22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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人生はまさにジェットコースター2

「確かにショッピングモールって聞いてたけどさぁ……」

 

『舞台袖』という言い方が正しいかは分からないけど、控え室として用意された場所からちらりと覗く。

 いつもならヒーローショーを行ったりと機能しているであろうところが今日のステージ。

天井が吹き抜けになっていて、2階、3階、4階からも見下ろせるようになっている。

それはある程度想定内なんだけど……

 

(満員御礼ですやん)

 

 上の階にいる人もガラスの仕切り沿いに並び、今か今かと待っている状況。

関係ないと思うけど、私あの仕切りにがてなんだよねぇ。体重かけて外れたら……と思うとさ。たぶん高所恐怖症あるあるだと思う。

 

 あのステージに今日は2人だけ……

いつもはフォーメーションとかぶつからないようにとか考えなきゃいけないけれど、今日は振りが小さく見えないようにしないとなぁ……

2人には大きすぎるステージ。他の7人が居ないことが物理的にも精神的にも穴としてーー

 

「ねぇ、りんりん!」

 

「ふぇっ!?」ビクッ

 

 ジュンの声にビックリして現実に戻される。

 

「どしたの? トイレ?」

 

「違うよ! 私に良い考えがあるの!!」

 

 そう言って胸を張るジュンは(サイズに似合わず)大きく見えた。……あとその台詞はフラグじゃないよね?

 

「今、失礼なこと考えなかった?」ジトー

 

「ソ、ソンナコトナイヨ?」アセアセ

 

 

 

 

「それではご登場いただきましょう!22/7でーす!」

 

 アナウンスのお姉さんの声に、観客に手を振りながらステージへ向かう。

最初は歓声が上がり、次第に困惑が混じり、異変に気づいてざわつき始めた。

 

「みんなー!今ハマってるのはカスタード柏餅! お菓子だーいすき15歳! 戸田ジュンだよー!」

 

「白きりんごは魅惑の(テイスト)、溺れてみませんか? 白雪凛子です。よろしくお願いします」

 

「あれ?」

 

「2人しか居ないぞ?」

 

「他のみんなは、体調不良でお休みです」

 

「だから今日は私たち2人で22/7やりたいと思いまーす!」

 

 私達の声にざわつきが更に大きくなる。

まぁ、そうなるよね。推しを見に来た人もいれば、9人でのパフォーマンスを見に来た人もいる。

でも箱を開けてみればメンバーは2人だけ……これがケーキやピザのトッピングなら詐偽もいいところだ。

 

「えー」

 

「はい、『えー』とか言わない。ね?ニコるん?」

 

 ジュンの声を合図に、私は一歩下がる。

 

「にっこにこるんるんにこるんるん。笑顔とダンスのエンターテナー、斎藤ニコルです

!」

 

ザワッ

 

「え!? ニコるんの声!?」

 

「いやいや、音声だけっしょ?」

 

「でも今の生の声じゃなかった?」

 

(おっ、良い反応)

 

今度は一歩右へ

 

「すべての事は数値化出来るわ。だから君に係数を掛けてみたい。丸山あかねです」

 

「って不思議ちゃんかい! クールキャラどこ行ってん!」ビシッ

 

 すかさずジュンが一歩下がってツッコミを入れる。

 

「おい、あれ……」

 

 ようやく観客も私達の意図に気づいたようだ。

 

「あかん! 思わず自己紹介前にみゃーこ出てきてもうたやん!」

 

「ホントに2人でナナニジやってる!」

 

「いいぞ! 頑張れ~!」

 

 次第に歓声もあがり始める。

 

「じゃ、改めて自己紹介どーぞ!」

 

「んんっ! あー、あー。よしっ! まいd「Hey! guys! アメリカ育ちの自由奔放な帰国子女、藤間桜です!」なんでやねん!」

 

ドッ!

 

 みゃーこ(ジュン)の自己紹介に桜(私)の自己紹介を捩じ込んだことで観客が更に沸く。

 

「腹痛ぇ!」

 

「ホントにメンバーの掛け合い見てるみたいだわ」

 

 反応も上々かな?

 

「ほら、都ちゃん! 時は亀なりだよ!」

 

「金な! 誰のせいやと……まいd「にこやか、あでやか、つややか、絢香。あーやこと立川絢香でーす」ちょお!」

 

 地団駄踏むジュン。うわっ、みゃーこそっくりだ。

 

「またなん? 今の私の番やったやん!?」

 

「いや、振りかな~って」

 

「んなわけあるかい!」

 

「都ちゃん、巻き入ってるよ?」

 

 

「誰のせいやねん!」

 

 おっと、合田さんの方を見るとホントに巻きが入っちゃった。

 

「『天丼』は2回までだからね?」

 

「ん? 天丼って何?」

 

 おっと、今度は素のジュンか。

 

「後で教えてあげるね。じゃ、テンポよくいこう。はい、みゃーこどうぞ!」

 

「んんっ!まいど! 何がなくともみゃーこがおる、浪速のおしゃべりガール、河野都やで~! みんな楽しんでってなぁ~!」

 

 笑顔で手を振ってたジュン、一拍おいて目を閉じるとーー

 

「あ、た、滝川みう……です」

 

「うおー!!」

 

(かわいい!!)

 

 いつもの元気いっぱいのジュンもいいけど、こういうジュンもいいかもしれない。

あ、ジュンがこっちをジーッと見てる、そんなに見つめちゃ……

 

(あ、私か)

 

「はい、22/7リーダーの佐藤麗華です。本日はよろしくお願いいたします」

 

 危ない危ない。いつものジュンとのギャップにトリップするところだったわ……

 

「では聞いてくださいーー」

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 椅子にぐたっともたれ掛かり、ジュンがため息をついた。

 

「スポンサーが戸田さん推しで助かりました。ファンの方々にも満足いただけたようです」

 

「んぷっ!?」

 

 思わず口に含んだ水を吹き出すところだった。

スポンサーさん、ジュン推しだったのか……それはそれで命拾いした。

もし今日いないメンバーが推しだったらと思うと、少しゾッとする。

 

「それよりごはん……」

 

 やはりライブ前に食べたおにぎりだけでは育ち盛りのジュンには足りなかったようだ。

 

「こちらです」

 

 スッと合田さんが取り出したのはーー

 

「しゃーこら! からあげ来たー!!」

 

「現金な……」

 

「ですが、出発のお時間です!」

 

「「へ?」」

 

 取り出した弁当は再び没収……

 

(や、じゃあなんで出したの!?)

 

 気落ちするジュンを再びお米様抱っこして合田さんは控え室を出た。

 

(忘れ物は……なし!)

 

 どうやら今日のスケジュールは合田さんからも冷静な判断を奪っているらしい。

忘れ物がないことを確認して、私も2人を追いかけた。

 

 

 

 

「私から見たリーダー……ですか」

 

 次の現場は麗華の代理で雑誌の取材。

ファッション誌の取材かと思っていたけどどうやら違ったようで……ちなみに今回ジュンはクルマの中でお弁当を食べている。

 

「そうですね……個性派揃いの私たちを上手いことまとめてくれるリーダーですね」

 

「ほう。と言いますと?」

 

「生まれた場所も考え方も個性も全然違うわけですからね。オンとオフの切り替えもきっちり出来ない子もいるわけで……まぁ、衝突は避けられませんよね?」

 

 さすがに公に出来ないことが多すぎる(主に『壁』とか)ので、ボロを出さないように当たり障りのないことを言っていく。

 

「そこをリーダーが治めてくれる、と言うことですかね」

 

「まぁ……そうですね」

 

(正確には雷落としたり、言いくるめられたりしてるけどね)

 

 記者の方も上手く誘導してくれているので、適度にのっていくことにする。

 

「ありがとうございます。では、白雪さんが思う佐藤さんの魅力についてお伺いします」

 

(麗華の魅力……)

 

「まずスタイルですね。上背ありますし、出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んで……それでいて彼女姿勢がいいですからね! 更に強調されるわけですよ! 羨ましすぎですよ! ホントに!!」

 

「確かに佐藤さんはスタイルいいですよね。でも、白雪さんも負けてないと思いますよ?」

 

 おっと、つい嫉妬で暴走するところだった。記者さんにも気を使わせちゃったかな?

 

「んんっ、ありがとうございます。他には……彼女、家庭的なんですよね。特技に家事を挙げるくらいですし、炊事洗濯掃除なんでもござれって感じですね」

 

「なるほど」

 

「ただ……変な男に引っ掛からないか心配なんですよね。もちろん将来的な話ですよ? 今そのような方がいるわけではないですし、私がさせません!」

 

 こんな感じでインタビューが続き、雑誌のサンプルを見た麗華が私を丸めた新聞紙でひっぱたいたのは後のお話。

 

 

 

 

おふふぁへ~(おつかれ)

 

 車に乗ると頬をパンパンにした小動物がいた。

 

「そんなに口いっぱいに詰めなくても、お弁当は逃げないよ?」

 

(没収はされるけどね)

 

「んぐんぐ、ごくん。さっき起きたから、急いで食べないと食べそびれちゃうから」

 

 ライブが終わったあと、しばらくするとジュンは眠ってしまった。

 いつもより動き回ったのと、みんながいないからそれなりに気を張っていたのだろう。

緊張の糸が切れたのに加えて車の適度な揺れで気づいたら横で寝息をたてていたのだ。

 

「ところで……大丈夫なの?」

 

ふぁひは(何が)?」

 

「私、ジュンが英語出来るって聞いたことないけど……」

 

 次は桜の代打で英語の教育番組。

ジュンが無理だったら、私が出てもいいんだけどーー

 

「大丈夫大丈夫。なんとかなるよ」

 

 あっけらかんといいながら残りの弁当を口に運ぶ。

 

(それならいいんだけどね)

 

 嫌な予感がするけれど、本人が大丈夫だというのだから大丈夫なのだろう。

 

 

「ヘイガールズ。ウェルカムウェルカムイエーイ」

 

(あ、ダメだコレ)

 

 合田さんの横でお邪魔にならない様に見学していたけど、ジュンの第一声で思わず頭を抱えた。

合田さんも額に手を当ててるし、どうやら嫌な予感が的中したもよう。

もっとも、OKかどうかは番組のスタッフさんが決めることだし、『面白そうだしいっか』って空気だから大丈夫なんだろうけど。

 

『ジュンってことはJune生まれなの?』

 

 おっと、ここで思わぬ質問が飛び出した。

でも、月と曜日は中学生で習っているはずだし、聞き取れなかったとしてももう一度聞き直せばゆっくり言ってもらえるーー

 

「ジュン? じゅんじゅーん」

 

 目をそらしながら口笛吹きつつ『じゅんじゅーん』と繰り返すジュン。

えっと、戸田さん? 果たして、あの自信はどこから?

 

 

 

「戸田さんは5月生まれです!」

 

「じゅんじゅん……」

 

 例のごとくお米様抱っこされながら走る合田さん。

一方のジュンは無抵抗ながら、うわ言のように『じゅんじゅん』と繰り返す。どうしてこうなった。

あとジュン、次のお休みにはみっちり英語を勉強しようね。お姉さんとの約束だよ。

 

 

「次の仕事なのですが……」

 

 ハンドルを握り、視線は前を向いたまま合田さんが口を開いた。

ちなみにジュンはまだ『じゅんじゅん……』と呟いたまま、まだ戻ってこれていない。

そろそろ戻っておいで~。

 

「お二人を分けようと思います」

 

 というのも、次のCDお渡し会とCM撮影がの時間が割と時間が近いらしい。

元々お渡し会自体が全員参加ではなかったしね。

 

「それなら最初から分けてた方が良かったのではないでしょうか?」

 

「……」

 

 私の指摘に合田さんは冷や汗をかいている。

どうやら合田さんも思いの外テンパっているようだ。

 まぁ、指摘したところで今更なのは分かっているし、メンバー9人中7人が一斉に食中毒になったのだから冷静でいられるはずもない。

私たちに動揺した姿を見せないだけずっといいだろう。

 

相談した結果、ジュンがお渡し会、私がCM撮影という分担になった。

 

 

「「よろしくお願いします」」

 

 まず先にCM撮影の現場で監督さんに挨拶。

軽く打ち合わせして、合田さんはジュンと共にお渡し会の現場へ。

私はCMの内容をレクチャーされる。

構図としては至ってシンプル。河川敷を走って、商品を飲んで、決められたセリフを言う。説明するだけなら楽なんだけど……

 

(これ、長引くとしんどいぞ……)

 

 走ることに関しては、まぁ大丈夫だろう。

長い距離ではないし、全力疾走するわけでもない。

可愛くーー所謂女の子走りというやつでーー走ればいいだけ。

何回走らされるか分からないから、そこが懸念点だけれど。

 問題は今回の商品、スポーツ飲料を飲まなきゃいけないところ。

別にスポーツ飲料が嫌いな訳じゃないし、500mlを飲み干せ、と言っている訳じゃない。

一度に飲む量自体は少なくてもいい。

……一回で済めば、の話だけれど。

当然回数が増えれば飲む量も走る距離も増える。

10メートル走れば良いだけだとしても、10回撮り直せば100メートルになる。

しかもスポーツ飲料を飲んでからまた走るわけだからお腹も痛くなることも考えられる。

 

(可能な限り、監督さんのイメージに沿うようにしないと!)

 改めて自分に気合いを入れた。

 

「はい、OK!」

 

「ありがとうございました」

 

 撮り直すこと数度、意外とすぐにOKがかかった。

早い段階でOKを頂けたことにまずはホッとする。

 最初は女の子走りというのを忘れて、普通に走ってしまったものの、2回目でOK。

そのあともセリフの言い方など『パターンを変えて』との監督さんの指示で撮り直した。

 その間に飛行機待ちやら電車待ち(音が入らないように、音が止むまで撮影を中断すること)があったりとしたけど、想定より早く撮影が終わった。

 

(合田さんに連絡しないと)

 

 スタッフさんに挨拶をしながらある程度離れたところでスマホを取り出し合田さんに電話を掛ける。

1コール……2コール目で出た。撮影を終えたことを伝えると、

 

「すぐに向かいます」

 

 と一言。とりあえず『どうか安全運転で!』と告げて通話を終えた。

 

 

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