22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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 これの執筆中にSHOWROOMでみずはんが『エタブレ』歌ったことに驚いた。
 あとは天城さんとナナオンマルチが出来て、かなり感動しています。


ジュンと麗華と 2

「さてと……まずどうする~?」

 

 受付を済ませて部屋に入る。照明は……少し暗めにしておこうかな。

 

「どうするって歌うんでしょ?」

 

 至極真っ当なことを言う麗華。まぁ、そうじゃなきゃカラオケじゃなくてもいいわけだしね。

 

「まぁ、そうなんだけどね~。言葉が足りなかったね。ドリンクバーに飲み物取りに行く? それとも歌、入れる?」

 

「カラオケ飯もあるよ~」

 

 メニューを差し出しニコニコなジュン。

カラオケのご飯もなかなかに美味しそうだよねぇ~。その分お値段も……ね?

 

「あぁ、そういうことね」

 

 私たちの説明に納得する麗華。

 

「みんなで飲み物取りに行ってもいいけど……荷物置いていくなら誰か見ていた方がいいよね?」

 

 長時間はかからないけど、置き引き(?)が出ないとも限らない。

 

「じゃあ、私が残るから2人とも行ってきて」

 

 こういう場合、麗華は自分から残ることを選ぶ。

 

「じゃあ、何か飲み物持ってこようか? 希望とかある?」

 

 代わりといってはなんだけど、麗華の分も取ってくることを提案。こういうところのラインナップはファミレスと似たようなものだし、ピンポイントじゃなくても『お茶』とか『炭酸系』とか指定してもらえれば持ってこれるしね。

 

「う~ん……特にないかな」

 

「ん、りょーかい」

 

 まぁ、麗華の場合持ってきた結果、『これの気分じゃなかった』なんて言わないだろうし、2回目以降は自分で持ってくればいいだけの話だしね。

 

「ねぇねぇ、りんりん。オリジナルジュース作ろうよ!」

 

「お! いいねぇ~」

 

 誰でも1度くらいはドリンクバーで経験があるのではないだろうか。既存のドリンクを混ぜ合わせてオリジナルのジュースを作ることを。時にはお互いが上手く調和したり、時には『え……なんでこれ混ぜてしまったんだろ……』と絶望と黒歴史を植え付ける代物だったり……。

 

「……凛子。少し荷物見ててくれるかな?」

 

「はいは~い」イッテラ~

 

『おまかせ』にした結果、ろくでもないものを飲ませられるんじゃないかと危機感にかられたのか、ジュンとドリンクを取りに行くことを選択した麗華。

それとも、食べ物・飲み物で遊ぶことを良しとしない気持ち故か。

 

(ま、ちょうどいいか)

 

 2人が行ったことを見届けて、絢香に業務連絡。

 

『今、カラオケにいるよ~。とりあえず、2時間は確保したよ』

 

『OK』

 

『こっちも準備中。動きがあったら連絡くれ』

 

『りょーかい』

 

 う~ん、スパイみたいでワクワクするね。私だけかな?

 

「たっだいま~!」

 

「お待たせ」

 

 そうこうしている間に2人が戻ってきた。麗華はアイスティー、ジュンは……メロンソーダかな? 見た目は普通だけど……。それと、チョコソースとチョコスプレーが大量にかかったソフトクリーム。

 

「おかえり~。じゃ、今度は私が行ってくるね~」

 

「いってら~」

 

「いってらっしゃい」

 

 2人に見送られて今度は私がーー

 

「あ、先に曲入れてていいからね」ヒョコッ

 

 それだけ告げてドリンクバーに自分の分を取りに行く。

 

 

(おっと……)

 

 ドリンクバーに行くと先客がいた。

まぁ、私たちの貸し切りじゃないし普通にいるよね。

 

片手にはソフトクリーム、片手にグラスを持ち、何かを考えている。

 

(ん?)

 

 驚くべきはそのソフトクリーム。別に量が山盛りとかそういうわけではない。

 

(え……すごっ!)

 

 見た目が綺麗なのだ。ソフトクリームの巻きが太くもなく、細くもないちょうどいい巻き具合。また、高さもベスト。そして『ツノ』の切り方もいい。ソースのかかり具合も多すぎず、少なすぎずちょうどいいぐらいだ。

 

 海の家でバイトした時に巻いたことがあるのだけど、これが見た目以上に難しい。太すぎれば不格好になるし、細すぎればその分高くなってしまう。『ツノ』も長すぎると重さに耐えきれなくなってヘタってしまう。何度も何度も失敗して、先輩や店長にコツを聞いてなんとか出来るようになったっけ。

 

「じょんだなぁ……」

 

「え?」

 

「ぁ……」

 

 思わず声に出ていたようで、目の前の子がこちらを振り返った。

亜麻色ーーとでもいうのかーーの髪を顔の右側で分け、左側は顔を隠すように、右側は右にかけている彼女。

 

「ごめんなさい!」

 

 私が言葉を紡ぐ前に彼女が紡いだのは謝罪の言葉だった。

 

「え?」

 

「邪魔だったよね?」

 

 どうやら私が呟いた言葉が『邪魔だなぁ』に聞こえてしまったようだ。ちなみに『じょん』とは『上手』のこと。

 

「あ、待って! 違うの! その、ソフトクリーム! 上手に盛れてるなぁと思って……ソースとかチョコスプレーのかかり具合とかも絶妙で……」

 

 傍から見たら挙動不審に見えるんだろうなぁと頭の片隅で思いながらも、誤解を解くべく説明する。なお、早口なのは触れないでほしい。

 

「ほんと!?」グイッ

 

「おぅ……私も素人みたいなものだけど、ここまで綺麗に盛りつけられるのは難しいと思うよ」

 

 いきなり距離を詰められて面食らう。これが若さか……←高2

 

「やったぁ~!」

 

 私に誉められて喜ぶギャル……ギャルだよね?

 

「あ! お姉さん、1人? もし良かったらつぼと合流しませんか?」

 

 おう……見ず知らずの人と一緒にカラオケしようと提案するとか、この子強い。いや、彼女なりに基準はあるんだろうけどね。

 

「あー……お誘いは嬉しいんだけどね、連れを待たせちゃってるから……」

 

 私個人としては、この子は悪い子じゃないというのは今のやりとりでなんとなく分かるしいいかなぁと思うけど、ジュンと麗華からしたら完全に赤の他人だ。

 

「そっか……じゃあ、つぼのオリジナルドリンク教えてあげる!」

 

「ほんと!?」

 

「うん! えっとね……」

 

 そうして、オリジナルドリンクを教えてもらった。

 

「じゃ~ね~、お姉さん」

 

「ありがとね!」

 

 ドリンクバーで彼女と別れた。

距離感こそ近いものの、普通にいい子だった。

 

「また、会えればいいな」

 

 その時はゆっくりとお話したいと思った。

 

 

 

 

 

「おっまたせ~!」

 

 部屋に戻ると麗華とジュンは曲を入れずに待っててくれた。

入れてていいって言ったのに、律儀だなぁ……。

 

「さてと……誰から歌う~?」

 

「はいは~い! じゃあ、私からいっくよ~」

 

「よし! いけ! ジュン! 君に決めた!」

 

「それは何か違うと思うんだけど……」

 

 一番手はジュン。機械を操作して曲をいれていく。

 

「ほう……」

 

『恋するフォーチュンクッキー』。ポップな曲調と覚えやすい振りで幅広い世代に人気のアイドル楽曲。カラオケでも定番だよね。

 

「凛子……これどう操作するの?」

 

 リモコンを手に顔を強張らせている麗華。

 

「へ?」

 

「え?」

 

「いやいや。楽曲かアーティスト名入れて検索かけて選択するだけだよ?」

 

「そ、そうよね!」

 

 何を焦っているのだろうか? 麗華はわたわたと覚束ない手つきで操作してーー

 

「「え!?」」

 

 曲を止めてしまった。

 

「あれ? ご、ごめん!」

 

「んもぉ~! れぇ~かぁ~!」プンスコ

 

 歌っていた途中で止められたジュンは頬を膨らませて怒っている。

 

「えっと……麗華さん?」

 

「電子機器の類いが苦手で……」

 

「あー……なるほど」

 

 このリモコンを『電子機器』と言っていいのかは疑問だけれど、つまるところ機械音痴らしい。

 

「んじゃ、曲さえ言ってもらえば私かジュンがいれるからさ」

 

「ごめん……」シュン

 

 落ち込む麗華。それはそれでかわいいし、珍しいものでもある。

 

「まぁ、気にしなさんな」ピッ

 

 そう言いながら履歴からもう一度『恋するフォーチュンクッキー』をリクエストする。

 

「よし! じゃあ、ジュン! もう一回いってみよ~」

 

「よ~し、行くよ~」

 

 気を取り直すジュン。

 

「じゃあ、この曲なんだけど……」

 

「ほう……」ピッピッ

 

 これを麗華が歌うと思うと楽しみでたまらない。

これも世代を代表するアイドルの曲だからね。アイドルと言えば最近は(昔もかな?)ポップな曲が王道! って感じだけどこういうカッコいい系も好きなんだよね。さっきの大所帯グループでいうところの『beginner』とか、チーム講演での『炎上路線』とか。

 

「んじゃ、私はっと……」

 

 カラオケに来る度にいれている曲なのでもはや慣れたもの。

ただ、この2人が知っているかは分からないけど……

 

「フ~!」

 

 と、ジュンの歌は早くも最後のフレーズを歌いきった。

 

「……」

 

 それなのにジュンはマイクを持ったまま目を閉じて動かない。

 

「ジュン?」

 

「あ、ゴメンゴメン。どうだった?」

 

「ジュンらしくて可愛らしかったわよ」

 

「うん。ジュンはこういうポップな曲が合うね」

 

「ほんと!? やったぁ!」

 

 さっき、ジュンが少し悲しそうな顔をした気がしたけどーー

 

(見間違いだったのかな?)

 

「じゃあ、次は私ね」

 

 麗華が立ち上がり、マイクを手に取る。

 

「麗華の曲、なんて読むの? デシ……?」

 

「『DESIRE』。これもアイドルの曲なんだよ。私たちが生まれる前の曲だけどね」

 

「そうなの!?」

 

 目を見開き驚くジュン。そんな曲をなんで麗華が歌うのか、と思っているのだろう。

 

「『まっさかさ~ま~に~』ってフレーズ、知らない?」

 

「あ! 聞いたことある! あの曲なんだ!!」

 

「歌番組とかするとだいたい出てくる曲だし、何回かカバーもされてるからね」

 

 歌い手が変わっても、その歌詞と歌に込められた思いは変わらずに受け継がれる。

 

(私たちの歌もそうなればいいと思うけどね)

 

 前奏が入ったタイミングで私もマイクを取る。

 

「さぁ、愛知県からお越しの佐藤麗華さん。アイドルの卵で右も左も分からないけど、それでも胸に熱い思いを込めてひたすら前に進みます! 歌っていただきましょう、中森明菜さんで『DESIREー情熱ー』!」

 

「「ぶっ!?」」

 

 昭和歌謡曲の前振りよろしくアドリブでいれてみる。2人が吹き出すも麗華はなんとか持ちこたえる。……ただ、こちらを睨むのやめてくれませんか? いや、本当に。

 

 冗談はさておき、やはりカッコいい麗華にはこういう曲が似合う。力強いし、伸びもいいし。

こうなると『あの曲も歌ってほしい』、『あの曲を歌ったらどうなるかな?』という妄想が止まらない。

 

「ねぇ、りんりん。りんりんのいれた曲もアイドルの曲なの?」

 

「ううん。あれはアニソンだよ」

 

「アニソンなの!?」

 

 アニソンとはいえバカにはできない。

時には社会現象を巻き起こしたり、有名なアーティストが歌うこともある。そしてそのアーティストのファンの人が曲をきっかけにアニメを見始めたり……。特に海外の方には大きな影響を与えている。

 

 この曲も私が歌を好きになったきっかけでもある曲。

曲を知り、アーティストの方の過去を知り、歌に懸ける思いを知って、さらに好きになった曲。

 

「アニソンって軽く見られがちだけどさ、それでも数々の名曲に負けてないんだよ……ま、ご清聴あれ♪」

 

 ジュンにウインクする。

 

「りぃ~ん~こぉ~!!」

 

「はい、麗華様! お疲れさまでございました!!」ピシッ

 

 歌い終わり、余韻を感じる間もなくお怒りの麗華様。

気分を害さないよう、姿勢を正し敬礼する。

 

「あんたねぇ……さっきのあれ……」

 

「いやいや、お考えください! 音楽番組に出た際、ああいった前振りは付き物なんですよ?」

 

 司会者だったり、アシスタントの女性アナウンサーが曲紹介の際にそういった情報をぶっ混んでくることもある。

時には『え? 曲に関係ある!?』といった情報をいれてくることもある。

 それに一回一回動揺していてはたまらない。

 

「と、いうことであくまで練習、練習なんですよ」ニッコリ

 

 

「ーーー!!」

 

 納得いかない! という姿勢を見せながらも席に座る。

それを見て私はマイクを手に取る。

 

「りんりんのマイクの持ち方って特徴的だよね」

 

「確かに。最初見た時、『え? どう持ってるの!?』って思った」

 

 マイクの持ち方も人それぞれ。麗華は親指、人差し指で掴んで、残りの3本をマイクに添えている。ジュンは小指だけを立てている。

私は小指をマイクの下に添えている。トレーナーさんに指摘され、何度か矯正しようとはしたんだけれど、結局しっくりこなくてこの状態に落ち着いている。

 

「さて……ではここで1曲。『ETERNAL BLAZE』」

 

 タン、タン、タンタンタン

 

「はぁ~るぅ~かぁ~天空(そら)響いてるぅ~。祈りはぁ~奇跡にぃ~」

 

 この曲……というか奈々様の曲はビブラートが多い。故に日によっては上手くいかないことがある。

 

(あ、今日はいい感じかも)

 

 

 

「そう きーっとここから~始まる~」

 

 最後のフレーズを歌いきり、マイクを置いて代わりにドリンクを取って口に含む。

 

(あ、美味しい)

 

 オレンジジュースとアイスティーのハーフにガムシロを少し。

先ほどのギャル、『つぼ』の教えてくれたドリンクが喉を潤す。

 

「すごい……すごい!」

 

「相変わらず、凛子の歌には驚かされるわ」

 

「いやいや、原曲はもっといい曲で魂が震えるから是非とも聞いてほしいな」

 

 私なんて本家の足元どころか路傍の石にすら及ばないレベルだからね。

 

「でも、歌詞が少し難しいかな。天空って書いてあるのに読みは『そら』だったり……」

 

「あぁ~、確かにルビは多いね」

 

 私も耳コピで歌詞を覚えたものだから、カラオケで初めて見た時テンパったもの。

 

「ジュンに聞いたけど、これってアニメの歌なの?」

 

「そうだよ~」

 

 

「何て言うか……ロボットアニメっぽいよね。『鉄の羽纏った』とか……」

 

 ほう……麗華は鋭いね。

 

「まぁ、当たらずとも遠からず……かな。魔砲少女ものだよ?」

 

「……え?」コテン

 

「え?」コテン

 

 私の返答に首をかしげる麗華。その反応に私も首をかしげる。

 

「魔法少女……ってことはファンタジーなのよね?」

 

「ううん。ゴリゴリと言っていいか分からないけど、バトルメインかな~」

 

「え?」

 

「え?」

 

「魔法少女ってことは魔法の杖とかあるのよね!?」

 

「杖的なのはあるよ! メカだけどね」

 

 

 麗華の中では魔法少女といえば杖を振って『ピーリカピリララ』するものという認識らしい。普通に考えればそちらが正当なんだけど、最近の魔法少女は杖使ったり、砲台とか剣使ったり、男だったり様々だからね。

 

「「え?」」

 

 これには黙っていたジュンも目を丸くしている。

 

「さ、歌わないと時間がもったいないよ~」

 

 説明すべきなんだろうけどそれには時間が足りない。今度時間をとってゆっくり説明すればいいだろう。

さすがにカラオケ2時間で入ったのに大半の時間を魔法少女談義で費やしたくはない。

 

「次はだ~れだ? 誰も入れないなら……私のアニソンメドレー、いっちゃうぞ~?」

 

「あ、次私!」ワタワタ

 

 急いで曲を入れるジュン。

 

「カラオケは戦場なんだ! 気を抜いてると順番なんて永遠に来ないよ!?」

 

「カラオケってそんなに殺伐としたものなの?」

 

 人によっては来た瞬間に2、3曲入れて、他の人が歌っている間にまた入れて……気づいたらメドレーが始まっている、なんてこともあるんじゃないかな? 知らないけど。

 

「さ、麗華も何か入れないと……」

 

「入れないと?」ゴクリ

 

 私の言葉に生唾を飲み込む麗華。

 

「私の独断と独断、それと心ばかりの独断で国民的アニメの主題歌を歌ってもらうよ?」

 

「結局独断なのね……」

 

「まぁ、国民的アニメまではいかないにしても、CMに使われた曲とか、ドラマ・映画の主題歌で麗華の知ってる曲でも歌ってもらおうかなって」

 

 これは本当。もうすでに何曲かピックアップしてたりするし。

 

「でも、ワンコーラスしか分からないのもあるわよ?」

 

「ワンコーラスでいんじゃない?」

 

「え?」

 

「別に1曲まるっと覚えていないと歌っていけない決まりはないんだし、それもカラオケの楽しみ方だよ」

 

「ねぇ~、2人とも! 私の歌聴いてよ!」

 

 おっと、ジュンがおこのようだ。

 

「ゴメンゴメン」

 

 謝りながらタンバリンを手に取る。

 

「よし! 私の華麗なタンバリン捌きで盛り上げるよ~」

 

「よ~し! 私の歌を聴けぇ!」

 

「何このカオス……」

 

 

 

「う~ん! 歌った歌った」

 

 部屋を出て受け付けまでの廊下を歩く。

 

「ん? あ! さっきのお姉さんだ!」

 

 部屋の照明がすこし暗いけど、歌っているのはさっきのお姉さん。

 

「うわっ……上手くない!?」

 

 聴いたことない歌だけど、声量といいノビといい段違いなのが分かる。

 

『あ~の日出会った~奇跡は誰にも想像出来な~い 物語のプロローグにつながってゆくぅ~』

 

(また会えればいいな)

 

 その時は一緒にカラオケしたり、カフェでお茶しよう。そんなことを思いながら軽やかな足取りで会計をしに行った。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、今日はオフだよ? さすがに誰もいないよ?」

 

「まぁまぁ」

 

「いいからいいから」

 

 あの後、ジュンはアイドルの曲や流行りの曲。履歴から歌えそうな曲を、麗華は私やジュンが『これ、歌えそうじゃない?』、『歌ってほしい』という曲を、私は奈々様メドレーからのアニソンメドレーをそれぞれ歌った。

 ちなみにカラオケ飯を堪能しようとも思っていたけど、結局は山盛りポテトとハニトーを頼むだけに留まった。

 

 そして今はプロダクションの『いつものところ』に向かうエレベーターの中。

渋るジュンを私と麗華で宥めながら向かっている。

 

 ただ不可解なのは、現地解散的な流れになりそうなところを待ったをかけてここに行こうと言い出したのが麗華だったこと。

 

(結果的には2人を誘導することになっているのだからいいんだけれど……)

 

 一体麗華の思惑はーー

 

「何があるっていうの?」

 

「まぁ、それは着いてからのお楽しみ?」

 

「それじゃあつまんないよ~!」プンプン

 

 要領を得ないジュンはお怒りの模様。そうこうしているうちにエレベーターは目的地へーー

 

パン! パーン!

 

「うぇっ!?」

 

 突然の破裂音に驚くジュン。麗華も目を丸くしている。

 

(そうでしょう、そうでしょう。ドッキリ大成功ってね)

 

 2人の反応を見たいが為にドアに背を向けていた私はニヤリと笑い、部屋の方を振り替える。

 

 

 

 

『ジュンちゃん 麗華ちゃん ()()()()() お誕生日おめでとう』

 

 

 

「……はい?」

 

 頭の中が真っ白になった。

え? あれ? どういうこと?

 

「リリィ、お疲れ~」

 

 ニヤニヤしながら絢香が近づいてくる。

 

「あれ? 絢香さん? 打ち合わせと違うよ? どういうこと??」

 

「いや? 打ち合わせどおりだぞ。こどもと風紀委員とおまえ、5月生まれ3人の誕生会だからな」フフン

 

「はい!? 私初耳なんですが!?」

 

「そりゃあ、ターゲットに『あなたの誕生日を祝いたいから誕生会をします』って言うわけないだろ?」

 

「「えっ!? 私もターゲットだったの!?」」

 

 私と麗華の声がハモる。

 

「今回は白雪さんに佐藤さんと戸田さんを、佐藤さんには白雪さんと戸田さんを。それぞれ誘導させることで『自分は仕掛人だ』と思わせることが重要でしたからね」

 

 メガネの弦を押さえつつ、あかねが解説する。

 

「私は!?」

 

「こどもは隠し事下手そうだから最初からターゲットだ」

 

「ひどい!!」ガーン

 

 ショックを受けるジュン。でも、確かにジュンは何かの拍子に言い兼ねない。

 

「ま、14日と20日と28日。離れてはいるけど、そこは勘弁ってことで」

 

「ジュンちゃん、麗華ちゃん、凛子ちゃん。おめでとう」

 

 その後、口々に祝ってもらえた。

 

(そっかぁ……私の誕生日、今月だったっけ)

 

 

『あの日』から自分の誕生日という概念をすっ飛ばしていたから、誰かに祝ってもらえるという喜びを忘れていた。

 

 もちろん、おじさんたちも祝ってはくれていたけれど、パーティーとかは私がしなくていいって言ってたからね。

 

 

「凛子ちゃん……どうかした?」

 

 私の様子をおかしいと感じたのかみうちゃんが声をかける。

 

「ううん。ビックリしただけ。ありがとうね」

 

「行こう?」

 

 みうちゃんが私の手を取り、テーブルへと誘う。

 

(近いうちに()()()()()()()()合田さんに話しておかなきゃ)

 

 

ゴーン! ゴーン!

 

「!?」

 

 と、轟音とともに部屋が光に包まれる。

 

「このタイミングで!?」

 

「もー! 台無しだよ!!」

 

 カツン カツン

 

『壁』から指令が2枚吐き出された。

 

「なんや? まさかの壁ちゃんからのバースデーカードか?」

 

「それにしては1枚足りないですね」

 

 みゃーこのボケ(?)にあかねが冷静に指摘する。

 

 指令を拾い上げる。

 

『1stシングルを製作せよ』

 

「やっとって感じね」

 

 指令を読み上げると、ニコルんは待ってました、という顔をする。

実際、御披露目ライブからしばらく経っているのだからそろそろあってもおかしくないと思っていた。みんなもそうなのか、いつもに比べて表情は穏やかだ。

 

「そんで、もう1枚は? 本当にバースデーカードとか?」

 

「え……」

 

「凛子……どうしたの?」

 

 指令を見た私は動揺する。

 

『白雪凛子にシャンプーのイメージガールを』

 

 まさかの『壁』からのサプライズプレゼント(受け取り拒否不可)に、私は米神を押さえた。

 




 まだ出すつもりはなかったけれど、出しちゃいました。
本当は後半の方で出すつもりでしたが、カラオケだからいいかなぁというノリです。

使用楽曲コード:09645080,12707660,16561961,19501404

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