22/7 白きリンゴの甘い毒   作:ハマの珍人

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 いかがお過ごしでしょうか。
当方は夏の暑さ+ぎっくり腰のダメージで半ばダウン中です。

 今回でアニメ2話目が終了になります。少し会話が多めになっております。


センター狂想曲

 無事にセンターも決まり、当分の私たちはレッスンが中心ーーというか、レッスンしかすることがない。

 

 私個人としては変わったことがいくつか。まずは……

 

(体力作りのためにランニング始めました!)

 

 いやね、歌の方はともかくダンスの方は不安だらけだし、体力には自信があったはずなのに『審査会』の日は意外に疲れてしまい、ご飯中やお風呂の中でもうとうとしてしまった。

 

 この調子だとライブの度に寝てしまうかもしれない。

確かに『白雪』ではあるけれど、王子様はおろか誰にキスされても起きられる自信がない。そもそもキスする人なんて皆無だけど。

 

ともかく、メンバーはもちろんのこと、合田さんやスタッフさんに迷惑をかけるわけにはいかないので朝に走ることにした。

 

 あとは、来月から会社の寮に入ることにした。

ちょうど契約更新の時期になったので、大家さんに打ち明けた。

大家さんは残念そうにしてたけど(なにかと面倒見てもらったので)頑張って、と餞別までいただいた。

 

 同時にバイトも辞めた。さすがにアイドル活動とバイトの両立は厳しい。それに収入源を確保できたため、金銭面でも問題がなくなった。『一身上の都合』ということにしてあるが、店長だけには理由を話した。

 

『せっかくの看板娘が~』

 

 と嘆いていたものの、頑張って、応援してると言ってもらえて嬉しかった。

 

『なんだったら宣伝してちょうだい♪』

 

 とも言われたが、そちらはおそらく無理そうだ。

と、まぁここまでが私個人で変わったこと。

 

「おっはよ~」

 

 制服に着替えて部屋に行くと、あらかた揃っていた。

 

「りんりん、おはよー!」

 

「おはようさん」

 

「おはようございます」

 

 次々に挨拶を返してくれるメンバー。返してくれないのは3人。

1人はチラリとこちらを見やったものの、直ぐ様手元の本に視線を戻した斎藤さん。

 

 おーい、挨拶はアイドル以前に人として大事なことですよ~。

……無視ですか。そうですか。まぁ、相手はあろうことか自分に宣戦布告した人物だから無理もないのかな?

 

ただでさえ静かに闘志を燃やしていた彼女に図らずとも火に油を注ぐどころかガソリンの入ったポリタンクをぶん投げたようなものだし……いや、心の声が漏れたって考えたらガスの元栓が知らず知らずのうちに開いていたと言った方がいいのかな?

 

 みゃーこに言ったら、

 

『しょーもないボケかますな!』

 

 って怒られそうだから、この話はやめよう。

さて、もう1人はーー

 

「桜、おはよ。隣いい?」

 

「あ、凛子ちゃん。おはよう。うん、いいよ」

 

 ソファーで思い詰めた顔をして座っていた桜。

声をかけると、ススッと私が座れるように横にずれてくれた。

 

「ありがとう。……今日も?」

 

「……うん」

 

 先ほどからーーいや、数日前から桜の表情が暗いその訳はーー

 

「みうちゃん……」

 

 みうちゃんが来なくなってしまったこと。

 

 

 

 部屋に入ってきた斎藤さんが壁の指令を確認する。

このタイミングからして、センターが決まったのだろう。

 

「え!?」

 

 直ぐ様彼女の表情は驚愕の一色に染まる。

どうしたものかと他のメンバーも集まる。私も疲れた身体に鞭打って確認に行く。

 

 書いてある内容を見て、ようやく彼女が驚いた理由が分かった。

内容は予想通り、センターに関するもの。問題はその人物だった。

圧倒的実力を見せつけた斎藤さんでも、審査員を歌声で驚愕させた(らしい)私でもない、誰もが予想すらしていなかった人物。

 

『センターは滝川みう』

 

 これに烈火のごとく怒ったのは斎藤さん。

 

「滝川さんがセンターってどういうことですか!? 決定理由を聞かせてください! でなければ審査会をした意味がない!」

 

 彼女の言ったことはもっともだ。

 

『実力は申し分なく君がトップだった。でも、センターは別の子にやってもらう。理由は答えられない』

 

 じゃあ納得するわけがない。そもそも3つのパートの審査内容を知っているわけではないけど、斎藤さんは文句無しの成績、審査員からしても満場一致でセンターだろう。でもーー

 

「壁の指令は絶対です」

 

 絶対的な決定権は『壁』にある。たった数日しかいない私でも分かるGIPの鉄の掟。

 

「馬鹿げてる……本当にこんなものの決定に従うって言うんですか!? 誰が出してるかも分からないのに! あなたもそう思うでしょ!?」

 

 と、急にこちらを見て言われたーーって私!?

一斉に視線がこちらに向けられる。

 

「えー……確かに基準が分からないけど……みうちゃんに何かしらの可能性を感じた……とか?」

 

 斎藤さんにあってみうちゃんに無いもの。それなら技術的な部分でいくらでも挙げられる。

逆にみうちゃんにあって斎藤さんに無いもの……パッと思いついたのは『伸び代』だろうか。

 

 斎藤さんの技術が頭打ちというわけじゃない。それでも斎藤さんは技術的に完成しつつあると思う。

 一方でみうちゃんは指導らしい指導など受けていない真っ白な状態。まだビジョンも見えてなく、知識も技術もない。

 

 そんな彼女をセンターにするには一見無謀とも思えるだろう。

でも、場合によっては『化ける』かもしれないと私は思う。

 

『新顔は何やらかすか分からない』

 

 これは杏奈ねぇが言っていたことなんだけど、急に新星のように現れて人気をかっさらう人もいるとか。

そういう意味ではみうちゃんがセンターというのも彼女や私含めた他のメンバーにも刺激になると考えたのだろうか。

 

(それはそれで『実験』みたいだけどね)

 

 あとは……報復人事とか?

 

『やりたくないことをやりに来た』

 

『へぇー、じゃあセンターね』

 

 みたいな? こんな決め方されたらたまったもんじゃないけど。

 

「ねえ! ちょっと誰かいるの!? センターが滝川さんだって言うのなら理由を聞かせてよ!」

 

 私の意見に納得したのかしてないのか……いや、これはしてないな。ともかく斎藤さんは壁に詰め寄る。このままでは待っているのは文字通りの壁ドンだ。

 

「お止めください。壁に質問することは許されない」

 

 当然そうはいかず、合田さんが止める。

普通に考えたら壁に質問する人なんていない。合田さんの言葉は文字通りの意味ではあってるんだけど……

 

(だんだん頭が混乱してくるね、コレ)

 

 本当に壁が教祖か何かみたいに思えてくる。そもそも逆らったらどうなるのか……いや、合田さんも知らないか。そもそも壁が指令を出すのを見たのは今日が初めてみたいだし。

 

(じゃあ、なんでここまで『壁至上主義』なんだろ?)

 

 宗教的な話になるけど、信仰というのはそれ相応のことがなければ集まらない……と思う。

つまり、今回の場合なら『壁の指令は絶対』ということを示すための何かを見せてなければ、合田さんがここまで頑なになるわけがないはずなんだけど……

 

「申した通り壁の指令は絶対です。決まった以上センターは滝川みうとします。各々準備しておくように」

 

 そう告げると合田さんはエレベーターに乗って行ってしまった。

 

「言葉もないわ」

 

 みゃーこがため息混じりに呟く。

それは同意する。それにしても準備と言われても……ねぇ?

 

「ねぇ私は? 私はどこ?」

 

「滝川さんがセンターということ以外はまだ……」

 

 そう、あかねの言う通り『センターがみうちゃん』ということ以外は何も指示がない。それも壁がいちいち指示を出すのか、審査員が審査項目を基に決めるのか……仮に前者だったら審査の必要はあったの?

 

「私は……私は斎藤さんが凄かったと思う」

 

 みうちゃんが呟くように言った。

 

「みんな一緒やて。審査会では圧倒的。出来レースってキレてもーたわ」

 

「正直私もなんで滝川さんが選ばれたか謎だわ。あなたは声も小さかったし、ダンスも踊れてる方じゃなかった」

 

 みゃーこと麗華が自分の考えを述べる。

 

「私はみうちゃんがセンターでも面白いと思う」

 

「藤間さん……」

 

(尊い……じゃなくて、面白い……ねぇ)

 

 みうちゃんの肩に手を置き、桜が言った。

 

「まー、考えても仕方ないっしょ。壁は絶対、なんだから」

 

 と、絢香が締めくくった。

 

 

 

 

 と、いうのが審査会の日の話。その次の日から本格的なレッスンに入ったのだが、肝心のみうちゃんが来ない。

 しかも2日目からはダンスレッスンに加えてボイストレーニングまで始まった。

 ダンスレッスンだけでも未経験な私たちにとってはハードなのに、ボイトレまで……

 

(これ、みうちゃん戻ってきても着いてこられるのかな?)

 

 やっている私たちですら混乱しそうなのに、1日、2日と休んでるみうちゃんが着いてこられるか不安になる。とはいえ、心配している余裕もそうそう無いのだけれど。

 

 センターというプレッシャーに押し潰されそうなのは分かるけど、このまま来ないようならーー

 

「合田さん、このまま滝川さんが来なかった場合どうなるのでしょうか?」

 

 さすがにセンター不在のまま、という事態を危惧してあかねが尋ねる。

 

「何度も申し上げている通り、壁の指令は絶対です」

 

 もはや聞き飽きたと言っても過言ではない常套句のあとーー

 

「それが出来ず、壁からの追加の指令がない場合22/7の未来は保証しかねます」

 

 思った以上に大事だった。つまりこのままみうちゃんが来ない場合、最悪デビューすらすること無く解散するということだ。

 

「グループの命運を握る、まさにセンターの役割ね」

 

 斎藤さんが呟く。その言葉は皮肉が込められているかは分からない。でも……

 

「斎藤さんの言葉は厳しいけどその通りなのよね……今の私たちの状況って……」

 

 無事にデビューするか、デビューすることなくスタッフともども路頭に迷うか、その命運は1人の少女に託された。

 

 

 

(今日も休んじゃった……)

 

 センターに指名されてから今日で3日目。今頃みんなレッスンしてるのかな?

 

 凛子ちゃんに言われて、私なりに覚悟を決めて行ったつもりだった。

そしたら急に審査会なんてすることになって、つくづく自分が出来ないということを思い知らされた。

 そんな中で異彩を放っていたのが2人。全てにおいて完璧とも言える実力を見せた斎藤さんとーー

 

(凛子ちゃんの歌……凄かった)

 

 その斎藤さんの圧倒的な実力を見せられた後にも関わらず、萎縮すること無く堂々と歌を披露した凛子ちゃん。

どうでもいい、そう思っていた審査会だったのに、彼女の歌を一瞬たりとも見逃したくない。そう思った。

 

 審査会も終わり、センターは斎藤さんか凛子ちゃんがやるものと思っていた。なのに『壁』が指名したのは、まさかの私。何をどう判断すればそうなるのか全く分からなかった。

 

 斎藤さんは当然反論。他の人たちも困惑するなか、凛子ちゃんは冷静に分析してた。

 

(私にセンターなんて……)

 

 他の人に言われなくてもありえないと思った。それでも藤間さんは『おもしろそう』と肯定してくれた。

 

 それでも不安と疑問に押し潰されそうになって、ズルズルと3日もサボってしまった。

 

「ちょっとスーパー行ってくるわね」

 

「……いってらっしゃい」

 

「そういえばみう、今日はバイト休み?」

 

「あ……ああ……」

 

 お母さんにはまだ言ってない。バイトをクビになったことも、アイドルになったことも。

 

「あの! お母さん。あのさ……」

 

「え?」

 

「……なんでもない」

 

「何よ。お留守番よろしくね」

 

「はぁ」

 

 言えない。バイトを『協調性がなく、愛想もない』と言われてクビになったことも、アイドルに選ばれてセンターやることになったことも。

 

(それ自体も逃げ出してるんだけど……)

 

 負のスパイラルに陥り、ため息をつく。

 

ピンポーン

 

 居間に戻ろうとした途端にチャイムが鳴る。

 

(誰だろう?)

 

 お母さんが忘れ物をしたのかと思った。けれど、それなら普通に入ってくればいいだろうし……。宅配便で荷物が届くとは言っていなかった。

 

(新聞の勧誘だったら嫌だな……)

 

 そう思いながらドアを開ける。

 

「HELLO、みうちゃん!」

 

「藤間さん!?」

 

 思いがけない人物の来訪に、頭の中は真っ白になった。

 

 

 

 

「滝川さんの住所を教えてほしい……ですか?」

 

 レッスンが終わったあと、空かさず合田さんを捕まえてお願いした。

 

「個人情報なのは重々承知してます。ですが、みう……滝川さんが戻らなければ22/7の活動が滞る以上、彼女の説得は避けては通れないかと」

 

「確かにそうですが……」

 

 もっとも、お願いとは言うもののーー

 

「それとも、壁から『滝川みうへの説得は固く禁ずる』といった旨の指令がありましたか?」ニッコリ

 

 『壁信者』である彼の行動を逆手にとったものだが。

 

「いえ、それは……ありませんが」

 

「でしたら問題はありませんよね?」

 

 まぁ、『普通』ならこれで押し切れるわけはない。それでもそれなりの根拠はあった。

 

「ですが、個人情報ですので……」

 

「もちろん、他言無用。私の口からは漏らしません。必要とあらば誓約書をしたためましょうか?」

 

「……分かりました」

 

 結局、彼も私たちも『壁』に運命を握られているのだ。

 

 

 

「というわけだから……桜、お願いできる?」

 

 合田さんの姿が見えなくなってから私は声をかける。

 

「ah……私、凛子ちゃんが怖くてしょうがないよ……」

 

 スッと私の後ろの角から桜が顔を出す。

 

「人聞き悪いなぁ~。私は合田さんに言ったとおり、『私の口からは』漏らしてないよ。合田さんが私に教えてくれた時に()()()()桜が通りかかって聞いちゃっただけだよ♪」

 

 実際のところ、レッスンが終わって直ぐ様桜を引き連れて合田さんを尾行。ちょうどいい角を曲がったところで桜の姿を隠して合田さんに声をかけた。それだけのことだ。

 

 ほら、私は約束通り何も言ってない。合田さんが言ったのを桜が聞いちゃっただけ。

 

 

「凛子ちゃんは行かないの?」

 

「ん~、…ああ言った手前、行くべきなんだろうけどさ……」

 

 前回お話したものの、まさかあそこまでアイドルへの『負の』思い入れがあるとは思わなかったからね。今回も行こうものなら強制してるような気がして……ね。

 でも、なにもしないでこのまま終了! ってのもイヤだし……

 

「桜が行けば、みうちゃんの心もほぐれると思うし、桜はみうちゃんの様子が分かる。一石二鳥かなって♪」

 

「い、いっせき……?」

 

「Win-Winってこと」

 

 四字熟語にピンと来なかった桜に分かりやすく説明する。違う気がするけどご愛嬌。

 

「でも、説得なんて……」

 

「それなら私からお詫び代わりに1つアドバイス。ささ、耳貸~して♪」

 

 自信が無さそうな桜だったがアドバイスを聞くためにいそいそと髪を耳にかけた。

 女の子のこういう仕草って良いよね? え? あんたも女だろうって? 自分が髪を耳にかけたって、『いい!』って思う? 

あ、耳の形もいいなぁ。

 

「んとね~。ーー」

 

「え? え!?」

 

 驚く桜を楽しみつつ、アドバイスをしてあげた。

 

 

 

 

「団地っていうの? こんな大きなマンション、アメリカにはないよ~。まさにモンスターハウスだね」

 

(アメリカに『団地』って無いんだ……)

 

 藤間さんが訪ねて来たけど、何も準備出来ない私は団地内の公園のベンチで話すことにした。

 公園にはまだ日暮れ前ということもあって遊んでいる子達がいたけど、遊具でもないベンチに近づくことなんて無いと思う。

 

(藤間さん……連れ戻しに来たのかな?)

 

 まさか家に来るとは思わなかったけど、合田さん(あのひと)から住所を聞いてきたのかな。それにーー

 

(来るなら凛子ちゃんだと思ってた)

 

 あの日、凛子ちゃんに言われて考え直した。今回も凛子ちゃんが来たなら、説得されて戻るんだろうな……。

 

「みうちゃんも小さい頃、この公園で遊んだりしたの?」

 

 元気に遊び回る子達を見て、藤間さんが聞いてきた。

 

「小さい頃のことはあまり覚えてなくて……」

 

 これは嘘じゃなくて、本当の話。幼稚園に通っていた時のことはもちろん、小学生の時のことも覚えてない。

 アルバムはあるはずだけど、あまり見たいとも思わない。

 

「そっかー。かわいかっただろうなー」

 

 そう言いながら空を見上げる藤間さん。その彼女の鞄からはジャージがチラリと見えた。レッスンが終わってからまっすぐ来たのだろう。

 

(一体、何を言われるんだろう……)

 

 説得か、叱責か、懇願か……。その時、意を決したのか彼女は立ち上がりーー

 

 

「じゃあ、私帰るね」

 

 ……え?

 

藤間さんの答えはどれでもなかった。

 

「連れ戻しに来たんじゃ……」

 

「うん。そのつもりだったけど、みうちゃんの顔見たら気が変わっちゃった」

 

 手を後ろで組み、こちらを振り返りながら彼女は告げる。

 

「実は私も迷ってたんだ……やるかどうか。アイドルだなんて、私自分に自信がある方じゃないし」

 

 藤間さんも悩んでた?

 

「でも……自分の殻を破るために、苦手なものでも飛び込もうとするみうちゃんを見て、なんだかうじうじ悩んでた自分が馬鹿らしく思えちゃって……」

 

 そんなことない……結局私は逃げた……

 

「だからもう、私はみうちゃんからたくさんのものを貰ったかなって」

 

 そんなことない……私は何もしてあげられてない……

 

「だから……みうちゃんがどんな決断をしても私達のことは気に病まないで」

 

 夕日に照らされた彼女の笑顔は、美しく、それでいて悲しげだった。

 

「藤間さん……」

 

 呼びかけたものの、その後に何て言えばいいのか分からなかった。

 

トン

 

 

 軽い衝撃の後に何かの花のようないい匂いと軽い拘束感がした。

最初は何が起こったか分からなかった。それが、藤間さんが私を抱きしめたからだと気づいてーー

 

「私はみうちゃんが好き。大好き」

 

 私からはそう言った藤間さんの顔は見えず、彼女の綺麗な髪が夕日に照らされているのだけが見えた。

 

(す、すき? 好き!? え!?)

 

 藤間さんのまさかの発言に顔が熱くなるのが分かる。

頭の中がパニックを起こして何かを言おうとするものの、口がパクパクするだけで声がでない。

 

「な……ちょ……やめ!」

 

「押さないで!」

 

「キャー!」

 

「!?」

 

 

 声が聞こえた方を見ると滑り台に隠れるように河野さん、佐藤さん、戸田さんが、その傍らに立つように立川さんと丸山さんがいた。

 

「みんな!」

 

 驚いて飛び退くように離れる。

 

「ちゃ……ちゃうねん! 桜がみうん家行くって凛子が言うとったから後尾けてみただけやねーん」

 

「あははー。なんかストーカーみたいで興奮するなーって言ったのみゃーこじゃーん」

 

 

 慌てたのかごまかそうとする河野さんだけど誤魔化せてなく、戸田さんにカミングアウトまでされてしまった。

 

(え……ストーカー?)

 

「一番人聞きの悪い切り取り方すな!」

 

「うわっ!」

 

 私の反応を見てか、突っ込み代わりにチョップをいれた。

 

「でも、みうの顔見てホッとしたわ。へこみ倒してんのやと思ったから」

 

「河野さん……」

 

 さっきまでの突っ込みの勢いはなく、笑いながら優しげに言ってくれる河野さん。

 

「はい。少し安心しました。比較的に顔色は良いように思われます」

 

「丸山さん……」

 

 表情は変わってないものの、どこか優しげに見える丸山さん。

 

「やっぱり、センターはやりたくなぁい?」

 

 先ほどのチョップが痛かったのか、しゃがんで頭を抑えていた戸田さんが心配そうに言った。

 

「いっちばん前なんて楽しそうじゃん! 私ならすぐにやっちゃうのになー」

 

「戸田さん……」

 

 立ち上がり、笑顔を浮かべながらそう言った。私にはない前向きな考え方だ。

 

「別にあなたのセンターが嫌ってわけじゃないのよ……選ばれたからには途中で抜け出すなんて無責任だと思って……」

 

「よく言うよ。一番寂しそうだったくせに」

 

 

「はぁ!? 違うわよ!」

 

「佐藤さん……立川さん……」

 

 ぶっきらぼうに言った佐藤さんだけど、実は一番寂しそうだったと立川さんにカミングアウトされた。

 

「え~。でも電車で『みうみう来なくなったの、自分のせいかも』って言ってたじゃん」

 

「はい。かなり気にされてるようでした」

 

「わ……私は立場には責任が伴うって言いたかっただけで……」

 

 さらに戸田さんと丸山さんからの援護射撃に、佐藤さんはやや劣勢。

 

「へー、そう。風紀委員」

 

「何よ風紀委員って!」

 

「何か風紀委員ぽいなーと思って」

 

「ぶー! 残念! 正解は清掃委員でした!」

 

「そういうことやないんちゃう?」

 

「ふふっ」

 

 3人のやり取りに思わず笑ってしまう。

 

「あ、みうちゃん笑った」

 

 その瞬間を藤間さんに見られてしまった。

 

「ぁ、いや……」

 

「みうちゃん、笑っても可愛いのにな~」

 

「ぁ……あう……」

 

 せっかく顔の熱がひいたと思ったら、また熱くなってきた。

 

「白雪さん顔負けの口説き文句ですね」

 

 そんな様子を見た丸山さんがポツリ。

 

「そういえば凛子ちゃんは?」

 

「何やら忘れ物をしたとかで、私達に藤間さんの行き先を教えてからレッスン室に戻って行かれましたよ」

 

「そう……なんだ……」

 

 さっきは説得に来なかったことにホッとしたはずなのに、今度はどこか寂しく思えた。

 

 

 

 

 日も陰り、窓から入り込んだ夕日が曲と靴音だけが響くレッスン室をオレンジ色に染める。

 

「はぁ……」

 

 最後のポーズで静止して、数秒経ってから両膝に手を当て息を調える。

 

(そろそろ暗くなってきたかな)

 

 電気をつけようとしたところでーー

 

パチリ

 

「!!」

 

 電気がつき、部屋の明るさが急に変わる。

先ほどまでの明るさに慣れていたため、急に明るさが変わったことで目が眩む。

 それでも誰がつけたのか確認しようと、顔をしかめながら見やるとーー

 

「斎藤……さん?」

 

 腕を組みながら電源タップの近くに立っていたのは、斎藤さんだった。

 

「ずいぶん頑張るのね。レッスン終わってからしばらく経つけど?」

 

 斎藤さんの言葉に時計を見ると、解散してから長針は一周半していたらしい。

 

「ん~、ダンスの方はまだまだだから、足引っ張らないようにしないとと思って」

 

 そう答えながらその場に腰を下ろす。水分は……あぁ、もうないや。

 

 

スッ

 

 

 急に目の前にスポーツドリンクのボトルが現れた。

 

「へ?」

 

 そのボトルを目で追うと、斎藤さんがボトルを差し出していた。

 

「へ?」

 

「何よ、その顔」

 

 おそらくかなりまぬけな顔をしていたのだろう。斎藤さんは顔をしかめ、いかにも『不満です!』という表情を浮かべた。

 でも……ねぇ?

 

「私、てっきり斎藤さんに嫌われてるかと思ったんだけどなぁ?」

 

 そんな相手からいきなりドリンクを差し出されたらそりゃあこんな顔にもなりますって。見えないけど。

 

「別に好きでも嫌いでもないわよ。ただ、馴れ合いはしないし、あなたの努力は認めて……何ニヤニヤしてるのよ」

 

 うん。今の表情は見えないまでもなんとなく分かる。チラリと鏡に映った自分の顔を見ると、くっそ腹立つくらいのニヤニヤ具合だった。

とりあえず、汗を拭くついでに元に戻そう。

 

「あなたは行かなくてよかったの?」

 

 顔を拭う手をピタリと止める。

 

「何が~?」

 

「彼女……滝川さんのところ」

 

 どうやら彼女もなんだかんだ気にはしていたみたい。

もっとも、言ったところで『センターとしての責任~』とかなんとか、麗華みたいなこと言って正直な気持ちは言わないんだろうけど。

 

「説得は桜に任せたし、みんながみんな行く必要もないでしょ?」

 

「……意外とドライなのね」

 

「ん~……心配して様子見に行くなら、誰にでも出来る。それなら私以外の人でもいいわけだし」

 

「それだったら私は、()()()()()()()()()()()をすべきかなって」

 

「訂正するわ。あなたってお人好しなのね」

 

 あなたが言いますか、と言おうとしたけど止めた。

彼女はおそらく認めないだろうし。

 

「でも、藤間さんに説得出来ると思う?」

 

「ん~……一応アドバイスはしたから大丈夫だと思うよ」

 

「アドバイス?」

 

「『北風と太陽』って知ってる?」

 

 何言ってるの? と言いたげな表情を浮かべる斎藤さん。

まぁ、いきなり童話の話されたらそうなるよね。

 

「無理に連れ戻そうとすれば意地になるだろうし、後々遺恨が残るかもしれない。それならいっそのこと説得なんてしなければいい」

 

「は!?」

 

「『説得しようなんて考えなくていい。桜が話をして、心から思ったことを言えばいい』。アドバイスはそれだけ」

 

 まぁ、アドバイスと言えるようなものじゃないけど、桜出来るって私は信じてる。

 

「あなた……それが成功すると思ってるの!?」

 

「それはみんなの気持ちに触れたみうちゃんがどう思うか次第かな。それに……」

 

 よっと立ち上がる。

 

「さっき言ったでしょ? 戻ってきた後のフォローはするって」

 

 斎藤さんから受け取ったボトルを開け、ドリンクを流し込む。

 

「さて、帰ろうか?」

 

「な、なんであなたと!?」

 

 激昂する斎藤さん。

 

「夜道は危険だし、一人よりはいいと思うけど?」

 

「……お願いするわ」

 

 自分の意地と保身。天秤にかけるまでもなかったようだ。

 

「じゃ、着替えるまで待っててね、()()()()

 

「なによそれ!?」

 

 お、思ったよりもいい反応。

 

「ん~? いつまでも『斎藤さん』だと他人行儀かなって」

 

「じゃあ名前呼びでもいいじゃない!」

 

「こっちの方が可愛くな~い?」

 

「……はぁ、好きにしなさい」

 

 何を言っても無駄と思ったのか、あっさりと折れた。

私のことを少しでも分かってくれたようでなによりだ。

 

「だから、その顔止めなさい!!」

 

 おっと、またニヤニヤしてたようだ。

 

「はぁ~い。じゃ、着替えてくるね~♪」

 

「タクシーでも呼んだ方が良かったかしら……」

 

 そんなことを呟きながら頭を抑えるニコルんを尻目に、私は更衣室へと向かうのだった。




 次回は、3話目……ではなくて細かい話を挟んでの初ライブに行きたいと思います。
 また更新が空きますが、楽しみにしていただければ幸いです。

水着あかねぇ欲しいんじゃ~
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