22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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星に願いを 1

 斎藤ニコル……22/7のメンバーにしてエースーーあくまで個人の主観だけど、たぶんみんな思ってるーー。

 メンバーに厳しく、それ以上に自分にも厳しい。

もっとも間違ったことは言っていないし、ナナニジのことを思ってのことなんだけど、ともかく容赦がない。

神奈川県出身、16歳。愛称はニコるん。7月7日生まれ。

 

 これが私の知り得るニコるんの全てで、それ以上は何も知らない。

 

 

 

 

「エリザベスのこと? いや、一番一緒にいるのお前じゃん」

 

テーブルを挟んで向かい側に座る絢香はそう言うと、手を口に当てて欠伸をした。

昨日はまた遅くまで起きてたんだろう。

 

「まぁ、そうなんだけどね~。話す内容なんて歌のアドバイスか、フリの確認とかだし……」

 

「つまり面白味に欠けると?」

 

「いや、そうは言ってないよ。むしろ歌の解釈とか勉強になることもあるし、フリも指摘されなきゃ気づかないこともあったし」

 

 客観的に見てるつもりでも、自分の目線と他人からの見え方では違いがあるからね。

 

「お前が自主トレ制限される理由が分かる気がするよ……」

 

「むしろ制限される意味が分かんないんだけど……」

 

『ゲームは1日1時間』とかいうお約束事は誰しも通る道だったとは思うけど、そんなノリで私の自主トレは制限されている。

 

「確かに夜遅くまでやって守衛さんを驚かせたり、合田さんに送ってもらったり、朝早く行って守衛さん驚かせたり、合田さんに怒られたりしたけど……」

 

「うん、明らかに原因それだろ」

 

 こめかみを押さえてため息をつく絢香。

寝不足で頭痛いんだろうか?

 

「夜は巡回に来た守衛さんに気づかなくて……朝は門開いてなくて、座り込んで待ってたら守衛さんびっくりしてたっけ」

 

 その後で事情説明したら開けてくれたっけ。

 

「お前は守衛さんに菓子折り持って謝りに行ってこい」

 

 本当に頭抱えちゃったよ……

(これは私に分が悪いね)

 

 何とかして話題を切り替えようとするとーー

 

ピンポーン

 

 タイミングよくインターホンが鳴った。

 

『あやちゃ~ん! 起きてる~?』

 

 ドアの向こうからかなり聞き覚えのある声が……

 

「立川さん? 来客でしてよ?」ニヤニヤ

 

「……その口調と顔は何さ」

 

「いえ、特に何も。ほら、お待たせしたらいけないですわよ?」

 

「ふん!」ギュッ!

 

「だっ!?」

 

 椅子から立ち上がり、すれ違うタイミングで私の左足を、それも爪先を的確に踏んでいったぞ! スリッパ履いてないから割と痛い。

 

「おはよ~!」

 

「おはよ……インターホン使いなよ」

 

「だって、あやちゃん起きてなかったら出ないじゃん!」

 

「お前は出るまでドアの向こうから呼び続けるのか……」

 

 声がドンドン近づいてきてーー

 

「あれ!? りんりんもいた!」

 

「おはよ、ジュン!」

 

 声の主、ジュンは驚きで目を丸くしていた。

 

「朝ごはんの途中だった?」

 

「絢香は食べる前だったし、私もまだだけど……ジュンは?」

 

「私もまだ~」フルフル

 

 答えながら首を横に振るジュン。一緒になって揺れる髪の毛が垂れた耳と尻尾に見えてちょっとかわいい。

 

「私の分でよかったらあるよ? まだ盛り付けてないから、もちろん手をつけてないし」

 

「えっ!? いいの!? あ、でもりんりんの分……」

 

 喜んだも束の間、すぐにシュンとしてしまった。

 

(んもう、健気だなぁ~)

 

「大丈夫。ちゃちゃっと作っちゃうから! 座って待ってな~」

 

 頬が緩みそうになるの気力で抑えつつ、ジュンの分を盛りつけるためにキッチンに引っ込む。

 

「私の意見は無視かよ……」

 

「部屋主さんは食べちゃってくださいね~」

 

「へーへー」

 

 ムスッとした絢香に軽口で返す。

 

「ところで、ジュンはいつも絢香を起こしに来てんの?」

 

 先程のやりとりに疑問を持ったので尋ねる。

 

「ん~……早く起きれた時くらいかなぁ~。時々絢ちゃん眠そうにしてるし、寝坊したら大変かなぁって」

 

「と、メンバー最年少に心配されてますけど? 立川さん」

 

「うるさっ」

 

 フンッと憮然と返すと、サラダのミニトマトを摘まんで口に放り込んだ。

なんでそういう然り気無い動作もセクシーなの、この子。

 

「でも、ジュンも朝強い方じゃないよね? 早起きのコツあるの?」

 

 前に団子を買いに行った時も終始眠そうにしてたしそんなに急に変われるものでもないと思うんだけど……

 

「麗華に起こしてもらってるの!」

 

 

「ジュン……今度からはわたしが起こすから、ね? 朝ごはんも一緒に食べよう。ね? だから麗華にごめんなさいしてきなさい。ね?」

 

 料理を載せた皿をテーブルの上に置いて、両手をジュンの肩に添えて言う。

 

「う、うん……ゴメン……」

 

 なんかジュンが赤べこの如くコクコクと頷くだけになってしまった。

なんで怯えてるのかな? それと謝る相手はアタシじゃなくて麗華だよ?

 

 絢香を起こすために麗華に起こしてもらうという他力本願。うん。ワケわかんないやこれ。

 

 

 

「ところでジュン、ニコるんのこと何か知らない??」

 

 席に着きながらジュンに尋ねる。

 

「ニコるんのこと……怒ると怖い!」

 

「「それは知ってる」」

 

 それは身をもって知ってるし、聞くまでもないことだ。

 

「え~……人一倍レッスンしてる!」

 

「それも知ってる」

 

「リリィみたいに過度にやりすぎない分にはプロ意識も高いし」

 

「なんで私ディスられた!?」

 

「褒めてる褒めてる」

 

「そんな適当な褒め方見たことないからね!」

 

「あと……かわいい」

 

「知ってる」

 

 (こりゃ別な人に聞いた方がいいかな……)

 

 腕組んで、頭ひねりながらウンウン唸っているジュンはかわいいからずっと見ていたい衝動に駆られるけどーー

 

「あとは……いつも本読んでるよね?」

 

「知ってーーえ?」

 

 ジュンの一言につまみ上げたトマトがポロリとこぼれ、テーブルの上に転がった。

 

「あとは……」

 

「ちょっとストップ! 今何て言った?」

 

 立ち上がり、またジュンの肩を掴むとジュンはビクッと身を震わせた。

 

「えっ、いつも本読んでるよね」

 

「誰が?」

 

「誰って……ニコるんが……」

 

 ニコるんが本を読んでた……そんなことはーー

 

「あ!」

 

 そういえば初めて会った時、離れたとこで本読んでたし、『部屋』で読んでるのも何度か見かけてた。

 

(なんで気づかなかったんだ私……)

 

「ジュン!ナイス!!」

 

「えへへ~、褒めて褒めて~」

 

「今度おかずのリクエストを聞きましょう!」

 

「わーい!! 唐揚げ~、唐揚げ~」

 

 ジュンが喜んでる姿を見てると嬉しくなる。鶏肉残ってたっけかなぁ……

 

「で? エリザベスが読んでた本は?」

 

「え?」

 

 絢香の一言でピタリとジュンが止まる。

 

「ん? ジュン? どした~?」

 

 おーい、と目の前で手をヒラヒラ振るも反応無し……いや、明らかに目が泳いでるし、冷や汗をかいている。

 

「はぁ……これだからこどもは……」ハァー

 

「こどもじゃないもんっ!!」ムッキー!!

 

 わざとらしくため息をつきながら小言を言う絢香にジュンは怒りを露にする。

 

「はいはい、どーどー。ジュンのおかげで一歩進んだし、唐揚げはちゃんと作るから」

 

「ホント!? やったー!!」

 

(ニコるんの読んでる本……か)

 

 喜ぶジュンを眺めつつ、思考の海にダイブする。

 

 その内容を知ることが出来れば、ニコるんの嗜好を少しは掴むことが出来るかもしれない。

 

(とはいえ、聞いたところで教えてくれるかどうか……)

 

『聞いたところでどうする?』

と言われるかもしれない。いや、おそらく言われるだろう。

そうした場合、どう返すべきか……

 

(いっそのこと後ろから覗き見る?)

 

 とはいえ、小説の場合だと内容を把握する前に振り向かれて警戒されるかもしれない。

 

「絢ちゃん。りんりん難しい顔してるけど、どうしたの?」

 

「にらめっこの特訓だろ」

 

(ん?『覗き込む』?)

 

 どこか引っ掛かりを感じた。

前に何かあったような……覗き込む……警戒……近い?……

 

「あ!」

 

「「!?」」ビクッ

 

 ようやく一筋の細い糸が見えた気がした。

「って、何2人してビックリしてんの??」

 

「「りんりん(お前)のせいでしょ(だろ)!!」」

 

 うん、解せぬ。

 

 

 

「え? ニコルちゃんが何の本を読んでたか??」グイーッ

 

 レッスンが終わってからのいつもの自主トレ。桜を背中合わせになった桜を担ぎながら質問を投げ掛けた。

ちなみに件のニコるんは今日は帰って自主トレをするそう(本人から確認済み)なのでいない。一応忘れ物の類いがないことも確認済み。

 

「どうして??」グイーッ

 

「あー……ニコるんのこと知りたくてさ……うん」グイーッ

 

 嘘ではない。けど桜に隠し事しているということに良心が痛む。

 

「ニコルちゃんには聞かないの??」グイーッ

 

「んぐっ!」

 

「あ、強かった??」

 

「ううん。……ほら、ニコるんの誕生日近いじゃん? で、ニコるんの好きなものってなにかなぁ~って思って……」グイーッ

 

「あ、Surprise?」

 

「え? ……あぁ、そうそうサプライズ!」

 

 あまりにネイティブな発音過ぎて全然違う言語に聞こえるんだよね。

……コラそこ、『そもそも英語とカタカナ英語じゃ違うだろ』とか言わない。

 

「そもそもお誕生会しようなんて言おうものなら『そんなことよりレッスンした方が有効的よ』とか言われそうだし」グイーッ

 

「う~ん……ニコルちゃんも本当は嬉しいと思うよ~?」ヨイショ

 

 背筋を伸ばし終え、腰を下ろしながら桜は続けた。

 

「誕生日を祝ってもらって嬉しくない人なんていないと思う」グイーッ

 

「そっか……」

 

「うん!……あ、ニコルちゃんが読んでる本だっけ! えっとねーー」グイーッ

 

ーーあぁ。桜が前屈してくれていて助かったーー

 

ーーおかげで私の顔を見られずに済んだーー

 

ーー鏡の中の私は苦痛な表情を浮かべていたーー

 

 

 

「ニーコるん♪」

 

「……何よ? 頭でも打った?」

 

(おぅ、いきなりの右ストレートのカウンターで開幕早々ダウン寸前なんだけど……)

 

 桜から得た情報を元に、翌日ニコるんに声をかけたのだけど……最大級の警戒と迎撃を受けた。

 

「いきなりひどいなぁ~、ニコるんは一体私をなんだと思ってるのさ」

 

「猿まわし」

 

「はい~?」

 

 ニコるんの不思議な回答に私の頭上にはハテナが飛び交っているだろう。

 

「え? 私いつの間におさる軍団の一員になったの??」ハテー

 

「え?」キョトン

 

 今度はニコるんの頭の上にハテナが飛び交う番だった。いや、見えないけどね。

 

「あれ? さるこまし? すけこけし?」

 

 顎に手を当てながらぶつぶつと似たような単語を口にするニコるん。

 

「……もしかして『すけこまし』?」

 

「ソレよ!」ビシッ

 

「えー……」ズーン

 

 当たっちゃったし、風評被害もいいとこなんだけど……

 

「で? 何の用よ? 今日も自主トレするんでしょ?」

 

「あ、そうなんだけどさ~……今度のお休み、暇?」

 

「……話の意図が読めないんだけど?」

 

「一緒にお出かけしない?」

 

「何で?」

 

(さて……何と言って誤魔化せばいいだろうか……2人きりでお出かけ……怪しまれない言い方……)ピコーン

 

「デートしようぜ♪」キラリ

 

「……」ススッ

 

 さっき『最大級の警戒』と言ったな?あれは嘘だったようだ。

無言で距離を取ったニコるん。

 

「えっと……」ソローリ

 

「来ないで! 人呼ぶわよ!」クワッ!

 

「不審者扱い!? 嘘ぉ~ん……」ガーン

 

 ニコるんの評価がガクンと下がった。ブブー

 

 二重の意味で距離を取られてしまった。まぁ、当たり前と言えば当たり前なんだけどさ。

 

(じゃあ、別のアプローチをば……)

 

「動物園、行かない?」

 

「え?」ガバッ

 

(お! 食いついた!!)

 

 桜から得た情報ーー動物の本を読んでいた事から、動物好きと判断したのだが、思いの外反応が良かった。

 

「……どういう風の吹き回し?」ジトー

 

 さすがに警戒レベルが幾分かは下がったものの、警戒自体は継続中。

 

「ほら、最初に集まった時、動物園に行ったじゃん? でも待ち合わせメインだったからあまり見て歩けなかったし……」

 

 これは本心。さらに言えば入場料を払ったのに、まともに見たのはゴリラのみ……っく、耐えろ私! ここで吹き出そうものならまた警戒されるぞ!

 

「1人で行けばいいじゃない!」

 

「家族連れやカップル、友達グループがいる中で1人で行けと申すか!」クワッ

 

 行楽地に1人で行くのはかなり勇気がいる。

もちろん全くいないってことはないとは思うけど、私はそこまでメンタル強者じゃない。

 

「じゃあ私以外の誰かと行けばいいじゃない。戸田さんとか藤間さんなら一緒に行ってくれるでしょ?」

 

(うーん……手強い)

 

 なかなかにニコるんのガードが固い。

確かに桜やジュンと一緒に居ることが多いから、そこで2人を誘わないことが不自然に思うよね……。

 

(でも、全くの無関心って訳でもないよね?)

 

 なんやかんや言いながら、ソワソワと落ち着かないご様子。話を切り上げないのも然ることながら、目線をあちこちにやってるところをみると、あと一押し、二押しってところか……

 

「お互いにたまには息抜きするのも大事だと思うんだけど……ダメ?」

 

 

 

 

(9時半か……)

 

 腕時計をチラ見しつつ、コンビニで買ったカフェオレを1口、2口。

コーヒー独特の苦味をミルクのまろやかさが中和する。

 

(この苦味と酸味がいいらしいけど……)

 

正直自分には分からない世界だ。大概カフェオレ、カフェラテ。

眠くてどうしようもない時にブラックで飲むけど、味云々より『目が覚めればいい』という愛好家が聞いたら怒りそうな理由だし。

 

(『コーヒーを飲めれば大人』という考えもあるけど、そう考えたら子供でいいや)ズズズ

 

 そんなことを考えながら動物園のゲートへ流れていく人混みをボーッと眺めていると、そんな流れを横切るように人影がーー

 

「早いのね」

 

「ニコるんこそ。まだ約束の時間までずいぶんあるけど?」

 

 約束は10時。ニコるんなら早めに来るとは践んでいたけどここまで早いとは予想外だった。

 

「あなたの事だから早めに来ると思ってたのだけど、まさかここまで早いとは思わなかったわ」

 

 あら、同じことを考えてたんだね。嬉しいなぁ。

 

「私より早く来るつもりなら1時間以上前に来ないと~」

 

「……そんなに早く着て何してるのよ」

 

 呆れたといった風に呟くニコるん。

 

「待ち時間もデートの内でしょ?」

 

「……帰る」

 

「あ~! うそうそっ! ごめんって!」

 

 踵を返したニコるんを必死に止める。

嬉しくてつい軽口を叩いてしまったのがいけなかったのか。

 

「私からお願いしたんだし、待たせたら悪いでしょ? だから可能な限り早く来て回る順番とか色々考えてたんだよ~」

 

「それなら夜に考えたらいいんじゃない?」

 

 足を止めながら至極真っ当なことをいうニコるん。

 

「それだとワクワクし過ぎて寝れないんだよ~! 恥ずかしいから言わせないでよっ」

 

「まるで子供ね」クスリ

 

 そんな私の反論を笑いながら受け流した。

 

「そういうニコるんは楽しみじゃなかったの?」

 

「えっ、えぇ。私はチケットが無駄になるくらいならと思っただけよ!」

 

「ふ~ん」ニヤニヤ

 

「な、なによ!」

 

「べっつに~」ニヤニヤ

 

 これは分かる。いわゆる『嘘をついている味だ』というやつだろう。いや、舐めはしないけど。またはツンデレ。

 

「さぁ! 早く行くわよ!!」

 

「ちょっ! ニコるん!! チケット、チケット!!」

 

 1人ズンズン歩いていくニコるんを急いで追いかけた。

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