22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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お花見しましょ

「さくら~、さくら~いぃ~ま~さきほこる~」

 

 桜の歌って色々あるよね。それでも大概が散ることが前提なわけだけれど。やっぱり散り際が綺麗ってことなのかな。

まぁ、『桜吹雪』、『桜の雨』、散ったあとには『桜の絨毯』っても言われるし、咲いても美しく、散り際もなお美しいってことなのかな?

 

「りんりん、ご機嫌だね~」

 

 隣を歩くジュンが覗き込む。

 

「まぁねぇ~。そういうジュンだって楽しみでしょ?」

 

「そりゃあもちろん! だってお花見だよ? 楽しみに決まってるじゃん!」

 

 そう。今日はメンバー全員でお花見なのだ。

奈良に撮影に行った辺りから考えていたことがようやく叶う。

 とはいえ、桜の満開の時期は過ぎていて、ほとんど散っているような状態。それでもランニング中に駆け回って(別名迷子とも言う)見つけた穴場なのだ。

 

(もっとも、時期が過ぎているからこそOKが出たわけだけれど)

 

 

*数日前

 

 

「お花見? 何を考えているの?」

 

 奈良から戻って少し経った辺り、『お花見がしたい』と切り出した。当然ニコルんからは厳しいお言葉。

 

「私たちはアイドルなのよ?」

 

「まだ売り出し中の……ね」

 

 幸い今なら『まだ』お披露目ライブでしか顔出ししておらず、そんなに身バレはしないと思うんだけど。

 

「でも、この間グラビア撮影をしちゃったわけだし、お披露目ライブでもカメラが来てたわよね」

 

「混乱を防ぐ、という意味でするべきではないと思います」

 

 麗華、あかねもお花見には否定的。まぁ、2人の意見も分かるんだけどね。

 

「ええんちゃうの? お花見。楽しそうやん」

 

「やろーよ! お花見!」

 

「お花見ですか!?」

 

 予想通り、みゃーこ、ジュン、桜は乗り気。人数の上ではあとはみうちゃんか絢香を抱き込めば賛成派が上回るけど……

 

(多数決で決められるほど甘くはないのよね)

 

 数の暴力こと多数決だけれど、実際にそれでトラブルが起きたら醜い責任の押し付け合いが待っている。

 

『だから反対したのに!』、『アイツが言ったから』、『お前も賛成したじゃん!』……それは巡りめぐって発案者に返ってくる。

 

「まぁ、何も考えずに言ってるわけじゃないんだよ?」

 

 私の一言に皆の目線が集まる。

 

「一応、アイドルという自覚はある。顔バレ、身バレで騒ぎになることも分かっている。でも、それ以上にーー」

 

 

「ビジネスだけの関係じゃいたくないんだよ……」

 

 

 

 

 そのあと話し合いを続けて、混乱を防ぐために日時を決めて(雑誌が発売する前or桜の散り際)、対策も考えて、念のために合田さんにも許可を得てようやく今日までたどり着いた。

 

「お花見だんご~、お花見だんご~」

 

 楽しそうにお花見だんごの歌(?)を歌いながら左右にユラユラしているジュン。そんなジュンに合わせて、顔の横の髪もユラユラ揺れている。

 

「お花見なんて、いつ以来だろうなぁ~」

 

「りんりん、お花見しないの?」

 

 ポツリと呟いたつもりがジュンには聞こえていたようだ。

 

「ん~……桜は見るよ? でもちゃんとお花見ってそうそうしないかも……」

 

 歩きながら桜を眺めたことはある。自転車に乗って桜並木沿いに走ったこともある。でも、じっくりとお花見をしたのはいつが最後だったか……少なくとも東京に来てからは無いはずだ。

 

 そもそも『ちゃんとしたお花見』と言ったけれど、桜の下にレジャーシートを敷いてお弁当やらお団子を食べたりお酒を飲んだりすることがちゃんとしたお花見というのか甚だ疑問ではあるけれど。

ーー当然のことだけれど、未成年なのでお酒は飲まないけれど。

 

「そうなの!?」

 

「ジュンはお花見するの?」

 

「私はね~、小さい頃はお母さんがお弁当作って、家族で行ったよ~。あとは友達とお弁当とかお菓子持ち寄ったり、歌ったりしたかなぁ~」

 

「へぇ~」

 

(そっかぁ……)

 

「あ、ジュン。お団子食べる?」

 

「え? いいの!?」キラキラ

 

「みんなの分の他に2本買っておいたんだ♪ 買い出し組の特権、特権」

 

「わぁ~い! ありがとう、りんりん!」イッタダキマース

 

(()()()()()()お弁当作ってくれるんだね)

 

 楽しげにお団子を頬張るジュンを眺めながらそんなことを考えていた。

 

 

 今日のお花見は皆で役割分担していて、私とジュンはお団子を買いに行く係だった。

他にもお弁当を作ってくるメンバー、お菓子や飲み物を買ってくるメンバーと分担していた。

 

 役割に偏りがある? いやいや、私とジュンが行ってきたのは老舗の名店。開店前から人が並ぶと有名のため、眠気眼のジュンを引き連れ始発で行ってきたのだ。

 

「お疲れさまです」

 

 目的地に着くと、わざわざ今日のために尽力してくれた合田さんが出迎えてくれた。

 

 具体的には、スケジュールの調整、念のために公園の管理者に許可を取り、注意事項を聞いてくれたり、トラブル回避のために場所取りまでしてくれたり。

 

「合田さんこそ、お忙しいのにすみません」

 

「いえ……皆様の安全のためなら」

 

 とは言うものの、合田さんは休みじゃないのに関わらずスーツ姿でわざわざ場所取りしてくれていた。

 

 時期がズレているのに場所取りする必要があるのかって?

まぁ、それにも理由があるわけでーー

 

「あれ? 絢ちゃんは?」キョロキョロ

 

 本来だったら同じくお団子の買い出し班だった絢香の姿を探すジュン。

 

「立川さんでしたら、今は車の中でお休みになってます」

 

「あ~……やっぱり?」

 

「限界の様でしたので……」

 

 早朝、ジュンを起こしたあとに絢香の部屋を訪ねたのだが、その時点で絢香は割とフラフラだった。

 

 寝ていないのか、目の下に隈が出来ていて、『なんとか間に合った……』と定まらない意識の中言ってたし……学校の課題でもあったのかな?

 

 ともあれ寝ていない状態で連れ回すのも酷ーーというか、寝ぼけているジュンに加えて寝不足の絢香を引き連れて電車に乗るとか無謀ーーなので、絢香は置いて行くことにしたのだった。

 

(一眠りしてから現地に行くように言ってあったんだけど……)

 

 行く前に合田さんに『しばらくしたら絢香が向かう』と連絡を入れたのだけれど、おそらくまっすぐ行ったのだろう。

 

「先程まではこちらにいらしたのですが……」

 

 申し訳なさそうにする合田さん。彼のことだ、何度か絢香を説得してくれたのだろう。それで妥協案としてそこに置いてあるブランケットにくるまっていた……といったところか。

 

「いえ。何から何まですみません。あ、お礼には足りませんが……」

 

 よろしかったら、と先程購入した缶コーヒーを差し出す。

5月も近い、とはいえ外で待ってくれていたのだ。ホットを買ってきてしまったのだがーー

 

「ありがとうございます」

 

 良かった……受け取ってもらえた。まぁ人の好意を無下にする人ではないとは分かっているけど、一悶着くらいはあるかと思ってた。

 

「あと……よろしければこれを……」

 

 背負っていたリュックからランチボックスを取り出す。

 

「これは?」

 

「一応、サンドイッチを作ってきましたので……合田さん、ずっと場所取りしていたならなにも食べてないんじゃないかと思いまして……」

 

 いつもより比較的早く起きて作ってきたんだけど、まさか合田さんが場所取りしていると思わなかった(連絡が来たのが部屋を出る前だった)から今更になっちゃった。

 

(これで昨日の夜からスタンバってましたって言われたら、ごめんなさいだよね……)

 

 まぁ合田さんの場合、本当にそうでも言わないからね。『壁』が関係ないとかなり優良物件だよね。

 

「いただいてしまっていいんですか?」

 

「どうぞ。お口に合えばいいんですけどね……」

 

 おしぼりを合田さんに渡しながらポツリと言う。

一応、味音痴ではないから味覚は人並みだとは思うけど、好みの問題だしなぁ……

 

「いいなぁ……」ピョコ

 

「ジュン、お弁当入らなくなるよ?」

 

 あくまで軽食なのでそこまでではないけれど、合田さんが気を遣ってしまうこともあり得る。

 

「私の胃袋は宇宙だ~!」

 

 なんか昔、そんな決め台詞(?)を言うドラマがあった気がする。

 

「今度作ってあげるから」

 

「よろしかったら、戸田さんも食べませんか? 私には少し多すぎるので」

 

 『嘘だ!』という言葉を正月の餅並みに苦戦しながら飲み込んだ。

 いや、合田さんの体格でこれが多すぎるわけがない。

ひょっとしたら合田さんはこう見えて少食なのかもしれないけれど、それでもこの量を食べきれないはずはない。

案の定気を遣わせてしまったみたいだ。

 

(まぁジュンも何も食べてなかったしね)

 

 行きは電車に揺られて私の肩を枕に寝ていたし、お団子買ってからはそのまま電車に乗って戻ってきただけ。口にしたものといえば、さっき渡したお団子だけ。

 

(これなら多めに作ってくれば良かったかな……)

 

「いいの!?」キラキラ

 

「白雪さん、構いませんか?」

 

「いいもなにも合田さんに差し上げたので、合田さんさえ良ければ」

 

「じゃっ! いっただきまーす!」

 

 ジュンがサンドイッチを1つ取った。

 

「んん? ホットサンド?」

 

 そう。作ってきたのはホットサンド。

サンドイッチと言えばふわふわのパンをイメージする人が多いだろうけど、正直言って私はトーストした方が好きだ。

 カリカリとした食感、香ばしさ。何より温かいしね。

あとはパンが潰れにくいのもある。半分に切ろうとするとどうしてもね。

 人によっては『ふわふわのパンを使ってこそのサンドイッチ!』っていう人もいるから、好みの問題っていうのはそういうこと。

 

「ん! タマゴサンドだ!」

 

 ジュンが取ったのはタマゴサンド。サンドイッチとしては王道だよね。

ゆで玉子とマヨネーズ……どちらも卵を使ってるんだから、合わないわけがない。割とゆで具合に苦労したんだよねぇ……。

 

「これは、ハムチーズですか?」

 

 お、合田さんのはハムチーズ。やっぱりホットサンドといえばとろけるチーズは外せないからね。今度はハムの変わりにスパムを入れてみよう。

 

「あれ? りんりんは食べないの?」

 

 2人が食べているのを眺めていると、ジュンが食べる手を止めた。

 

「ん~……私はいいや。朝ごはん食べてきたし、あまりお腹減ってないんだよね」アハハ

 

 実際、作っている時に味見と称して形が悪いものを食べたから空腹ではない。

 

(なにより、自分が作ったものを美味しそうに食べてもらえるのは嬉しいからね)

 

 

 

 2人がサンドイッチを食べ終わり、しばらくは思い思いーーといっても、合田さんは仕事の電話だったり、確認だったり……本当にすみません!ーーの時間を過ごしていた。

 

「おはようございます」

 

「あっ! あかねぇ~、おはよう! ん? おはよう?」

 

 いかにもなバスケットを持ってまずはあかねが来た。

ちなみに時刻は10時半。おはようなのかこんにちはなのか悩む時間だし、仕事というわけでもないのであいさつに悩むところ。

 

「お疲れ~。あ、じゃあレシートもらうね~」

 

「お疲れ様です。こちらになります」スッ

 

 あかねからお弁当の食材を買った時のレシートを受け取る。

さすがにおだんごとお弁当とジュース・お菓子では金額がバラけるし、後で集計・割り勘することになっている。

 

「他の方は?」

 

「あかねが一番乗りかな。絢香はさっきまでいたんだけどね。今は合田さんの車で休んでるよ。で、合田さんも今は仕事の電話中」

 

「立川さんは具合が悪いんですか?」

 

「ん~……体調は悪くないと思うんだけど、寝不足……なのかな」

 

 とりあえず、体調不良ではないことを伝えておく。課題のことは言うことでもないので伏せておくことにした。

 

「それほど今日のお花見が楽しみだったのでしょうか?」

 

「う~ん……私やジュンならともかく、絢香はそんなタイプじゃないと思うけどね」

 

「そういう白雪さんは寝不足に見えませんが?」

 

「私の場合は早起きに慣れてるし、そうすると夜は自然と眠くなるからね。夜更かしはあまりしないかな」

 

「なるほど。健康的でいいと思います」

 

「そういうあかねさんは、楽しみじゃないの?」

 

「どうでしょうね。よく分かりません」

 

 ありゃりゃ。本当にそうなのか、はぐらかされたのかよく分からないや。

 

「お待たせ」

 

 と、あかねと腹の探り合い(?)をしているとーー

 

「麗華……とニコルん?」

 

 珍しいことに麗華とニコルんが揃って登場。麗華は寮暮らしだからいいとして、ニコルんは実家から通いだったはず。

 

「途中で会ったから一緒に来たの」

 

「なるほど!」

 

 ニコルんも麗華もお弁当担当だから、一緒に作ってきたのかと思ったけどそういうわけではないようだ。

 

「じゃあ、レシートもらいまーす」

 

「はい」スッ

 

「これよ」スッ

 

 2人からもレシートを受け取る。

麗華が料理が得意なのは知ってるし、あかねも得意なのはなんとなく想像がつく。手際良さそうだし。でも正直な話、ニコルんが料理上手なイメージがわかない。

 こう言ってはなんだけど、アイドルとしての能力に経験値を極振りしているイメージだ。

 

「なによ」

 

 私の目線に気づいたニコルんは怪訝そうな顔をする。

 

「いやね。役割分担した時にも思ったんだけどさ……ニコルんって料理出来るのかなって」

 

 まぁ、今更なんだけどね。たぶん出来ないって言わないと思うし。

 

「バカにしないでちょうだい。アイドルなんだから自分の体調管理も万全にするべき」

 

 えっと……つまり……

 

「食べるものも外食とか惣菜ではなくて、自分で作ると?」

 

「当然よ」

 

(ふむ……)

 

 食べてみないことには分からないけれど、美味しければ文字通りだし、そうでなくともバラエティ番組に出ることがあれば『おいしい』かなぁ。

 

「……何か失礼なこと考えなかった?」

 

「ううん。別に」

 

 私は苦笑いをしてごまかした。

 

 

「おっ待たせ~! 買い出し部隊、到着や~!!」

 

 渡りに船とはこの事か。みゃーこ達買い出し部隊が来たことで、ニコルんの追及を逃れられる。神様仏様みゃーこ様々だ。

 

「お疲れー」

 

「お疲れ様です」

 

「なんや、うちらが最後かい」

 

 お菓子と飲み物の入った袋を置くと、みゃーこが座りながらこぼす。

 

「あれ? 絢香ちゃんは?」キョロキョロ

 

「あー……合田さんの車で寝てる」

 

「具合悪いの?」

 

 みうちゃんが心配そうにしている。

 

「いや、寝不足だってさ。そこまで酷くはないと思う」

 

「良かった……」

 

 みうちゃんも桜もホッとした顔をした。

 

「ねーねー、みゃーこ。買ってきたお菓子、見てもいい?」

 

「おう! たくさん買うてきたで~」

 

 ジュンがみゃーこから袋を受け取り覗き込む。

ポテチ、パイの実、きのこ、たけのこ……お菓子の定番からジャーキー、柿ピーなどのいわゆる『飲み会のお供』的なものもあった。

そして最後にはーー

 

「バナナ?」

 

「何故バナナ?」

 

 スーパーではお菓子コーナーというより青果コーナーにおわす御方がお菓子とともに鎮座していた。明らかに異彩を放っている。

 

「先生ー!」ピッ

 

 急に桜が手を挙げる。

 

「はい、藤間さん」

 

 とりあえずわけが分からないけどのることにした。

 

「バナナはおやつに入りますか?」

 

「「「……は?」」」

 

 桜の一言にみんなの思考が停止する。いや、みゃーこは笑いを堪えてる。

 

(あー……これは『遠足』の定番のヤツか……)

 

「バナナは果物なのでおやつには入りません。なのでそちらは河野さんの自腹ということで~」

 

「なんでや!?」

 

「当たり前でしょ! 純粋な桜を騙して」

 

「ハリセンがあったら、バナナじゃなくてみゃーこを叩き売りしてたよ!」

 

(叩き売りしたことないけど……)

 

「都ちゃん! 騙しましたね!?」ムー

 

 ほら、桜も怒っちゃったよ。頬っぺた膨らませてるから怒ってても可愛いけど。

 

「ごめんて。でも、これも日本の伝統なんやで?」

 

「「「そんな伝統ない!!」」」

 

 伝統というか、半ばお約束みたいなものかな? 『お菓子は500円以内』っていうのとセットで。

 

「じゃあ私、絢香と合田さん呼んでくるから~」

 

 怒られているみゃーこと怒っている麗華、ニコルん、むくれる桜、お菓子を食べているジュン、みうちゃん、あかねを尻目に駐車場に向けて歩き出す。

 

 

 

コンコン

 

 控えめにノックをすると合田さんが車から降りてきた。

 

「合田さん。絢香の様子はどうですか?」

 

「ぐっすりとお休みになられてます」

 

「そうですか……じゃあ私が見てますから合田さんはみんなと合流してください」

 

「ですが……」

 

 反論しようとする合田さんを制する。

 

「場所取りしていただいて、絢香のお守りまでしてもらったのにサンドイッチ1つで帰すほど私は薄情ではないつもりですよ?」

 

 そのサンドイッチだってジュンと半分こ……いや、おそらく合田さんの方が少ないだろう。

 

「絢香を起こしたら私も行きますから」

 

「……よろしいのですか?」

 

「私は合田さんともビジネスだけの関係で終わるつもりはないですよ」

 

「白雪さん、それは……」

 

 あ、今の言い方じゃ語弊があるね。

 

「もっと人としての合田さんを知りたいという意味で、深い意味ではないです。あくまでマネージャーと担当アイドルという枠内で、という意味です!」

 

 少し声がうわずった気がするけど、気のせいだよね? 気のせいだよ!

 

「あ……はい」

 

 合田さんも気づいたみたいだけど、秒で察したようだ。うん、何を察したかは全く分からないけれどね!

 

「では、先に行ってます」

 

「ごゆっくり~」フリフリ

 

 合田さんが見えなくなるくらいまで見送ったらあとはーー

 

(さて、眠り姫を起こすとしますか)

 

 (白雪)が起こす側とか何? と頭の片隅で思いながら苦笑する。

一応今日は身バレ対策としてユニセックスものを着てきたけれども、生憎と私は『白馬の王子様』って柄じゃないよ?

せいぜいが森の動物の一頭ってところじゃないかな。

 

「お邪魔しま~す」

 

 出来る限り音を出さないようにスライドドアを開ける。

シートを倒した状態で絢香は気持ち良さそうに寝ていた。

 

(うわっ……誰、この美少女……)

 

 さばさばとした性格で、時には親父くさい言動があったり、人をからかってくる絢香。それでも寝顔はあどけなく、年相応……いや、少し幼く見えた。

 

(まつ毛長いし、肌も荒れてない。でも、寝不足でクマが出来てる……)

 

 起こしに来たのを忘れて、しばらく絢香の寝顔を眺めていた。

いつまでも眺めていたい気もしたけど、さすがにこのままでもいられない。隣の席に腰を下ろし、軽く揺すって起こすことにした。

 

「絢香~」ユサユサ

 

「んっ……」

 

 鼻にかかるような声を出したものの、起きるまではいかない。

 

(というか、なんて声を出すのよ、この子は)

 

 同性の私ですら思わずドキッとした。『持ってる武器は使いたい』といつか言っていたけど、寝ているときですら全身武装しているようだ。

 

「絢香~、起きなさ~い」ユサユサ

 

 普通に起こしても起きそうにないので、絢香のお母さんをイメージ(会ったことないので想像)して起こしてみる。

 

「ん……」ムクリ

 

(お、起きた?)

 

 どうやら効果があったようで、寝ぼけ眼状態ながらも起き上がり、私を数秒見つめてーー

 

「ふぅん」ポスッ

 

「へ?」

 

 再び電池が切れたように倒れ込むーー私の方に。

突然のことに動けないでいると、肩に載っかった絢香の頭がずり落ちて私の膝に納まった。

 

「うそん……」

 

「スー……スー……」

 

 そのまままたも寝息をたてる始末。起こしに来たのに図らずとも膝枕をしてしまう展開に。動くに動けないし、かといってただ膝枕するのもなんか癪だ。

 

(頭撫でてやれ。あ、さらさら……)

 

 指に引っ掛かることなくすり抜ける髪の感触を楽しむ。うん。悪くないかもしれない。

 

 時々、さっきのような声を出すものの絢香は一向に起きる気配がない。

 

 

 結局、いつまでも戻ってこないことを心配した麗華に目撃されるまで絢香の寝顔と髪の感触を楽しんだのだった。

 

 

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