22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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過去最長?
内容はかなり薄いです


何気ない日常

 AM4:30

私の朝は早い……某職人紹介番組風に言ったけど、本当に早い。

まず、目覚ましが起こす前に起きるし。

……目覚ましくんおはよう、お寝坊さんだね。

え? 寝ないでずっと起きてた? お疲れ様です。

 

「レジスタンスよ~闘いの時だ 目に見えない~銃を取れよ さぁ~」

 

 襲い来る眠気に歌という見えない銃を持って抵抗する。

シングルのカップリング曲だけど、アップテンポでテンションも上がるんだよね。

 

 そんなことを思いながら米を研ぎ、炊飯器をセットする。

昨夜のうちにやっておけば……と思われるかもしれないけど、どうせ目覚ましより早く目が覚めるのだからいいやと思っている。

 

 

 冷蔵庫の中身を確認する。うーん……たまごが心許ないかな。ハムがないからウインナーを……焼くかボイルか……

 

「YES NO 答えはふたつ~」

 

 食パンはある……ご飯にするかパンにするか……

 

「YES NO どっちか決めろ~」

 

 食材……買い足すか?

 

「YES NO 消えてなくなるのか~」

 

 冷蔵庫を閉めて部屋に向かう。

 

ピP……

 

「よし!」

 

 鳴り始めた目覚ましを止める。

 

(勝った!)

 

 謎の優越感に浸りながら着替えをする。……何に? とは聞いてはいけない。

 

「人類はバカじゃない~目覚めよ~」

 

 プレーヤーを忍ばせ、片耳にイヤホンをねじ込む。

履きなれた靴のひもをしっかり結び、つま先をトントンと鳴らし、玄関を出た。

 

「おはよ」

 

 途端に見えた燃えるような赤い髪をした美人。

 

「あれ? おはよ、麗華。ずいぶん早いね」

 

 ジャージに身を包み、その長い髪は後ろでポニーテールに纏められている。ただ、朝から不機嫌そうだね。寝不足かな?

 

「えぇ。誰かさんの歌で起こされたからね」

 

 あらら。朝っぱらから大音量で音楽を聴くなんて、迷惑な人もいたもんだ。

 

「この寮の壁ってそんなに薄いのかな?」

 

 内心冷や汗を流しながらも全力ですっとぼける。

 

「さぁ。どうかしらね」

 

 誤魔化せたのか、麗華はそっけない返事を返す。

絢香とかニコルんなら納得いくんだけど、麗華がこうもあっさりすると少し怖い。

 

「ところで……麗華もランニング?」

 

「えぇ。()()()早く起きたからね」

 

「あは~……」

 

 うん、これは怒ってらっしゃるね。

 

「んじゃ、一緒にどう? 1人で走りたいっていうなら無理強いはしないけど……」

 

「そうね。ご一緒させてもらうわ」

 

 よしよし……あとは怒られる前に……

 

「それと凛子。1つ言っておくわね」

 

「……なんでしょう?」

 

「人類はバカじゃないわ。バカなのは……あなたよ」

 

「はい……すみません」

 

 キッパリと言われたら返す言葉もない。

 

「歌うな、とは言わないけど、次からは気をつけてね」

 

「了解です」

 

 こちらに落ち度があるのだから仕方ない。むしろこの程度で済めば安いものだ。

 

「というか、朝からよくあんな歌声出せるわね」

 

 呆れ半分、感心半分ーーいや、7:3くらいの割合かーーといった具合に麗華が言った。

 

「まぁ、毎日のように朝イチで喉のコンディション確かめてるしね」

 

「凛子ぐらいなものよ。朝から熱唱して確かめるのなんて。ニコルでもやらないわ」

 

「あははは……」ニガワライ

 

 麗華は知らないだろうけど、私の知人に約1名いるんだよなぁ……

 

「あれ? 凛子、どこにいくの?」

 

 ボタンを押してエレベーターが昇ってくるのを待っている麗華が、素通りする私を引き留める。

 

「ん? 階段だよ」キョトン

 

「え?」

 

 何言ってるの? という目で見られた。

 

「ここ、7階よ」

 

「うん。知ってるよ」

 

「階段で降りるの!?」

 

「うん。ウォーミングアップがわりにいつもやってることだからね」

 

 言いながら手首をぐるぐる回す。

なんなら終わってからもクールダウンがてら昇るんだけど……黙っておこっと。

 

 そうこうしている間にエレベーターが到着した。

 

「麗華は先にエレベーターで行って待ってて。ちょっと待たせることにはなるだろうけど」

 

「あ、うん」

 

 呆気にとられたまま麗華はエレベーターに乗り込んだ。

 

(さてと……行きますか)

 

 この時間だと階段を利用する人がいないことは把握済み。

リズミカルに階段を下りだした。

 

 

 

「お待たせ~」

 

 ロビーに到着すると、案の定麗華が待っていた。

 

「いつもはどのくらい走ってるの?」

 

 麗華とともにエントランスを出て屈伸したり、アキレス腱を伸ばす。

 

「ん~……2、3キロを目安にしてるけど……実質5、6キロくらいの時もあるかも」

 

「何でそんなにバラつきあるのよ」

 

「ん~……いつも同じとこ走っててもつまらないじゃん?」

 

「まぁ、分からなくはないわね。1人で走ると特に」

 

「でしょ? で、微妙にコースを変えるんだけど……例えばの話、パン屋さんって朝早いじゃん?」

 

「そうね。朝4時とかには仕込みをしてたりとか……」

 

 私の言うことに『要領を得ない』という顔をしながらも頷く麗華。

 

「そうそう。で、走ってていい匂いがすると自然とそっちに足が向かない?」

 

「否定出来ないわね」

 

「でしょ?」

 

 麗華も同じ気持ちみたいだ。

 

「でも、それでも大した距離にはならないでしょう?」

 

 そう、麗華の言うとおり大した距離にはならない

 

「うん。1度だけならね」

 

「まさか……」

 

「ご明察のとおり」

 

 それを何度も繰り返していれば自然と距離は伸びる。

ついでにいえば走っているのは自他ともに認める方向音痴の私だ。

 

「凛子……あなたーー」

 

「さぁ~て、今日もガンガン走るぞぉ!」レッツラゴー

 

 

「あ、ちょっ!?」

 

 麗華が何か言いかけるも無視して走り出す。Time is money 時間というものは何よりも替えがたいもの……と昔の人は言った。

正直、お金よりも高価で替えがたいものだと思う。それはこれから来る時は『未来』とも言えるし、これまでの時は『思い出』とも言える。

小難しいことを言ってると思われそうだけど、早い話がーー

 

(時間がもったいない!)

 

「待ちなさいっていってるでしょー!」

 

「れ、麗華!? ランニング、ランニングだから!!」

 

 まさかの全力疾走で並走、抜き去られた時にはビックリした。

 

(どうでもいいけど、良いフォームで走るなぁ……)

 

 走り去る麗華の後ろ姿を眺め、そんなことを考えながら麗華の後を追った。

 

 

 

 

「ほいっと、到着~」

 

 しばらく走って、寮の前に戻ってきた。

 

「ん~……今回はいつもより早いや」

 

「なんで……息ぎれ……してないのよ……」

 

 私より幾分遅れて麗華も到着。息を切らしながら言った。

 

「ま、距離的には短いしね~。それに最初の全力疾走が問題だったんじゃないかな?」

 

 やっぱりペース配分は大事だよ。あとはそれ相応の体力かな?

 

「それは……凛子の……せいでしょうが」

 

「私? まぁ、確かにいきなり走り出したのは悪いと思うけど……そこまでかな?」

 

「犬に引きずられる……飼い主の気持ちが……分かった気がするわ……」

 

 むむっ! それはそれで失礼な気がする。

 

「さすがに犬よりはひどくないでしょ」

 

「まだ待てができる犬の方が賢く思えるわ……」

 

 確かに勝手にルート開拓したのは悪いと思うけどさぁ……気になったら行こうと思わない? あれ?

 

「そうなのかもしれない……」

 

「自覚したならいいわ……」

 

 もはや説教する気力もないらしい。

 

「ところで麗華。1ついい?」

 

「何?」

 

「今の麗華さぁ……エロい」

 

「は、はぁ!?」

 

 あ、一瞬で顔が赤くなった。怒りからか、恥ずかしさからか……それとも両方か。

 

「何言ってるのよ!?」

 

 当然麗華は怒るけど、今の麗華の状況を考えると仕方ないと思う。

髪を纏めたことによって晒されるうなじ、そこに光る珠のような汗、少しは整ってきたけど息切らしてるし、顔は紅潮している。

何より、走り始める前はしっかり着込んでいたジャージも暑くなってきて今は上を脱いで腰に巻いている。それにより汗で張り付いたシャツで……」

 

「凛子! ストップ!! 途中から声に出てるから!!」バッ

 

「もがっ!?」

 

 勢いよく私の口を(物理的に)塞ぎに来る麗華。

 

「失礼。ちょっと同性の私でもドキッとしちゃって」テヘペロ

 

「まったく……」

 

 そう言いながら恥ずかしいのか自分の身体を隠すべく抱き締める麗華。

 

「あと……これはあくまで親切心なんだけどさ……」

 

「何よ!」

 

「その隠そうとして自分を抱き締めるとさ、逆効果だと思うん「バカ!!」はい、すみません!」

 

 案の定怒られました。

 

「あ、麗華~」

 

 

 辱しめを受けて(しかも本人は無意識)羞恥心と怒りでごちゃ混ぜになっているところでまたもや能天気に声をかけてくる。

 

「今度は何ーー」

 

 怒りながらも振り返る。

 

「朝ごはん、一緒に食べない?」

 

 予想外の言葉に急速に怒りの炎が鎮火していく。

 

「え? あ……うん」

 

 ほとんど無意識に返事が口から出ていた。

 

「ホント!? やった!」

 

 私の返事に笑顔を浮かべ喜ぶ凛子。

 

「あ、ご飯とパン。どっちがいい!? 嫌いなものとかアレルギーとかある!? ピーマン食べれる~?」

 

「ちょっ!? 落ち着きなさいって!」

 

 勢いがありすぎる。それと、最後の質問は何!?

 

「アレルギーはないから凛子に任せるわ。あと……玉ねぎは入れないで」

 

「ん、りょ~かい! じゃあ、後で来てね! 絶対だよ?」

 

 そう言って凛子はエントランスを出てーー

 

「え!? どこ行くの!?」

 

「ん? スーパーまで。いや~、24時間営業のスーパーがあるってありがたいよね~」

 

「え!? そのまま行くの!?」

 

「うん。お財布はあるし、エコバックも持ったよ~」ジャン

 

 そう言ってジャージのポケットから財布とエコバックを取り出して見せた。

 

「そうじゃなくて、ランニング行ってそのまま!?」

 

「あ~、そういうことね。この時間ならそんなに人多くもないし、今日は距離が短かったから汗もかいてないしね」

 

 言われてみれば私とは違って凛子は汗1つかいていない。

 

「じゃ、そういうことで行ってきま~す!」

 

 そう言って凛子は行ってしまった。

 

 

(凛子……あなた、何があったっていうの……)

 

 さっき朝ごはんを食べないか、と提案された時……彼女は気づいているかどうか分からないけど、目がどこか怯えているようだった。

それに手も震えていた。

 見たことないいつもの彼女の姿に、無意識に返事をしていた。

そのあとはいつも通り……いやいつも以上のテンションの高さに呆気にとられた。

 

 何が彼女をそこまで怯えさせているのか……それは分からない。

 

(まだ凛子のこと、分かっていなかったのかもしれない)

 

 凛子だけじゃなく、他のメンバーにもいえることだけどまだそこまで親密な仲ではない。

それでもいつも明るく、かつ色々企画している彼女のまだ見えていない部分があるのかもしれない。

 

「!?」ブルッ

 

 急に感じた寒気は汗で身体が冷えたからか、それとも彼女の闇の一片を垣間見たからなのかーー

 

とにかく風邪をひいたらいけないので、エントランスを抜けてエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

ピンポーン

 

「おっと……来たみたいだね」

 

 玉子を返し終わったタイミングでチャイムが鳴った。

フライパン片手にインターホンの受話器を取る。

 

「はいは~い! ジュンだよ!」

 

『え!? ジュン!? どうしているの!?』

 

 予想外だったのか、麗華の驚きの表情がカメラに映し出される。

 

「あ、ごめん。私。入って」プクク

 

「もう!」

 

 騙されたことに気づいて麗華は顔を紅くして怒っている。

なんとなく『はいは~い』まで言ったんだけど、ふとジュンがそんな感じに自己紹介してたっけなぁと軽い気持ちでやったんだけど……そこまで似てたかぁ。

 まぁ、電話越しってのもあるしね。本当に似てたならプロフィールに記載することも検討しよう。

 

「りぃ~ん~こぉ~!?」ゴゴゴゴ

 

「はぁい。そろそろ出来るから座って待っててね~」

 

 怒りを隠さず、かといって大きな足音を立てないように麗華が来たのを軽くあしらう。

 

 出来上がった玉子焼きを、切り開いてストックしていた牛乳パックの上に載せて包丁で切る。

まな板代わりになるし、肉とか油もの切った後は捨てればいいから便利なんだよね。

 

 切った玉子焼きをお皿に取り分けているうちに、グリルから香ばしい匂いが主張してくる。

 

「よし!メインもOK」

 

 しっかり焼けてることを確認してお皿に移す。皮はパリパリだし、脂が光沢を放っている。

 

(次はお味噌汁)

 

 といっても、あとは麗華の好みに合わせるだけなのだけど。

おたまを使って味見皿に少し味噌汁を掬う。

 

「麗華~、ちょっとチェックして~」

 

 麗華を呼んで、小皿を差し出す。

 

「あ、やさしい味」

 

「ほんと? 薄くはない?」

 

「これくらいでいいかも」

 

「おっけ!」

 

 お味噌汁も終わり。沸騰させないように火を止めた。

 

「何か手伝うことある?」

 

「もう終わるから、座ってテレビ見てて。以上」

 

 副菜はきんぴらごぼう。さすがに今日作ったのじゃなくて昨日のだけれど勘弁してほしい。

 あとは冷蔵庫のタッパーから漬物を取り出してーー

 

「ほい、お待たせ~」

 

 私の和風朝食(お手軽番)の完成~

お米は地元山形の『つや姫』に、豆腐ともやしのお味噌汁。玉子焼きは麗華の味の好みが分からないから甘いのと塩味のあるものの2種類。それに焼き魚は鮭。あとは昨日の残りものだけどきんぴらごぼうに、実家から送られてきた漬物。

 

「まさに、和食って感じね」

 

「卵とか納豆とか味付け海苔もあるよ~」

 

「さすがにそこまでは大丈夫よ。というか、玉子焼きに卵かけご飯って……」

 

「ごめん、言ってて思った」ペロッ

 

 麗華の突っ込みに舌を出す。

 

「はい! これ麗華の箸ね」

 

「私の?」

 

「うん。分かりやすいでしょ?」

 

 といっても100均で買った箸なんだけどね。赤が入ってるし麗華のに丁度言いかなって。

 

「ジュンは緑、桜は黄色、みゃーこは……オレンジが無かったから少し濃いめの黄色、絢香がピンクで麗華が赤」

 

「待って、全員分買ったの!?」

 

 麗華が驚きの声をあげる。

 

「全員っていうか……寮のメンバーのはね。みうちゃん、あかね、ニコルんは……機会があればかな」

 

 さすがに朝ごはんに招けないし、昼は食べるとしても外。夜も帰ることを考えるとね。あ、でも、お泊まりするなら必要になるのかな。

 

「えっ!? じゃあ寮のメンバーとはご飯食べたの!?」

 

「あ~……食べながらでいいかなぁ? あ、麗華ってご飯食べる時は話さない派?」

 

「それもそうね……せっかくのご飯が冷めちゃうし」

 

 うんうん。温かいうちに食べてもらいたいからね。

 

「「いただきます」」

 

 ちゃんと両手を合わせるの、私好きだよ~。

すっと箸とお茶碗を手に取り、適度な量を口に入れる。

育ちがいいのか、それだけで絵になるなぁ……私ド下手だから描けないけど。

 

「ゴクン……何?」

 

「え?」

 

「じっと見てたけど、食べないの?」

 

「あぁ、ごめん。まずは食べてるところを眺めたいかなぁって」アハハ

 

「見られてると食べづらいんだけど?」

 

「だよね~」

 

 そう言いながらも麗華は魚の骨をきれいに取り除いていく。

 

「さっきの質問だけどさ……みんなと食べたよ、朝ごはん」

 

 ピタリと麗華の手が止まる。

 

「ジュンはね、パン派だった。桜は逆に和食だったし、みゃーこには『味が濃い!』って言われた」

 

「まぁ、東と西じゃ味つけが違うって言うしね……」

 

 言いながらもまた鮭をほぐし始める。

 

「うん。でも残さず食べてくれた。1番一緒にご飯食べるのは絢香かなぁ」

 

「え? 絢香?」

 

 意外だったのかこっちを見つめる。

 

「朝に弱くてね、起こしに行った流れで食べることが多いね。放っておくとサプリとか飲むゼリーとかで済ませるっぽいし」

 

「あの子は……」ハァ

 

 麗華はため息をつきつつも鮭を一口。

 

「そもそも、よく飲むゼリーが飲めるなぁって」

 

 呟きつつ小鉢のきんぴらごぼうを一口。少しピリ辛な風味がご飯を欲し、すぐさまご飯も一口。一緒に咀嚼する。

 

「凛子は、飲むゼリーは嫌いなの?」

 

「モグモグ……ゴクン。まぁね。飲み方が分からないし」

 

「え!?」

 

 信じられないものを見るような目をする麗華。

 

「あ、いや。忙しくてもそれなりに食事は摂るべきかなって」

 

 例えばサンドイッチにすればレタス、タマゴ、ハム、トマト、チーズなんかで一応バランスは摂れる。足りないところは飲み物で補えばいいし。

 

「そう考えれば、飲むゼリーは飲まなくても大丈夫でしょ?」

 

「確かに」

 

(危ない危ない。うまく誤魔化せたね)

 

 さすがに『飲み方が分からない』はまずいよね。……嘘じゃないとしても……さ。

 

「凛子はーー」

 

「ん~?」

 

 あぁ、麗華みたいにきれいに骨が取り除けない。

魚は好きなんだけど、骨を取り除くのがね~。ちなみに1番好きなのは鯖。美味しいよね、味噌煮。

 

「嫌いな食べ物あるの?」

 

「私、こう見えて結構多いよ~」パクッ

 

 ある程度ほぐした鮭を一口。さらにご飯も一口。

うん。今日の朝食は塩分多すぎたかも。玉子焼き、甘いのだけにすればよかったと後悔。まぁ、ご飯自体の甘みを感じられるからいいのかな?

 

「そうなの?」

 

「ゴクン……まず豆類。大豆、枝豆、空豆とかかな。あとはナッツ系。アーモンド、くるみ、落花生」

 

「何がダメなの?」

 

「歯ごたえ? 食べられないことはないけど好んで食べないのがこの辺」

 

 ぬた(枝豆を潰したもの)とか納豆とかの加工したものは食べられるし、グリーンピースは平気なので全くダメというわけではない。

 

「全くダメなのは?」

 

「卯の花。あとは白和え。ゴーヤもダメかな。コーヒーは……カフェオレ、カフェラテまでならセーフかな。コーヒーゼリーは無理」

 

「意外と偏食?」

 

「どうなんだろ? 子ども舌って訳じゃないとは思うけど……」

 

「環境もあるのかもね? あ、玉子焼き味が違うんだ」

 

 玉子焼きを食べていた麗華が驚く。

 

「うん。私は甘い方が好きなんだけどさ、好みってあるじゃん。だから2つ作ってみたんだけど……今日のおかず考えたら甘い方だけでよかったかも……」

 

「私はどっちも好きよ」

 

「そう? 作り甲斐があるなぁ~」

 

『どっちでもいい』、『なんでもいい』って言われると作り甲斐がないけど、好みやアドバイスをもらえればその人のために作ろうと思うし、何より自分の力量も上がる。

 

「お漬け物もいいわね」パリポリ

 

「ありがとう。ばあちゃんに言っとくね」

 

「あ、おばあ様が漬けたの?」

 

「そうだよ~。さすがに私じゃまだこの味は出せないからね。時々送られて来るの」

 

 桜からはかなり高評価だったけど、麗華も喜んでくれたようでなにより。

 

「今度からは多めに送ってもらうようにするね?」

 

「ねぇ凛子……」

 

 麗華が箸を置いて改まった表情をする。

 

「どうしたの? 量が多かった?」

 

 少しはりきりすぎたかな? やはりきんぴらごぼうまではいらなかったのか……。

 

「そうじゃなくて……みんなの分もわざわざ作らなくてもいいんじゃないかなって。あなたの手間とか、食費とか……」

 

(あぁ、そういうことね)

 

「気にしないで。私は誰かとご飯が食べたいってだけだから。1人で食べるのは……ね?」

 

「でも……」

 

「あ、麗華! 今日のレッスンって何時からだっけ?」

 

「え、えっと9時からーー」

 

「マジ!?」

 

「どうかしたの!?」

 

 私の慌て具合に麗華も只事ではないと悟ったようだ。

 

「今日、学校に課題出しに行かなきゃいけなかったんだ!」

 

 急いで朝ごはんを口に放り込む。

 

「え!?」

 

「モグモグ、ゴクン。麗華はゆっくり食べてていいから!」

 

 食器を流しに置き、歯ブラシを口の中に突っ込む。

 

ひょっひはははひひほひほひへ(食器は流しに置いといて)

 

「私、片付けとくわよ?」

 

ほんほひ(ホントに)?」

 

「それくらいはさせてちょうだい」

 

はふはふ(助かる)!」

 

 前歯、奥歯、歯の隙間を確認。大丈夫! 液体歯磨きで口をゆすいで、今度は寝室に駆け込む。

ハンガーから制服をひったくり、ジャージを脱ぎ捨てる。

シャワー浴びてたから髪を直す必要がないので軽くおさげにしてっと……

 レッスン用のバッグに課題のプリントを挟んだファイルと『包装された箱』を放り込む。

 

「ごめんね! 鍵はあとでレッスンの時に!」

 

「気をつけてね」

 

 まるで夫婦のようなやり取りに思えてきた

 

「愛してる!」

 

「バカ言ってないで早く行きなさい!」

 

「行ってきま~す」

 

 廊下に飛び出し()()()()()()()()()()

 

「……わざと過ぎたかな?」

 

 あのまま続けていたら麗華は食い下がってきただろう。

だから()()()()()()()()をした。

 

「さて……どうしようかな」

 

 課題を置いてきて、受け取るだけだからまだ時間はある。

どう時間を潰すべきか、エレベーターの中で考えた。

 

 

 

 

コンコンコン

 

ドアの前で3回ノックする。2回ノックはトイレノックらしいと聞いてからのクセ。

 

『はーい』

 

 返事を受けてドアを開ける。

 

「失礼しま~す」

 

「おう! 白雪。早いな」

 

「おはようございま~す。課題と……これ、先生方でどうぞっ」

 

 ファイルと『箱』を渡す。

 

「これは?」

 

「先日、仕事で京都の方に行きましたので。定番ですが生八つ橋です。お口汚しですが……」

 

「そうか。ありがとう。あとでもらうわ」

 

 そういって机に箱を置くと、スッと隣の席の先生がメモを貼って冷蔵庫に持っていった。このさりげなさが大人というものなんだろう。

 

「まぁ、座れや。少しくらい時間あるか?」

 

「ええ。9時からレッスンがありますので、それまでは」

 

 椅子に座るように促され、『失礼します』と断って座る。

すぐさま担任が自分のを含めて2つマグカップを持ってくる。

 

「何がいい? コーヒー、紅茶、カフェオレ、抹茶オレ……」

 

「……いいんですか?」

 

 先生達が飲むならいざ知らず、私まで飲んでいいのかな?

 

「別に説教する訳じゃないしな」

 

「ありがとうございます。じゃあ、抹茶オレで」

 

「あいよ。……んで、アイドルはどうよ?」

 

 担任からマグカップを受け取る。

 

「ありがとうございます。そうですね……いろいろ初体験なことが多過ぎて大変ですけど、まぁ楽しいですよ」

 

「そうか。いやぁ、しかし白雪がアイドルとはねぇ」

 

「毎回言ってません? それ」

 

 今日みたいに課題を渡しに来たり、テスト受けに来る時にも言われるし。

 

「そんだけ意外なんだよ」

 

「それは私自身でも思いますけど……」

 

 呟き、抹茶オレを一口。

進路としては絶対に考えてなかったことだし。

 

「ちなみにファンクラブもあるぞ!」

 

「!? ケホケホッ、ぞれ、初耳なんですけど?」

 

 驚きのあまり、変なところに入っていってむせた。

 

「今言ったからな」

 

 一方で悪びれた様子一つ無い担任。

 

「ちなみにクラスのヤツはみんな入ってるぞ!」

 

「マジですか……」

 

「ちなみに会員番号1番は俺だ!」

 

「首謀者はアンタか!!」

 

 ついつい口調が荒くなってしまった。

 

「ばかやろー、教師が教え子の応援しなくてどうする!」

 

「先生……」

 

 この担任、少々粗暴な物言いだけれど、生徒と近い目線で接するから割と人気なんだよね。変に大人ぶってないというかーー

 

「それはそれとして……CD、出るんだろ? ものは相談なんだが……」

 

 訂正、子供っぽい(ガキな)だけだわ。これ。

 

「お買い求めください」ニコッ

 

 アイドルスマイルで一蹴してやる。

 

「教師の薄給、なめんなよ?」フフン

 

 なぜか胸を張る担任。威張るところじゃないぞ~。

 

「はぁ……まぁ、先生にはお世話になってますし? プレゼントさせていただきますよ」

 

「ホントか!?」

 

「で? 真意のほどは?」

 

 普通のCD1枚買えないほど、教師の給料は安くない。仮にも公務員だし。つまりは他に何か要求があるはず。

 

「桜ちゃんのサイン……欲しいなぁ~」

 

「残念ながらご期待に添えませんでした。またのご応募お待ちしております」ペコリ

 

 とは言いつつ、交渉はしてみるけどね。

 

「そうそう、『例の件』。許可を得られたぞ」

 

「本当ですか!?」

 

「感謝しろよ~? だからーー」

 

「ありがとうございました! いい報告ができそうです! あ、ごちそうさまでした」

 

 荷物をまとめて職員室を飛び出した。

 

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