さて、無事に動物園に入場出来たわけだがーー
「ニコるん、どっか回りたいところある?」
人の流れに巻き込まれないように端の方に誘導しつつニコるんに尋ねる。
「予定、立ててたんじゃないの?」
そんな私の疑問に対して怪訝そうな表情を浮かべるニコるん。
「確かに効率よく回れるようにある程度の予定は立てたけど、ニコるんの希望を無視するほど独りよがりではないつもりだよ?」
まぁ、『無理矢理付き合わせといてどの口が!』と言われそうだけどね。
「へぇ……」
「え? 何? その反応……」
心底意外なものを見た、と言いたげな反応。
「自分のスケジュールは絶対に崩さない頑固者だと思ってた」
「え!? そこまで酷くはないでしょ! ……ないよね?」
自分ではそんなつもりはないんだけど、そう言われると不安になってくる。
「さぁ? どうだか?」
「むぅ……」
小悪魔のような笑みを浮かべながらはぐらかすニコるんに真相を問い質したい気持ちーー具体的には小一時間ほどーーがあったのだけど、時間は有限なので非常に大変心残りだけれどやむなくスルーしよう。
「ちょっと見せてくれる?」
そう言うと身を寄せて、髪を耳にかけながら私が持つパンフレットを覗き込む。
瞬間、フワリとシャンプーの匂いがする。
(ニコるんも女の子なんだよね……)
ついつい思春期の男の子のようなことを思ってしまったけど、私が知ってるニコるんと言えばレッスンと言えど一切妥協しない、納得いかなければ何度だってやる、まさに努力の鬼だからね。
こういった一面を見られただけでも、今回のデート(本人は絶っ対否定するけど)は意味あるものだと思う。
とーー
「ん?」
ふとニコるんと目があった。
「あ、ゴメン? 聞いてなかった」
「あなた……いつもと何か違う気がするんだけど……何が違うのかしら?」
お、ニコるん鋭い! 変化に気づいてくれるのはたとえ相手が同性でも嬉しいこと。
や、同性の場合の方が気づきやすいんだけどね。
「なにかしら……服?」
「はい、まず1つね~」
いつもと違い、ユニセックス物のパーカーにジーンズといったかなりカジュアルなものにしてきた。
こうすることで身バレ防止になるしね。
「まだあるの!? うーん……」
眉根を寄せ、顎に手を当てながら考えている。それだけでも絵になるのだからズルいと思う。
今日の彼女の服装はピンクを基調としたチェックのシャツに、白のスカート、水色のカーディガンを羽織っているが、そのポーズだと、探偵の着るコートにハンチング帽という格好をさせてみたい。
(名探偵ニコるん……どことなくポンコツ感が否めない……)
そんな私の思惑を知ってか知らずか、私の足先から頭のてっぺんまで視線を何度も往復させるニコるん。
と、その視線が頭でピタリと止まる。
「髪型?」
「2つ目~」
いつもはおろしている髪も、今日は無造作に後ろで縛ってまとめている。
まぁ髪型に至っては気分で巻いたり、ツインテールにしたり色々アレンジしてるけどね。
「ちなみに何個?」
「あと1つかな」
私が答えると、ムムッとした顔をして少し離れた。全身を視界に納めるためだろう。
「そうすると分かりにくいかもな~」
ヒントとして呟くと、スススっと戻ってくる。
「見た目で分かるのよね?」
「そうだね~」
なんかクイズみたいで楽しくなってきた。
なんやかんやニコるんも真剣だし。
「いつもと違うところ……いつもと違うところ……」
ぶつぶつと呟きながらまたもや視線を上下させるニコるん。
なんか間違い探しみたいになってるね。
まぁ、茶々入れないでおこう。
「あれ?」
そこで何か気づいたのか、難しい顔をしていたニコるんが声を上げる。
「あなた……身長伸びた? いや、そんなはずは……」
自分で言ったものの、信じられないと直ぐ様否定した。
「はい、正解! 並んでみたら分かるよ~」
そう言いつつ、ニコるんの横に並んでみる。
いつもはダンスのフリの確認の時とかの限られた時にしかここまで近づかないから新鮮。だからこそニコるんも気づかなかったのだろう。
「え? なんで!? どんな魔法を使ったの!?」
「……ふふふっ」
ニコるんの一言に、一瞬呆気にとられるも堪えきれず笑いだす。
「な、なによ!」
ニコるんとしては、いきなり私が笑いだしたものだからバカにされたと思ったのだろう、抗議の声をあげた。
「いやいや、ゴメンゴメン。まさかニコるんから『魔法』って言葉が出るとは思わなくて」
てっきり、『そんなオカルトあるわけないじゃない!』とか、『そんな非科学的なことありえない』とか言う側かと……あ、後者の方はニコるんよりあかねの方が言いそうか。
「なによ! 別にいいじゃない!!」
「怒らない怒らない」ゴメンゴメン
ここで怒らせて『やっぱり帰る!』と言われたら元も子もないので謝りつつ急いでネタばらし。
「靴の中にインソール入れてるからその分高く見えるだけ」
タネが分かればなんてことはないでしょ? と説明する。
「違和感とかは無いの?」
「最初だけかなぁ。慣れればそうでもないしなぁ……あ、でも走りにくいかも」
とはいえ、今日みたいに急ぐ必要がない時だと走る機会なんてまず無い訳で、困ることは何もない。
「なんでそこまで……」
「ん~……なんとなく? それに背の高い女性ってかっこよくない?」
「ずいぶんとふんわりした理由なのね」
呆れたのか、ため息混じりに言った。
「あ、あとは身バレ対策? でもオススメはしないよ。うん」
「別に変装のためにそこまではしないわよ」
「そう? まぁありきたりなマスクと帽子、メガネの『いかにも有名人です!』って変装よりかは役に立つけどね」
「……覚えておくわ」
……割とやる気あるのでは? と口に出しはしなかった。
「あ、ニコるん。乗馬体験出来るっぽいよ! これ、予約しなくても出来るかなぁ……」
パンフレットに『乗馬体験』とあったので勧めてみる。
「乗ってみたいの?」
「めったに無い機会だろうしね」
少なくとも日常生活で馬に乗る機会なんてそうそう無いだろう。それこそ騎手とか調教師とかの馬関連のお仕事の方とか牧場主とか……
「怖くはないかしら?」
「うーん……係員さん付いてくれるし、それにポニーって仔馬みたいだから大丈夫じゃないかな?」
相当気性の荒い馬じゃなければ、係員さんの言うこと聞いてれば大丈夫だと思うけど……
「あ!」
パンフレットを覗き込んでいたニコるんが声を上げた。
何か良さそうなのを見つけたようだ。
目の輝きが3割増しになった気がする。
*
「ニコるん、はぐれないで着いてきてね~」
「はぐれないわよ!」
遠足の引率の先生みたいなことを言えば、直ぐ様返事が帰ってくる。
「そうだね~……でも、このやり取り何度目だと思う~?」
小走りで駆け寄ってくるニコるんに微笑みながら尋ねる。
「うっ……さ、3回……くらい」ギクッ
「残念。6回なんだなぁ」
3回でも多いとは思うけど、まぁ、黙っておこう
「そ、そんなわけーー」
「猿山で1回、コアラで1回、その後でもう1回、フラミンゴで1回……」
「も、もういいわ!」
指を折りつつ、淀みなくスラスラと答える私を見て、旗色が悪いと判断したのかあっさり引き下がった。
「楽しみなのは分かるけど、少し落ち着きなって。ソワソワしすぎだよ」
「別にソワソワなんてーー」
「じゃあ時計を確認した回数でも「結構よ!」あ、はい」
反論材料を提示しようとしたらあっさりと断られた。
「というか、なんでそんなこと覚えてるのよ」
「え~、大事なことってどんなに些細なことでも覚えておきたいじゃん!」ルンルン
「度が越えてると思うのだけれど……」ハァー
楽しい私と対称的にため息をつくニコるん。
「そんなにため息ついてると幸せが逃げるよ~?」
「誰のせいよ……もう、いいわ」
「っと、そろそろ時間かな……って、あれ?」
「何してるの! 早く行くわよ!」
「えぇ……」
気づいたら隣にいたはずのニコるんが数メートルほど先にいた。
心なしか足取りが軽いんですが……気のせいではないだろう。
「置いてくわよ!」
「斎藤さん、斎藤さん。そこ右じゃなくて左ですよ~」
「わ、分かってるわよ!」
指摘されて顔を赤くしながら左に曲がっていく。
(やれやれ、ツンデレなお姫様をサポートするのも大変だ……)
心の中で1人ごちりながらも、楽しい気分なのはなんでだろうね。
「ふぁ~……」
はい、無事にお姫様を追いかけて(思いの外歩くのが早すぎて、途中駆け足だったけど)目的地に辿り着いたのだがーー
「ふぁ~……」
「誰、この子……」
そのお姫様と同じ格好、同じ見た目の子が目を本物の1.5倍以上輝かせてるんですが……
「触ってみていいですか!?」
「どうぞ。びっくりさせないように優しくーー」
まぁ冗談はさておくとして、ここまで楽しそうなニコるん初めて見るんだけど……
ライブでもこんなに目を輝かせてたの見たことないよ?
そんなニコるんは今、飼育員さんからレクチャーを受けて、1羽のウサギを抱えている。
私たちが来たのは『ふれあい動物公園』。ウサギやモルモット、カピバラといった小動物を触ったり、エサやりをすることが出来るところだ。
お触り自体はいつでも出来るんだけど、エサやりは時間が決まっている。
ニコるんがさっきからソワソワしていたのにはその辺の理由があった。
(ん~……写真撮りたい! でもビックリさせちゃ悪いしなぁ……)
こんな上機嫌なニコるんーーニコるんるん状態と呼ぼうかーーめったにないことなので、カメラに収めたいところ。
でも、それで動物を驚かせちゃ元も子もない。
「ん?」
ふと私の近くに一匹のモルモットが、鼻をヒクヒクさせながら寄ってきた。
エサをもらえると思って寄ってきたんだろうけど、あいにくと持ってなかった。
かといって触れあうチャンスを棒に振りたくない。
(そーっと、そーっと……)
モルモットを驚かせないようにゆっくりと距離をとりながらエサが置いてあるところに向かう。
(ちょっ! 着いてきてる~!?)
モルモットは人馴れしてるせいか、それともエサがもらえると分かっているからか、逃げ出すどころか逆に近寄ってくる。
(うわっ! 写真……いや、ムービー撮りたい!!)
衝動を抑えつつ、なんとかエサを購入。
あと近くにいた飼育員さんに撮影の許可をもらえた。
「お待たせ~」
購入している間も『早く寄越せ!』と言わんばかりに靴を鼻でグイグイ押してくるモルモットくん(ちゃん?)。
エサ入れーーといってもスティック状にしたニンジンやらさつまいもやらが紙コップに入っているだけーーからキャベツを選んで取り出す。
しゃがみこんで鼻先にキャベツを差し出すと、しばらくは確認のためか鼻をヒクヒクさせていた。
「お、食べた!」
キャベツの端をかじった。これは食べれるものと認識したのか、そこからキャベツがみるみるうちに口に消えて行く。
その上で『もっと寄越せ!』と催促される。
「今度はさつまいも。どうだろう?」スッ
またも鼻をヒクヒクさせたと思ったら、食いついた。
「え!? 早っ! さつまいもの方が好きなの!?」
先ほどのキャベツよりも食べるペースが早く、危うく指まで食べられるかと思った。
(撫でてみていいかなぁ?)
そっと頭を撫でてやると、一瞬ピクリとした。逃げられるかと思ったけど、そんな素振りは見せず、落ち着き払ったその態度は、
『まぁ、エサもらった分はおとなしく撫でられてやろう』と言っているかの様だった。
(おぉ、肌触りいい!)
毛のもふもふ具合、それでいて温もりもあって『生きてる』というのが分かる。
(スマホスマホ……あ、フラッシュオフにしてっと……)
いそいそとスマホを準備しても、『ん? 撮影か?』みたいな感じでどっしりと構えてるモルモットさん。
……これ中に人入ってないよね?
とりあえず2、3枚写真を撮って(さすがにポーズを変えたりはしなかった)、またもさつまいもをあげつつ動画を少し、それとウサギを抱っこしてトリップしてるニコるんを数枚とちょこっとムービーを撮った。
終始気づく様子はなかったけど、とても幸せそうだった。
*
「本当に乗るの?」
「え?いや?」
まるで楽園から追放されたかのようなーー実際に彼女からしたらその通りなんだけどーー表情を浮かべたニコるんは何度も繰り返した疑問を投げ掛けてくる。
答えは分かっているはずなのに私が、
『ニコるんが嫌なら辞めよっか』と言ってくれることを願っているかのように。
それが分かってて私も同じ疑問で返しているわけだけど。
「そ、そんなわけないでしょ!」
「そうだよね~、もう着替えてるわけだしね~」
「~~~~!」キッ
あっけらかんと言ってのける私を声にならない声を出しながら睨み付けるニコるん。
(強がらないで嫌なら嫌って言えばいいのに……)
別に強制してるわけでもなく、何度もニコるんが断れるように逃げ道は作ってきた。
それでも『そんなわけないでしょ!』、『これくらいなんてことないわ!』と突っぱねて来たわけで……
というわけでやって来たのは乗馬体験~。
さっき言った通り、服は着替えてジャージです。
いや、私はいいんだけどね、ニコるんはスカートだから色々考慮して……ね。
じゃあ、『ふれあい動物公園』の時点で着替えるべきだっただろうって?
そのつもりだったとも! ニコるんが私の声に耳を傾けてくれてればね!!
(右折、左折の指示以外は常にフルスロットルって追いつくだけで精一杯だよ!)
しかも着いたら着いたで即トリップするし。
なんとか説得して諦めてくれたけど、止めなかったら一日中あそこにいたと思うよ。
「お願いしま~す!」
「……お願いします」ズーン
コラコラ、挨拶は大事って言われてるでしょうが。
「はい、こんにちは」
そんなニコるんの態度に気を悪くすること無く、笑顔で対応してくれる飼育員さん。
早速乗馬の際の注意事項を説明してくれる。
「今回乗ってもらうのはこの子、ウッディくんです」
飼育員さんに手綱を引かれながら来たのはポニー(仔馬)のウッディくん。
仔馬と言いながらも割と大きいのにびっくりする。
「じゃあ……ニコるん、先に乗る?」
「……いい」ズーン
うーん……これは重症みたいですね。
「んじゃお先に!」
そう言って颯爽と……というのはさすがに無理なので、飼育員さんに手助けしてもらいながらウッディくんに跨がる。
「わっ、スッゴい……」
跨がった途端にいつもの自分の視線の高さよりもかなり高いことに驚く。
思わず大きな声を出しそうになるけど、ウッディくんを驚かせないようになんとか抑えた。
だって、頭の後ろで大きい声出されるのイヤでしょ? 私もイヤだし……
「もう少し胸を張って……そうそう! あとはリラックスして~」
飼育員さんの指示通りの姿勢をとる。あとはリラックスすることを心がける。自分の気持ちが動物に伝わってしまって不安にならないようにっと。
「じゃあぐるりと回ってみようか」
「あ、はい」
少し……いやかなり不安ではあるけれど、このままだったら何しに来たんだって話だし。
「ほら、お顔が強張ってるよ~。かわいいお顔が台無しだよ~」
「ふふっ」
緊張をほぐすためか、いつも動物に接する時のクセが出ちゃってるのか。ともかく飼育員さんの言葉に思わず笑みがこぼれる。
「じゃあ行くよ~」
飼育員さんがウッディくんに声をかけ、手綱を持って先導しながらゆっくりと進む。
「おっ、おっ、おっ」
慣れない高さと自分の意図していないところでの動き出しに、最初は怖かったものの一周する頃にはようやく……といった感じではあるけど慣れてきた。
「じゃあ、少し駆け足で走ってみようか」
「え"」
ようやくとっかかりを見つけたと思ったら更なる課題を追加された。
一旦止まってからまたもやレクチャーを受ける。ちなみに今度は飼育員さんの補助(手綱を引いてくれる)は無いらしい。
(えっ、スパルタ過ぎない!?)
とりあえず速度を早めるやり方と減速する方法は教わった。
だからといって、直ぐ様動けるわけでもないけど。
だって、アクセルとブレーキ、シフトレバーの操作を教わって、
『じゃあ、運転してみて?』
と言われて出来る? 私はムリ!
まぁ、反論出来るわけもないんだけどさぁ……
「ほら、またビビっちゃってるよ~」
またもや飼育員さんに指摘されるけど、そりゃビビるでしょうよ……
「誰だって最初は初めてなんだから、上手くやろうなんて思わない。それよりも楽しまなきゃ」
「楽しむ……」
「そう。色々経験することはあるけれど、『初めて』って1回キリだからね。だったら辛い思い出よりも楽しい思い出にしなきゃ!」
そう言いながらこちらに笑いかける飼育員さんは輝いて見えた。
(楽しむ……か)
ストンと肩の荷が降りた気がした。
そうだ、ニコるんにも言ったじゃない、『めったに出来る経験じゃない』って。だったら出来る出来ないを気にするよりもーー
(楽しまなきゃ損だよね!
フッと息を一息ついて全身の無駄な力を抜く。
(ほんじゃま『初体験』、してみますかぁ~!)
駆け足での2周分は、さっき軽く乗った時よりも揺れが強くてビックリしたけれども、風を感じることが出来て爽快だった。
あまりに爽快で1周の予定だったのに2周しちゃったくらいには。
「ずいぶん楽しそうだったわね」
不機嫌……というよりは不安とか色んな感情がごちゃ混ぜになっているような複雑な表情を浮かべてニコるんが出迎える。
「今走る前はかなり不安そうにしてたのに……どういう心境の変化?」
「案ずるより産むが易しってヤツなんだなぁって」
先人の言葉は偉大なんだなと身を以て感じた。
「誰よ、『ヤスシ』って」
「……え?」
「え?」
ニコるんの呟きに虚を突かれると、ニコるんもきょとんとした顔してこちらを見る。
(あれ? 私がおかしいの?)
「ねぇ、『ヤスシ』って誰なの?」
(あ、これガチのヤツだ)
「えっと、ニコるん。『案ずるより産むが易し』っていうのはね……あれこれ考えるよりもまずは行動してみて! 意外とすんなりいくから! って意味のことわざだよ?」
「……え?」
多少噛み砕いて説明してみたけどーー
「も、もちろん知ってるわよ!」
「うんうん、そうだよね~知ってるよね~」ニコニコ
「あ、当たり前じゃない!」
(ニコるんが恥ずかしさで耳を赤くしてるのも知ってるよ~)ニヤニヤ
「何ニヤニヤしてるのよ!」クワッ
「なんでもないよ~。ほら、次はニコるんの番だよ~」ニヤニヤ
「っ!! 覚えてなさいよ!!」
こちらを一睨みすると、ニコるんは飼育員さんのところへ歩いていった。
「だから、その顔はアイドルがしていい顔じゃないってば」ヤレヤレ
私の呟きは爽やかな風に舞ってどこかへ行ってしまった。
*
「さ~さ~の~は~さ~らさら~」
夜空を見上げ、今日ぐらいしか歌われることがないであろう曲を口ずさむ。
「こんなところにいた」
「あれ? 施錠されてたと思うんだけど~?」
後ろから声をかけてきた存在に振り返ること無く、夜空を見上げたまま応じる。
ここは事務所の屋上。もっとも不慮の事故を防ぐために唯一の出入り口は施錠されている。
「窓が開いてて、ご丁寧に椅子もおいてあったから来るのは訳なかったわ」
もっとも、1ヶ所だけ窓の鍵が壊れてて、そこから非常階段の踊り場に出て屋上に行くことは出来るんだけどね。
「アイドルがそんな不良少女みたいなことしていいの~?」
いたずらっぽい笑みを浮かべて振り返れば、相手は怒っている様子はない。
「そんな『不良少女みたいなアイドル』を連れ戻すためですもの。理由としては十分じゃないかしら?」フフン
胸を張って大胆不敵に笑いながら答える。
なるほど。スピード違反の車を捕まえるためなら警察も制限速度を越えても問題ない……と。
「同じ穴の狢ってこと、理解してる?」
「え?」
「あ、なんでもないです。はい」
残念ながら今回のケースは二人揃って怒られるパターンなんだよねぇ……バレなきゃ問題はないけれど。
「それで? なんでこんなところにいたの?」
「ん~? 今日は七夕だったなぁって」
『ニコるんの誕生日』という認識が先行してて、さっきまで忘れてた。
「それで?」
「星が見たくなった」
「は?」
呆気にとられてるものの、ニコるんの声は少し冷たい感じがした。まぁ、気持ちは分かるけどね。
「いやさ、私の居たところは田舎でさ、空を見上げれば満天の星が見えたんだよ。それこそ手を伸ばせば届きそうなほどね」
スッと右手を空に伸ばしてみる。
「こっちはネオンやら街灯やらで明るくて、高層ビルも立ってるから空が狭く感じちゃって……」
右手をそっと握る。当たり前だけれどその手の中には何もない。
「ずいぶん詩的ね?」
「そりゃあ1年に1回、有名なカップルが会える日だもの。センチにもなるでしょうよ」
パッと手を開く。ここで鳩だったり出たら面白いけどそんなことはない。
「ニコるんは何かお願い事した?」
センチにもなる、と言っておきながらそんなこと聞くのもなんだけれどね。でも、七夕と言えばやっぱり短冊に願い事を書くってイメージがあったから聞いてみた。
「そんなことしないわ」
(でしょうね)
まぁ、答えは聞くまでもなかったけれど。
これがジュンやみゃーこだったらお願い事してたんだろうけど。
「願い事はしてないけど、誓いは立てたわ」
「ほう……」
あくまでお願い事ではなく、自分の力で叶えるから見ていろ!と……
まぁ、本人が思っているかどうかは気かないでおくけどね。
「あ、ちなみに織姫星のベガ、彦星のアルタイルとはそれぞれ25光年と17光年離れてるから、ニコるんの誓いが届くのは25年後と17年後になるね」ニヤニヤ
「えっ!?」
意地悪ついでに言うと、明らかに動揺するニコるん。
まぁ、実際はどうだかは分からないし、その辺はご都合主義でなんとかなると思ってる。要は気の持ち様だね。
「そ、そういうあなたはどうなのよ!!」
「私? 私はその辺見越してお願いしてるから大丈夫!」
「くっ!」
「悔しい? 仕返しできなくて悔しい??」ニヤニヤ
あからさまに悔しがるニコるんに対して私は意地悪い笑顔を浮かべる。
(もっとも、私もお願いというよりは誓いのようなものなんだけどね……)
『メンバーといつまでも一緒にいられますように』
今年もお世話になりました
ナナニジ界隈も色々ありました。
メンバー・キャラの卒業だったり、冠番組の決定だったり……
個人的にもお便りが読まれたりテンションが上がりました。
来年は平和な一年になることを願ってます