22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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 あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたしますm(__)m


栄光か、成功か

 唐突だけれど、今私は過去に例を見ないくらい危機的状況に陥っている。

と言っても、命の危機に瀕しているとかそういったものじゃないんだけれど、ある意味では今後を左右するといっても過言じゃない。

 

「どうするのよ……コレ……」

 

 スマホの画面を見つめて呟くも、答えてくれる人は誰もいない。

今の私は他の人の目にはどう映っているだろう?

FXで有り金全部溶かした? 株で大損? ガチャで大爆死?

全部外れ。答えはーー

 

「仕事ブッキングしちゃったよ……」

 

 

 今日は以前から決まっていた『熱唱王』の収録日。本来なら今日はこの仕事に全身全霊をかければよかったはずだった。

 一昨日に謎の集団食中毒により、私とジュン以外のメンバーが全員ダウン。それによって急きょ仕事の割り振りをすることになった。

ある程度融通の利く仕事は後日に回してもらい、それ以外は私とジュンで上手いこと手分けして行う。

急造とはいえ、本来のスケジュールならブッキングすることなくこなせる。そんなはずだった。

 スマホのトーク画面、そこにはジュンからの通知が来ていた。

前の仕事が少し押してしまったこと。加えて、移動中に先の交差点で事故があったらしく、渋滞に巻き込まれてしまったこと。

そのためジュンが時間内に間に合うか分からないといった旨だった。

 幸い、次の現場は私が今いるテレビ局内での仕事なので私が出ればなんとかなる。

いわゆる代打の代打だ。

ただそうなった場合ーー

 

「棄権か……」

 

 順調に撮影が進めばグループ代表が決まる辺りか。もっとも、1回戦負けなら関係はないだろうが……いずれにせよ決勝トーナメントに進むことは不可能だろう。

そもそも初戦の相手がよろしくない。

 

「まさかの四天王とあたるとか……相変わらずのくじ運のなさよ」

 

『熱唱王』には四天王と呼ばれる実力者が居て、アマチュアであるにも関わらず己の歌唱力だけで君臨し続けている。

しかも今回あたる人はその中でも最強格。

この番組も何回かやっていて、その都度四天王が入れ替わったりもするけれど、1度も落ちたことがないレジェンド。

 

「日頃の行いの悪さかぁ?」

 

 懸賞とかは当たらないくせに、こういう時だけバカみたいに当たる……いや、今回に関してはそれがいいのか?

 片や番組の顔とも言えるレジェンド。片や売り出し中の新進気鋭のアイドルグループの1人。下馬評だったらどっちが勝つかなんて明白だろう。

 

『戦う前から結果は見えている』

 

 そう言われてもおかしくはない。棄権して次の仕事に向かえば、それだけ準備の時間は多く取れる。普通なら。

 

(問題が3つあるんだよなぁ……)

 

 1つは『壁』の指令であること。

今回の番組出演はご存知、『壁』の指令だ。

『優勝』じゃないから、どこかで棄権をしても問題はない(と勝手に解釈)のが救いだ。

 2つ目は番組側に迷惑がかかること。

仕事がブッキングしたから急に出演を取り止めるというのは仕方ないとはいえ、心証はあまりよろしくない。

それに『指令』である以上、初戦は出ておかないと何が起こるか分からない。

 ここまでは事務所、または22/7の今後のことを考えた問題。

ただ、3つ目は私個人の問題だ。

 

(全力でやってみたいんだよなぁ……)

 

 相手はアマチュアとはいえ番組の絶対的王者。自分の歌声のみでのしあがってきた。

当然そう易々と勝てるわけがない。

それでも初めての1人での歌の仕事。

加えて『ITF』の時のような、いやそれ以上にナナニジファンが居ないアウェーな状態ーーとはいえ審査員は公平なのだがーーで王者相手にどこまで自分が食らいついていけるのか試したいという思いがある。

 

(合田さんからはまだ何の指示もないけど……)

 

 おそらく『壁』の指示である以上、出場はしなければならない。何故なら"そういう決まり(指令は絶対)"だから。

そのあと棄権するかどうかは合田さんの指示を待つしかない。渋滞が解消されればよし、目処が立ちそうに無いなら連絡をもらって棄権。後で合田さんと一緒に番組スタッフさんに謝罪……といった流れか。

 

(結局、合田さんに任せっきりなのがなんとも言えないけど……)

 

 とはいえ早めに伝えたところで不戦敗になってしまうのは避けたい。

 

(とりあえず出来ることをやるしかないのねぇ……)

 

 もどかしさに思わずため息が漏れる。

ひとまずやれることをやろうと思い、挨拶をしに行くべく楽屋を出た。

 

 

 

 

「22/7の白雪凛子……ねぇ」

 

 見つめていたトーナメント表をテーブルに置いてスマホをで検索をかける。

アーティスト写真と簡潔なプロフィールが出てきた。

 

「へえー。どこかで見たと思ったら、CMにも出てるんだ」

 

 CD2作品、CM1本、写真集やグラビアの経験あり、『ITF』出演……そこまで読んでページを閉じる。

 

 今回の『アイドル枠』は絶賛売り出し中のようだ。

この番組に出て、あわよくば知名度アップを狙おうという魂胆なのだろうか。

 

(アマチュアの私からしたら羨ましいものだね)

 

 アイドルというのにあまりいい印象を持っていない。

歌が上手い人もそれなりにはいるけど、ほとんどが見た目重視で実力が伴っていないように思う。

そんな人たちが事務所の権力でこちらの領域に土足で踏みいってくると思うと、正直腹が立つ。

 

(こっちは遊び感覚でやってるわけじゃない!)

 

 番組が始まった時はアマチュアの歌ウマ選手権だった。

ローカルで放送していたけど、回を増すごとに話題になって、今ではキー局のゴールデンタイム枠で放送されるまでになった。

A~Dの各ブロックの勝者によるトーナメント戦のシステムは初期から変わらず、いつしか決勝トーナメントの常連は『四天王』と呼ばれるようになった。

 

 最初こそお互いに敵視していたものの、何度も同じ顔合わせともなれば多少なりとも話はする。学校のことだったり、歌の練習の話だったり……気づけば四天王としての絆のようなものが出来ていた。

しかし、四天王の立場は不変とはいかなかった。勝負の世界、当然ながら敗者と勝者がいる。勝ち続けることはそんなに簡単なことではない。

 予選敗退が続いて、四天王から落とされた子がいた。別の台頭してきた子を加えて『新・四天王』になった。

落ちた子が今度は挑戦する側になって、そんな子を蹴落とさなきゃいけなくなった。

 

 進路の理由で出場を諦めた子もいた。

歌手を目指していたけど、ついに叶わず就職することにしたらしい。

 

 番組自体に出なくなった子もいた。

出る度に注目と期待を背負わされ、自分の時間が無くなってしまい、嫌気がさしたらしい。

 

 気づけば初期からのメンバーは私だけになっていた。

今のメンバーと仲が悪いわけではないけれど、やはり初期からやってきたメンバーと比べるとどこか壁があるように思う。

『四天王最後の砦』、『レジェンド』なんて呼ばれてしまっているのも原因のひとつかもしれない。

意識してないと言えば嘘になるけど、それが原因でギクシャクするのも考えものだ。

()()()()()四天王とは良い関係(ライバル)でいたいと思っているから

 

 

「他には元宝塚、現役音大生、現役劇団員か」

 

 それぞれの畑で活動してればいいものを、大層な肩書きを引っ提げてズカズカと無遠慮に入ってくるというのならーー

 

「私の歌声で以ておもてなししなくては」

 

『熱唱王』四天王にしてレジェンド、西園寺詩羽。現役高校生。優勝回数8回、予選敗退ーー0

 

 

 

 

「スゴかった……」

 

 ひとまずあいさつ回りを……と思い、出演者の方々の控え室巡りをしてきた。

色々な部門から来ている人がいる中ーー

 

「やはりレジェンドは違った」

 

 見た目は普通の高校生ーーもっとも私も数ヵ月前までは同じ立場だったんだけどーーなのに、雰囲気が全然違った。

例えば音大生の方は物腰柔らかだったし、元宝塚の方は華があった。劇団員の方もとてもきびきびしていてそれぞれの環境が出ているのが分かった。

 

 一方でレジェンドは、かなりの重圧を感じた。

対抗心……というか敵意? がもうバシバシに伝わってきた。笑ってあいさつに応じてはくれてるんだけど、目が笑っていないというか、『笑顔は威嚇行動』というのも納得がいく。

 とはいえ、初期のニコるん以上の敵意をぶつけられて、思わず震えてしまった。

 

「何か失礼なことしちゃったかなぁ?」

 

 むしろその失礼なことをこれからするわけなんだけれども。

 

「あれでアマチュアって信じられないよね」

 

 むしろメジャーデビューの話が来ていてもおかしくはないと思う。いや、もしかしたら報じられてないだけで本人とレーベルでは既に話が通っているのかもしれないけれども……

もしそうなってくるとファン層が被ってくるとバチバチにファンの獲得合戦がーー

 

「って、そんなの私が考えることじゃないね」

 

 私が考えなければいけないことはこれからの収録のこと。

ジュンからは『渋滞から抜け出せないこと』、『次の現場には間に合いそうにないこと』の通知が来ていた。

とりあえず、次の現場には私が行くこととこの現場のアフターフォローをしてほしいというのを合田さんに伝えてほしい、と連絡した。

ここから先は収録に入るので通知が入っても確認しようがない。

心の中で合田さんに謝りながら控え室を出た。

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