、後編です。
後半は閲覧注意


千本の桜、二人の桜2

「あ~。こりゃ止まへんな」

 

「だ~れ?雨女」

 

「あ~…私かも~……」

 

 ところ変わってテント内。雨が止むのを今か今かと待つメンバー。

 

「子供は晴れだろ」

 

「なんでわかるの!?」

 

「もう顔が晴れやん!」

 

「え? それ褒められてる? ってか、子どもって言うな!」

 

 ジュンが『雨女かも』と自白するも、『晴れ女だろ』と否定される。その根拠に顔からして晴れ女と謎の根拠を述べる都。

 

 

「というより雨女晴女など科学的根拠の理論がないものの議論など不毛です」

 

 

 一方であかねは科学的根拠もないのに言い争うなんて不毛、と切り捨てる。

 

「せっかく日没には間に合ったのに……」

 

「でもこれ今更無理やん」

 

「この雨じゃ花びらも散っちゃうし撮り直しも厳しそうだな~」

 

 

 山登りまでして日没に間に合ったものの、この雨では撮影自体が、バラけそうで落胆するメンバー。

合田はじめスタッフの面々にも焦りが見られる。

 

 それもそのはず。指令には『グラビア撮影を成功させよ』とあった。それが例えトラブルでも、自然的なトラブルでも成功させなきゃならない。

 こと今回に関してはG.I.Pのみならず、出版社に無理を言って表紙を空けてもらっている以上今後の仕事にすら支障をきたすかもしれない。

 いや、そもそも『今後の仕事』すらないのかもしれない。

失敗ということはイコール『指令』をクリアできなかったことに他ならない。

言葉にすれば当たり前のことだけれど、その言葉の重みが違う。

 

 合田は顔にこそ出さないが、焦っていた。

失敗か、強行か……その選択は現場責任者の合田に委ねられている。

しかし、止まない雨と過ぎ行く時間が合田から冷静な思考を奪っていく

 

「ーーー!」

 

 どこかから声が聞こえた。焦りから来る幻聴だろうか。

 

「ーーー!」

 

「!!」

 

 またも声が聞こえた。合田があたりを見渡すと、他のスタッフ、メンバーも聞こえたのだろう。同じくあたりを見渡している。

 

「あ、あそこ!」

 

 スタッフの1人が指を差したところにはーー

 

「みんなー! みんなー!」

 

 桜がこちらに手を振っていた。

 

「一緒に一枚撮ってくれない?」

 

「ちょ! らんらんびしょびしょやん!」

 

 ずっと展望台にいたのか、全身濡れ鼠状態の桜。それでも晴れやかな笑顔を浮かべている。

 

「ずっと桜の木見てたの?」

 

「風邪引くぞ」

 

「誰か!タオル!」

 

 雨が降りだした時のパニックで誰も気づいていなかった。

スタッフが2人、タオルを持って桜に駆け寄る。

 

「ここに来られただけで私幸せで……記念撮影お願いします()()()()の写真です」

 

 展望台でクルリと回る桜とーー

 

「うん、この位置ならベストな写真が撮れそうかな!」

 

 先ほどまで見えなかったが、同じく濡れ鼠状態の白雪凛子がスマホを構えて待っていた。

 

「りんりんまで!?」

 

「!!」ダッ

 

 そこへテントから人影が飛び出す。

 

「みゅーみゅー?」

 

 

「素敵……」

 

「え?」

 

 テントを飛び出したみうちゃんが桜に一言。

 

「桜ちゃんの笑顔って本当に素敵」

 

 みうちゃんの一言に桜は満面の笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、みうちゃん」

 

 お互いに手を取り合うみうちゃんと桜。

 

(これだけで絵になるんだけど……撮っていい? 永久保存版にしていい?)

 

 この光景を静止画よりも動画で撮りたい葛藤をようやく抑える。

 

「ずるい!私も撮りたーい!」

 

「ま、どうせもう撮影無理やしな。辛気臭い顔してもしゃーないやろ」

 

「雨の桜も乙ですしね」

 

 ジュンが、みゃーこが、麗華が、あかねがテントを飛び出しこちらに歩いてくる。

 

「ったくもー。しょうがないなー」

 

「あ……ちょっ! みなさん!」

 

 絢香と……ニコルんまで来た! 合田さんが制止の声をかけるもみんな聞いてない。あ、合田さん狼狽えてる。

 

 そんなことを知ってか知らずか皆笑い合う。

 

「よ~し。じゃあ、みんなこっち見て~」

 

 スマホを構えてこっちに目線を要求する。

でも、全員がぽかーんとーー人によっては『何やってるの?』と言いたげな顔をしている。

 

「あれ? どうしたの? みんなで記念撮影だよ?」

 

「はぁ……」

 

 絢香が頭を押さえて盛大なため息をつく。

 

「やっぱりお前はアホだよ」

 

「はい?」

 

 え、いきなり貶されたんだけど? え? なんで?

 

()()でって言ってるのに、何でお前はスマホを構えてるんだよ」

 

「だってカメラマンが必要でしょ?」

 

「はぁ……」

 

 え? またため息つかれた。絢香ちゃ~ん、ため息つくと幸せ逃げちゃうよ~。

 

「全員ってことはお前も含めて全員なの。お前が抜けたら……ううん、1人でも抜けたら全員じゃない。お分かり?」

 

「でも……じゃあ、誰が写真撮るのさ」

 

「プロのカメラマンがいるだろ」

 

「っ! でも、こんな濡れ鼠状態だし……」

 

「ごちゃごちゃうるさーい」ガッ

 

「わぷっ!?」

 

 絢香に拘束され、いつのまにやら持っていたタオルで乱暴に頭を拭かれる。

 

「ちょっ!? 絢香! 髪が乱れるから~」

 

「ごちゃごちゃうるさいんだから髪型がごちゃごちゃしてたって問題ないだろ!」

 

「理不尽!?」

 

 

 

「おい。カメラ用意しろ」

 

 その様子を見ていたカメラマンがアシスタントにすぐさま指示をとばす。

 

 

「雨カバーかけろ。撮影開始!」

 

 そのタイミングを待っていたかのように、先ほどまで空を覆っていた雲の切れ間から陽射しが見えはじめた。

 雨こそ止まなかったものの、晴れの状態では見られない幻想的な風景だった。

 

 被写体となる彼女たちも撮影ということを忘れて年相応にはしゃいでいた。

 

 雨にうたれ、足元で水飛沫を作りながらはしゃぐもの、桜をバックにスマホで撮影するもの。

 

 雨、夕陽、桜……加えて雨に濡れた彼女たちもどこか妖艶で、扇情的で、それでいて年相応の輝く笑顔。結果としては満足のいくものだった。

 

「これはこれで選ぶのが大変そうですね」

 

 スタッフの1人が笑いながら呟いた。

 

 

「お~。できたんや」

 

 撮影からしばらく経って、出版社からサンプルが送られてきた。

 

「すごいすごい!」

 

「へ~。なかなかよく撮れてんじゃん」

 

 ペラペラと雑誌をめくる絢香。

 

「評判も上々のようです」

 

「アンケ1位だなこりゃ」

 

「それは非現実的です……」

 

「す……すごい……」

 

「みんなやスタッフさん達が作ったものがこうして本になって……」

 

「まぁ、非現実的かは別として、こうして現物が来ると感慨深いものがあるよね~」

 

 ここまでのものが出来ると、帰り道に悪路で脚を滑らせながら下山(?)したこともいい思い出になる。

 

「そうね」

 

 さらっと返すニコルんだけど、いつもより頬が緩んでいるのは見逃さない。『恵まれた環境』云々言ってたけど、なんやかんや嬉しいようだ。

 

「しかもこの煽り、かなり期待値高いんちゃう?」

 

「『規格外の新人』、『永久保存間違いなし』……ありがたいけど、少し恥ずかしいわね」

 

 麗華が表紙の煽りを読み上げる。常套句といえば常套句だけれど、少なくとも無名の新人にここまで期待されるのもなんかなぁ……

 

「ま、実際永久保存には違いないけどなぁ~」

 

 絢香が見えるようにして雑誌を開く。

そこにはニコルんがあげたヘアピンをみうちゃんにつけてあげる桜が写っていた。

 

「カメラマンさんもいいシーンを撮ったものだよね」

 

「少し……恥ずかしい」

 

「え~。みうちゃんかわいいよ!」

 

 さすがですカメラマンさん!

 

「!?」

 

 よく見ると、ずぶ濡れの私が絢香にタオルで拭かれているところも写っていた。

 

「この写真もなかなかいいと思うけどー?」

 

「りんりんとあやちゃん、姉妹みたい!」

 

 意地悪い笑顔を浮かべる絢香と姉妹みたいと言ってしまうジュン。

 

「いや待て! これは何だ!? いつ撮った!?」ガバッ

 

 しかもあろうことか絢香は聖母のような笑みを浮かべているし。

いやいや、あの時は比較的乱暴に拭かれていたはずだぞ!?

 

「いやぁ、手のかかる妹で~」ニヤァ

 

 

(なんてことしてくれたんだ、カメラマン!!)

 

 

 数ヶ月前 アメリカ

 

「何? 日本に?」

 

 1つの封筒を手に、桜は両親に告げた。

 

「何言ってるの! 駄目に……」

 

「お願いします!」

 

 反対されるのは承知の上。それでも桜は折れず、頭を下げる。

封筒の中には『アイドルに選ばれた』という通知。

これがただのアイドルだったなら、桜もここまでお願いすることは無かっただろう。その様子に両親も驚きを隠せない。

 

「桜……しかしお母さんと私は忙しいし……」

 

「一人で異国など……」

 

「異国ではありません!」

 

 『異国』……その一言を桜は強く否定する。

 

「おばあさまの故郷です! 私にもその血が流れているのでしょう!? その国に行ってみたいと思うのはそんなに不思議な事でしょうか!?」

 

 行ったことはない遠くの地。それでもおばあさまとの思い出、約束……それらが桜を駆り立てた。

 

「「……」」

 

「勝手を言ってるのはわかってます……認めてもらえるならもう二度とわがままを言わないと誓います」

 

「どうしても見たいんです…おばあさまの故郷を。大好きな桜を!」

 

「お願いします……お願いします……」

 

 

 

 いつからだろう……彼女がわがままを言わなくなったのは。

いつからだろう……彼女がハッキリと自分の意見を言うようになったのは。

 

『いつからだろう……』、『いつ以来だろう……』、『いつの間に……』

 

 そんな思いと発見が去来する。

思えば仕事が忙しくて、桜のことは母と使用人たちに任せきりだった。

 

「でもそんな……」

 

 

「わかった。桜。一つだけ条件がある」

 

 

 

 

「なんだか……すごく素敵……」

 

 ポツリと呟いた一言は視線の先の()()に向けたもの。

 

 

「よっしゃー!じゃあ張り切ってレッスン行こかー!」

 

「なんだか気合入るね!」

 

 ふとスマホを見ると、メッセージが届いていた。

お父様からだった。表紙になったことを伝えたからそのことだろう。

 

『congratulations on your first magazine cover.』

 

『I'm so proud of you.』

 

『However , to come back to America.』

 

『The deadline is one year.』

 

 案の定、表紙を飾ったことの称賛と『約束通り』期限は一年ということ。

 

 

「あれ? 桜ちゃん。何かあった?」

 

「ううん。行こ?」

 

 期限は一年。みうちゃんにも凛子ちゃんにも話していない。

 

 

 

都内 某所

 

「あ"ー……飲み過ぎた」

 

 寝床から起き上がると同時に襲い来る頭痛に唸り、這いずりなながら冷蔵庫を目指す。

 

「チッ! 何も入ってない」

 

 何とか冷蔵庫に到達してドアを開けるも買い出しをしていなかったため、中にはろくにものが無かった。

正確には缶ビールがいくつか鎮座しているが、少なくともコイツらが二日酔いを軽減させてくれるとは到底思えない。

 

「いや、ワンチャン迎え酒で……」

 

 そう思い、缶ビールに手を伸ばす。しかし、前回もそう言って迎え酒を飲んだものの結局は飲み過ぎて泥酔。二日酔いを翌日にスライドさせただけだったのを思い出し、舌打ちしながら乱暴にドアを閉めた。

 

「はぁ……いいや。とりあえず一服……」

 

 何も考えたくなくてタバコを吸おうとするも、箱の中身が空っぽだった。

 

「チッ!」

 

 クシャっと空箱を潰してゴミ箱に叩き込む。

どうあっても買い物に行かなきゃいけないらしい。

幸い、昨日相手した上玉の客のお陰で財布の中は潤っている。

変態なクソオヤジだったことを差し引いても十分なくらいだろう。

 

「スッピンなんだけど……まぁいいか」

 

 どうせ朝食と起きた後の食事、タバコを買いに行くだけだし、食べたらまた寝るだけだ。

財布と鍵だけを持って部屋を出た。

 

 

 

「いらっしゃいませ、おはようございます」

 

 平日とは言え、8時を過ぎれば客足もそれなりに落ち着いてくる。

 

(インスタントのみそ汁……)

 

 かごを手に取り、まずはみそ汁を数個放り込む。やはり二日酔いにはみそ汁だ。

 

(あとは弁当……)

 

 みそ汁にはご飯。古くさいとは思うが最近そんな風に思えてきた。実家が純和食だったから学生の頃は反抗して私だけパンを食べていたけど、結局は血筋か環境か……

 

「チッ!」

 

 思い出したくない過去と、ガッツリ系の弁当しか無かったことに舌打ちする。

 

(パン……って気分じゃないし……パスタは……)

 

 悩んだ結果、豚しゃぶのサラダとエビの入ったサラダをかごに入れる。

 

「お決まりでしたらどうぞ」

 

 レジにいる冴えない男ーーフリーター? それとも大学生だろうか?ーーと目が合って仕方なくそっちのレジに行く。

 

「あと、タバコの132番を4個」

 

 いつもなら1個、または2個なんだけど、今日みたいなことがあってもイヤだから多めに買っておく。

 

 万札を出して店員が袋に入れているのを手持ち無沙汰で見ていると、レジ前に置いてあった『週刊少年マンデー』に目がいった。

 

「! ごめん、これも!」

 

「え、あ、はい」

 

 袋詰めが終わりそうだった店員が何か言いたげにこっちを見てたけど、まぁ気にしない。

 帰り際に『ありがと♪』って言うぐらいには上機嫌だった。

 

「へぇ……『規格外の新人』ねぇ……」

 

 インスタントみそ汁にお湯を入れてかき回しながら、少年マンデーの表紙を見やる。

 しばらく前に手紙が来てたが、仕事とはコレのことだったのか。

 

「新人で週刊紙の表紙と巻頭グラビアかぁ……推されてるねぇ。スゴいじゃん」

 

 知らない小娘と一緒に映る()()()

 

「……気に入らない」グシャ

 

 写真の娘が音をたてて歪む。気にすること無くゴム袋に放り込んだ。

 

「私の娘のあんたがアイドル? 穢れてるあんたが何で華やかな世界にいるのさ……あんたにはこれくらいがお似合いよ」ガサッ

 

 表紙で笑顔を浮かべている彼女の顔はドレッシングで汚されていった。

 

 




 桜パパのメールを翻訳しようとしたのですが、英語の読解力が足りませんでした……
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