その間、ブライダルイベントだったり、物語イベの後半だったり……ニコルんの誕生日だったり、奈々様、花澤さんの結婚だったり……いろいろありましたね。
さて、今回は1話目の後半部分となります。どうぞごゆるりと。
「じゃあ、場所取りお願いしていいかな?」
「は、はぃ……」
店に入ってメニューを確認する頃にはどうにか正気を取り戻した。ついでに恥ずかしさも戻ってきて自己嫌悪してるわけだけど。
というか、みうちゃん……引いてないよね? 仲良くなりたいなぁと思うんだけど、さっきのでさらに距離が開くとかないよね?
「お待たせ~」
「あ、いぇ……」
ん~……この距離感。まぁ、ほぼ初対面でここまで馴れ馴れしい私がおかしいのかな?
「えっと……みうちゃんのはこっちかな?」
確認してみうちゃんの分を渡し、彼女の向かい側に座る。自分の分をトレーからテーブルに移し、空になったトレーに紙ナプキンを2枚ほど広げて敷く。
「?」
みうちゃんの『何してるんだろう』と言いたげな視線がこちらに向けられる。それを感じながら私はポテト(L)を手に取り――
ザバー
「!?」
トレーに広げる。みうちゃんが驚いているのをお構いなしにそのトレーを私達の間に置く。
「みうちゃんも食べよ?」
「ぇ……」
そう言いながらスッと1本取って加える。うん。揚げたてと言っていたこともあり、私好みのカリッとしたポテトだ。
「いいんですか?」
「いいというか……みうちゃんも食べるかなぁ~って思ったんだけど……いらなかった?」
ハンバーガーとオレンジジュースだけじゃ足りないかなと思ったんだけど……。もっとも要らないなら要らないで私が食べられるから大丈夫なんだけどね。
「い、いただきます……」
「はい、遠慮なくどうぞ~」
びくびくしながらもポテトに手を伸ばすみうちゃん。その構図は番犬ガ○ガ○をやっているよう。驚かせたら恐らく飛び上がるだろう。ようやく骨……じゃなくてポテトを1本取りーー
ハムッ モキュモキュ
「」
小動物みたいに食べるみうちゃんを見て、そのかわいさで思わず意識が飛びかけた。
庇護欲をかきたてられるというか、母性本能を擽られるというか……私にも母性本能あったのか……
「ぁ」
私の目線に気づいてみうちゃんがサッと目を伏せる。
「ごめんね、じっと見ちゃって……えっと……何から話そうかな」
勢いで誘ってはみたものの、みうちゃんのこと何も知らないんだよなぁ。
「改めて自己紹介ね。白雪凛子、よろしくね」
「ぁ、滝川みう……です。よろしくお願いします……」
滝川みうちゃんね。よし、覚えた。
ようやく名字も判明したことでスッキリした。
「あの……私の名前……」
「ん? あぁ、桜から聞いたんだ」
どうも、自分は名乗ってないのになんで知っているのか、ということらしい。けしてストーカーではありませんよ~。まぁ、正確には『桜から』というより、『桜が言ってるのを』というべきなんだけどね。
「藤間さんが?」
「みうちゃん、途中で帰っちゃったから、ずっと気にしてたよ?」
私の一言にまたみうちゃんが目を伏せる。
「あ、ごめん。違う。今の無し」
今の言い方じゃまるで『なんで帰ったの?』って問い質してるみたいだ。慌てて訂正する。
(この話題じゃなくて……)
「みうちゃん、さっき楽器店から出てきたけどどうかしたの?」
話題を変えて、先ほど楽器店から出てきたことを尋ねる。みうちゃんと楽器が頭の中で結びつかなかった。実はプライベートではギターやベースをかき鳴らしていたり、ドラム叩いたり……想像できない。タンバリンとかカスタネットなら……いや、フルートとかもありかな?
「ぁ……えっと、ピアノを……」
「ピアノ!? 弾けるの!?」
「ぁ……はい……」
ピアノかぁ……それは予想外だった。でも言われてみればピアノを弾くイメージはあるかもしれない。弟や妹にせがまれて笑顔で弾いてるような。……兄弟姉妹がいるかは分からないけど。
「じゃあ、ピアノを見に来たの?」
「いえ……売りに……」
ガンッ!!
「えっ!?」ビクッ
私が頭をテーブルに打ち付けた光景にみうちゃんはびっくりしている。逆の立場なら私も驚くし。
まぁ、それはいいとして……
(私、少し黙ろうかな……)
みうちゃんと少しでも仲良くなりたいから話を振るんだけど、地雷。話題を変えても地雷……地雷が多いみうちゃんに驚くべきか、悉く彼女の地雷を踏み抜く自分に呆れるべきか……ともあれ自己嫌悪に陥る。
「みうちゃんはさ、アイドルってどう思う?」
テーブルに突っ伏したまま尋ねる。
「私はさ、別に興味はなかったし、なろうと思ったことは1度もなかった。文字通り別世界ってやつ」
可愛い衣装着て、笑顔浮かべて、歌って踊って……華やかなイメージの裏ではメンバー間、事務所間での確執やらなんやらあったり……まるで『シンデレラ』の舞踏会のよう。
「まぁ、それでもさなんの因果かこういうことになっちゃったしねぇ……やむにやまれぬ事情もあるし……」
「事情?」
これ、と言って親指と人差し指で円を作る。
「親がいなくてさ。親戚の叔父さんのところでお世話になってたんだけど、負担になるのがイヤで一人暮らししてるの。学校も学費免除の特待生制度のあるところに通って、生活費工面するためにバイトして……それでもなんやかんや苦労かけちゃってるからさ……」
実際に今のマンションの家賃も叔父さん持ちだしね。
「金銭面がなんとかなれば自立、って考えてるわけじゃない。さっきも言ったけどアイドル自体に興味はないし、本音を言えばしたくないかな。普通の女子高生がたった1日でアイドル。シンデレラストーリーもいいとこだけど、おとぎ話は好きじゃないんだよね」
「でもさ、お金を稼ぐには手っ取り早いしなぁって……まぁ、そんなところ」
机から起き上がり、グッと伸びをする。
「なんか自分語りしちゃったね。ごめん」
柄にもなく真面目に語ってしまい、恥ずかしくなってハンバーガーをパクつく。
「私は……」
ここで今まで黙っていたみうちゃんが口を開く。
「私はアイドルなんてやりたくない……」
「……うん」
ハンバーガーを包み直し、口を紙ナプキンで拭い、姿勢を正してみうちゃんの話に耳を傾ける。
*
みうちゃんの家庭はお母さんと妹との母子家庭だと思われる。
なんでも幼い頃の記憶が無いらしく、物心(と言っていいのか分からないが)ついたときには父親はいなかったらしい。
とにかく、裕福とは言えないものの、お母さんも妹もみうちゃんのピアノが大好きで笑顔の絶えない家庭だった。
そんな幸せは突如崩れた。彼女のお母さんが倒れてしまい、入院することになった。いつ退院出来るか分からないお母さんの代わりにみうちゃんが家のことをすることになった。炊事、洗濯、妹の世話に加え、学校の宿題……自然とピアノを弾く時間は無くなっていった。
ようやく退院の許可が出たものの、本来なら退院出来る状態ではないらしい。それでも本人たっての希望、ということだった。
『お母さんに苦労はかけられない』そう思ったみうちゃんは新聞配達のバイトを始めた。
高校に入ってからはコンビニでバイトを始めた。ピアノの音はいつしか鳴らなくなった。
ただ、世の中というのは残酷なもので、平等という概念はあるものの実際にそんなものはない。持っている者はなんでも持っているし、持たざる者は当たり前の権利ですら奪われることがある。
みうちゃんがバイト先からクビを言い渡されたのは先日のことだった。『協調性がない』、『愛想がない』そんな不当とも言える理由だったらしい。雇い主曰く、
『最低限のことをするのは当たり前。それ以上のことをやって初めて報酬がもらえる』
とのことらしい。
ともかく、梯子を外された形となり明日すらどうなるか分からない状況になってしまった。思い出のピアノを売ったものの思ったほどの金額にならず、納得いかずに複雑な気持ちを抱えながら楽器店を出たところで私と会った。
*
語り終わった後のみうちゃんはまた顔を俯かせてしまった。
なんというか、取り調べしている気分になってきた。もっとも、みうちゃんは何も悪いことしてないんだけれど……。
「大変だったんだね……」
月並みで申し訳ないが、それが率直に口をついて出た言葉だった。
同い年くらいの子が家族のために身を粉にして働いている。それはどれだけ大変なことか。バイトをしているとはいえ、あくまで自分自身のためである私には想像が出来ない。そんな苦労を、重責を彼女はしてきた。
その対価として得るものは当たり前のはずの平穏。いや、華の女子高生である彼女からしたらそれは到底釣り合うものではない。
もしかしたら気の合う友達ができて毎日楽しげに談笑する未来があったかもしれない。そのピアノの実力で合唱部では伴奏を任されたかもしれない。放課後か週末には友達と遊びに行ったかもしれない。
そんな可能性全てを投げ捨てても辛うじて得られるのが家族との平穏な一時。
(でも、それすらも……)
思わず両手をきつく握ってしまう。
「白雪さん?」
「え?」
みうちゃんの声に顔をあげると怯えながらも、心配そうにしている。
「辛そうですけど……大丈夫……ですか?」
その一言に鼻の奥がツンとくる。
(なんでこの子は……自分が辛い状況にいるはずなのに、他人を心配出来るの?)
自分がみうちゃんの立場なら、他人を思いやる余裕なんてないだろう。それどころか、自分より恵まれた環境に嫉妬やら黒い感情を抱くだろう。
そう考えると、目の前の彼女の優しい心と自分の情けなさ、社会の理不尽さに頭がごちゃ混ぜになりーー
「……っ」
「え、え!?」
涙を流すのに時間はかからなかった。
「……なんかゴメン」グスッ
「ぁ、いえ……落ち着きました?」
「うん……」
しばらく店員さんやら周囲の人やらの奇異の視線を浴びながらもようやく涙が止まった。変に注目を集めてしまい、みうちゃんには申し訳ないことをした。
ところでーー
(顔面ドラムしたり、急に泣き出したり……まるで病んでるみたいじゃん)
今日の自分を振り返り、みうちゃんに変な奴認識されていないか不安を抱くと共に自己嫌悪に陥る。
そして今からみうちゃんにあえて辛い選択をさせる悪い奴になる。
「みうちゃん……アイドル、やらない?」
「ぇ……」
いや、選択なんてものはない。
「みうちゃんの大事なもの……家族を守るためにはそれしかないと思う。いや。それしかないの」
これから彼女が新たにバイトを探すとして、面接をしなければいけない。即採用されればいいが、そうならないかもしれない。今回みたいにクビを言い渡されるかもしれない。そう考えるとまとまった収入なんてものは入らないだろう。
しかし、100%採用確定でまとまった収入が確実に入る仕事が現在目の前にある。しかも面接なんていらないし、彼女自身が手を伸ばせば手に入る。
(これって本来なら合田さんの仕事だと思うんだけど……)
口下手というか、必要最低限しか話さないマネージャーを思い浮かべる。
もっとも、彼は壁信者だろうから『壁の指令は絶対です』で終わるのだろう。
(もう壁と結婚しちゃいなよ)
八つ当たりがてら、小学生のような悪態をつく。そのくらいは許してほしい。
「でも、みうちゃんは一人じゃない。私がみうちゃんを守るし、桜だってみうちゃんの味方だよ。それに同じ道を行くのが6人もいるんだもの」
桜はきっと何があってもみうちゃんの味方だろうし、みゃーこも、麗華も、ジュンも、あかねも、絢香も、ニコ……斎藤さんだってみうちゃんのことを歓迎してくれるはずだ。
ん? 何故斎藤さんだけ名前呼びじゃないって? ほら……大御所って感じしない? 雰囲気とか……。別に初日に拒否られたからとかじゃないよ? ……うん。
「だから……嫌だろうけど、アイドルやろう?」
うん。自分で言っておきながらこれはないね。間違っても私の将来にスカウトの道はない。セールスマン……セールスレディ? の道もないね。……なりたいとは思わないけど。
これじゃあさっき合田さんを『口下手』と言ったけれど、人のこと言えないな。
「……はぃ」コクリ
そんな私の勧誘ーーと言っていいのかな、コレーーにみうちゃんは戸惑いながらも(渋々?)頷いてくれた。
それに私は胸を撫で下ろす。
「じゃあ、私はこっちだから。またね」
ファーストフード店から出て、帰る運びになったのだがーー
「ぁ、白雪さん」
みうちゃんに呼び止められた。
「どうかした?」
「えっと……ハンバーガーのお金……」
どうやら先程の支払いのことらしい。
「あー……誘ったのは私だから、私の奢り! ってことでダメ?」
「ダメです」
おう、意外と自分の意思をハッキリ言えるのね。
でもなぁ……さっきの話を聞いちゃうともらいにくいんだよね~。
でも、そうすると施しみたいに思われちゃうし……
「今、細かいのがなくてさ~」
あ、ダメだ。有無を言わせないって感じで財布を取り出そうとしてる。意外と頑固ちゃん?
「じゃあ、こうしよう。私が困ってるときにはみうちゃんが助けて? それで相殺ってことで」
奢りでもなく、嘘でもない。謂わば未来への投資。もっとも、ハンバーガーと飲み物の代金だからそんなに大層なことをお願いするつもりはないけど。
みうちゃんも承諾してくれたのか、財布をしまった。
「それと名字じゃなくて名前で呼んでほしいかなぁ~。あと、敬語は無しで。友達なんだし」
「えっと……」
「うん?」
「それはお願いには「含まれません♪」ぁ、はい」
そこまで相殺したいのかな?
みうちゃんが意外にも強かなのに少々驚いた。
*
「時間です、始めてください」
数日後、都内某所ーーというか例の壁の間で斎藤さんの声が無慈悲にも響く。
「で……でもみうちゃんが……」
「前回も勝手にいなくなったし、やる気のない人とはチームは組めないわ」
まだみうちゃんが来てないことを桜が告げるも、前回帰ったことを踏まえてやる気がないからだと切り捨てる。
「ま、まぁ……そこまで言わんでも。何か事情あるかもしれんし」
「人生の岐路……みんなそのつもりで来たはずよ。事情がある? それが彼女の答えだわ!」
みゃーこが斎藤さんを宥めつつも、みうちゃんにも事情があるだろうと進言するも、収まるどころかさらにヒートアップする。
焦燥、苛立ち、困惑……そんな感情が渦巻くなか、私は悠然とソファーに座っている。別にこの状況を楽しんでいるわけではない。
『みうちゃんと約束した』ただそれだけのことでも彼女が来ると信じているからだ。
もっとも、約束したからといえみうちゃんの人生なのだから当然みうちゃんに決める権利がある。約束とはいえ、契約ではなくただの口約束なのでみうちゃんが来なくても問題はない。
もっとも来たら来たで嬉しいし、来なかったら、彼女なりに悩んで決めた結果ってことで尊重するつもりだ。
「あの! もう少しだけ待ってもらえませんか? 私、来ると思うんです……みうちゃんは必ず」
「!」
いや、私はバカか。みうちゃんと短い時間ながらも一緒にいた桜が無条件で信じてるのに、約束した私が『みうちゃんが来なかったら』のことを考えてどうする。それこそ約束を破ってるのは私じゃないか!
「何を根拠に……」
「いや、みうちゃんは絶対に来るよ」
一斉にみんなの視線が私を捉えた。
「約束したからね」
「約束って……子供じゃないんだから」
「桜はみうちゃんが来るって信じてる。私も信じてる。……斎藤さんは? 信じてないの?」
言うと、斎藤さんの眉がさらにつり上がり、私を睨み付ける。
(あ、ヤバ……やりすぎたかも)
思わず煽ってしまい、斎藤さんがこちらに詰め寄ろうとした時ーー
バァァァァン!!
扉が開け放たれた。
みんなの視線が今度は扉の方へと向けられる。
「お待ちしておりました」
合田さんが落ち着き払った声で来訪者を出迎える。
「あなたのために来たわけじゃない!」
おそらく走ってきたのだろう。少々息をきらしながらも、来訪者ーーみうちゃんは大声で告げる。
「大人なんか嫌い……選別……指令……指示……強制……みんな勝手で大嫌い」
「アイドルだって同じ! 面白くないのに笑ってふりふりの衣装着てお客の前でお尻振って馬鹿みたい!」
「じゃああなたは何故ここに?」
みうちゃんのいきなりのアイドル批判に(または大きな声出せたんだと)一同が驚愕するなか、1人冷静に続きを促す合田さん。
「一番やりたくないことをしに来ました。やりたくないことをしなきゃ大人になれないっていうのなら、大切なものを守れないって言うのなら……」
「世界一のアイドルにだって何にだってなってやる!」
巻いていたマフラーを外して、握りながら突きつけ宣言するみうちゃん。
そしてそれに呼応するかのようにーー
ゴゴゴゴゴゴゴ
「!!!!」
部屋中が振動し、『壁』が輝いた
そして、金属のプレートが『吐き出された』
『ようこそ22/7へ』
これがすべての始まりだった。
一応、凛子の見た目としては『BanG Dream!』の今井リサの黒髪バージョンとお考え下さい。(髪の毛は基本は結わない状態)
お気に入り、感想などお待ちしております。