22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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 少し遅めのバレンタインプレゼントです
プレゼントになるのか!?(ならないなら)じゃあ消してくれw


ナナブンノニジュウニ、南へ 2

 羽田空港を出て3時間弱、沖縄の玄関口那覇空港に降り立った。

 

「おっきなわ~、おっきなわ~、めんそ~れ~」

 

 フライトから解放されたからか、ジュンはかなり楽しげだ。いや、飛行機の中でもそれなりだったかもしれない。

 

「ちょっ! ジュン、静かにして」

 

 怒りよりも恥ずかしさからか、注意する麗華の顔が紅く染まる。

 

「みうちゃん、みうちゃん。なんでジュンちゃんはメンソールを求めてるの??」

 

「えっと……」

 

 事情の分からない桜は隣のみうちゃんに尋ねるけど、みうちゃんはどこから説明すればいいか困惑している。

 

「戸田さん。『めんそーれ』はようこそという意味です」

 

「え!? そうなの!?」

 

 あかねの指摘にすっとんきょうな声をあげるジュン。

やりとりを聞いていたのか、周りから忍び笑いが漏れる。

 

 麗華の顔が一層真っ赤に染まり、小声で『静かにしてー』と言うものの、止まらない。

 

「じゃあ、やってきたよ~って伝えるのは何て言えばいいの?」

 

(いや、そもそも伝える必要はあるのだろうか……)

 

「そんなん簡単や」フフン

 

 そんな私の突っ込みを知ってか知らずかーーいや、知らないだろうけどーーみゃーこが不敵な笑みを浮かべ胸を張る。

 

「ようこそが『めんそーれ』なら、それを逆に言えばええねん!」

 

 アホみたいなことを言い出した。

 

(いや、そんなのに引っかかるわけーー)

 

「そっかー! じゃあ、めんそーれだから……れー……れーそんめ!」

 

(んなアホな……)

 

 今度は謎の単語、『れーそんめ』と言いながらポニーテールをピョコピョコ揺らす謎の少女(ジュン)。

 

(そろそろ誰か止めてあげて~)

 

 私の願いは天にーー

 

「れーそんめ~、れーそんめ~」

 

 届かなかった。それどころか、一緒になって頭を揺らす被害者(桜)

 

「「フフフ……」」

 

 周りから漏れていた忍び笑いが失笑に変わった。

あ、麗華も注意するのを諦めて他人のフリし始めた。

あかねもなにやら呟いてーー口の動きから察するに、『バカばっか』と言ったのかな?ーー麗華と同じく他人のフリをした。

みうちゃんはこんなカオスな状況にオロオロしだした。

元凶(みゃーこ)は腹抱えて笑ってるし、誰がこの地獄を収めるんですかねぇ……

 

私? 私はーー

 

「地面に足が着くって素晴らしいことだったんだね……」フラフラ

 

「何顔青くして悟ったような顔してんのさ」

 

「白雪さんにも苦手なものってあったのね」

 

 絢香とニコるんに介護されてます。はい。

両脇から支えてもらい、絢香が私のベルトを掴むことでなんとか安定してる状態です。

 

「いやニコるん。そもそも人間ってね、空を飛ぶように出来てないんだって。それをライトな兄弟を始め色々な人が試行錯誤して、飛行機って乗り物でごまかしてるにすぎないんだって」フラフラ

 

 くそう、名前からして陽キャなヤツめ!

 

『空飛びたいと思わないかブラザー!』

 

『そいつは最高にファンキーだなブラザー!』

 

 とかいう理由に違いない。これだから陽キャは……(当て付け)

 

「それだけ口が回るんなら大丈夫そうね」ヤレヤレ

 

「いやコイツの場合、やせ我慢で言ってるだけかもしれないし」ニヤニヤ

 

 呆れているニコるんに絢香は悪い笑みを浮かべながら言う。

いや、何で分かるの? エスパーなの?

 

「そもそも人間なんて完璧じゃないんだよ。出来ないこと、苦手なことの1つくらいあって当たり前なんだって。ニコるんだってそうでしょ?」フラフラ

 

「そんなことないわ!」

 

「……勉強、苦手でしょ?」

 

「……そんなことないわ」フイッ

 

 私の指摘にニコるんは視線を反らす。

ねぇ、ニコるん。こっちむいて~?

 

「あ、今ので察しましたわ。ハイ」

 

「……」

 

スッ

 

「「ちょっ!?」」グラッ

 

 気分を損ねたニコるんが急に離れたことでバランスが崩れた。

 

「……フンッ!」

 

 それでも大して距離をとってない上に私の荷物も持ってくれているニコるん……やだ、ツンデレさん。でも好き……

どうやら『れーそんめ』騒動も合田さんが終息させたようだ。

 

「あ~……そらがあおい……たいようがいまいましい……」ウゥー

 

 空港から一歩出ると空の青さと明るさで目が眩む。

 

「いや、何二日酔いしたサラリーマンみたいなこと言ってんだよ」

 

「徹夜した時の絢香、大体こんなこと言ってるけど……」

 

「……」

 

パッ

 

「ちょっ!? へぶっ!?」ベチャッ

 

 絢香が掴んでいた私のベルトを放したことでバランスを崩し、地面に熱々のキスをした。

 

それはとても熱かったです。

 

 

 

 チャーターしたマイクロバスに揺られ、ようやく撮影現場となるビーチ……の駐車場に。

その間、合田さんにジュン、みゃーこ共々お小言をいただき(桜は被害者なので軽い注意で済んでいた)、ニコるんと絢香にひたすら謝り倒し、『願いを3つ叶える』という魔法のランプ(または3枚のお札)方式で手を打ってもらった。

まぁ、自業自得なので仕方ない。よっぽどのことじゃなければ大丈夫だろう。

たぶん、おそらく、maybe……

 

 先々のことをいくら考えたって仕方ない。

そんなことよりーー

 

「やったぁー! 海だー!!」ダッ

 

 目の前の仕ごtーー

 

「はしゃぎすぎじゃないですかねぇ!?」

 

 みゃーことジュンが競うように海に向かって駆け出す。先ほど怒られたとは思えない気の変わり様だ。

 

「仕事だってこと忘れないでよ~!!」

 

「「ハァーイ!!」」バシャバシャ

 

 海は人を開放的にさせるとはいうけど……ホントに大丈夫だよね?

 

「みうちゃんかわいい~。やっぱり肌白~い」サスサス

 

「そ、そうかな……」

 

 みうちゃんと桜は仲良さげ……桜? 少し近い気がするんだけど? 気のせい?

みうちゃんが気にならないなら良いんだけど……

 

「って、2人とも今度は何してるの?」

 

 さっきまで海ではしゃいでた2人が戻ってきて、何故か浜辺で正座していた。

自主的に説教待ちのスタイル?

かと思えば両手を合わせている。

2人の視線の先にはーー

 

「控えおろう~♪」

 

「いや、ホントになにしてるの!?」

 

 妙にノリノリの絢香といつも通り無表情のあかね。

というか、アンタはどこのちりめん問屋のご隠居様だよ!?

そのうち『みやさん、ジュンさん、参りましょうか』とか言い出しかねない。

どっちもうっかり枠だと思うんだけど……

 

「「ははぁ~!」」

 

 先の2人はそんな絢香(と、あかねもかな?)をなにやら拝んでるしーー

 

「ん?」

 

 拝んでる2人の目線は絢香ーー正確には体の一点に向けられている。

 

(胸?)

 

 ひたすら絢香の胸に対して『ありがたや~、ありがたや~』と……

 

(胸を拝む……あっ! 参パイで参拝!)

 

「って、なんでやねん!」

 

 思わず突っ込んでしまった私を誰が責められようか。ついでに言えば『絢香にあやかる』と二重で掛かっているのが小憎たらしい。

 

「あ、こっちにもおるやん!」

 

 と、私の突っ込みに釣られたのか矛先が私にーー

 

「「ありがたや~、ありがたや~」」

 

「いや、ホント、止めて?」

 

 拝まれても何もしてあげられないから……

それで大きくなったら、世の中の女性は苦労してないよ。

というか、砂浜に正座って熱くないの? 君たち。

 

「「熱っ!!」」ジタバタ

 

「ばぁ~か♪」

 

 案の定しばらくすると我慢できずに立ち上がろうとするも、足が痺れて立てずにのたうち回る2人。因果応報だね。

 

「っていうか……なんでそのぬいぐるみ持ってきたのよ」

 

 ニコるんの目線の先にはデッキチェア……って言うのかな? に鎮座する我らが元凶……を具現化した……という設定の例のぬいぐるみ、『壁ちゃん』。

レイ(花の首飾り)にアロハシャツ、麦わら帽子に傍らにはトロピカルジュースというサマーバケーションスタイルだ。

 

(うん、なんか小憎たらしい)

 

 本来なら微笑ましく思えるのに、どこか苛立ちを覚えるのは、見た目がメガネをかけたおじさんに見えるからだろうか?

 

「だって『壁ちゃん』のおかげの沖縄旅行だもん。置いてくるなんてかわいそうだよ~」

 

 持ってきたのはやっぱりジュンだった。

ていうかーー

 

「完全に旅行言うたやん」

 

「これ、仕事なんだけどなぁ~」

 

「戸田さんにプロ意識を求めるのは無意味です」

 

 あかねの辛辣な一言ーー『無理』じゃなくて『無意味』と来たかーーもジュンは意に介さない。

ジュンの中ではこれは最早沖縄旅行という認識らしい。

……まぁ気持ちは分からなくないけど。

 

 青い空に碧い海(本州の海と違って本当に碧い!)、白い砂浜。しかも私たち(とスタッフさん)以外は誰もいないときたら、そりゃあテンションも上がる。

 

「でも、沖縄で写真集の撮影だなんて楽しみだね」

 

「うん」

 

(あぁ、嬉しそうなみうちゃん……てぇてぇ……

)

 

 そんなこんなでスタッフさんが機材をセッティングしているなか、私たち『8人』は待機ーー

 

「ん?」

 

 スタッフさんとなにやら打ち合わせしてるニコるん、自撮りしてる絢香とジュン、談笑してるみゃーことあかね(笑ってるのみゃーこだけだけど)、桜とみうちゃんと私……

 

「あれ? 麗華ちゃんは?」

 

 そう、リーダーになった麗華がいなかった……

 

 

「合田さん! どうなってるんですか!?」

 

(おっとぉ!?)

 

 とりあえずパーカーを引っかけ、サンダルを履いた状態(水着に裸足よりはマシだよね?)でバスまで戻ってくると、麗華の怒号が聞こえた。相手は合田さんのようだ。

咄嗟にバスの影に隠れて聞き耳を立てる。

 

「ーーーー」

 

「水着の撮影なんて聞いてません! しかもこれーー」

 

(んー?)

 

 大声だと聞こえるものの、普通の話し声だと所々でしか聞き取れない。

 

「ぶ……武器!? こんなはしたない格好して、いたずらにファンを扇動することが悪質だと言っているんです!!」

 

(あ~……)

 

 つまるところ、水着での撮影がアイドルとしては如何わしいものなんじゃないかと思っているらしい。

 

(まぁ、普通に生活してればそういう機会は無いしね……)

 

 もっとも、昔なんかはプールを使って大運動会~ポロリもあるよ~的なのを平然とテレビで放送してたらしいし、そう考えると比較的マイルドになったと思うけどね。

 

(というか、沖縄まで来て海での撮影がないわけーー)

 

「凛子ちゃん、何してるの?」

 

「!!??」ビックーン

 

 不意に後ろから声をかけられて振り向くと、桜とみうちゃんがいた。

 私がこっちに来たもんだから追けてきたのか?

 

「シーッ!」

 

「「??」」

 

 とりあえず大声を出さないように人差し指を口に当てつつ、バスの中の様子を探るべく耳をそばだてる。

 

「ーー」

 

「ーー」

 

 会話が途切れていないところを見ると、こちらに気づいた様子はないらしい。

 

「さ、戻ろうか」

 

「え? 何か用事があった訳じゃないの?」

 

「い~から、い~から~」ソソクサ

 

 2人を伴って、合田さん達にバレないようにバスから離れて撮影に戻った。

 

 

 

 

「白雪さん、もうちょいこっちに目線もらえる?」

 

「えっと……こんな感じですか??」

 

「お、いいね~!」

 

 結局、麗華が来ないままに撮影が開始された。

波打ち際ではしゃいだり、トロピカルジュース飲んだり、砂浜に寝そべってみたり……

ビーチボールをレシーブしたジュンが勢いで絢香に砂ぶっかけちゃって追いかけられてる。

 

(まるでギャグマンガみたい)

 

 

「麗華ちゃん来なかったね~」

 

 ペア単位、グループ単位での撮影もあらかた終わっての休憩時間。

麗華が現れる気配は一向に無かった。

 

「ねぇ、いつ来るの~? 早く麗華と一緒に撮りた~い~」

 

「休憩をはさんだ後、個人撮影という予定ですのでまだチャンスはあるかと……」

 

「でもあの様子じゃあ、な」

 

 そういえば私と入れ違いでみゃーこと絢香が麗華のところに行ったんだっけ。

私と違ってバスの中に入って直に話してきたらしいけど。

 

「あーあ、ホント何を頑なになってるんだか」

 

 絢香が呆れる中、動き出した人物が1人

 

「あ、あの……どこに……」

 

「散歩」

 

 簡潔に答えるとニコるんはスタスタと行ってしまった。

 

(あれは……まぁいいか)

 

 たぶん麗華の所に行ったんだろう。……もめ事にならなきゃいいけど。

 

「まるで天岩戸だなぁ……」

 

「あま……んと?」

 

 私の呟きにらんらんが首を傾げる。

 

「いや、それは違う! なんて言えばいいかなぁ……『北風と太陽』?」

 

「「あー……」」

 

 噛み砕いた説明に同意の声が上がる。

 

(でもニコるんじゃ太陽は無理な気が……)

 

 言葉には出さないけど、たぶん皆同じことを考えていると思う。

別にニコるんのやり方がダメというわけじゃない。発破をかけるやり方、それ自体は有効な人だっている。

でも、根本的な何かが奥底にある場合……それはトゲとなって突き刺さるだけだと思う。

 

 

「やっほ」

 

 自分の分を終えた私は再びバスへ。

今度はドアを開けて麗華に声をかける。

 

「……今度は凛子ってわけね……」

 

 バスの後部座席、そこで膝を抱えた状態で麗華は座っていた。

 

(んー……思いのほか参っちゃってるようで)

 

「ほい! 1人頑張るレジスタンスに飲み物の差し入れ」

 

 パーカーのポケットからスポーツ飲料のボトルを2本取って、1本を麗華に手渡す。

さすがに熱中症になってはまずいと、冷房はついているようだった。

 

「隣失礼っと。冷房利いてるとはいえ、水分は摂らないとね~」

 

 ボトルの封を開けて一口。

 

「あ、何かいる~? 塩アメ、梅干し、ガム……さすがにチョコは無いけどね~」ガサガサ

 

 自分の荷物を手繰り寄せ、ガサガサと漁る。水分だけじゃ熱中症になっちゃうしね。

ちなみに『梅干し』はコンビニのお菓子売場に置いてあるヤツ。しかも甘めの。

 

「えっ?」

 

 顔をあげてこちらを見る麗華。その顔は不意を突かれたかのように驚きに満ちていた。

 

「いや、何さ?」

 

「説得しに来たんじゃないの?」

 

「説得して欲しいの?」ニヤッ

 

「ーー」

 

(ありゃりゃ、黙っちゃった)

 

 意地の悪い返しにまたもや膝を抱えて丸くなっちゃった麗華。

 

「他の子に何言われたか知らないけど、私は話聞きに来ただけだよ」

 

 そう言って、梅干しを1つ口に放り込む。

はちみつの甘さと梅干しの酸味が口に広がった。

 

「絢香がさ……」

 

 消え入るような声で麗華がポツリと言った。

 

「うん」

 

「今の私を見ていると、答えを知ってるのに手を挙げない子を見てるようで、寂しいって……」

 

「うん」

 

 実に抽象的だけど、言ってることは分かる。

 

「ニコルには、己に与えられた責務はプロとして全うすべきだって……リーダーが聞いて呆れるって……」

 

「うん」

 

 厳しい言葉ではあるけれど、何一つ間違ってはいない。

 

「みうと桜は、抵抗ない人はいない。でも、持ってる力を使って期待に応えたいのはみんな一緒だって……」

 

「うん」

 

 数ヶ月前まで普通の女の子だったのだから、抵抗があるのは無理ないこと。

それでも各々折り合いをつけて期待に応えようとしている。

 

「凛子、私はどうしたらいいの?」ガバッ

 

 顔を上げて、すがるような目で私を見る麗華。

いつものような凛々しさは影を潜め、その目は不安で揺れている。

 

「麗華はどうしてアイドルになろうと思ったの??」

 

「え?」

 

 他人()がどうこう言うのなんてどうとでもなる。それこそ正論を吐けば済むだけの話。

ただそれで納得いくかどうかは別の話。

それが後に軋轢となって大きな禍根を遺しかねない。

だからこそ知りたい、知っておきたい。

麗華が何故アイドルになろうとしたのかを……

 

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