22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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そうだ京都に行こう! 訪問編

(どうしてこうなったの……)

 

 天を仰ぎ見れば澄みわたるような青空が広がっている。普通だったら嬉しいことだし、オフだったら『お散歩に行こう!』、『お布団干そう!』と思えるんだろうけど、今はただただ恨めしいというか憎らしい気持ちでいっぱいだ。

 

 空を舞う鳥たちに問いかけて見ても『そんな些細な悩みは大空を飛んでいるうちに忘れるさ』とでもいうかのように翼を広げて優雅に飛んでいる。

『お前も飛んでみろよ……って無理だったな』と煽られているように思えるのは、今の私の心が荒んでいるからだろうか。

 

 足元にいる雀やら鳩やらに問いかけても『そんなことよりエサ寄越せ』と催促するような目で見られる。うん。君たちは3歩歩けば忘れられるだろうからね(八つ当たり)

私も散歩すれば現実逃避(忘れられる)かと思ったけど、そもそもの原因がソレだったことを思い出した。

 

(あと唯一聞けるとすればーー)チラリ

 

「?」コテン

 

 隣で眠そうな(?)目をした不思議な女の子なら唯一『言葉は』通じそうだ。もっとも誰だかは分からない。

 

(どうしてこうなったの……)ハァ

 

 もう何度も頭の中で反芻した言葉をまたもため息とともに投げ掛ける。

 

 

 

 ~数週間前~

 

 

『壁』が指令を出したことを察知して合田さんが部屋に駆け込んできた。

察知、といっても指令を出す度にあれだけの轟音を出すのだから気づくよね。本当にどんな作りになっているのやら……ともあれ、合田さん。本当にお疲れ様です。

 

 どこで作業していたかは分からないけれど息を切らすこと無くやって来た合田さんに指令のプレート2枚を渡す。

 

「拝見します」

 

 わざわざ断る必要はないのに、私(もしくは『壁』?)に一言言ってからプレートを確認する。

 

「至急手配します」

 

 顔色を変えること無くそう言うと、踵を返してエレベーターに乗って行ってしまった。

 

「いやぁ~……こんな時に指令を出すなんて、空気の読めない『壁』だよねぇ」

 

 せっかくのお祝いムードに水を差されたこともあって変な空気になってしまったので、明るめにごちる。

 

「そもそも、無機物である壁が空気を読むわけがありません」

 

 うん、そうなんだけどそうじゃないのよあかねさん。

 

「まぁ、CDもいつ出るか待っとってキリンになるかと思てたしな」

 

 笑いながらみゃーこが言う。

 

「それはそうだけど……」

 

「りんりんだけ個別のお仕事があるのはなんで?」

 

 うん。そこが疑問なのよね。しかも歌とかじゃなくてシャンプーだし。

 

「壁ちゃんは凛子ちゃんの大ファンだとか?」

 

「ファンの方がついてくれるのは嬉しいけど、無機物のファンなんてどう接すればいいか分からないなぁ……」

 

 桜のボケなのか真面目なのかーーまぁ、この子の場合本気なのだろうけどーー分からない推察に私は苦笑いを返す。

壁ちゃんの方ならまだ愛嬌がある(のか?)からいいけど『壁』に好かれようものなら本気で悩まざるを得ない。

 

「私は……」

 

「うん?」

 

「凛子ちゃんの髪、キレイだと思う」

 

「あ、ありがとう」

 

 おぅ……こういうことをハッキリと、さらっと、みうちゃんは言ってくるから本気で照れる。

 

「は~い、百合営業お疲れ様で~す」

 

 すかさず絢香が茶化す。

 

「ともかく! 私たちの代表として行くんだから、失礼のないように! 分かったわね?」ズイッ

 

「yes,mum」

 

 ニコルんから釘を刺され、返事をする。とはいえーー

 

「そもそもシャンプーのイメージガール? ってなにすんの?」

 

「「「……」」」

 

 みんな黙り込んじゃったよ。

 

「私のイメージ的には……髪なびかせたり、シャワー浴びながら『yes,yes! yes!!』って言ったり……」

 

「偏見がスゴいわね……」

 

「分かると言えば分かるけど……」

 

 シャンプーのCMと言えば思い浮かぶのはあの辺だよね?

 

「あとは『てもてー、てもてー』ってやつ?」

 

「急に分からなくなったわ……」

 

 私も元ネタは知らないけどね。とあるアニメで見ただけだし。

 

「悩んでも仕方ないし、とにかくみんなが用意してくれたもの食べちゃおうよ~」

 

 いの一番に考えることを放棄したジュンが声をあげる。

 

「まぁ、確かに分からないこと悩んでてもしょうがないしね」

 

「さすがに合田っちも手配するまで時間かかるやろうしな」

 

「そんじゃ乾杯の音頭を……よし! 風紀委員!」

 

「え!? 私!?」

 

 絢香に急に指名され、麗華はビックリする。

 

「異議な~し」

 

「なんとなくこういうのって麗華のイメージだよね~」

 

 みんなも同意しながらコップに飲み物を注ぐ。

 

「え、えぇ……」

 

「ほら、麗華」

 

 飲み物を麗華に渡す。戸惑いながらも麗華は受け取る。

 

「えっと……じゃあ……飲み物は回ったでしょうか?」

 

「「「はーい」」」

 

「コホン……えー、本日はお日柄もよくーー」

 

「かんぱ~い!」

 

 麗華のスピーチを遮り、みゃーこが乾杯する。

 

「え!?」

 

「「「かんぱ~い!」」」

 

「……嘘でしょう」

 

 みんなが乾杯する横で項垂れる麗華。

 

「いやいや、長いスピーチまではいらないから」

 

「麗華……ドンマイ。それと乾杯」

 

「……乾杯」チン

 

 

 

 

「お待たせいたしました」

 

「「「……」」」モキュモキュ

 

「……お食事中のところすみません」

 

 合田さんが戻ってきたのは思いの外早かった。

 

「ゴクン。いえ、お疲れ様です。続けてください」

 

 むしろ合田さんが働いている時にすみません。あ、おひとつどうですか? いらない? そうですか……

 

「まず、1stシングルに関してなのですがーー」

 

 聞くところによると、いつ発売になってもいいようにカップリング曲は出来上がっていて、あとはカップリング曲の練習、収録曲のレコーディング、新しい宣材写真の撮影、そしてーー

 

「MV撮影ですか……」

 

「候補地は目下検討中です。それまでに皆さまには出来ることをしていただきます」

 

 ということは、まずはカップリング曲の練習を優先にーー

 

「それと、白雪さんのお仕事の件ですが……実はオファーが来てまして、こちらの返事待ちということになってます」

 

「……はい?」

 

 え? 表紙グラビアの時みたいに探すんじゃなくて、あちらからオファーが来てるの!? え、なにソレ聞いてない。

 

 

「ちょっと待ってください! オファーが来ているんですか!?」

 

 麗華の疑問ももっともだ。仕事がないと思っていたのに、オファーが来ていたなんて寝耳に水だ。

 

「実はいくつか皆さまにもオファーは来ています。ですが、それを受けるか決めるのは……『壁』です」

 

「「「……」」」

 

 ここに来て改めて『壁』の凄さを痛感させられた。

 

「そして、その企業なのですがーー」

 

「は!?」

 

 本日何度目かの驚きに、頭の中が真っ白になった。

 

 

 

 ~数時間前~

 

「白雪さん。お疲れではないですか?」

 

 横に座る合田さんが声をかける。

 

「ん~……確かにスケジュール的にはシビアですが、そんなに疲れるって程ではないですかね」

 

「そうですか……」

 

(気を遣ってくれたのかな?)

 

 シャンプーのイメージガールのオファーが来たことで、そのスケジュールを確保するため、私の日々のレッスンは濃厚なものになった。

カップリング曲の音源・歌詞をもらって、ふりと同時進行で頭、身体に叩き込む。『僕は存在していなかった』のレコーディングも先に回してもらって、宣材も撮り終えた。

 

 今も移動中の新幹線でカップリング曲を叩き込んでいるところだ。

 

「むしろ、仕事とはいえ私だけ来てよかったんでしょうか、と思っていたところです」

 

 イヤホンを外し、外の景色に目を向ける。

この光景は()()()()()()()。ただ、あの時はみんなと一緒だったけど、今は合田さんと二人きりだ。

 

 とはいえ、特に会話らしい会話もないし、合田さんはパソコンで何やら仕事しているので邪魔しても悪かろう。

 

「ふふっ」

 

「どうかされましたか?」

 

「あ、いえ。なんでもないです」

 

 チラリと窓に合田さんが写ったのだけど、大きい身体を窮屈そうにしながらパソコンで作業していたので思わず笑ってしまった。

 

(さてと……)

 

 買っていた駅弁を椅子に備え付けのテーブルに置く。

 

「合田さん……今お忙しいですか?」

 

「申し訳ありません。少し手が放せそうにありません」

 

 パソコンから目を放さずに告げる。

 まぁ、遊んでいるわけじゃなくてお仕事してるんだから仕方ない。本当に感謝してます。

 

「でしたら……お口だけでもお借り出来ますか?」

 

「それはどういうーー」

 

『ことですか?』と告げる前に彼の前にあるモノを差し出す。

 

「こういうことです♪」

 

 それはカツサンド。駅弁を買った際に

 

(合田さんは駅弁1つで足りるのだろうか?)

 

 と思い、こっそり買っておいたのだ。

それが別な意味で功を奏したようだ。

 

「しかし……」

 

「あ、ご心配なく。先ほどウェットティッシュで手は拭いてあります」

 

「いえ……そうではなく……」

 

「これなら作業の手を止めなくても大丈夫ですよね?」

 

「それでしたら自分でーー」

 

「カツサンドですよ? 手が汚れてしまいますよ? 逐一手を拭くのは効率的ではないと思いますが?」

 

(もっとも、それを見越してのカツサンドなのだけれど)

 

 普通のサンドイッチの方が幾分かは野菜が入っているためバランスがいいと思うのだけれど……まあ、そこは合田さんの日々の食事のバランスに期待するとしよう(他力本願)

 

「……はい」

 

 観念したのか、これ以上は時間の無駄と判断したのか、合田さんは口を開けてくれた。

口元にカツサンドを運ぶと、それにかぶりついた。

一口サイズではなかったのでさすがに一口とはいかなかったものの、半分以上は消えた。

 

「お手を煩わせてしまって申し訳ありません」

 

 咀嚼し、飲み込むと第一声でそう言った。

 

「いえいえ、好きでやっていることですから。それにーー」

 

(一段落つけば、一緒のタイミングでご飯が食べられると思うし……)

 

 1人でのご飯は……私は好きじゃない。出来ることなら誰かとご飯を食べたい。あくまで私のワガママだけど。

 

 

「白雪さんは、京都に来たことはありますか?」

 

 一段落ついたのか、はたまた気を遣ってくれたのかーー後者だったらごめんなさいーー仕事を中断して合田さんが一緒に食事を摂ってくれた。

 

「いえ、今回が初めてですね。高校の修学旅行はまだですし……」

 

 そう。今回オファーが来たのは京都の化粧品会社。何でそんなとこから来るのかは不思議だけど、まぁ神ならぬ『壁』のみぞ知るところだからなぁ……

 

「ちなみに中学校の修学旅行はどちらに?」

 

「っ!」

 

 まぁ、合田さんとしては話の流れで聞いたんだろうなぁ。特に他意は無かったと思う。

 

「……白雪さん?」

 

「……今時の中学生って修学旅行、どこに行くんだろ?」ボソッ

 

「え?」

 

「あ、いや。運悪く体調崩しちゃって修学旅行は休んでたんですよね」アハハ

 

 合田さんの疑問に苦笑いを浮かべながら返す。

 

「それは……災難でしたね」

 

 なんと言っていいのか分からず……といった風に合田さんも返す。

 

「本当に……ね。災難でしたよ……」

 

 まさかあんな理由で修学旅行が行けないなんてね。

 

 

 

 京都駅に着き、タクシーでしばらく揺られていると、ようやく目的地に到着。合田さんが守衛さんに説明している間、辺りを見渡す。

学校の行事の一環で企業訪問やインターンシップはやったことあるけど、それでも引率の先生がいたり、私以外の生徒もいたりしたから私個人としては初めてだ。

 

(アイドルにならなかったら、こういうことしてたんだろうなぁ……)

 

「遠いところよりわざわざおこしいただきまして」

 

 と、しばらくすると1人の男性が現れた。

どうやら広報部の方で、今回私たちを案内してくれるらしい。

早速合田さんとの名刺交換が始まった。

と、合田さんがチラリとこちらに視線を送る。

 

「ぁ……22/7の白雪凛子と申します。本日はよろしくお願いいたします」

 

 急いで頭を下げた。

ライブと違い、こういう場の挨拶は初めてなので少し声が上ずってしまった。

 

「お噂の方はかねがね伺ってます」

 

(あ、これが社交辞令というやつか……)

 

 実際噂になるようなものなんて、御披露目ライブと『マンデー』の表紙……あとは『アイドル雑談スレ』ぐらいだろうけど、この人が見るようなものではないだろうし。

 

「では、ご案内します」

 

 広報の方の案内で移動することになった。

辺りを気にしながらも、離れすぎないように気をつけながら着いていく。私にとって初めて来たところは、はぐれようものなら迷宮区新宿駅と同じで迷うことになるのだから。

 

 

 

 

「こちらでお待ちください」

 

 そう言って広報の方はこちらに頭を下げて退室していった。

 

「……」ソワソワ

 

「落ち着きませんか?」

 

「あ、すみません! こういうところって初めてなもので……」

 

 通されたのは応接室。革張りのソファーと高そうなテーブルに『私なんかが通されていいものか……』と気後れしてしまう。

 

「合田さんは慣れてますね」

 

「まぁ、社会人ですし。いろいろな企業との契約に行きますから」

 

「ですよね……」

 

「そもそも白雪さん達の年齢で慣れている方のほうが少数だと思います」

 

 合田さんの言葉に納得する。

確かに高校生でこういった応接室に慣れているとしたら、それこそ売れっ子のアイドルや子役。はたまた社長のご子息・ご令嬢といった限られた人だろう。

 

「お待たせしました」

 

 広報の方と一緒にスーツ姿の方が2人入ってきた。

合田さんに倣いソファーから立ち上がる。

その二人は社長さんと専務さんのようだ。

早速合田さんとお2人の名刺交換が始まる。

 

「22/7の白雪凛子と申します。本日はよろしくお願いいたします」

 

「こちらこそよろしくお願いいたします」

 

 お掛けくださいと促され、ソファーに座る。この辺はアルバイトの面接で慣れていたので勝手に座るようなことはしなかった。

 

「それでは、早速ではありますが今回の契約の件でお話させていただきます」

 

 そこで資料とともに今回の商品の説明を受ける。

どうやら京都らしく『和』をイメージしているので、黒髪の似合う方を探していたらしい。

 そこで偶然役員の方のお子さんが『マンデー』を読んでいたらしく、そのグラビアを見て私にオファーが来たとのこと。

 

(思いの外影響力強くないか!?)

 

「えっと……ふたつほどよろしいですか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 私が軽く手を挙げると、4人の視線が私に集まる。

 

「まず1つ確認……あくまで確認なんですけど……この商品の売り上げ次第で経営が傾く……なんてことはないですよね?」

 

「白雪さん」

 

 うん、失礼なことを聞いているのは分かっている。

それでもこれは私の中でハッキリ確認しなきゃいけないこと。

 

 

 現状、私たちは『壁』の指令で活動をしている。その指令を達成出来なければどうなるかは分からない。次の指令が無ければその場でジ・エンド。私たちはおろか、プロダクションで働く人達だってどうなるか分からない。

現時点で私たちは自分たちやプロダクションの人達、そして私たちや彼らの家族の運命すら背負っているようなものだ。

 

 それに加えて、万が一にも今回の商品が『会社の命運を賭けたもの』だった場合、さらに複数の人の運命も背負う事となる。

社会のいろはも知らない小娘な私が背負いきれるものじゃない。

 仮に出演料をケチるくらいならば、もう少しメジャーな女優さんを起用するべきだと思う。

 

 だからこそ聞いておきたい。この商品は『社運を賭けたもの』なのか。

もし、もしそうならーーメンバーやスタッフさんに悪いけど……

 

「いえ。そのようなことはありません」

 

 社長さんの言葉を聞いてホッとする。

 

「ですが……私どもにとって、わが社の製品は全て我が子同然です。無駄な製品など何一つありません。そこはご理解いただきたい」

 

 

 機嫌を損ねたようではなく、諭すように社長さんが言った。

 

「! 申し訳ありません!!」ガバッ

 

 失敗する、無駄になると分かっていて作る製品なんてあるわけがない。製品に対する思い、熱意は本物だろう。

 

 立ち上がり、すぐさま頭を下げる。合田さんも立ち上がり頭を下げる。

 

 

「頭を上げてください。白雪さんにも考えがあってのことでしょうし」

 

 私の失言を気にすることなくにこやかに笑う社長さんと専務さん。

 

「それで、もう1つというのは?」

 

「大変失礼なのですが……工場見学をさせていただけませんか?」

 

 

 

 

「白雪さん、今後はあのような発言は控えてください」

 

「はい、すみません……」

 

 工場見学を終え、改めて契約を結んだ私たちは今日泊まるホテルに向けてタクシーで移動していた。

 

「今回はあちらの社長さんたちが温厚な方だったから良かったものの、そういう人ばかりではないのですから」

 

「はい……」

 

 今回は本当に命拾いをした。場合によっては契約破棄、出入り禁止、本社にクレーム……酷ければ芸能界から干されることもある。

 

「ご迷惑おかけしました」

 

「いえ、白雪さんにとって初めての単独でのお仕事ですから不安になることも分かります。ですが、受け取りようによっては相手を見下しているようにも取られます」

 

「はい……以後気をつけます」

 

「……詳しい話はホテルに着いてからにしましょう」

 

「……はい」

 

(ホテルに着いてからも続くのか……)

 

 考えるだけでお腹が痛くなる。確かに今回は私が悪いんだろうし、他にやりようはあったかもしれない。

 それこそ正直に『私のせいで商品が売れない』という危険性をどう考えているかとか……

 

 会話が一切なく、時折入るタクシーの無線のみが響く車内で、私は窓の外を見ながら悶々と自問自答していた。

 

 

「白雪さん、このあとはどうされます?」

 

 チェックインを済ませて開口一番、合田さんが尋ねる。

 

「このあとですか?」

 

「えぇ。まだ夕食時には早いですし……」

 

 確かに夕食時には早く、昼食にはいささか遅い時間。まだランチタイムをやっているお店はあるだろうけど、そもそも駅弁を食べた時間も中途半端だったため、そんなにお腹は減っていない。

 もっとも、このあとあるミーティングを考えると、何も喉を通る気がしないんだけど……

 

「すみません。少し外の空気を吸ってきても構いませんか?」

 

 ともかく、頭の中が反省と自己嫌悪でグチャグチャだった。

このままミーティングという名の反省会をしてもモヤモヤが溜まる一方……もしかしたら爆発してしまうかもしれない。

 

「構いませんが……お一人で大丈夫ですか?」

 

「ええ。ご心配なく」

 

 むしろ着いてこられたらリセットの意味すらない。

 

「では、あまり遅くならないように」

 

 一礼だけして、荷物を置くために部屋に入る。邪魔にならないようにキャリーバッグを部屋の隅に置き、財布とスマホ、伊達眼鏡を装備して部屋を出た。

 

 

 

 

 

(あれが間違いだったかなぁ……)

 

 そのあと、目的地を考えず適当に歩いた。何も考えない方が楽だったから。

風の吹くまま気の向くまま。気になるところをブラブラ歩き、歩けば歩くほど足取りは軽く、頭も心も軽くなった。

それがいけなかったのだろう。どこをどう歩いたのか、どこの角をどちらに曲がったのか、一切分からない。

 

 とりあえずベンチに座ってぼーっとしている……というか途方に暮れている。

 ふと空を見上げれば、鳥が飛んでいる。

 

「風のなかのす~ばる~ 砂のなかのぎ~んが~、みんなどこへい~いた~ 見守~られることもなく~」

 

 ふと、挑戦者を紹介する番組のOPを口ずさむ。

 

『どこか行ったんはアンタやろ!』とみゃーこのつっこみが聞こえた気がするけど無視する。

 

「つ~ばめよ~ 高い空から~ おし~えてよ~」

 

「鳥さん好きなん?」

 

「はぇ?」

 

 ふと、隣を見ると知らない子が立っていた。

 

 

 

 

 


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