22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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河野都の衝突

「1、2、3、4、1、2、3、4」パンパン

 

 初めてのMV撮影を乗り越え、今日はカプ曲のダンスレッスン。

表題曲の『僕存』とはうってかわってアップテンポな曲。当然ダンスもハードなものになる。

 

「はい! もっと腕伸ばしてー!」パンパン

 

キュッ、キュッ

 

「ちゃんとリズムとってー!」パンパン

 

キュッ、キュッ

 

 トレーナーさんの指示を聞きつつ、振付も頭と身体を最大限に動かしつつーー

 

 

「ふらつかない!」パンパン

 

ズルッ

 

「ひゃあ!」ズテン

 

 足がもつれて尻餅をついてしまった。

 

「ストップ、ストップ!」

 

「あたた……」

 

「大丈夫!? 都!」

 

「すまんすまん、バランス崩してしもて……」タハハ

 

「足挫いたりしてない? 腰打ったとか……」

 

「心配ご無用! 都ちゃん完全復活!」ビシッ

 

 恥ずかしさをごまかすため、ポーズを決めながら立ち上がる。

 

「ならいいけど……」

 

「無理はしないでね?」

 

(麗華もりんりんも心配性やなぁ~)

 

「河野さん、気をつけなさい」

 

「はい、すんませんでした!」ビシッ

 

 トレーナーさんの注意に敬礼しながら応える。

 

「じゃあ、もう一度」

 

 再びポジションに戻って再開する。

 

 

「今日のレッスンは終わります」

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 トレーナーさんが部屋を出て、ようやく腰をおろす。

 

「ダンスってほんま難しいなぁ~」クタクタヤ

 

「みゃーこ、いつもこんな感じだもんねっ」ドタバタ

 

 ダンスのつもりなのか、ジュンが手足をバタバタさせて変な動きをする。

 

「そんな変な動き、しとらんわ!」

 

 確かに上手い方ではないけど、そんなブリキのオモチャみたいなコミカルなダンスはしてへんわ! ……してへんよな?

 

「河野さん」

 

 自分のダンスに不安を感じていると声をかけられた。

 

「ニコるん」

 

「フリ忘れたところあったでしょ。1人だけミスが目立ってた」

 

「んぐっ!」

 

 ほんのちょっと、ほんのちょっと度忘れしてしまった。

 

「すまん! ちゃんと覚えたはずなんやけど、ここに来ると急に忘れてしもて……」

 

「散歩歩いたら忘れる……ってうちはニワトリか!」ビシッ

 

「なんで!? 私何も言ってないよ!?」

 

 ジュンを巻き込んでノリツッコミをする。

 

「はぁ……」

 

 ニコるんは心底深いため息をついてーー

 

「あのさぁ……なんで注意されてそんなにヘラヘラできるわけ?」ズイッ

 

 呆れと怒りを混ぜたような表情で詰め寄ってくる。

 

「まぁまぁ、落ち着いてーや。うちかてわざとや無いんやで?」

 

 とりあえず宥めて場を収めようとする。

 

「責任感がたりないんじゃない?」

 

 カチン

 

「アイドルはお客さんを楽しませる存在やろ!? だったらうちらも楽しい方が一番いいやん!」

 

「練習中にヘラヘラするのとはワケがちがうわ!」

 

 ニコるんの一言に反論するも、ニコるんも1歩も引かない。

 

「まぁまぁ、そのくらいにーー」

 

「なぁ~にしてんのっ?」

 

 急にニコるんの肩から手が生えた! ……なんてことはなく、騒ぎを聞きつけたりんりんがニコるんの肩に手を回しながら話しかけてきた。『何してる』とは聞いているけど、実際は分かっててやっとるんやろなぁ。

 

「別になんでもないわ」フイッ

 

「おっと」

 

 そんなりんりんの乱入に気を削がれたのか、肩に回された手をあっさりと払うとニコるんは行ってしまった。

 

「真剣にやってくれれば、文句はないわ」

 

 捨て台詞を残して。

 

「真剣やっちゅうねん!」

 

「そうだよニコるん!」

 

(ジュン……)

 

 思わぬ援護射撃に感動しーー

 

「みゃーこは真剣にやっても学芸会レベルなんだよ!」キッパリ

 

 そうになったうちのこの気持ち、返してくれへん!?

 

「ジュン~、なんのフォローにもなってないぞ~?」

 

(相変わらず、意識たっかいの~!)

 

 ジュンの首に腕を回しながら、ニコるんを見やる。

 

「いたい、いた~い」

 

(ええよな。歌もダンスも上手くて。天性ってヤツやん)キュッ

 

「ちょっ! みゃーこ!? ジュンが青ざめてるんだけど!?」

 

(ああいう子が……"選ばれた子"言うんやろなぁ)キュッ

 

「キュイ!」チーン

 

「ジュン!? ジューン!?」

 

 気がつくとジュンがうちの腕の中で気絶してて、りんりんの手厚い介護(物理)で目を覚ました。

ちなみにほっぺが赤く、パンパンに腫れていた。

 

 

 

ビシッ!

 

「ワン、ツー、スリー、フォー!」バッ! バッ! バッ! バッ!

 

 寮の自室。姿見の前でカウントをとりつつ、今日のフリの復習をする。

 

「ここでステップ!! ターン決めてーっ!」

 

 ピタッ

 

「カンッペキや!!」ムフフーン

 

 鏡の中のうちもダンスの仕上がりに破顔する。

 

(本気出せばこのくらい、チョチョイのチョイや!)フフン

 

 りんりんに『一緒に練習しない?』と誘われたけど、そこまでやらんでも出来るやん。

 

「ウチだってやれば出来るんやで~」ボフン

 

 ソファーに身体を投げ出しーー

 

「さ、ゲームしよっと!」

 

 

 

「あ、ちょっ、こなくそ! ……うそや~ん」ガックシ

 

 いいとこまでいったと思ったのに、ちょっとしたミスから戦況をひっくり返されてしまった。

 

「って、もうこんな時間かいな!?」

 

 気づくと時計の針は天辺を指そうとしていた。

 

「さすがにもう寝よっと」

 

 ゲームとテレビの電源を落とす。すると、ふと喉の渇きを覚えた。

ゲームに熱中していて何も飲んでいなかったことを思い出す。

 

「喉渇いたなぁ」

 

 コップに水を注ぎ、一気に飲み干す。ただの水なのにおいしく感じるのは、体が欲していたからだろうか。

 

「ぷはー! うまい!」

 

 コップを水洗いして、水切りラックに置く。

 

「ん?」

 

 窓を見ると、カーテンが少し開いていた。閉めようと窓に近づく。

 

「りんりん!?」

 

 外を見ると、寮の敷地内の一角でりんりんが踊っていた。

 

(こんな時間までやってるんか!?)

 

 レッスン終わってからほぼ毎日1時間、自主練習をするとは聞いていた。時にはみゅうやらんらん、ジュンも混ざったりするし、しない日も(前は毎日、しかも2時間以上やってて合田さんに止められたらしい)あるらしいけど、まさか寮に戻ってきたからもやっていたとは。

 

 かと思えば、ターンのところが気にくわないのか何度もやり始めた。

時にステップを確認しながらなのかゆっくりと、時にキレよくーー

 

「あっ!」

 

 バランスを崩してりんりんが倒れた。それでも止めることはなく、少し考えるように動きを止めたかと思うと、また踊りだsーー

 

「あ、麗華やん」

 

 りんりんが自主練習をしていたのを見たからか、麗華が飛び出してきた。

 

「    」

 

「   !」

 

 声は聞こえないけど、遅くまで練習してるりんりんを叱ってるんだろう。徐々にりんりんが小さくなっていき、最終的には麗華に手を引かれて渋々と寮に戻っていった。

 

(なんか、母親に無理矢理医者に連れてかれる子どもみたいやな……)

 

 そんな2人のやりとりを見て、ふと大阪にいる母と兄妹のことを思い出す。

 

(あかん、覚悟をもって来たんやから!)

 

「さ、はよ寝よ寝よ!」

 

 誰に言うでもなく、寂しさを紛らわせるように大きめの声で言うと、ベッドに入った。

 

 

 

「う~ん!」ノビー

 

 比較的遅い時間に寝たのにも関わらず、割とスッキリと目覚めることが出来た。身体もいつになく軽い。

 

(ふっふっふっ、見とれよニコるん!)

 

 

(あ、あれ?)

 

 いざレッスンが始まってみると、朝の余裕はどこへやら。

昨夜自分の部屋で出来ていたはずのフリが全く出来ない。

 

(アカン! 曲がかかると途端にこんがらがる!)

 

 出来たはずのことが出来ない、その焦りがミスを呼ぶ。

 

(みんなの動きに連れてまう!)

 

 そのミスを取り戻そうと焦れば、出来ていたところにも綻びが生まれる。

 

 

(ってか、皆いつの間にそんなに上手くなってんねん!?)

 

 そんないっぱいいっぱいな自分と違って、周りは平然と踊れている。

 

 結果として、その日のレッスンはボロボロだった。

むしろ、昨日の方がまだ出来ていたかもしれない。

 

「今日のレッスンは終わり!」

 

『ありがとうございました!!』

 

「河野さん……」

 

 トレーナーさんがレッスンルームから出た途端、まるで地獄からの呼び声のようなーー

 

(やっぱりきたかぁ!!)ダラダラ

 

「そんなん怒らんといて~。物覚え悪いねん、ウチ~」タハハ

 

「またヘラヘラして……昨日と同じところミスるなんて考えられない」

 

「に……苦手なフリで……」

 

「苦手なら出来るまで練習するものよ」

 

「んぐっ!」グッ

 

 正論なだけに何も言えないうちに、さらにニコるんは畳み掛ける。

 

「1日あったのに、何もしなかったワケ?」

 

「さ、サボってたワケやないもん! 昨日だって部屋で練習したし!」

 

 さすがに我慢できずに大きな声を出してしまい、みんなの視線がうちとニコるんに刺さる。

 

「出来てないんだから、やってないのと一緒でしょ?」

 

 ニコるんの言葉に悔しくて、手を強く握る。

 

「あまつさえ、昨日よりも悪化してるしーー」

 

「練習したって……簡単には出来へんやろ……っ」

 

(ニコるんには、うちの気持ちなんて分からへん!)

 

 

「ニコるんみたいに才能無いねんから……」

 

 

 

バァン!!

 

 

 大きな音がした。

落としていた視線を上げると、ニコるんが壁に手を叩きつけていた。

 

 

「もういいわ」

 

 それだけ言うと、ニコるんは荷物をまとめて出ていってしまった。

 

(ニコるんには、分からんわ……)

 

「みゃーこ~」ヒソッ

 

「ほわぁ!?」ビックーン

 

 急に耳元で囁かれて、飛び上がりながらも振り向くとりんりんがいた。近っ!!

 

「な、何!?」

 

「いやさ、この後ラジオの仕事。忘れてない?」

 

「ラジオの仕事……?」

 

 理解が追いつかず放心する。『やっぱり忘れてるよ』と額を押えながら、りんりんがため息をついた。

 

「この後、CDの宣伝、ラジオ出演、You&Me、OK?」

 

 変なジェスチャーを交えつつ、分かりやすく(というかバカにしてへん!?)伝える。

 

「あ、あー……」

 

 そういえば『指令』が来てたっけ。すっかり忘れとった。

 

「タイムイズマネー、ハリーアップ! レッツゴー、裸の付き合い!」

 

「へっ!? ちょっ! ちょっ~!?」

 

 有無を言わさず、うちの手を掴むとそのままレッスンルームを出た。

 

(って、何で『裸の付き合い』だけ日本語やねん!)

 

 えげつない力で引っ張られつつそんなことを思った。

 

 

 

 

 シャワーで汗を流(裸の付き合い)した後、合田さんの運転で現場へ向かう。

 

(き……気まずい)

 

 シャワー浴びてる時も、その後もりんりんが口を開くことはなかった。

てっきりさっきのことを諭されるか宥められるかするものと思っていたから、肩透かしを喰らった気分だ。

今も何も言わず、窓の外に視線を向けている。

 

 

 合田さんはさっきのことを知らないだろうし、そもそも自分から話を振るタイプではないだろう。

 かといって、こちらから蒸し返すのも何かイヤだ。

とはいえ、りんりんは窓の外を出た見たままで、話し出す気配でもない。

結果として、車中は沈黙が支配する気まずい空気になっている。

 

 ここにジュンからんらんがいれば、空気が変わったかもしれない……というか、騒がしさで紛れただろう。

 

(う~……耐えられんわ!)

 

 話題なんてなんでもいい。車内の沈黙を打破しようと、意を決したタイミングでーー

 

「みゃーこはさぁ……」

 

「はぇっ!? 何!?」

 

 視線を外に向けたまま、りんりんが口を開いた。

いきなりのタイミングで声が上ずってしまった。

 

「なんでアイドルになろうと思ったの?」

 

 数秒前に、『話題はなんでもいい』と思ったけど、ガチ目の話題が来てしまった。

 

 いつもだったら適当に冗談言って流すけれど、今はりんりんの表情が見えないのが怖い。

 

「……私はさ、正直アイドルに興味は無かった。見る分には好きだよ? でも、自分がなろうなんて思わなかったし、なれるとも思っていなかった。正直に言えば、お金のため。お金もらえるならなんでも良かった……あの日まではね」

 

「あの日?」

 

「審査会。ニコるんを見てさ、あぁ、この子みたいな子こそアイドルになるべき子なんだなぁって。それとともにしっかり『アイドル』に向き合わないと見てくれる人、アイドルを夢見てる人に失礼だなぁって……」

 

「ーー」

 

 りんりんの思いにうちは何も言えなくなった。

そこまで深く考えたこと無かったし、あくまで有名になるための手段にしか考えていなかった。

 

「だからさーー」

 

 不意にりんりんの声が聞こえなくなった。

別にうちの耳がおかしくなったわけでも、りんりんの言葉にうちひしがれて続きが入ってこないーー目から鱗が落ちはしたけどーーというわけではない。

 

「りんりん?」

 

 いつまで待っても何も言わないから声をかけるとーー

 

「スー……スー……」

 

「寝てしまわれたようですね」

 

 ちらりとルームミラーでこちらを確認した合田さんが言った。

 

「えー……」

 

 続きが気になったものの、夜遅くまで自主練してたから寝不足だろうし起こすのはかわいそうだ。

 

「無理もありません。()()()から1人で練習されてたようですし」

 

「はぁ!?」

 

「どうかされましたか?」

 

「あ、いや、なんでもあらへん」

 

(夜遅くまで自主練して、早朝も練習……どんだけやってんねん……)

 

 

 りんりんはスタジオに着くまで起きることはなかった。

 

 

「いやぁ~……緊張したねぇ~」

 

 収録後、あいさつ回りを終えて車に戻った途端に安堵とともにりんりんがため息を漏らす。

 

「いやいや、嘘やん! 緊張なんてものともしとらんかったやん!?」

 

「そんなことないでぇ? これでもめっちゃ緊張しとったもん」

 

 エセ関西弁とともに頬を膨らますりんりん。

 

「エセ関西弁やめぇや。というか、緊張してた人間があそこまでスラスラ答えられるかい!?」

 

 初めてのラジオ収録ーーと言ってもCDの宣伝のためのゲスト出演ーーでこっちがカチコチに固まってるなか、緊張なんておくびにも出さずに飄々としてたし。むしろトチったうちのフォローをする余裕までみせた。

 

「というか、質問を予想して事前の回答用意しておくとかなんやねん!?」

 

 収録前の楽屋に着くや否やメモ取り出して、『はい、これ覚えてね?』と言われて何事かと思えば、聞かれるであろう質問ーー今回の曲のポイントや苦労したところ、初ライブの感想、自分のアピールポイントなどーーが書かれていた。

 

「事前の傾向と対策は大事だよ?」

 

 首を傾げつつ言ってのけるけど、大概おかしいと思う。

しかも質問の内容はほとんど当たっていたし、予想外の質問に対してもフォローを入れつつ、うちの答えやすいようにパス出してくれたし……

 

「白雪さんも河野さんも、初めてにしては良かったと思いますよ」

 

 合田さんはそう言ってくれたものの、実際りんりんにおんぶにだっこやったし……

 

「いやいや、ダメダメやん……」

 

「まぁ、反省会は寮に帰ってからするってことでーー「あ!」どうかした?」

 

「レッスンルームに忘れ物してもうた……」

 

 カバンから飲み物を取ろうとしてメモを忘れたことに気づいた。

 

 

 

「なぁなぁ、ほんまに着いてきてくれへんの?」

 

「うん!」

 

「いや、何でそんないい笑顔してんねん!」

 

 結局取りに行くはめになったのだが、昼間はそれなりに人がいたのが嘘のように静まりかえっている。

 

「さ、行ってらっしゃい!」

 

「この薄情もん!」

 

 

 天使(悪魔)のような笑顔を浮かべて送り出すりんりんに恨み言を吐く。

 

「……」

 

 その一言に傷ついたのか、りんりんはフッと視線を落とした。

 

(アカン、言いすぎた)

 

 急いで謝ろうとしたら、

 

「整いました!」

 

「は?」

 

「今日の心無い私とかけまして、身代金の要求と解きます」

 

「は? へ?」

 

 急に謎かけが始まった。

 

「ずばり、脅迫状(今日、薄情)でしょう!」ドヤッ

 

「こん、アホぉ!!」ダッ

 

 

 2度目の恨み言をぶん投げて廊下を走る。

 

 

 しばらく走ると、自分の呼吸音と靴音だけが響く。

 

「にしても、なんたる失態」

 

 歩調を緩め、呼吸を整えつつ愚痴る。

 

「振り付けのメモを忘れるなんて……ま~たニコるんに怒られんで……」

 

「にしても、夜ってこんなに静かなんやな……なんか出てくるんよろか~……言うて」アハハ

 

 寂しいのをごまかしつつ言ってはみたが、言ってみて怖くなってまた走り出す。

 

「!!?」

 

(明かりついとる!?)

 

 誰も居ないと思っていたレッスンルーム。レッスンの時間はとっくに終わってるし、練習の虫のりんりんは待ってるはずだし……

 

(まさか本当に……?)

 

 とはいえ、メモを取ってこないわけにもいかず、そっとドアを開ける。さっきまで暗いところにいたせいで目が眩み、思わず顔をしかめる。

 

「……!?」

 

 ようやく目が明るさに慣れたと思ったら、視界に入ってきたのはーー

 

「ッ! ッ!」キュッキュッ

 

 一心不乱に踊り続けるニコるんだった。

予想外というのと、ニコるんのダンスに目を奪われ立ちつくした。

 

『ニコるんみたいに才能ないねんから!』

 

(アホかウチはっ!)

 

 出来る努力もしないで、勝手に才能のせいにしていた。

 

何でもこなせるニコるんに嫉妬していた。

 

一番出来てるニコるんですらこんなに練習してんのにっ!

 

「……ふぅ」キュッ

 

「スマン、入るで」

 

 ニコるんが踊り終わったタイミングで入る。

 

「忘れ物してもうて……」

 

「あぁ……そう……」

 

 一瞬ウチに視線を向けるもすぐに反らした。

 

「いつもこんな遅くまで練習してるん?」

 

「ファンの前に立つ以上、皆が求める完璧なアイドルじゃないといけないの。喜んでもらえるならどんな努力もする。……アイドルとして普通のことよ」

 

 ニコるんがポツリと、それでいてはっきりとした声で言った。

 

(そうか。ニコるんは目の前のファンのために自分を叩いてきたんやな……)

 

 努力して、自分を客観的に見つめ直して、けして驕らず、努力し続ける。

 

(ニコるんとしても、22/7(グループ)としてもどう見てもらいたいかを意識して……)

 

 他のメンバーに厳しく、それと同等……いやそれ以上に自分に厳しくするのはファンのことを考えてーー

 

「ニコるん、ウチにダンス教えてくれへん!?」

 

 自分の思いを声に出すと、ニコるんはキョトンとした顔でこちらを振り返る。

 

「ウチ、ダンスめっちゃ苦手やねん!」

 

「それは……知ってる」

 

「うわ、なんの遠慮もあらへん……」ガーン

 

 事実だしなんも言えないけど、あっさり肯定されるとそれはそれで悲しい。

 

「ウチには出来へんって勝手に決めつけて諦めてた。……アイドルとしての自覚が足りんかった」

 

 『やったことないし』とどこかで予防線を張っていた。

 

「ニコるんがいっぱい頑張っとるのに、『才能』がどうとか言ってスマン」

 

 審査会の時も、自分達とはモノが違うとニコるんのことをろくに知らずに決めつけていた。

 

「ウチ、もーっと頑張らなメンバーにも迷惑かけてまう……今度は絶対に諦めへんから!!」

 

 どんどんと成長していくメンバーに追いつくためにもーー

 

「ウチも『22/7に選ばれたメンバー』だって、胸を張りたいんや!」

 

「……」フイッ

 

 ニコるんが正面に向き直りーー

 

「ここ立って。練習するんでしょ? 早く」

 

「よっしゃ! やったるでー!!」

 

 

 

 

「どうでした?」

 

 車に戻ると合田さんに声をかけられた。

 

「もうしばらく長くなりそうですね」

 

 苦笑いしながら返事する。

 

「ま、もう少ししたら呼びに行きますよ」フフッ

 

 ニコるんが練習しているのは知ってた。いつも付き合ってくれるしね。もっとも、私が他のメンバーと自主練する時は他の部屋使っているらしいけど。

 

 そこにみゃーこが入っていったらどうなるか、と思っていたけどあそこまで上手くいくとは思わなかった。

 

(まぁニコるんも、真面目に取り組むならば無碍にも出来ないだろうけど)

 

「あ、合田さん」

 

「どうかされました?」

 

「もう少し落ち着いてからで大丈夫なんですけどーー会ってもらいたい人がいるんです」

 

 

 

 

 

 

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