scene1 『プレゼントマイク』
「〝Plus ultra!! 〟 それでは皆良い受難を!!」
煽りとか応援とか諸々含めた言葉をリスナーに投げつけ、俺はサッサと壇上から立ち去る。
チラッと後ろを振り返ってみると、ひよっこ共はほとんどは目を爛々と輝かせていた。いいねぇ、最初はサイコーにシヴィーな反応だったくせにちょっと煽ってやりゃ闘志見せやがる。
苦難に対して素直で愚直で何よりやる気に溢れてる。
例年に漏れず、ヒーローの気概は一丁前ってワケだ!
だが、そんな中でも異質なヤツらは何人かいる。
不機嫌そうに見えて受かって当然って顔してるやつ。
何考えてんだかわかんねーけど厳しい顔してるやつ。
あと、注意されてたけどアイツは俺の深夜ラジオリスナーか?
そして、何より、なによりだ。
俺が説明会し始めてからずっと目瞑ってるやつ!!
初めて見たぜあんなやつ、自分で言うのもなんだがよくこんなラウドボイスの中寝れるな??
しかも、質問に答えてた時とかまるで自分がルールかのように不機嫌そうにしてやがったし。
その上終わったら、それ以外のやつに構わずさっさと出ていきやがった……あぁ、いくら言ってもおさまらないし、1人に注目するのも問題だな。
とにかく、まぁそんな奴らもやる気ある奴らもまとめてふるいにかけて残ったヤツに、ヒーローを叩き込むのがオレたちの役目ってワケ。
ま、ふるいっていうにはあまりに細すぎる網の目だがな?
説明の時に既にやるきがなさそうだったヤツらは直接は関係しないが既にある程度マイナス補正はかかってる。
そいつをどう覆すか、はてさて見ものだぜ!
……いや、あの女子リスナーだけは中々デンジャラスな予感がするから除外しときてぇな……。
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scene2 『オールマイト』
「オヤ、あの少女……?」
緑谷少年が未だ一体も仮想敵を倒せないでいる事実にハラハラドキドキしている私は1人の少女に少し気を取られた。
ここは雄英高校入試のモニタールーム。
大きめのモニターが何台も並び、各画面にそれぞれの会場が映し出されている。
各会場には自律ドローンが飛行していて、仮想敵退治だけじゃなくて救助とかも記録しているってワケ。
そして、特に目立った活動を画面に映し出したり、試験生を1人ずつを周期的に見せている……のだけど。
その1つに、灰色の髪と高校の試験生にしては低めの……小学生くらいの背をした少女が映し出されたのだ。
もちろん、この個性社会じゃとっても珍しいって訳じゃない。
強いて言えばこのまま成長すれば大層美人になるとは思うけれど、あいにく私が見てるのは容姿より試験生の活躍だ。
それだけじゃ興味は惹かれない。
「オールマイト、気になる試験生でもいましたか?」
唐突に声を出した私に疑問を抱いたのか、隣の相澤くんが気にしてくれる。いや、気にしてると言うには視線が厳しいケドさ!
「あぁいや、知り合いが見えたものでね」
そう、先程気になった少女は私が知っている人物だったのだ。
私から行かない限りはもう会うことはないだろう、とか勝手に思っちゃってたから少しビックリした。
「それだけですか?」
うん、私が悪かったから視線の圧を強めるのはやめてね…?
ちゃんと他の子も集中して見てるとも。
さすがにここじゃ私の方が後輩なのだし、初先生だし!
ニカッと笑って誤魔化してみる。
「はぁ………」
呆れたようなため息を付き、相澤くんは前を向く。
バッドコミュニケーションだったのかな? どうしよう……。
オロオロしだした私を見かねたのか、それとも何かしら琴線に触れたのか彼は口を開いた。
「あの背の低い灰色の髪した生徒ですよね?
今のところ体術で凌いで個性を出していないようですが、積極的に移動はせず向かってきた相手にのみ反応する、救助を行う訳でもない。
少しも息を切らしていないのは評価すべき、ヒーローとしては減点せざるを得ないと思いますが」
彼は合理的に、そう判断する。
彼ならそういった評価を下すのは私も承知の上だ。
だがどうにも私には、あの少女の『過去』を見ている側としては待って欲しい、と声を上げたくなる。
だが、その思いは結局口に出す前に防がれる。
周囲の教師のどよめきが一際大きくなったのに気を取られたのだ。
画面を見てみると、そこには鋼鉄の巨体が絶対的な威容を見せそびえ立っていた。
周りの生徒たちなんかはなりふり構わず逃げてるね、周りのビルとかも倒壊しまくってるし。私が新人だからなのか思うけどやりすぎじゃない……?
だが、日本一という大層な称号を持つヒーロー、オールマイトは私は知っている。
メリットなんて一切ない、それでも。
いや、だからこそ色濃く浮かび上がる時がある。
周囲のどよめきがさらに大きくなる。
画面には1条の稲妻のように巨大ヴィランの目の前に飛び出した1人の少年。
見間違えることは無い。
泣きそうで、それでも2人の少女を救う為。
そして、ヒーローの大前提。
『自己犠牲の精神』って奴が!!
緑谷少年の拳は、圧倒的脅威だなんて気にするか、とでもいうようにド派手に巨大ヴィランをぶち飛ばしていた。
「はぁ……これだから不合理なんだ……」
隣の相澤くんの声は心奪われている私にはよく聞こえなかった。
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scene3『イレイザーヘッド』
周りは1人の少年の献身的な自己破壊に酔っている。
あの、オールマイトですら、だ。
確かに見た目はド派手、ヒーローとしての気概もある。
だが、あんな風に腕とか足をぶっ壊してしまうのは正直オレには理解し難い。
なんせ1回ごとにあの有様ならば不合理極まりない。
まぁ、周りの評価であいつはどうあっても受かるだろう。
自分のポイントもないのに人の為に身を投げ出す奴なんて、ヒーロー以外になったら何をしでかすか分からん。
それにしても、と思う。
一旦オレは緑谷という少年を頭から追い出し、他にヒーロー科に来るにふさわしいものたちを合理的に選別している最中のことだ。
ここの倍率はなかなか高い。
ただ頭がいい、ただ身体能力がいい、だけでは並み居るライバルたちには勝てず落ちるのがここの試験だ。
だからここを受かろうという者は、必ず全力を尽くす。
筆記、実技問わず。
当たり前の話なのだが、だからこそオレは引っ掛かりを覚える。
試験生達の上澄みの丁度ギリギリ入学、くらいの位置をキープしているやつがいる。
事実とはただそれだけなのだが、勘としてコイツは全力を尽くしてないんじゃないか?という予感を抱いたのだ。
周りの音の熱とは対称にオレの頭は合理的に冷たく回り出す。
あくまで勘だ。それに、筆記はともかく実技の方ではギリギリ引っかかる奴がいた。
いつも通り、どっちもギリギリのやつより筆記だけでも上回ってるやつを入れる。合理的で平等だ。
だが、オレの勘はそれに待ったをかけていた。
そして、そいつの名前を見てハッキリした。
そいつはついさっきまで……あの緑谷がロボットをぶち飛ばすちょっと前からオールマイトと一緒に見ていた奴だった。
そして、画面に少ししか映っていないし、他は気づかなかったみたいだがコイツは……。
結局、自分の担任クラスとして20人____ではなく21人迎えることに決めた。
自分の判断は多少、ドコロでなく他から見たら不合理に見えるだろう。
オレだって関係の無い立場から見ればそう思う。
だが、こういう時のオレの勘はよく当たる。
ヒーローとして大成するっていう、勘は。
『詠宮 否命』 合格。
こいつの存在が何をもたらすか。
どうあれ、オレは見て、導こう。