22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします(今さら)
 今回はあの水着回……の序盤になります


ナナブンノニジュウニ、南へ

 『正義』とは正しい行いをすることである。

日朝タイムだったり、制限時間3分間の光の巨人だったりと分かりやすく例えられているけれど、彼らのようなヒーロー、ヒロイン側が所謂正義だ。……最近のは『正義だ!』と胸を張って言えるか甚だ疑問な振舞いをするキャラもいるけど。

彼らに相対するのが悪の組織だったり怪人だったりする。これも非常に分かりやすい構図だ。

 

 じゃあそれを現実に当てはめようとすると、そんなに簡単なことではなかったりする。

『正義の反対が悪』というのは稀で、大体が『別の正義』だったりする。

国も人種も人も違えば『正義』、ひいては『正しい』とするものが違ったりするものなのだから。

 

 

 

 

「おはよー……何これ?」

 

 部屋に入ると、テーブルの上には『指令』のプレートが、それも20枚も……

 

(え? 警察の押収品か何かかな?)

 

 テレビでしか見たことないけどテーブルだったり道場の畳に広げられているソレに酷似していた。

とはいえ、こっちの方が(物としては)そこまでひどいものではないけれど。

 

 

「誰か当たり引いちゃったの?」

 

「いや、自販機じゃないから」

 

「そもそもここまで出るとなると相当な確率よ」

 

 私のボケに絢香と麗華が突っ込む。

いつもは1枚か2枚程なのに、それが20枚。それも合田さんの話では一夜にしてとのこと。そりゃあボケたくもなるよ。

 

「カクレクマノミの産卵やん!」

 

「詳しいですね」

 

 みゃーこの一言にあかねが感心する。

まさかみゃーこが魚に詳しいとは私も思わなかった。

 

「昨日映画で見てん」

 

(あ、そういうことね)

 

 別に詳しいワケではなくて、名前を出すのも恐ろしい、某ネズミで有名な会社の劇場アニメを放送していたのを見て知ったらしい。

 

「あ、私も見た! 『ファイティングーー』「「いや、戦ってないから!!」」あれ?」

 

 ジュンの間違いに私と麗華がすかさず突っ込んだ。

確かに間違えやすいけれど、何が悲しくて『拐われた息子を探す親子のハートフルストーリー』が『僕より強いヤツに会いに行くハートフルストーリー』になるのさ。

 その辺含めて藤間先生にご指導してもらってください!!

え? 英語圏では『ハートフル』じゃなくて『ハートウォーミング』って言うの!?

 

「「学びだわー!!」」

 

 

閑話休題

 

 

いつまでも放置しておくワケにもいかないので、そろそろ指令を確認していこう。

 

(また弾丸で行かなきゃいけない仕事あったりすると悪いし)

 

「えーっと……ニコルちゃんはファッションモデルのお仕事」

 

「へぇ」

 

(先生! 斎藤さん、平静を装ってるけど、嬉しさ7割、それを隠そうとしてる気持ち3割って顔をしてます!!)

 

 桜が指令を読み上げると、いつも通り本を読んでいるニコるんの口角が上がる。

 

「都ちゃんにはラジオのパーソナリティーだって」

 

「ラジオマジ!?」

 

 みゃーこにはラジオのパーソナリティー。『浪速のおしゃべりガール』を自称する彼女にとっては最高の舞台だろう。

前回のラジオ出演で何か光るものを感じたのだろうか。……やらかさないか少し心配だけど。

 

「みんなにもあるよ~」

 

 桜には英語の教育番組のお姉さん、麗華には料理番組のアシスタント、あかねにはクイズ番組……

 

「グループでの歌番組出演やイベントゲストなどもありますね」

 

「差し入れにまで指示してきてるやん……」

 

「いーじゃんいーじゃん! シュークリーム好きだし」

 

 個人の仕事だけではなく、グループ単位での仕事や、差し入れにも指示がーー

 

「いや、差し入れってこっちがする側? される側の指定だと指示されてもどうしようもなくない!?」

 

 ケータリングとかならいざ知らず、差し入れともなれば共演者さんとかスタッフさんのご厚意だ。

それを『私たち、差し入れはシュークリームだけって決まってますので~』と断るアイドルグループ……普通に業界で干されると思うけど……

 実際は、その場はありがたく頂戴して、後で『スタッフがおいしくいただきました』って感じになるんだろうけど……

 逆に差し入れする側だった場合。

現場現場で差し入れするけれど、全てがシュークリーム……『シュークリームの子達』と現場で噂になってそうだね。

もしかしたらシュークリームの案件が来る可能性もある?

 

「あ! これ、凛子ちゃんのお仕事だね!」

 

 そう言って桜から渡されたプレートは2枚

1枚はーー

 

「嘘っ!? 『熱唱王』!?」

 

『熱唱王』。アマチュアから演歌歌手、オペラ歌手や某有名劇団の劇団員などが一堂に会しガチンコ勝負をするバラエティ番組。

0コンマ何点というほんの僅かな差で勝敗が決する厳しい世界。大半が90点台を叩き出す魔境。

 

「マジで……」

 

 確かに歌なら『まだ』自信があるけど……あの人たちと自分の歌声で渡り合えるだろうか……

 

「すごい! すごいよ!!」

 

「ちなみにもう1つは~?」

 

 『熱唱王』のネームバリューの衝撃で失念してたけど、もう1枚あるんだった。

 

「は?」

 

 これまた衝撃を受けた。……別な意味で。

 

『白雪凛子 カラオケで100点とるまで帰れ9(ナイン)に出演』

 

「え!?」

 

「嘘!?」

 

 

『帰れ9』。メンバー9人で様々な企画にチャレンジしていく月曜ゴールデンのバラエティ番組。メンバー同士で協力する企画もあれば、勝ち抜け方式の企画もある。

チャレンジ中に朝日を拝むことが多々ある。

酷い時は昼頃にようやく終わる場合もある。

 

 

「何かの間違いですよね?」

 

 淡い期待を込めて合田さんに視線を向ける。

 

「いえ、指令の通りです」

 

 うん、知ってた。

 

「『壁』の指令はーー」

 

「絶対です」

 

 私の言葉を引き継ぐように合田さんが告げる。それ以上の言葉は必要ないようだ。

 

 よし!

 

「凛子! ストップ! ストーップ!!」

 

「大丈夫大丈夫! つるはしか何かあればいいから!」

 

 元凶(壁)を殴り(壊し)に行こうとする私を前からジュンと桜がしがみつき、麗華が後ろから羽交い締めする形で止める。

 

「お止めください」

 

「何で私だけ自分自身とコンプライアンスと戦いながら収録せにゃいかんのさ!!」

 

 私、17歳! 未成年! もちろん午後10時以降の収録なんて行えるわけがない。

 

「あれ?」

 

「「「わっ!?」」」ドサッ

 

 急に私が馬鹿力を抜いたところで止めようとした3人が、私を含めもみくちゃの状態になる。

 

「そもそもこれだけの仕事全部なんてさすがに実現不可能でしょ。勝手にやりたいって言って出来るものでもないし」

 

 私と同じ考えに至った絢香が口を開く。

そう、御披露目ライブの時も、『マンデー』の表紙グラビアの時も先日の『ITF』の時も規模は大きくとも、仕事は1つだった。ーー枠をねじ込めたことは驚きだけれどもーー

 今回は複数の、それもメンバーでだったり個人だったりとバラバラ。それを今から獲るなんてことはーー

 

「それが出来るんです」

 

「は?」

 

 事も無げに合田さんがサラッと言ったから思わずアホみたいな声が漏れた。

そんな私の反応を咎めることなく合田さんが続ける。

 

「これらプレートに書かれている仕事は全て各企業様から事前にオファーいただいているもの。つまりお話をいただいていた仕事の許可が壁から出てきた形となります」

 

(うん?)

 

 驚きの展開の連続で頭がフリーズしてきてるんだけれど……オファーが来ている!? いつの間に? そんで、『壁』が許可を出している?

 周りを見ればみんなもピンと来てないようだ。困惑してるのが見てとれる。

 

「壁は知っていた、ということですか?」

 

「そこまでは我々には……」

 

 あかねの質問に合田さんは歯切れの悪い回答をする。

 

「すごいすごーい! 壁ちゃんすごーい! 魔法使いだね」

 

 ジュンだけは喜びながら『壁ちゃん』とダンスを踊るようにクルクル回る。

普通なら微笑ましい光景だけど、それどころじゃない。

 

 

 私達にオファーが来ている。まぁ、先に挙げた2つの案件で知名度も上がってきているはずーーもしかしたら私のシャンプーのCM&楽曲の効果も微力ながらあるかもしれないーーだから、それはあり得ることだろう。

 問題はその返事を待たせている、つまり『こちら待ち』ということだ。

 

 オファーを受ける側が芸能界の大御所だったり、今をときめくアイドルとか、話題性のあるタレントとかなら分かる。

得られるメリットの方が大きいから枠を空けておくことも吝かではない。

 一方で話題はそれなりにあるものの、高々新人アイドルに枠を空けておくだろうか?

得られるものだって微々たるもの、むしろデメリットの方が大きいかもしれない。

それともーー

 

(それほどまでに『壁』が大きな影響力を持った存在なの?)

 

 自分の思い至った答えに思わず身震いした。

 

 

 

「その中で1つ異質なものがありました」

 

(私への指令も異質だと思うんですがねぇ?)

 

 私の心の中での突っ込みを知るよしもなく、合田さんが1枚のプレートを示す。

 

『リーダーは佐藤麗華とする』

 

(あぁ、そういえばリーダーって決まってなかったっけ)

 

 なんとなしにここまで来たものの、リーダーを決めていなかったことに今になって気がついた。

 

「ちょ……ちょっと待ってよ! そんな急に言われても……」

 

 指名された麗華は当然慌てた。

まぁ、寝耳に水だもんね。

 

「でも壁の指示やし有無を言わせへんのやから決まりなんちゃう?」

 

 そう、私達や合田さんが決めたのではなく『壁』の指示。そこに干渉の余地は残念ながらない。

 

「でも……!」

 

「賛成です。佐藤さんは真面目で誠実。責任ある姿勢はまさにリーダーの資質です」

 

 食い下がろうとする麗華にあかねが冷静な視点で分析する。

 

「「「うんうん」」」

 

 その分析にニコるんも含めて全員が頷く。

 

「り、リーダーだったらニコルの方がーー」

 

「私パス」

 

 即拒否されて取り付く島もなし。

 

(まぁ、エースとキャプテンとかは一緒にしない方がいいって言われるしね~)

 

 それでも何とか突破口を切り開こうとする麗華は周りを見渡してーー

 

「!!」

 

(あ、やばい……)

 

 私と目が合った。合ってしまった。

 

「凛子! そうよ! 凛子ならいいじゃない!!」

 

 ズンズンと私の方へ向かってきて、後ろに回って私の両肩を掴む。

 

「ちょっ!? れ、麗華さん? 少し、少~し力が強いかなぁって……」

 

 何とか引き剥がそうとするも、真後ろを取られた上に肩をむんずと掴まれると抗おうにも抗えない。

 

「ね? 凛子ならいいとみんなも思うでしょ?」

 

 みんなに圧を掛けつつ、私には二重の圧を掛けてくる。あ、背中にも当たってるから三重か。

 

「凛子ちゃん? 凛子ちゃんかぁ……」

 

「りんりんね~……」

 

 麗華の圧を受けて、早くも懐柔されそうになってるジュンと桜。

 

(頑張って、そこは自分の意見を強く持って!!)

 

「いや、リリィじゃダメだろ」

 

(絢香~! 信じてたよ!!)

 

 ここで反対意見を出したのは絢香。

 

「リリィだったらなにやらかすか分かったもんじゃないし、そもそもハードな自主トレしだしたら、ストッパーがいないじゃん」

 

(絢香ぁ!!)

 

「う~ん……」

 

 それを聞いて麗華も悩み出す。

その瞬間、私を押さえていた手の力が緩んだ。

 

(今だ!)

 

 不本意な形にはなったが、その一瞬をついて膝の力を抜くことで拘束から脱出。

クルリと後ろを振り返り、行き場のなくなった麗華の両手をすかさずとる。

 

「大丈夫、麗華ならみんなを纏められるから。何も全部の責任を麗華1人で背負うことはないから。麗華の手の届かないところは私もバックアップしていくから。ね?」ギュッ

 

 麗華の両手をギュッと握りながら、しっかりと目を見て語りかけるようにゆっくりと告げる。

 

「う、うん……」カァッ

 

 顔を赤く染めながらも頷く麗華。

もう少しだけど油断はしない。ここで押し切る!

 

「麗華に、麗華にならリーダーも務まると思う。受けてくれるかな?」

 

「う、うん」

 

 目を反らそうとする麗華に合わせて視界に入るように移動しながらもう一押し。

 

「ホントに?」

 

「うん。……だから離して」カァッ

 

「そう? 良かった! やっぱり麗華だ」パッ

 

 顔を真っ赤にした麗華から言質をとったところで握っていた手を離す。

 

「と、いうことで合田さん。お願いしますね?」

 

「あ……はい」

 

 ん? なんで恐ろしいものを見た、と言いたげな顔でこっちを見てるのかな?

 

クルリ

 

 みんなの方に視線を向けると、これまた反応が様々。

 

 みうちゃんは目を丸くしてるし、桜、ジュン、みゃーこは『キャー!』と言いつつ目を覆いながら指の隙間からこちらをチラチラ見てくるし、ニコるんは冷静に本を読んでるように見えるけど、顔紅いし……

 

「やっぱりリリィだわ……」

 

 絢香は『やれやれ』と言わんばかりに呆れてるし、

 

「白雪さんはやっぱり『たらし』ですね」

 

 あかねは、どストレートに言ってくるし。

あと、たらしじゃないです。

 

「では、そういうことで沖縄に向かいます」

 

……ん?

 

「合田さん? 今なんと?」

 

「沖縄に向かいます、と」

 

「……Why?」

 

「ですから、写真集の撮影で」

 

「え?」

 

 唐突過ぎて話についていけないんだけど……

 

「「おっきなわ、おっきなわ~」」

 

 数名ほどは海ということで受かれてるし、その他のメンバーにも動揺は見られない。

 

「や、さっき説明してたから」

 

「白雪さんは何か考え事されてたみたいですが」

 

「うそ~ん……」

 

 これからは自分のロッカーに急な遠出用にお泊まりセットを用意しようと強く誓った。

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